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ノエル・ファンタジー  作者: 霜惣吹翠
【第二章】救う意味
66/130

63.走ることでしか満たされない夜

足元が見えない螺旋階段を構わず走る。

ようやっと入り口に着いた。

扉の隙間から向こうをロイバが変顔しながら覗いているが、気にしない。

「いくぞ」

「いくの?」

「当り前だろ」

「ちょっと待ってください。ロイバさん、どうかしたのでしょうか?」

ロマーンが何かに気づいたかのようにロイバに聞く。

こんなときでも冷静なのは部外者だからか。

「関係ない。行くぞ!」

「ちょっと、シユウ君!」

ロマーンなんかの忠告は知らない。

俺は思い切り扉を蹴った。

「あ?」

「あれは誘拐犯!」

「現れたな!」

かなり眩しい。松明に照らされて外は昼のようだ。

数えきれないほどの甲冑姿。聖兵が待ち構えていやがったのか。

「あーあ、やっちゃったね」

「それなら言えよ!」

「言い争っている場合じゃないですよ!」

この数はヤバい。

退路もないし、戦うことなんてできない。

いや、一つだけ手がある。

「おい、ロイバ。あれやれよ」

「あれって?」

「気配消すやつ!」

「ああ、それは無理だよ。」

「はぁ?」

「明るすぎるからね」

お前の技の条件はよくわからん。

だが真顔で言ってきたから嘘ではないだろう。たぶん。

「よし、こいつらを捕らえろ!」

「おおおおおおおおおおおおおおおお!」

槍と剣、斧の奴もいる。

一斉にこっちへ突っ込んできた。

ヤバい。逃げ場がない。

「本当に馬鹿すぎるわ!」

この声は。

俺たちの上をソフィが通り、迫りくる聖兵の前に現れた。

まったく傷一つなく、堂々と立っている。

聖兵たちは驚いて一瞬、硬直する。

「甘い」

そのわずかな隙にソフィは飛び込んでいく。

確かにほぼすべての聖兵が怯んだけど、あの数に躊躇わないのは異常だ。

しかもソフィが手に持っている剣は折れている。

「やっぱり姉貴はすごいね」

「ああ、そうだな」

瞬きしていないはずなのに、最前列にいた聖兵が一斉に倒れ、ソフィの手には槍があった。

まったくどんな攻撃をしたのか見えなかったぞ。

どうしたらあんなになれるんだ。

「ほら何してるの。あなたたちは早く行きなさい」

ソフィはそう言いながら視線で、いつの間にか斬り開かれた道を示した。

「あ、ああ。そうだった、いくぞ!」

「そうだね」

俺は開かされた口を塞ぎ、再び走り出した。

まだまだ聖兵がソフィの前にいるが、心配はないだろう。

「って、ロマーンいないじゃねえか」

「あ、ほんとだ」

灯台のほうを振り向くと、ロマーンがまだソフィのとこだ。

「ロイバは先に行ってろ。俺がロマーン連れてくるから」

「おっけい」

ロイバは暗闇に紛れて消えていった。

俺は灯台のほうへ駆け足して戻る。

「ソフィさん、大丈夫ですか。この数はさすがに―」

「心配される筋合いはないわ。さっさと行きなさい」

「……そうですか、わかりました。気を付けてくださいね」

そう言い残し、ロマーンは顰めっ面しているシユウのほうへ走り出した。

ソフィはまじまじとその後姿を見ていた。


蒸し暑い。

ここはサウナかよと思わせるオレンジ色の木の壁。それに囲まれて俺はソファに座っている。汗まみれになったソファに。

あっちにいるロマーンは涼しい顔してお茶を入れている。さすがに紅茶みたいだ。

「なんでこんなに暑いんだ……」

ここは雪国だろ。

なんで俺は汗を掻いているんだ。

「はい、お茶ですよ」

「ああ、どうも」

ロマーンはティーカップを机の上に置いた。

ちょっとぬるい。仕方ないと言えば仕方ないか。

「はぁ……」

ここは秘密基地らしい。

ロマーンの店の地下にある念のための隠れ家だ。

「外が落ち着くまでの辛抱ですよ」

「そうだけどなぁ……暑い」

俺とロマーンはミアを攫った変態クソ魔術師を見失った。

それでも探そうと動いていたのだが、そしたらなぜか町の兵士が俺たちを追ってきた。

だからとりあえずここに逃げ、避難している。

「ミアさん、どこにいるんでしょうかね」

「なんか心当たりないのか?」

「……ごめんなさい」

クソ。最悪な気分だ。

あの野郎、俺の魔剣だけじゃなく、ミアまでも攫って行きやがった。

一体あいつはなんなんだよ。ミアを狙ったってことはシュロムなのか?

それに町の兵士まで俺たちを捕まえようとしてきたし、意味わからないぞ。

「何か甘いものでも食べますか?」

「いらねえよ」

こいつもこいつだ。

なんでこの状況でそんな落ち着いてられる。

「シユウ君。焦っても仕方ないですよ」

「わかってる、でも焦らずにいられるか。ミアが攫われたんだぞ!…………すまん」

ついロマーンに怒鳴ってしまった。

熱くなってもどうしようもないことはわかってる。

でもだったらどうすればいいんだよ。

「ミアさんは大事な仲間なんですね」

「仲間……そうだな」

あんなに八つ当たりしたのに、ロマーンは涼しげなまま俺に話しかけた。

仲間と言われればそのはずなんだけど、実感はあんまりない。

「何時からの付き合い何ですか?」

「今はそんな話してる場合じゃ―」

上のほうからいくつかの足音がした。

「まだ落ち着くまで時間はかかりそうですね」

小声でロマーンは俺に真実を伝えた。

仕方なく思い出を掘り返していく。

「あれは一か月くらい前か?」

「いや、僕に聞かれてもわからないけど」

ミアと共に攫われて洞窟に監禁されたこと。そこでソフィに助けられたこと。村に帰ろうとしたらガラの悪い司教に捕まってヲーリア城に拉致されたと思ったら、ソフィとミアに再開したこと。ソフィが森へ調査しに行ったこと。

「それで土産を渡しに行ってこいって言われて、ジジイのとこに―いや、これはいいか」

「え、ジジイって誰なんです?」

「いや、それはあんまり関係ない。それよりもその後にミアがソフィのことが心配だって言って……」

思い出話と言ってもいいことばかりじゃない。

むしろいいことなんてほとんどなかった気がする。

自慢できるような話も、笑える話も、何もかもが悲劇に覆われているせいで。

「シユウ君が魔剣で戦っただなんて信じられないですね」

「いや、嘘じゃないぞ」

「ある程度の誇張は大丈夫ですよ」

こいつ。全然信じてない。

ここに魔剣があれば簡単に証明できるのに。

ああムカついてきた。

「俺がちゃんと魔剣を持っていれば……ミアが攫われることなんてなかったんだよな……」

ソファに持たれかけている傷ついた剣を見つめて考えた。

俺がここでゆっくりしている間もソフィは戦ってるかもしれない。

「そんなことないですよ、子供たちが剣を盗んだのが悪いんです。それを止められなかったのは僕の責任です。ごめんなさい」

ロマーンはゆっくりと頭を下げた。

どうしてお前が謝る。

「やめろよ」

「……わかりました」

何かを察してくれたみたいだ。

俺と同じくらいの年なのにロマーンが大人びていて、自分が嫌になる。

「はぁ……」

「あの、そんなにガッカリしてないでくださいよ」

「ああ、悪かった」

「いえ、そうではなくて」

純粋な顔で俺のほうを見るロマーン。

俺に嫌気が差していたわけじゃないのか。

「僕が言うのもなんですけど、救いたい人がいることっていいことだと思うんです」

「あ、ああ?」

「こんな状況だからこそ、その人がどれだけ大事な人かわかるっていうか。僕もあの子たちがソフィさんに襲われたときは、どうしようもなく不安でしたし」

慰めてくれているのか。

異世界に来てから悪いやつばかりと遭遇してきたから気づかなかったけど、いいやつもいるんだな。

「ロマーン、ありが―!?」

「なんですか!?」

爆音とともに地面が強く揺れた。

地震か? いや、そんなのこの世界に来てからなかった。

外で何か起こってるんだ。

「ロマーン、外だ。外の様子を見に行くぞ!」

「ちょっと危険です―!?」

爆音が再び鳴り響いた。

「下手したら閉じこめられるぞ!」

「……わ、わかりました」

俺とロマーンは外に出た。

そして鳴りやまない爆音の正体を目の当たりにした。

「なんですか、あれは?」

目を見開いて驚くロマーン。その面はたびたび飛んでくる光で点滅した。

俺はその光の先に目を凝らす。

「信じられない。今は夜中だろ」

真っ暗だった夜空にありえないくらいデカい火の玉がある。

それが小さく爆発して光を出しているんだ。

あのありえない現象は―シュロムか。

「シユウ君!?」

俺は迷うことなく走り出す。

あれがシュロムの能力ならミアの居場所を知っているかもしれない。

真夜中に現れた太陽に身を焦がしながら俺は近づいていく。


久々に書いたけどすぐ終わった。

異世界ものって書きやすいジャンルなのかな。

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