59.どう考えても神は詐欺師
破れてボロボロな赤いカーペット、その先の台座にはロアマトの像。
苔の生えた壁と遠くの満月が天井の大きな穴から差し込んでくる。
そして真顔で中学生くらいの少年を縛り上げているソフィ。
「悪かったって……お姉ちゃん!」
「なんなんだよこの女騎士、悪魔だ!」
「ひぃぃぃい……」
恐れおののく少年たちを気にせず、ソフィは指差して数を数えている。
まったく容赦ないな。
「28人ってところね。さて、だれからにしようかしら……」
「く、くるなよ!」
絡まった声が響き渡るが、それも関係ないようだ。
落ちているナイフを拾い、ソフィは近づいていっている。
「まずはあなたからよ。魔剣はどこにやった?」
「あああ、ううううううう」
その喉にナイフを当てながら、泣き喘ぐ少年に詰問したソフィ。
答えられない少年に対してさらにナイフを当てていく。
ちょっと可愛そうになってきた。
「おい、さすがにやりすぎだろ」
「これくらいで何言ってるの? ほら、吐かないと喉切るわよ」
「うっうっ……」
子供にこんなことして心が痛まないのか。
非人道的だとは思っていたが、ここまでとは。
「や、やめやがれええええええええ!」
「バレン!」
小さい子供が俺の横を通り抜け、ソフィのほうに走っていく。
手には包丁を持っているみたいだ。
「おい、やめろ、こっち来るな!」
「くらえええええええええ―え?」
「……」
意表を突かれたはずなのに、ナイフ一本で止めた。
相手が子供とはいえ、冷静すぎる。
「あっ……」
「バレン、逃げろ! 早く!」
子供は足が震えて腰を抜かし、涙目でソフィを見ている。
対してソフィは落とした包丁を足ではじき、ナイフを握ったまま子供に迫っていく。
さすがにやりすぎだろ。
「おい、やめろよ。相手は子供だぞ」
「武器を持って襲い掛かってきたなら敵よ」
あまりにも冷徹だ。
殺伐とした目つきになっている。
「わ、わかった。言うよ、魔剣がどこにあるかだろ!……でもその代わりに俺以外の奴は逃がしてくれ」
「ディティ……」
「何言ってんだよ、ディティ!」
「…………」
勇気ある少年の震えた言葉にもソフィは無言。
逃がす意味がないって思ってるだろうけど、殺す意味もないだろ。
「頼む、俺はどうなってもいい!」
「……いいわ、逃がしてあげる。でももう一度襲い掛かってきたら殺すわよ」
「あ、ああ」
一体どうしてそこまでする。
なんでそんなになれるんだよ。
「まずはあいつらを―」
「ダメよ。先に魔剣がどこにあるのか言いなさい」
「わ、わかった……」
俺たちがこの廃教会に来て少年たちを尋問している理由、それはこいつらに俺の魔剣が盗まれたからだ。
魔剣が盗られたときは憎々しかったが、今は少年たちが可哀そうとしか思えない。
「……売ったよ」
「そうか売ったのか、そうかそうか―おい、今なんて言った?」
「だから売っちゃったんだよ! もうどこにあるかわかんねえよ!」
「……ちょっとそのナイフ貸してくれ」
「え、何する気?」
もちろん指の何本かはいただかないと。
そうでもないとこの苛立ちは収まらない。
「っく、こうなることはわかっていた。お前ら、元気でやれよ」
「ディティ!」
「ひぃぃぃぃい……ロアマト様お助けえええええ!」
約束は守ってるだろ。
一人痛い目見るだけだからな。
「子供に凶器向けるとか最低ですね」
「なんか面白いことになってるじゃん?」
「何が面白いことだよ、冗談じゃないぞロイバ……―ロイバ?」
あれ、なんでロイバがここにいるんだ。
ミアもいるし。
「おい、君たち。これはなんだ?」
「ロマーンさん!」
見覚えのある白いコックの帽子。
誰かわからない俺と同じくらいの年のやつもいるし。
あとその後ろからボロボロの少年がこっちを覗き込んでる。
「ロマーンさん、あ、あの女の人です!」
「そうみたいだね」
「……」
「いや、すいません。お金ならあるので見逃してくれませんか?」
どうやら状況がわかっているようで、わかっていないらしい。
この空気で堂々と札束出してくるやついるのか。
「いらないわ」
「あ、そうですか。ところで……これはなんの騒ぎなんですか?」
やっぱりわかっていなかった。
ソフィが危険だって知っていて、ふつう聞くか。
「そこで気絶している子供が、魔剣を盗んだのよ」
「窃盗したってことですね。わかりました」
「……?」
わかったってどういうことだ。
このロマーンとかいう男、何者だよ。
「ほらお前たち、盗んだものを返しなさい!」
「…………もう売っちまったよ」
「……ちょっとそこに落ちている包丁、取ってくれませんか」
「こ、これですか?」
「どうも……こら、何やってんだお前ええええええええ!」
「ごめんなさああああああああああああああああああああああ!」
あまりにも迫真の怒鳴り声に、もはや冷めてしまった。
それと同時に絶望がジワジワと。
「ひゃっはっはっは! 魔剣盗まれてやんの!」
「てめええええええええええええええええ!」
「ひゃっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
せっかく戦えるようになったんだぞ。
何笑ってやがんだよ。
絶望が八つ当たりへと変わっていく。
このロマーンという男、どうやらこの町では名のある料理人らしい。
大通りに小さい店を持ち、その味は異質であると。
そんなことを少年たちが自慢げに言っていたが、いまいちピンとこない。
散らかった厨房で正座しているこの男が本当に名料理人なのか。
「いきなりどこいくんすか、あのあと大変だったんすよ!」
「いや、そんなこと言われても……」
「何考えてるんですか、アホですかあんたは!」
滅茶苦茶叱られてる。
それにしても汚い厨房だな。
食べかすだらけだ。
「なんだこれ、束子だ!?」
「それは美味しくなかったね」
「いや、食べもんじゃないぞこれ」
「じゃあなんなのさ?」
「こうやって、ゴミを掃除する―」
「うぇっうぉろろろろっろ!」
ひょっとしてこの厨房、ロイバの仕業か。
相変わらず馬鹿やってるなこいつ。
「っふっふっふ、私は気づいてましたけどね」
いや、ミアもかい。
何やってんだこいつらは。
「だから言いましたよね、燃えるゴミは火曜と金曜だって! 何回言えばわかるんすか!」
「いや、それは今関係ないよね……」
「ほらまた言い訳を―」
「もう説教はいいから。魔剣のこと、どうする気?」
ウェイトレスが横入りしたソフィを嫌そうに見た。
それをソフィはギラッと睨む。
ウェイトレスは目を逸らした。
「ああ、それならあの子たちが情報収集してるよ。だから今は待つしかないですね」
「そう……―!?」
「ん?」
ソフィのほうから雷の音が。
もしかしてエースの野郎が近くにいるのか。
「あら、お嬢さんディナーはまだだったんですか」
「…………」
「っぷぷ……シユウ…っぷ…今の…」
「お、おい…っぷ…ロイバ堪えろよ…っぷ……」
「何か作ってくれるんですか!」
「食べたいものがあれば作りますよ」
目を輝かしてロマーンの手さばきを覗くミアの後ろで、俺とロイバが〆られたのは言うまでもない。
悪いことをしてないのに不遇な少年たち、シユウも含む。
するとこのタイトルが出てきました。
ちょっと強引。




