58.エースが来るぞ! 逃げろ~!
ストラーダ港の名物、ハチミツ酒。
甘い匂い、輝く金色、トロトロの舌触り。
これは美味だ。
「マスターもっともってこい!」
「あいよー」
ああ止まらない。
鹿の焼肉もうまい。
「いい飲みっぷりだ! ロイバ」
「このペースじゃ、店の酒無くなるぞ?」
「はっはっは、だったら俺たちも飲まねえとな!」
この大男たちは飲み仲間だ。
町をふらついているところに出会い、こうやって騒いでいる。
なんかこの感じ、懐かしい。
「おいおい、どうした、泣いてるのか?」
「そんなに酒がうまいか!」
「はっはっは! 飲め飲め!」
「もちろんだよ!」
名前も知らない漢同士、肩を組んで歌を歌い、酒を飲む。
騒いで踊って騒ぐ。
「あー! もっと酒をよこせえええええ!」
「おー盛り上がってきたな」
「はっはっは!」
あーもう暑すぎる。
なんだこの服、脱いでしまえ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「こいつ、裸になったぞ!」
「よし、俺たちも脱ぐぞ!」
気づけば外は黒くなっている。
もう日が暮れたのか。
「いらっしゃい」
「……おいおいマスター、なんなんだこの騒ぎは?」
「よくわからん」
この酒場にいる人のほとんどはいつもと同じメンバーである。
ロイバ一人が加わっただけで様子は一変していた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「おらおらおらおらああああああああああああ!」
「ぐぬわあああああああああああああああああああああ!」
「………ロイバ、何してるんですか」
「ありゃ?」
裸で暴れまわる大男と僕の隙間に小さい少女がいる。
なんかどこかであったような。
「……うおおおおおおおおおおおお!」
「おらああああああああああああああああああ!」
「無視しないでください!」
「うお?」
少女が水バケツを僕たちにぶちまけてきた。
頭から血の気が引いていく。
あれ、体も冷えてきた。
「なにするのさ?」
「……」
無言で何かを訴えかけてくる。
あれ、よく見たらこの子、ミアちゃんじゃん。
「ミアちゃん、こんなところでなにしてるの?」
「こっちのセリフです!」
「ちょ―やめ!」
バケツで殴ってこないで。
割と痛い。
あ、裸だからか。
「おいおいロイバ、この子はだれだい?」
「え、この子はロアマトの―目があああああああ!」
「やっぱり馬鹿ですね」
目潰しなんていつ覚えたの。
それに僕、なんにも悪いことしてないよ。
「なんですかその顔」
「べっつに~?」
「そうですか。まだ懲りてないようですね……ハンマーありますか?」
「あいよー」
やっぱり酔ってるのかもしれない。
あれはもはや死神だよ。
「隊長、ここの酒うまいんですよ」
「わかったから、手を放せ」
なんか聞いたことある声。
それにこの音は、甲冑を着ているのか。
「覚悟してください、その性根を粉砕してあげますから!」
「あいよ」
「へい、マスターお久しぶり!」
「お久しぶり」
マスターはミアちゃんにハンマーを渡し、甲冑着た客に挨拶した。
甲冑の胴には光る円が描かれている。
「息抜きもいいが、こうている間にもミアは―!?」
「あ……」
「ありゃ?」
やっぱり聖騎士だった。
僕の海賊船を鎮めようとした人だ。
「ってなんで酒場にいるんだい、ロアマト教って飲酒禁止だよ?」
「……」
僕は元海賊、だからいろいろ違法なことはしてきたかもしれない。
でも親を殺されたかのように僕を睨まないでよ。
あ、そうだ酒でも渡してここは穏便に。
「なにしてるんですか、逃げますよ!」
「ちょっ、ミアちゃん、引っ張らないでよ~」
もう少し酒を飲みたかったのに。
野郎どもともっと騒ぎたかったのに。
「隊長、どうしますか?」
「……追うに決まってる!」
ああ、愛しの酒場が遠退いていく。
その代わりに鬼の形相で追いかけてくる聖騎士がいるよ。
雪の街、街灯が灯る夜は煌びやかだね。
後ろから追ってくる聖騎士のことも忘れられるよ。
でもなんか眠くなってきた。
「ちょっと、しっかりしてください」
「そんなこと言われてもねぇ~」
どんな手を使ってもしつこくついてくるんだもん。
気配消してもバレるし、屋根の上に飛んでも同じように飛んでくる。
もう手札がありません。
「睡眠学習の時間だよ、ぐぅ―ぐぶ!」
「ふざけてる場合じゃないです!」
「そんなこと言われてもねー、もういっそのこと捕まっちゃう?」
「あーもういいです、黙っててください」
「えー?」
聖騎士との距離は数メートルくらい。
滑る地面のおかげで接近できないみたいだね。
巻くなら裏路地だけど、隙間から妙な視線を感じるし逆に危険そう。
「む?」
「止まらないでください、追いつかれますよ!」
温かい明かりが窓から、いい匂いも。
ちょっとここの料理屋気になるね。
なんかお腹がすいてきたし、寄り道でも。
「ミアちゃん、僕が奢るよ!」
「だからそれどころじゃ―ええ?」
無理やりミアちゃんを引っ張っていくしかない。
捕まったら料理食べられないし。
太陽のように眩しいシャンデリア。
スーツとドレスを着た人たち。
やはり都会って空気が違うね。
「あ、あの―」
「しっー……しゃべったら見つかっちゃうよ」
誰も座っていない隅の席、机の下。
白い布を少しめくって様子を伺う。
「絶対見つかりますって」
「大丈夫だよ、バレっこないさ」
この空間は人が多い。
気配を消しやすいのさ。
「ほら、入ってきたよ」
「……エース、目立ってますね」
こんな上品な場所に甲冑の少年だからね。
ウエイトレスもすぐに寄っていったよ。
「何か話してますね」
「口の動きでだいたいわかる―野蛮な少年と小さな少女が店の中にいるはずだ―って言ってるよ」
「本当に探知が効いてないんですね」
作戦はうまくいっている。
あとは聖騎士が去るまで隠れていればいいわけ。
「あ、あの……君たち……?」
「ありゃ?」
柱みたいな帽子被った若い男がこっちを覗き込んで話しかけてきた。
なんでここにいることがわかったんだろ。
「え、えっとこれはですね―」
「お、おいしそうだね。それもらっていい?」
「え、それは今から……」
エビに茶色い何かがついている料理。
見たことないよ、こんなの。
「ちょっとロイバ……」
「おお、これは美味ですな」
「そうかい、それはうれしいよ」
「もう一つだけ……痛い」
「それはダメです。そもそも窃盗ですよ」
そんなに強く殴らなくてもいいじゃない。
日に日に力増してるよ。
「おい、あそこに誰かいないか?」
「誰も座っておりませんが……」
ヤバい。
なぜか勘づかれてるよ。
「ど、どうしますか、こっちに来ますよ!」
「こ、こうなれば戦うしかないかもね」
僕は店の中だろうが、関係なく短剣を振り回せるよ。
あっちは聖騎士だからそうはできないはず。
「あ、剣抜き始めてるよ」
「もしかしてエース、ここで戦う気……」
「そうだろうね」
僕も大概だけど、あの聖騎士も頭おかしいよ。
騎士って人を守るものじゃないの。
「君たち、こっちこっち」
「え? なんでです―」
「ミアちゃん、いくよ」
僕たちはこっそりと厨房に隠れていく。
そのすぐ後に頭のおかしい聖騎士は机の下を覗いた。
でも僕たちはの姿は無い。
ウェイトレスと口論になりかけて、不満げになった聖騎士は店を出ていった。
「助かりました……」
「ひやひやしたね」
「なんでうれしそうなんですか」
まさかこんな西の端まで聖騎士が追ってくるとは。
そんなにミアちゃんが好きなんだね。
「……もうあっちに行ったようだよ」
「あ、ありがとうございます」
「はは……店を荒らされたら困りますから」
良心じゃなかったよ。
確かに僕は悪いことしてきて犯罪者だから、良心なわけがないけど。
「お、これは―美味しい!」
「ちょっと、食べないでくれよ!」
「これもいけるね。初めてだけど全然食べれるよ」
「はぁ……」
「本当ですか、じゃあ私も」
「女の子のほうまで……いいかげんにしてくださいよ、帰ってください!」
このコック。
なかなかの腕だ。
僕を引っ張る力のほうも。
「これまだ食べてないよ!」
「だから食べるなって言ってんだよ!」
「このプルプルした、上が黒くて下が黄色いのですか?―ちょっと甘すぎますね」
「こら!」
ミアちゃん、文句言いながらも全部食べてるよ。
これは負けてはいられないね。
「そんなんで僕を止めたつもりかい―よいしょ!」
「なに!?」
目の前にこんな面白い料理が並んでたら食べないわけにはいかない。
これなんか硬いしチクチクする。
「あ、たわしだった」
「あのー、ロマーンさん。料理まだですか―ってなんですか、この惨事は!」
「こっちが聞きたいよ……てかいいかげんにしてくれ」
「ぬわ!」
なんで僕だけ。
しかも今度は首を掴んできた。
喉を通ってたのが詰まって止まって息できない。
「大変ですロマーンさん!」
裏口の扉をボロボロの少年が勢いよく開け、叫んだ。
すごい息切れしてるね。
「ん、どうした?」
「うぇ……助かった」
死ぬかと思った。
いや、もう散々だよ。
「変な女の騎士が俺たちの基地を壊滅させました!」
「な、なんだって?」
変な女騎士、俺たちの基地。
なんか面白そうな。
「もぐもぐ……」
「ちょっとお嬢ちゃん、食べるのやめようね」
「まだ食べれます!」
「聞いてないですよー」
ミアちゃん、ウェイトレスのお兄さんにあしらわれてるよ。
盗み食いしてる猫みたいだ。
「と、とにかく、ロマーンさん来てください!」
「わ、わかったよ。ちょっと店を任せるよ!」
「え、ちょ、ロマーンさん!?」
ロマーンという腕のいいコックは店を出て、傷だらけの少年について行った。
あの顔、かなり焦っているね。
「よいっしょっと、じゃあ僕も行くとしますか。じゃあね~!」
「え?」
「もぐもぐ……ちょっと待ってください、どこ行くんですか~!」
「―え?」
散らかりきった厨房にウェイトレスは一人。
ダイニングルームの何人もの客はシャンデリアを見上げ果てている。
それを見てウェイトレスもシャンデリアを見つめた。
できるだけ21時に投稿したい。
次回はあの話をします。




