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ノエル・ファンタジー  作者: 霜惣吹翠
【第一章】レイロンド大陸へ
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54.サムライのシュロム

太陽は昇り始めているが、高く分厚い壁に阻まれてその光は彼女らには届かない。

髭面の老人の持つ銀の刀、鮮血はその刃を流れ、冷たい砂の上に落ちると朧げに消えていく。

老人が顔を上げると、辺りにはもう家々は無く、目の前に壁と立っている女だけであった。

「はぁ……はぁ……」

白髭に隠れた首、あの首を完全に斬ったと思ったのに。

剣がぶつかる寸前に私を手で殴りのけてくるだなんて。

でもその時に老剣士の利き腕を傷がついたから、勝機が増えるはず。

「あの土壇場でフェイントをするとは。おもしろい。」

「あっそ……はぁ……はぁ……」

「傷をつけられたのも何十年ぶりか―」

「回復薬だなんて……」

老剣士は懐から緑色の液体の入った瓶を取り出した。

そうだった、こいつらは回復薬を持っているのだったわ。

「……やっぱり一撃で殺さなければ―!?」

投げ捨てた。

あれだけ出血している手の傷を治さないのか。

「どうした。」

「舐めてるのかしら?」

「いや。そういうわけではない。」

老剣士は布を取り出し、それを手の傷の部分に巻き付けている。

応急処置してるわ……。

「さて。女、もうすぐ夜明けだ。そろそろ決着をつける。」

「ええ、そうね」

だいたい動きも読めてる。

しかも怪我もしているから振りも遅いはず。

この状況、老剣士の隙が増えるにちがいない。

「ゆくぞ。―!」

またそれね。

高速で私のほうへ飛び掛かってきている。

老剣士の刀は振る速さ関係なく、触れただけで斬る妖刀。

ここはタイミングを計って回避するしかない。

「縦だ」

刀を上に振りかぶった。

縦斬りだ。

それなら横に避けて、カウンターを狙える。

「違う、横だ!」

瞬きなんてしていない。

なのに刀は横に振りかぶっている。

意味が分からないけど、対応できる。

「―え?」

なんで腰が地面についてるの。

避けようと思ったら、座ってた。

そうか、重心を崩されたんだ。

「っ!?」

刀がもうすぐそこに。

完全に間合いに入っている。

まずい、避けられない。

「なら!!」

攻撃するしかない。

こっちももう間合いに入っている。

斬る前に斬る。

「……。」

「……?」

止まった。

刀は私の首のすぐ横で静止した。

私の剣がその心臓に刺さる前に、老剣士は立ち止った。

でもこれは……なんで……。

「そうか。」

老剣士は刀を下げ、一歩引いた。

そして懐から布を出し、刀を拭き始めている。

私は不思議に思いながらも立ち上がった。


小さい頃から剣を持って戦場で何度も戦ってきた。

死にそうになったことも数回あったけど、こんなことはなかった。

でも今の目的はこの老剣士に勝利することじゃない。

この壁の中から出ること。

だけどその方法はまだ……。

「女。戦いは嫌いか。」

「え?」

体の周りに彷徨う冷たい微風に手が悴んでくる。

この老人、いきなり何を言っているのだろう。

「殺しは好きではないわ」

「そうか。戦いとは殺すことか。そうかそうか。」

めんどくさいわね。

しかもなんかニヤついていて気持ち悪いわ。

「話は無用よ、いいから来なさい」

「死に急ぐか……では行こう。遊びはここまでにして」

構えが変わっている。

いままでのは本気じゃなかったってことか。

だけど戦うしかない。

「!」

今までと同じ、飛んできた。

だけどなんか遅い。

一体何をしてくる気だ。

とにかく様子見て避けたほうがよさそう。

「え?」

振りも遅い。

フェイントか、それとも一気に速くなるのか。

どっちにしても間合いから出るべきだわ。

「そうだろう―!」

「なにそれ」

目の前から消えて、右に飛んだ。

そして少し刀の振りを速めてる。

でもまだ遅い。

「!」

やはり簡単に避けられた。

しかも振り切って、隙ができてる。

一体何なの、これも様子を見た方がいいか。

「やっぱり―え?」

すぐに上から連続攻撃だと思ったら、さらに振りが遅くなってる。

こんなのもう攻撃を誘っているとしか思えないわ。

絶対に罠だ。

「足が引いとるぞ!」

「っ!?」

後ろは壁だ。

いつの間に追い詰められてた。

だったら攻撃するしかない。

「!!」

「若い!」

私の斬撃をギリギリ避けながら、刀を振り下ろしてきてる。

さっきまでなら完全に避けていた老剣士が、攻撃的だ。

でも若いのはそっちのほうでしょ。

「それじゃ躱しきれないわ!」

「ほう?」

もう一歩前に飛べば剣はその腹を抉れるわ。

さぁ、どうしてくる。

振りを速めてきても、避けきれないわよ。

「ならばこうだろう!」

「!?」

壁に刀をぶつけ、その反発でさらに後ろに飛んだ。

そういえば何も斬れない能力だったわね、この老剣士。

「っち!」

避けられた。

さっきまでの技量とは違って、器用なことしてくるわね。

今の動きは瞬発的だった。

「え!?」

「油断しとるな!」

下がってすぐに飛び掛かってきた。

なんか動きが全然違う、気配も変わっている。

後ろは壁だから、横に避けるしかない。

「っ!」

振りはまた遅かったから、躱すのは簡単だったけど。

相変わらず凄い切れ味、壁に綺麗な一直線の跡ができてる。

「!!」

「なんなの!」

すぐさま攻撃してきた。

意図的だと思えない振り、刀を乱暴に扱っている。

まるで別人みたいだわ。

「うるさいわね!」

「甘い!」

私の攻撃を避けてカウンター。

だけどそれも遅いし、キレもない。

「そっちでしょ!」

「そうかね?」

いきなり刀で身を守ってきた。

あの刃は私の剣を振れただけで斬る。

「引くしかない……とでも言うと思ったのかしら!」

だったら回り込んで斬るだけよ。

これが攻撃を誘ってきてるものだとしても、後ろからなら反応できる。

「逆手!?」

意表はつかれたけど、避けれる。

でも刀を逆手に持って、後ろにいる私のほうへ刺そうとしてくるなんて。

「休む暇はない!」

老剣士は後ろに飛んでから、空中で回転、私のほうを向いて刀を構えた。

だけど腹ががら空きだわ。

「喰らいなさい!」

空中じゃ動けない。

私の突きは外れないわ。

「こうかね?」

「―!?」

体を回転して突きを避けられた。

ヤバい、もう間合いに入られてる。

「ほれい!!」

「っく!」

足が痺れてる、飛べない。

長期戦の上、このスピードにもう足がついてこれなくなってるのか。

「っん!」

「ほう?」

歩いてギリギリ躱せた。

あっちも狙いと振りが大分ブレてる。

「だが、これは避けれまい!」

「それはそっちもよ!」

至近距離ならそこまで振りの速さは関係ない。

しかもそっちのほうが今の攻撃の反動のせいで振りが一瞬遅い。

「そうか―」

「賢明……ではないわね」

老剣士は後ろに飛んで私の斬撃を避けた。

その刀には汗が滴っている。

また息切れもしていた。


数分前とは別人のように攻撃的は動きだった。

私の攻撃を誘発して、そこを狙うという作戦なのかもしれない。

だけどあまりにも振りが乱暴すぎるわ。

「攻撃してこないのか?」

「ええ、しないわ」

疲れているのはこっちもよ。

足がそろそろ限界だ。

もうそんなに長くは戦えない。

その前にどうにかしないと。

「女、もしかしてまだ逃げようと思っているのか。もうわかっているはずだ、我を倒さぬ限り生き残るすべはないと」

「……そうね」

ええ、言われなくてもわかってた。

だけど勝てる気がしない。

老剣士に勝つことよりも別の何かの方法を探す方が、可能性があると思えていた。

それももう終わり。

「私自身が騎士だったことを忘れていた。生きるか死ぬかそれだけだったわね!」

剣を握り、できる限り強い力を込めて地面を蹴る。

手はもはや全然震えない。

「そうだ、かかってこい。女!」

老剣士は前方から向かってくる私に対し、刀を構える。

このスピードについてこれるならついてくるがいいわ。

「!!」

「遅い!」

老剣士は剣を振る軌道の延長上を読み、刀を置いた。

性格が悪いわね。

「でもそれは―」

「フェイントだろう?」

「―!?」

違う、これは私の剣を斬るために刀を置いたんじゃない。

その先の私の位置するところを斬るために刀を構えていたのか。

宙に浮いているところを横に一振りしてくる。

私の剣よりもそれは速い。

「でもこれなら届く!」

「なぬ!?」

その肩を剣の柄頭、持ち手の一番下の部分でぶつけようと狙う。

しかし老剣士は手でそれを掴んだ。

「遅いと言った―!」

そのまま片手で私を投げ飛ばした。

風が冷たすぎて痛いくらい、速い。

なんでそんなに力があるのよ。

「っん!」

壁か。

向こうに斬られて斜面になっている壁が見える。

ここは西の端、かなり飛ばされたのね。

「え?」

いままで聞いたことのない音。

いえ、これは波と鳥の鳴き声だ。

久々だったから―老剣士はどこにいる?

「!?」

「!」

音もたてずに、違う。

音を越える速さで老剣士は飛んだんだ。

「やばい」

後ろは壁、横に避け―れない。

足が限界だ。

どうする。

「!」

「―!」

老剣士はかつてない速さで刀を振ってくる。

そう信じて私は姿勢を崩して躱した。

直感だった。

「!!」

「―!!」

刀はそこを通り抜け壁を斬ってすぐ、老剣士は刀を振る、それは先より速い。

そうだ、次はここだ。

もはや感覚しかないが、それも避けた。

「!!!」

「―!!!」

また壁を斬り、また刀は走ってくる。

もはや目では負えない、気配を越えた勘だけで回避した。

だがそのあともすぐ老剣士は刀を振り下ろす。

「次は―!?」

「読んだぞ!」

私が重心を移したところ、そこで刀の軌道が変わった。

やばい、もう読まれたのか。

でもそれさえも感覚は越えており、瞬時に重心を入れ替えていた。

だがそれは真後ろだった。

「なぬ!?」

「え?」

後ろの壁がわずかに崩れた。

それは刀の間合いより外に私を飛ばす。

老剣士の驚きのあと、私はそれに気づいた。

でも老剣士はすでに刀を振っている。

「―!」

感覚は確信に変わった。

そういうことだったのね。

老剣士の攻撃を上に飛んで避けた。

「浅い!」

「―いや違うわ」

フェイントが三つ、だけどそのどれも下には行かない。

私は斬れた壁を蹴って、下に飛ぶ。

三つの斬撃はすべて壁を削った。

だが避けた先にはもう銀の刃があった。

「浅いと言った」

「っ!」

すぐに私は後ろに一歩。

それだけでいい、この一撃は下から上に短い。

また壁は崩れているから、躱すことができる。

「ほう―!」

「え?」

理解できていたから納得した。

でも老剣士は突きをしていて、私は横が空いている。

それなのに後ろに飛べと体が言っているのはなぜだ。

そこはまだ斬られていない壁、ぶつかるだけ。

「―そういうこと!?」

私はおもいきり、後ろに飛んだ。

老剣士は構えを変える。

その瞬間に私は―薄くなっている壁を破壊した。

「ゆくぞ!」

「ええ!」

いくしかない、今ならいける。

老剣士は私のほうへ全力で飛び掛かってくる。

私も真っ向からすべての力を出して飛ぶ。

刀の軌道は―え?

「な……」

老剣士が足から崩れていく。

なんでそんな。

「……!」

私の剣は少し早く老剣士に届いた。

それゆえに刃は首ではなく、腹を斬り裂いた。

そのまま私は着地せざるを得ない。

「……」

「……そうか。」

私が後ろを振り向くと、平原の上に倒れた老人が朝日に照らされている

手に持った刀は真っ赤だった。

「まだまだ我も若かったか……」

「……」

どうしてこの人はそこまでして戦ったのだろう。

勝つだけならいくらでも方法はあったし、死んだら意味ないのに。

あの時だって空気斬りを使えば、私を殺そうと思えばできていた。

「あれ、ずいぶん殺風景だねー?」

「お前ら遅いぞ!」

「あれソフィ?」

日昇り、壁の中にいるロイバとミア、シユウを照らしている。

ソフィは片目を閉じながら、三人が騒いでいるところを壁の下の日陰から見ていた。


これで壁港(町)編が終わり。

次はまた港に行きます。

あれ、港ばっかじゃね?

ゆうて、港要素はそこまでないけども。


ソフィの能力なんですが、説明する機会が少し先になります。

忘れるかもしれない。

だからここに書いておこう。

大丈夫だ、後書きなんて誰も読んでないはず。


ソフィの能力:俊足(強化で緩急含む)、気配読み、先読み(回避特化、回避できない場合は見れないため、攻撃に応用するには覚悟がいる)


先読みが老剣士の攻撃を躱せた理由です。

全てのパターンを読んで、最適解を探す。

しかし後手に回るため、一騎打ちなど、先手や同じくらいのタイミングに対しては回避できるかわからないです。

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