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ノエル・ファンタジー  作者: 霜惣吹翠
【第一章】レイロンド大陸へ
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49.死なないドッペルゲンガー

壁に囲まれた町の夜空を落ちていく少年と女性がいた。

女性は下のほうを向いて、町を走っている盾を持った兵士を睨んでいる。

その一方で少年のほうは、そんな女性の横顔に頭を抱えていた。

「いや、待てよ……」

確かにこのままソフィの身体に掴まらなければ、落下死していくかもしれない。

だけど死ぬのと同じくらい、ソフィに掴まるのも嫌なんだよ。

「どうにか……いや、これなら!」

そうだ、俺にはこの魔剣がある。

物体の運動を逸らすことができる剣があるんだ。

これをうまく使えば、死なないんじゃないのか。

「よし、それでい―え!?」

「厄介だわ」

下に数百の兵隊たちがいきなり現れた。

盾のシュロムがこっちに気づいたのか。

しかも兵隊の奴ら、槍を俺たちのほうに構えてるぞ。

「ああもう、もたもたしてるから!」

「な、やめ―」

「うるさいわ!」

ソフィが無理やり俺の身体を掴んで寄せてきた。

白目向くほど恥ずかしい。

子ども扱いしやがって、酒もたくさん飲んでるぞ俺は。

「くるわよ!」

月明かりに見えていた兵隊たちが影に隠れる。

それと同時に沢山の何かが擦れる音が聞こえてきた。

槍が飛んできているのか。

「はぇ?」

ソフィは俺を片手で掴んだまま、逆の手で剣を握る。

俺だって剣持っているぞって少し思っていたけど、それよりもこの状況でソフィが何をしようとしているのかが気になっていた。

「そんな馬鹿な」

ソフィは一つ一つ飛んでくる槍を剣で捌いていく。

とてつもない速さで向かってくる槍に、それ以上の速さで剣を振っている

しかもソフィの身体はさっきと変わらず、まったく揺れていない。

速さに引っ張られず、無駄なく剣で斬っている。

「はやっ!」

落ちていくほどに速さは増していく。

体にぶつかってくる風も、槍の向かってくる音も、ソフィが剣を振る速さも。

でもソフィの顔は冷静なままだ。

「しっかり掴まってなさい!」

「あ、ああ!」

俺の返事が聞こえていると思えないほど、ソフィは俺を強く抱きしめた。

もはや風と槍の区別もつかないくらいの速さで俺は落ちていく。

しかも、もうすぐ地面に近いとソフィの食いしばる顔が証明している。

真下にいるであろう兵隊たちへの恐怖より、どうやって着地するのかの不安が身体を震わせていた。

「心配しなくていいわ」

「!?」

ソフィは俺を抱きかかえたまま、真下にいる兵隊を斬り飛ばした。

そして着地したかと思ったら、そのまま地面を蹴りだして前方へ突進した。

そこにいる兵隊たちを飛びながら倒し、道を斬り開いていく。

「なんで一回着地しないんだよ!」

「敵に追いつくためよ」

当たり前みたいに言うな。

こっちは肝が冷えて仕方ない。

「いたわ!」

すさまじいスピードのせいでよくわからないが、一つの真っ白な光が前のほうにある。

おそらくあれは盾のシュロムだろう。

「!!」

ソフィはそのまま光に突っ込んでいき、斬りつけた。

その光が真っ二つに割れる。

どうして耐えられるのかわからないが、ソフィは急ブレーキしてようやっとこのワイルドスピードが終わった。

「ふぅ……死ぬかと思ったぞ」

ソフィが俺を下ろし、バクバクと胸を突きあげる心臓の鼓動が静まっていく。

「そうね、すごい怖がっていたわね」

その視線は俺の胸のほう、心臓が俺の身体を必死に引っ張ろうとしてくる。

「だから嫌だって言ったんだ……」

トラウマが増えた。

ってそんなこと考えている場合じゃない。

「奴は死んだのか?」

「……そうじゃないみたいね」

地面に転がっていたのは奴の死体ではなく、鏡だった。

あれだけ怖い思いしたのに鏡を壊しただけだったのか。

「って、奴はどこだ?」

「……くるわよ」

「な!?」

どこからか響いてきた指を弾く音とともに、無数の兵隊共が音もたてず現れた。

どの方向を見ても兵隊共しかいない。

完全に囲まれた。

「どれだけ人間離れしていても所詮はカイネ、無能力だよ?」

「!?」

屋根の上、兵隊たちの奥から気持ち悪く笑っている男、盾のシュロムが出てきた。

その両手には盾を持っている。

「あなたたちはやっぱり、シュロムなのね?」

「……っふ、はっは! 僕がテロリストだって? 面白い冗談だな!」

腹を抱えながら奴は俺たちを見下している。

奴が俺と同じ転生者だとは思えない。

「僕たちはテロリストなんかではない、革命家だ! この醜い異世界を作り変える英雄たちなんだよ!」

奴の雄たけびだけが壁に囲まれた町に響いていく。

「……はぁ、話になりそうもないわ」

「あ、ああ、そうだな」

ソフィは剣を構え、奴を睨んだ。

それなのに奴は嘲笑したまま、余裕の表情だ。

「はぁ、まったく……人の話も聞かないで、君たちは汚いな。」

奴が手を挙げていく。

俺たちの周りを囲う大勢の兵隊は槍を掲げ始めた。

ソフィの頬に汗がつたっていく。

「まぁどうせ殺すだけだし、いいけどさ!」

「いくわよ!」

奴の手が下がったと同時に、兵隊たちの手から槍は離れ飛んでいく。

俺は魔剣を構えた。

「全部逸らしてや―なにす―!?」

「!!!」

ソフィは俺の手を掴み、一目散に盾のシュロムのほうへ突っ込んでいった。

飛んできている槍よりも速く、かなり高い屋根の上で慢心している奴のところへ飛び掛かっていく。

「っく! 反則級だろ、汚いぞ!」

さすがに奴のほうも焦っているようだ。

さっきと同じように自分の前に兵隊を三人召喚し、盾にした。

「甘いわ!」

ソフィは一斬りで三人を蹴散らし、そのまま奴のほうへ刃を走らせていく。

「ああ、知ってるとも!」

奴はさらに兵隊を五人召喚して並べ、分厚い壁を作った。

しかし、それでも甘かった。

「う、まじかよ!?」

召喚された兵隊の位置を先読みし、ソフィは奴の到達する場所に奴と同時にたどり着いていた。

そのまま剣は青ざめている奴の首に向かっていく。

だがそれは惜しくも届かなかった。

「……最悪だわ」

「っふ、はっはっはっは! 間抜けだねぇ!」

確かにこれは最悪だ。

あと一歩だけの距離、あとコンマ何秒くらい早ければ、奴を殺せた。

だけど届かなかった。

―奴の召喚した兵隊に俺が絡まったせいで。

「俺は悪くねぇ!」

「はっはっは!」

指を刺して笑うな。

ソフィも呆れた目で見るなよ。

お前のせいだろ。

「はぁ……」

「うわ!」

地面に顔面をぶつけ、屋根からずり落ちていく摩擦による熱で怒りが湧いてきた。

だって俺悪くないし。

「馬鹿みたいだね」

「うるさいわ」

さっき飛んだ場所には何本もの槍が突き刺さっている。

それを見て少し冷静になれた。

「そんな奴、置いてけばいいのに。無様だね」

「あなた、勘違いしているわ」

「なに?」

「彼はあなたよりも強いわよ」

剣を向け、ソフィはまっすぐそう言い放った。

笑い飛ばしていた奴の憎たらしい顔がいい感じになってきたな。

「そうかい、だったら―!?」

「ん?」

突然、奴の左手に持っている盾が割れて消えた。

なんか、吐きそうなほど顔色が悪くなっているぞ。

まだ右手に一枚持ってるくせに、なんであんなになってるんだろう。

「う、うそだろ……そんな……」

「はぁ……間抜けね。」

「く、くるな!」

ソフィがゆっくり奴のほうへ歩いていく。

戦意が喪失したのか、奴は後ずさりしかしない。

「……終わりよ」

ソフィは奴の首に剣を向けると、剣を振りかぶった。

さっきの様子が嘘みたいに奴は汗まみれだ。

「っ、いやまだだ!」

ソフィが剣を振り下ろす瞬間、奴は指を鳴らし、手を下げた。

それに気づいてソフィは俺のほうへ走り出す。

槍が飛んでくる。

俺もそっちへ走り出した。

「避難するわ―なにしてるの!?」

分かっている。

だけど不思議だとも思う。

奴が俺と同じ転生者だからかもしれない。

「ちょっと!」

ソフィの手を振り払い、俺は奴の後ろを追っていく。

その臆病な背中を斬るために。

「!」

奴はコケそうになりながらも、屋根から飛び降りた。

ああ、そうだろう。

俺は魔剣を握りしめて、そこから飛ぶ。

「なんなんだよ、くそ!」

奴は召喚した兵隊をクッションにして落下し、そのまま通りを走っていく。

俺は落下の瞬間に魔剣を振り、自分の体を逸らして着地。

下向きの力が横に変わって加速できる。

「ん!? 追いかけてくんな!」

奴は走りながら指を鳴らし、兵隊たちで道を塞いだ。

兵隊の身長は二メートルくらい。

「関係ないな!」

俺は上に飛んで剣を振る。

体は空中に引き寄せられ、あんなものなんて簡単に飛び越えられる。

「待ちやがれ!」

「くるな!」

奴は必死に逃げている。

俺の顔を見て、死ぬ気で走っている。

ソフィじゃなくて俺にビビってる。

「くるな!!」

「無駄だ!」

兵隊の壁を何回召喚しても、無意味だ。

俺は容易く乗り越えた。

「くそ!」

だんだん走るスピードも落ちているぞ。

体力も俺よりないのか。

「なんだってんだよ!」

「追い詰めたな」

行き止まり。

がむしゃらに走っていたみたいだ。

壁に背を擦りつけて、半泣きで奴は俺を見ている。

「くそ! くそ!」

「無様だな」

「うっうっ!」

俺は奴のほうへ堂々と歩いていく。

奴はそれから必死に逃げようと壁を押したりしているが、本当に滑稽だ。

「やめろ! 降参だ!」

「なんだと?」

「もう戦うつもりはない! 兵隊だって召喚してないだろ!」

命乞いか。

いいざまだ。

だけど目が痛くなるから、終わりにしよう。

「待て! 情報をやる! お前らを狙っているやつを教えてやる!」

「なんだと?」

「ああ、教えてやる! だから命だけは!」

どうせ殺してしまうけど、どうせなら情報を吐かせてからのほうがもっと苦しむかもしれないか。

あれだけ俺たちを笑ったからな。

俺は剣を奴の首元に向けた。

「だれなんだ?」

「そ、それはだな……」

「早く言ったほうがいいぞ」

首から出てきた血が剣の先から落ちていく。

「ああ、やつは俺たちのボス、冷酷で残忍な……野郎さ!」

「違うだろ、名前を言えよ」

「っう、っく!」

本当に残念な奴だな。

「ほら早く言えよ」

「っう、っう……ふふ……はは……」

ついにおかしくなったか。

もうここら辺にしておいてトドメを刺した方がよさそうだな。

「ふふ……馬鹿め―!」

「な!?」

奴の不敵な笑みに気を取られた一瞬、奴の左から無いはずの盾が掲げられ、眩い光が視界を奪った。

「やばい!」

俺は剣をとにかく振って、身を守る。

完全に何も見えない。

「馬鹿だね、そういうところもだよ」

「……」

憎々しく嘲る声が聞こえるとともに視界がだんだん戻っていく。

「僕は君に近づく必要なんてないんだよ」

「……?」

気持ち悪い声はあっちのほうからか。

「兵法を知ってるかい、簡単なことだよ」

「あれ……?」

こっちからも声が聞こえるぞ。

「数的有利。それこそが最強なんだよ」

「なんだ……!?」

ああそうか、よく見えてきたぞ。

いや、はっきり見えた。

同じ人間が二人いる。

まったく同じクソ野郎が、盾を持った男が二人だけいる。

「そういうことだったか」

「ん? 気づくの遅いねぇ?」

なんで盾が割れた瞬間に逃げだしたのか。

あそこまで恐怖して必死に俺からも逃げていったのか。

俺たちは大きな勘違いをしていたわけだ。

「そっくりそのまま二人だけに分身する能力ってことだろ」

でもそれはただの分身じゃない。

というか分身を超越している能力だ。

「そうさ……こいつは僕であり、僕はこいつでもある」

「―両方本体なのさ!」

最初から二人しかいなかった。

しかも両方が本体。

同じ人間が二人いたようなものだ。

もはやこの能力は分身というよりも、自分自身を完全に複製する能力。

幻影ではなく、本物の生命を生み出す能力だ。



ファンタジー異能バトルものと思わせといて、探偵のような感じになっている気がする。


さて、そろそろ盾のシュロム戦も大詰めです。

たぶん、次回終わるはず。

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