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ノエル・ファンタジー  作者: 霜惣吹翠
【第一章】レイロンド大陸へ
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48.夜空に涙は退屈すぎる

真っ暗な夜の中、一筋の光と幾つかの線が空を照らしていた。

ソフィのいる広場に向かって無数の槍が降り注いでいる。

その屋根の上の兵隊たちは彼女を直視しているわけでもない。

それでも正確に投げられる槍はほとんど軌道を外れず、計算通りに空を走っていた。

「いい感じだよ、いい顔してるねぇ~君」

「……」

兵士の姿をした男は頭を地面につけて絶望しているシユウを見下している。

腹を抱えて飛ばされる笑い声は槍の飛び交う音の中でも目立っていた。

「いや、滑稽だな。」

「……それは!?」

「んー、これがどうかしたのか?」

強く光を放つ盾。

それを奴が掲げているだと。

じゃあソフィは……。

奴が俺の顔に盾を向けてきているが、俺は関係なく目を開けていた。

「いいことを教えてあげるよ。」

「……?」

「ほら見なよ、兵隊たちはまだ槍を投げているよ。僕の下僕たちは目的を全うするまでやめないからね、不幸なことに彼女はまだ生きてるだろうね」

「なんだって?」

「ああそうだよ、あの地獄の底でまだ死んでないってこと。体中に槍が突き刺さってるのに、当たり所が悪いのかな、なかなか死ねないみたいだよ。苦しそうだなぁ」

あざけ笑いながら奴は卑劣な言葉で俺を嬲ってくる。

ああ、許さない。

もうどうでもいい。

こいつを殺したい。

あの気色悪い、吐き気のする面だけで動ける。

剣を持って立ち上がった。

斬りかかる。

「おっと、ようやく来たようだね」

「あ……」

奴の横から一人の兵隊がやってきた。

―その手に光る盾を持って。

「あれ、どうしたの。斬りかからないの?」

「なんだよそれ……」

「なにって? 盾だよ」

どうしてだ。

なんで盾が二つあるんだ。

「何か勘違いしてたのかな?」

広場にあった光がいつの間に無くなっている。

「この盾はね……」

嫌だ、考えたくない。

「“僕の”じゃないんだよ。」

ああ。

ああ、ソフィがこの盾を壊しても無駄だったのか。

「これは僕の分身のものなんだ。だからこの盾を壊しても消えるのは僕じゃなくて、分身の方だったんだよ。」

あれだけあった憎しみも後悔もなくなった。

頭の中にあったものが、何もかもが空っぽになって、虚しさすらもない。

「あらら、これは見てはいられないね」

それでも容赦なく奴は近づいてくる。

尖った槍がその手に持って。

「聞いてるかわからないけど、冥途の土産ってやつを教えてやるよ。君も元々は僕らと同じ転生者だからね。」

「……」

「僕の能力は兵隊の生成。そしてこの盾は分身の能力がある。君たちが僕が複数いると思ったのは、この盾の効果だね。」

「……」

「はぁ、汚い面だな」

男は顔をしかめ、槍を振りかぶる。

シユウはその尖端をただ眺めていた。

「さぁ、終わりにしようか。あっちのほうも静かになってるしな。」

「……そうね」

「な!?」

その声が聞こえて男は後ろを向く。

しかしすでにその剣は空間を引き裂くように振り下ろされている。

男は咄嗟に兵隊を召喚して盾にするが、刃はそこに何もないと証明するかのように兵隊を易々と斬り裂いていく。

「あぶな!」

「……」

尻もちをつき、男はギリギリ攻撃を避けた。

その頬に次々となだれ込む汗は地面を打ち付け、水たまりになるほどである。

男が焦るのは無理もない。

ソフィが凄まじい気迫を纏い、目の前にいるためだ。

睨み殺すような威圧は、時間をかけて周りの空間を圧迫し、身体を潰していく。

全てを支配するほどの殺気は、何もかもを静止させ、髪一本が揺れることすら許さない。

「……あの中を生き延びただと?」

「ただ戻ってきただけ……」

屋根の上はさっぱりしており、大量にいた兵隊たちは男の周囲を除いて一人残らず、ソフィによって始末されていた。

「そうかい!」

二体の兵隊をソフィの後ろに出して攻撃させるが、ソフィは簡単にその槍を斬り、男の願いをへし折る。

「無駄な抵抗。終わりよ」

「待ったほうがいい!」

「……」

「あれを見てみろ!」

三体の兵隊がシユウに槍を向けていた。

シユウは呆然としたままである。

「汚いわね」

「合理的というところだ」

男はゆっくり立ち上がり、ソフィに睨まれながら後退していく。

ソフィはその間、動かない。

「……ふぅ」

ある程度離れてきて、男は胸をなでおろす。

だがそれは甘かった。

「なに!?」

「……!」

ソフィは男が自分から視線を逸らした隙に、高速でシユウのところまで移動し、兵隊たちを斬った。

そのまま男のほうを睨み、走り出していた。

「この女、恐ろしすぎる!」

兵隊を召喚して追いかけてこようとするソフィに向かわせ、男は逃げだした。

ソフィはその兵隊関係なく飛び越えていこうとしていたが、やめた。

「……イライラするわ」

打ちひしがれているシユウのほうへ走っていくソフィ。

その後ろを兵隊たちは追っていく。

「……。」

「しっかりしなさい!」

シユウの身体を揺らすソフィ。

しかしその目は虚ろで瞬きもしない。

「はぁ……!」

「痛っ!?」

あれ、ソフィがなんで。

生きていたのか。

「てか、なんだあれは!」

山ほどの兵隊がこっちに走ってきてるぞ。

何がおこって―ソフィが手を握ってきた。

「我慢しなさい」

「え?」

ソフィは戸惑う俺に構わず走り出した。

兵隊のほうに向かっているぞ。

しかもだんだん速くなってる。

「いっ!」

やばい、腕が引き裂けそう。

すごい握力でヤバい。

引き裂けそうな腕の痛みと強く握られている手に困惑しながら、俺も必死に足を回す。

「いくわよ!」

兵隊とぶつかる寸前、この速さ。

予想はつく。

「でも待っ―うわああああああああ!」

ソフィと俺は飛び上がった。

下には俺たちを眺める兵隊たちがいる。

顔はあまり見えないが、おそらく驚いているだろう。

「てか飛びすぎだろ」

「うるさいわ。あそこわかる?」

「あれは―盾のシュロムだ。」

「こっちに気づいていないみたいね、上から仕留めるわよ」

「はぇ?」

いつもソフィの動きを見ていて身体能力が人間離れしてるなと思っていた。

でもこうやって同じ景色を体験してわかった。

人間離れしてるのは感覚とかそっちのほうだ。

この高さ、怖い。

「体に掴まって」

「……え、嫌だ」

「死ぬわよ」

はっきり言って、ソフィのことは好きじゃない。

いや、好きだったら抱き着けるとかそういうことではなく。

「……だけど本当に死ぬやつだよな」

「だからそうだって言ってるでしょ」

この空中でソフィに抱き着くのは嫌だ。

そもそもこの高さも怖い。

こんなに嫌なことばかりの空中だけどいいことが一つだけある。

それは落下するまでに考える時間があるということだ。

俺はゆっくり頭を悩ませることにした。


あっちに出てた光の柱もいつの間にか消えてる。

結構綺麗だったのにな。

「今日は月が綺麗だよね」

「真面目にしてください」

僕とミアちゃんはとりあえず、町を徘徊する兵隊を、屋根の上で隠れながら観察することにした。

「いい隊列だね」

「そっちじゃなくて盾のシュロムを探してください」

兵隊を注意深く見ていたのは僕だけだったみたい。

ミアちゃんの言うこともわかるけど、いないものはいないしな。

どうしようね。

「ん?」

向こうの通りを行進していく兵隊の中に奇妙な光がある。

おっとっと。

あれ、盾のシュロムじゃね?

「どうかしたんですか?」

「ねえ、あっち見てよ」

「え、あれは!」

「ビンゴだね!」

僕とミアちゃんは屋根をつたって向こうの通りに走っていく。

近づけば近づくほど、それっぽいね。

ここは気配を消して様子を伺おうかな。

「ミアちゃん」

「触らないでください」

「いや、でもここはだね―」

「いい加減にしてください」

少しふざけすぎたのかな。

話すら聞いてもらえなくなっちゃったよ。

でも気配消すためには触らないといけないんだよね。

「じゃあどうしよ―」

「私が立てた作戦通りに行きます」

「えーと、それはたしか……」

ミアちゃんが気を引いてる隙に、僕が敵を暗殺するとかだっけ。

僕は危険だからって反対したのに。

「まず、ロイバは兵隊の列の後ろまで忍び寄ってください」

そこまで女の子に体張らせるのは。

「私もバレないようにあそこまで移動していきます」

でもこれ以上怒らせてもダメだよね。

仕方ない、どろん。

「あそこについたら私が大声出して気を引きます。」

こんなに近くにいてもミアちゃんが気づいてない。

ちゃんと気配消しはできてるようだね。

「そこで隊列を崩して襲ってきたところを―あれ、ロイバ!」

キョロキョロして僕を探してる。

でも少し声大きくない?

もしかしてもうおびき寄せてるの?

「どこ行ったんですか!」

あれ、光がこっちのほうに。

あ、盾のシュロムと目が合った。

でもすぐミアちゃんのほう見ちゃったね。

―バレたね。

「どこですか!」

ミアちゃん気づいてないね。

そういうフリなのかな。

演技うますぎない?

「ロイバー!」

ん、盾のシュロム完全にミアちゃんを見つめてるね。

兵隊も止まっちゃったよ。

もしかして今なのか?

今忍び寄ってくればいいのかな?

「あ……」

お、ミアちゃんが盾のシュロム見てるよ。

なんか気まずそうなんだけど。

よし、今のうちに僕が行って来よう。

「み、見つけたぞ!」

「きゃー!」

―あっちから屋根の上に上ってきたよ。

しかも僕の目の前。

目が合ってるような。

あ、ミアちゃんのほうに歩いて行った。

「なんかよくわからないけど、お前を攫えばいいわけだし。無駄な抵抗するなよ」

「え、ええ?」

なるほど。

敵の狙いはミアちゃんなのか。

もう真後ろにいて、すぐ殺せるけど、ちょっと様子見よう。

まだなんか口を滑らすかもしれないしね。

「な、なんでですか?」

「それは知らないな。」

うわ、この盾ほんとに光ってるな。

まっぶし!

鏡のようになってると思ったら、変な柄が刻まれてるね。

趣味悪いなぁ。

「ほら、抵抗するな!」

「離してください!」

おお、掴みかかったね。

ミアちゃんもだいぶ怖がってる。

そろそろや……もう少し見てよう。

さっきミアちゃんに無視されたし、別に敵もミアちゃんの命まで奪いそうもないし。

「やめてください!」

「それは無理な話だな」

盛り上がってきたね。

ちなみに敵の身体調べたけど、盾と財布以外なにも持ってなかった。

なお、財布の中は小銭が少しだけ。

「離して!」

「よく見るとちょっと可愛いじゃないか。少しくらいあそ……」

「はぁ……飽きたよ」

もう少し面白いことやってくれるかと思ったけど、そんなものか。

首に一刺しで死んでしまうし、本当に盾持ってるだけの男だね。

ちょっと面白いのは、光り出して消えるだけ。

「遅いですよ!」

「ごめんごめん」

ミアちゃん泣いてる。

ちょっとやりすぎたかな。

だけどとりあえずこれで一人倒せたわけだし、いいか。

「じゃあ次行こうか」

「……もう少し待ってください」

僕はミアちゃんが泣き止むまで空を眺める。

ようやっとゆっくりできると思っていたけど、なかなか長い時間で退屈にだった。

やっぱりやりすぎたね。


時間を操る能力とCtrl+Yを覚えた。

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