47.能力に呪われた少年
今日も今日とて空は紫色。
壁に囲まれたこの町の通りの中、月の明かりも届かないね。
本当は届いてるけど。
「サボってないで、目を動かしてください」
「はいはい」
僕はミアちゃんを真っすぐ見てそう返事した。
すると拳が帰ってくるから、それを受け流す。
「甘いよ。一度喰らった攻撃が二度通用すると思う―ぐび!」
「これで許してあげますから、集中してください」
「……あい。」
いつからこんな暴力的になってしまったのだろう。
まぁ別に痛くないからいいけど。
あ、鳥が飛んでる。
「今度は石で殴りますよ」
「あはは、またまた冗談を―あぶないよ!」
「ロイバが悪いです」
ミアちゃんはついに武器を使うことまで覚えてるよ。
いよいよふざけられなくなっちゃった。
「この辺は反応がないです。こっちへ行きましょう」
「もちょっとこの家の壁を見ていたいな……」
「……。」
「冗談だよ。行こう行こう!」
シユウと姉貴が町の西側で、僕たちは東側を捜索。
だいたい北東の方は終わって、今向かっているのは南東のほうだね。
もうここら辺も見慣れてきたな。
「ロイバはあっちのほうを見てください」
「あ、うん」
あんなに幼かったミアちゃんがこんな立派になって。
元海賊の船長である僕が命令されてるんだもんね。
いや、最初からこんなんだった気がする。
「そういえばミアちゃん。探知使ってるなら、僕サボっててもよくない?」
「なんか言いましたか?」
「いや、なんでもないです」
本当に立派になって。
こっそり隠密使っちゃおうかな。
ミアちゃんを一人ぼっちにして、泣き顔を物陰から覗きたくなってきたな。
「!?」
「どうしたんだい?」
「あっちから兵隊が来ます!」
「ありゃ」
僕はミアの指差した方を向いた。
たしかにあっちから足音も聞こえてくるね。
「じゃあ失礼して。」
「え、なにするんですか」
「わかってるんでしょ、そんなに恥ずかしがらなくてもいいよ?」
「あなたの目は節穴ですか。私が照れているように見え―きゃあああああああ!」
相当の数だと思うし、通りの真正面から兵隊と戦っても無理。
だったら屋根の上に避難するしかないよ。
だから屋根に飛ぶためにミアちゃんを抱きかかえたのは合法でしかないね。
「ぐぼっ!」
「離してください」
脇腹を肘で殴ってから言わないよね、普通はさ。
優しい僕は丁寧にミアちゃんを下ろした。
決して雑にした後が怖かったわけじゃないです。
「やっぱり気持ち悪いです」
「高いところだから?」
「はぁ……」
「ミアちゃん、兵隊が見えてきたよ」
数はそこまで多くないね。
変わらず長い槍を持って、規則正しく行進してるよ。
「盾のシュロムはあの中にいるのかい?」
「たぶん、いないと思います」
「うーん?」
「あんなに密集してたら判別しにくいんですよ」
「なるほど」
僕たちの目的は輝く盾を持った兵士を倒すこと。
ミアちゃんの探知に頼らず、よく観察して見つけ出す必要があるね。
さて、どうしようかな。
「ん? 向こうから光が出てるよ!」
「北西のほうですね。でもあれは二人の管轄です」
そうだった。
あそこらへんにはシユウとソフィがいるんだったね。
あっちはうまく行ってるのかな。
姉貴のことだからもう五人くらい倒してそうだな。
「……ってやばいよ! 僕たち一人も倒してないじゃん!」
慌てて屋根の上を走り出したロイバを見て、ミアは思った。
「お前のせいだろ」と。
ようやっと屋根の上の移動にも慣れてきた。
この町は入り組んでいるし、下には兵隊がわんさかいるからな。
これはデカい。
「あっちから光が出てるわ」
「本当だ」
少し西の方から一筋の真っ白な光が出ている。
あれは間違いなく盾のシュロムの持っている盾によるものだ。
さっき倒したばっかりなのに忙しいな。
「まぁ仕方ないか」
「待ちなさい」
走り出そうとしたらソフィが止めてきた。
一体なんだ。
「早くしないと逃げられるぞ」
「変だと思わないの?」
「変?」
ソフィが光のほうに視線を送ってようやくわかった。
確かに変だな。
あんな目立つ光を出して、ここに罠があると言ってるようなものだ。
「わかったみたいね。しかも光は動いてないから急ぐ必要もなさそうよ」
「ああ」
なんか冷静じゃいられなくなってる。
いつもだったら言われなくてもわかるはずなのに。
剣の柄を触りながら俺はソフィの少し後ろを歩いて行く。
「……ここらへんで様子を見た方がいいわ」
しばらく屋根をつたっていき、近くまで来た。
本当に目が明けていられないほど強い光だな。
「でも静かだな」
ついさっきと全く変わりはない。
同じように下を行進する兵隊がいるだけだ。
「油断しないで」
「わ、わかってる!」
敵の罠に一度かかってるから、さすがに理解してる。
焦らず慎重に考えてから行動すればいいだろ。
絶対に今度こそは俺が盾のシュロムを倒すんだ。
もう気は抜かないぞ。
「もう少し近づくわ」
「わかった」
ここらへんは安全ということだ。
俺とソフィは屋根を歩き、さらに光のほうへ向かう。
「あれ?」
「怪しいわね」
西側と南側に出入口がある家々に四角く囲まれた広場の真ん中に光だけがある。
そう、光を放っている盾が置いてあるだけ。
だから俺は入念に周りを見回した。
「いないな」
「そのようね。気配は全くないわ」
盾は変わらず無防備に天へ光を放ち続けている。
あれはどう考えても罠だろう。
でも破壊できれば兵隊が減るかもしれない。
「……よし、あの盾を取りに行ってくる」
「何言ってるの。危険だわ」
「わかってる」
「だったら私が行くから、あなたは―なに?」
俺は光のほうへ歩き出すソフィの手を掴んだ。
いつもソフィは自分を犠牲にする。
それは俺が弱かったからだ。
でも今は違う。
「俺が行く」
ソフィを睨んで俺は言った。
「ダメよ」
俺を威圧しながらソフィは冷たく返した。
さらに言い返そうと念じていても、身体が固まって声が出ない。
「決まりね。私が行ってくるから」
ソフィは軽々と下へ降りていき、盾のほうへ忍び寄っていく。
「……くそ」
せめて周りの安全だけでも俺が確保してやる。
なにもできずに見ていられるか。
剣を握りしめて辺りを見回す。
「大丈夫そうだな」
「なにが?」
「!?」
真後ろから男の声が。
とっさに俺は振り返りながら剣を振る。
だがそれは揚々と避けられた。
「あぶなかった。いきなり攻撃してくるなんて汚いな」
さっき倒した盾のシュロムと同じ格好。
こいつ、盾こそは持ってないが盾のシュロムの一人だな。
「やっと現れたな。すぐに倒してやる」
「おお、怖いね」
剣を向けているのにもかかわらず、盾のシュロムは汗一つ掻いていない。
丸腰のくせに余裕気だ。
「舐めやがって!」
俺は奴に斬りかかる。
その憎たらしい面を切り刻んでやる。
「かかったな。」
「!?」
剣を振り下ろし始めた瞬間、俺は槍を突きつけられていた。
俺が攻撃しようとしていたのは兵隊だった。
「そんな馬鹿な!」
槍が迫ってくる。
剣よりも槍のほうが速い。
俺の攻撃が兵隊の最大の攻撃になった。
「くそ!」
槍はブレなくまっすぐ伸び、天に突き上げられた。
その周りの空気でさえも槍がそこを通ったことを気づかないほど、無駄がなかった。
「さて、次はあの女だな」
「いや、次はない」
「!?」
奴は目を見開いて俺がここに立っていることを確かめている。
あの憎々しい顔がようやく面白くなってきたか。
「避けられるはずがないぞ!」
「そうか?」
俺はこの剣を振り回しながら奴に答える。
それで奴のほうも気づいたみたいだ。
「魔剣を持っているだなんて知らなかったな……」
「そうかい!」
「おっと!」
俺が剣で攻撃すると奴の前に兵隊が現れる。
それを盾にして俺の攻撃は防がれた。
「ああ、また一人やられちゃったか」
「何人でも斬ってやる」
「まったく、血走ってるね」
なんかこいつ鼻につくな。
ムカついてきた。
「すぐに倒してやる」
「そう、でもそれでいいのかな?」
「は?」
奴は下のほう、ソフィがいるところへ目をやった。
ソフィは盾のある広場の中央へ走っている。
そのまわりには特に敵や罠は見当たらない。
こいつ、何が言いたいんだ。
「まぁ、わかったところで意味がないけどね」
「は?」
「じゃあ教えてやるよ……!」
奴は手を二度叩く。
「なにしてん―嘘だろ!?」
広場を囲むこの家々の屋根の上に突然、大量の兵隊たちが現れたぞ。
そこからソフィ目掛けて一斉に槍を投げつける気だ。
ヤバいことになった。
「ほら、わかったところで意味ないだろ?」
醜いにやけ面を奴は俺に見せつける。
背筋がゾッとした。
「……!」
ソフィが罠に気づき、全力で盾のほうへ走っている。
兵隊に攻撃される前に盾を壊そうとしてるのか。
でも盾を壊してもコイツが消えるとは限らない。
「……いや」
だったらなんだよ。
ダメかと一瞬思った。
でも冷静になれば、すぐ答えは出るだろ。
「いや、そんなことはない。お前を殺せば済む」
「ふっ……ふふ……そうかな?」
悪魔のように笑いを堪えながら、奴は左手を上げていく。
それと同時に兵隊たちは槍を空に掲げていく。
楽しそうだな。
俺も真似して剣を握った両手を上げる。
「無駄なことだよ……!」
「そうだな!」
その左手が下がり始めた瞬間、俺は走り出した。
あの手が下がりきるまでに奴を殺し、兵隊を消滅させる。
距離はそこまでない。
でも間に合うかはギリギリだ。
「な!?」
三体の兵隊が前に現れた。
壁のように並んで、俺が奴に接近するまでの時間を稼ぐ気か。
これじゃ無理だ。
「っく!」
剣の能力で前に自分を逸らして加速―前いる兵隊を退かさないとそれはできない。
だけどやるしかないだろ。
ダメかもしれないけど、やるしかない。
「ふふふ……」
いやもう無理だ。
すでに左手は下がりきろうとしている。
どれだけ速くてももう手遅れだ。
「!」
隙間がある。
前で壁になっている兵隊三人の隙間に奴の首がある。
そこに剣を命中させれれば間に合う。
「ここだ!」
剣を逆手で持ち、俺はその隙間へ投げ―あれ、手が離せない、力が抜けていく。
……投げられない。
どうしてだよ。
もう槍が投げられちまうんだよ!
「……綺麗だ」
その刃に刻まれている模様。
それが俺の目を釘付けにして身体を震わせる。
剣を飛ばして外したらソフィが死ぬとか、そういうことに怯えていたわけじゃない。
この剣を失ったら俺はどうなるのかを考えたくなかった。
「!?」
「ふふ……はっはっは!」
左手はソフィのほうを差し、槍は掃射された。
鳥のように空に向かった槍は、雨のように広場に降り注いでいく。
「……間に合わなかった」
空で鳴り止まない槍を眺めながら、俺は打ちひしがれていた。
呪いの剣を握ったまま。
ロイバパート→シユウパート→ロイバパート
に構成していこうとしたけど、長すぎて話を跨いだよ。
だから次回はロイバパートがあるよ。




