46.冷たい光
夜の町を徘徊する兵隊たちの謎について俺たち四人は戸惑っていた。
それで混乱する前に近くにあった家に入って情報を整理することにしたんだ。
にしても相変わらず家の中は殺風景だな。
「じゃあまずは、さっきのことからよ」
「ああ」
「変な盾を持った兵士が兵隊の中にいて、それを倒したら周りにいた兵隊が一斉に消えたことはわかってるわね?」
「そうですね、光を出していなくなりました」
だが消えたのは本当に周りにいた兵隊だけで、遠くには数えきれないほどの兵隊が行進していたな。
今もその不気味な足音が外から聞こえてくる。
「あの盾の兵士は何者なんだよ、ロイバは一回倒したことあるって言ってたよな?」
「そうだよ、壁の上にいたところを後ろから忍び寄って……こうやってスパッと!」
「そこはどうでもいいです」
さっきソフィが斬った盾の兵士も眩い光を放つ盾を持っていたし、壁の下から見えていた光はあの兵士の持つ盾が出しているものだったのか。
「そういえばあなたたちがそっちに行ったとき、兵隊がさっきと同じように消えたことがあったわね」
「どういうことですか?」
「ミアちゃん、僕でもわかるよ?」
煽られたミアはロイバを叩き始めた。
こいつら元気だな。
「つまり盾の兵士は複数いるってことか?」
「そうね」
「ちなみにそのうちの一人を倒したのは僕なんで―ぐぼっ!」
ミアが殴ってくれてよかったな。
もう少し遅かったらソフィの拳で瀕死になるところだっただろう。
「盾の兵士を倒すと兵隊が消える、そして盾の兵士は複数存在する。この二つがわかってやることが決まったわね。それは―」
「全員倒せば勝てるってことだね、姉貴!」
「……まぁそういうことね」
さっき倒して消えた兵隊が数十人だから、二十人くらい盾の兵士いる計算になるか。
厄介すぎるな。
「この特殊な現象を起こすのもシュロムの特徴だとして、あまりに多すぎるだろ」
「だけど倒すしかないわ。特別強いわけでもないし、見つけるだけでしょ」
「その一人を見つけた僕たちは凄いよね?」
さっきから主張が激しいな。
いつもよりもソフィにちょっかいかけるのは気の迷いか。
「そうだよね、僕たちは兵隊を動かしてるシュロムの一人を倒したんだよね?」
「そ、そうだな」
ロイバが倒したようなものだけど。
兵隊を指揮しているであろう敵を倒しているわけだよな。
あれ、これって……。
「なに?」
「いや、何か言うことあると思うけどな」
「そうだよね?」
俺たち三人は兵隊を指揮する敵を倒して、ソフィのところに戻ってきた。
ってことはさっき怒られたのはおかしいよな。
「なんなの?」
「もしかして覚えてないのか?」
「それはひどいよ、姉貴!」
これは日ごろの恨みを晴らすチャンスだ。
畳みかけるぞと俺とロイバは目を合わせる。
「俺たちは目的を果たして戻ってきたよな」
「そうだね、褒められるべきだよね」
「……?」
「何言ってるんですか?」
「おい」
ミア、お前もこっち側だろ。
ここでソフィにガツンと言ってやらなきゃ、この先さらに傲慢になるぞ。
「それよりも敵が増えてきてるわ、急ぐわよ」
「そうですね」
「お、おい!」
「褒めてよ!」
ソフィは逃げるように家を出ていった。
そこまでして嫌なのか。
だけど絶対後で謝らせてやるぞ。
俺はそう決心して、剣を握ってその後ろを追う。
屋根の上から見ても、広いはずの町が狭く思える。
兵隊の数もだいぶ増えているな。
この中に潜んでいる数十人の盾のシュロムを探して倒していくわけだ。
……なかなか大変だ。
「―遅いわ」
「そんな……こと……言われてもな」
二手にわかれて町を捜索することは予想できていた。
しかしなんでソフィとなんだよ。
何か走るのいつもより速いし。
「飛ぶのが下手なのわからない?」
「あ?」
「こうやって飛べばいいの」
軽やかに屋根と屋根の間を飛んだソフィ。
その隙間は決して狭くない。
ギリギリ届く距離だ。
「ほら、急がないと夜が明けるわ」
「くそ!」
これ以上罵られるのはまっぴらだ。
盾のシュロムをボコボコにしてやる。
そう思って飛んだら、軽く飛べた。
「いくわよ」
「ちょ!」
頑張った俺を見ていたはずなのにソフィはあっけなく、すぐに走り出した。
それも変わりない速さで。
どれだけ体力あるんだよ。
ついて行くので必死だから、盾のシュロムが現れても戦えないぞ。
いや、ソフィが一人で倒せるからどうでもいいか。
だったら俺もあっちに入れてもらえばよかった。
「うわ!」
やばい、つまずいた。
引っ張られるようにバランスを崩した体が地面に向かっていく。
すぐ下には兵隊共の鋭く長い槍が、このままじゃ突き刺さる。
「あれ?」
止まった。
槍が足元に触れそうになりがらも、屋根の上からソフィが俺の手を掴んでいた。
「気をつけなさい」
「だったらもう少しゆっくり走ってくれ―うおっ!?」
嘘だろ、片手で高く放り投げられたぞ。
空中からソフィの不機嫌な顔がよく見える。
「いってえ!」
背中が痛すぎる。
下手したら重傷だったぞ。
何考えてるんだこの女は。
「もたもたしてないで」
まったくもって無慈悲で冷徹なソフィ。
屋根の上じゃのたうち回ることもできないのに、さらに催促するとか本当にこの女は人間かよ。
さっきのことで怒ってるのはわかるが、あまりにも度が過ぎてるぞ今日は。
「……どうしてだよ」
「なにが?」
「なんで俺なんだよ?」
二手に分かれるときソフィは俺を選んだ。
ロイバが嫌なのはわかるが、でもそれならミアでいいだろ。
「消去法よ。ロイバは煩いし、ミアじゃ戦いにくい上に移動に時間がかかる。もちろん今も十分に遅すぎるけど」
「だったら一人でよかっただろ」
元々置いて行くつもりのようなものだ。
それなのに急かしてくるとか悪意の以外に何を感じるものがある。
いやあった、この背中の痛みだ。
「三人だと機動力が落ちるわ」
「だったら俺が―うわ!?」
「出たわね」
目も開けてられない光が俺とソフィにぶつかっている。
方向は北、距離はそこまでない。
あの狭い通りからだ。
「おい!」
「来なくていいわ!」
ソフィはさっきよりもさらに速いスピードで光のほうへ走っていった。
命令されるのはもう御免だ。
俺はさっきよりも急いでその後を追っていく。
盾のシュロムは一人でその暗い真っすぐな通りを逃げていっている。
その光っている盾のせいで見失うこともないぞ。
逃げる気ならその盾を捨てたらいいのにな。
「止まって」
「うわ!」
ソフィがこの屋根の斜面で急停止した。
もう少しで落ちるところだったぞ。
こっちはそんな急に止まれないということを理解してくれ。
「怪しいわ」
「え?」
飢えた獣のように追っていたソフィの口から出る言葉じゃないだろ。
てか早くしないと逃げられる。
「何が怪しいんだよ、見失うぞ!」
「待ちなさい!」
ソフィが腕を掴んで止めてきた。
俺は迷わずそれを振り払う。
「知らねえよ!」
そう吐き捨てて俺は盾のシュロムを追いかける。
さっきから命令ばかりでもうウンザリだ。
「!」
俺は剣を握りしめて屋根の上を走っていく。
後ろから聞こえる喧しい足音から逃れるように必死にあの敵のほうへ向かって行く。
幅のある屋根同士の隙間も、急な斜面も何もかも関係はない。
逃げられるくらいなら落ちた方がましだ。
「逃がさないぞ!」
盾のシュロムのすぐ上まで追いついた。
派手なだけで走るのは全然速くないみたいだな。
これなら飛び降りればすぐ斬れる。
「!」
止まった。
今なら斬れる。
絶対に仕留めてやるぞ。
俺は両手で剣を握って踏み込む。
「なに!?」
兵隊がいる。
そのことに気づいたのはすでに落下しているときだった。
そういえばさっきから奴は一人だった、いやでも、なんで、どこから現れた。
まずい、兵隊の奴らが槍を俺のほうに構えている。
避けられないぞ。
剣で軌道を曲げれる量でもないし、やばい。
「な!?」
横を何かが通っていった。
凄い速さで何かが落下していった。
影も見えなかったぞ。
「ぐぶはっああああ!」
「……」
その断末魔とともに強い光があたりを覆う。
あまりにも眩しかったけど、俺は目を瞑れない。
なぜかそれに目が離せなかった。
反射的に閉じていこうとする目を力づくでも開ける。
そう思っているうちに俺は地面に激突していた。
「……はぁ」
聞き飽きた溜息が耳に貼りつく。
やっぱりそうだったのか。
ソフィが倒したのか。
「怪我はない?」
「は?」
自然とその手は俺にさし伸ばされた。
この通りってこんなに明るかったのか。
「……ちょっと冷たくしすぎたわ。ごめんなさい」
「あ、ああ」
俺は戸惑いながらもその手を取って立ち上がる。
夜の凍てつく地面よりも温かい手が俺を冷静にさせた。
小さすぎるから見えないのかな。
それとも色がないからか。
黒くもなく透明なのだろう。
最近は憂鬱です。




