41.玉手箱
壁に囲まれた存在しない港町。
夜風を浴びながら、その壁の上をスキップする若い男がいる。
「ふぅー、なんとかなったねー」
姉貴から技を盗んでおいてよかったよ。
20メートルくらいの壁なら屋根の上から跳躍して簡単に上れたからね。
最初は無茶だと思ったけど、どうにかなったなぁ。
「見つけた」
下から見えていた輝く何かと人影。
こうやって壁の上にあがって近くで見つめてみると、僕の視力の良さが確認できるね。
やっぱりここには人がいた。
「でもおかしいなぁ」
弓を持っていないよ、彼は。
持っているのは変な盾だけ。
あれが輝いているんだね。
「まぁサクッといきますか」
ロイバは気配を消しままその盾の男に近づき、背後に回る。
そして短剣をその首元にあてた。
「さて、君は何者なんだい?」
「……。」
この人、状況がわかってるのかな。
命を握られてるのに堂々としてるね。
というかしすぎてる。
震え一つない。
まったく恐怖を感じないな。
「もう一度聞くよ、君は何者なんだい?」
「……。」
「うーん」
楽しくないな。
こっちは脅してるのに、こうも無反応じゃ物足りない。
「ほれ、ほれ」
「……。」
「ほら、ほら」
「……。」
手を切っても、肩を刺しても無反応。
痛がっている様子もない。
なんなんだろ、この人。
「うーん、じゃあもういいよ」
僕は諦めて盾の男の首を短剣で斬り、男はパタリと倒れた。
短剣には血がついている。
やっぱり人間だよね。
「うわ!」
死体が光って消えた。
血は残っているけど、死体も変な盾も光とともに消えていったよ。
本当は人間じゃなかったのかな。
「……まぁいいか」
とりあえず怪しい男を倒しておいたとシユウたちに報告しに行こう。
あれが矢のシュロムの可能性もあるし。
「矢のシュロム?」
そうだった、シユウとミアちゃんが矢のシュロムを引き付けてるんだった。
壁の上にいたのが矢のシュロムじゃなかったってことは、二人が危ないじゃん。
「いっそげ!」
若い男は壁の上を駆けていった。
今まで何回も死にかけてきたが、自分と同じ転生者に殺されそうになったことはなかった気がするな。
「カイネはやっぱりクソだねぇ」
そう言いながら目の前にいる男が振り下ろしている矢は俺の心臓を目掛けて進んでいく。
その振る舞いに一切躊躇がない。
もしかして俺が非転生者だと思っているのか。
「!」
俺はカムイから預かった重く小さい箱を転生者であるはずの男に突き出す。
それによって矢は俺の胸に触れる寸前で止まった。
「俺はお前と同じ転生者なんだよ!」
「……そうだったんだねぇ」
「そうだ、俺はお前の仲間だ。だから―」
「仲間だと?」
男の額に血管が浮き出る。
「お前みたいなのが……」
その手に握っていた矢が折れた。
「お前みたいなのが一番許せねぇ!」
男は拳を握りしめ、殴りかかってきた。
その拳は満身創痍の俺の顔面にぶつかっていく。
「待てよ!」
「うるさいねぇ!」
この男は俺と同じ転生者じゃないのか。
なんでこんなに激昂してるんだよ。
「っぶ!」
怒りにまみれた拳や蹴りが飛んでくる。
さっきまではすぐ殺そうとしてきたくせに、体中が痛い。
「シユウ!」
「邪魔しないでもらえるかなぁ!」
「!!」
こっちに走ってきたミアを肘で殴り飛しやがった。
こいつ正気じゃない。
「ありゃ、少し盛り上がりすぎちゃったかね―」
「よそ見してるな、クソ野郎!」
悶えるミアを笑う横顔に鈍重な箱を叩き上げる。
男は少し仰け反った。
「痛いなぁ……」
なんなんだこいつ。
頭から血が出ているのに笑ってやがる。
「うわ!」
男が掴みかかってきた。
息ができない。
「もういいや、トドメを刺してやるよぉ」
男は矢を取り出し、それを振りかぶった。
その面は狂人じみている。
「くそ!」
こんな奴を仲間だと思った俺が間違っていた。
明確な悪意を感じる。
今までとは違う、こんなに殺されるのが嫌なことはなかった。
こんなクソ野郎の思い通りになるのが嫌だ。
「無残に死にさらしなぁ!!」
矢が振り下ろされていく。
嫌なのにどうすることもできない。
ムカつく顔と消して揺るがない握力、迫ってくる矢をただ眺めているしかない。
だからなんだよ。
「もううんざりだ!!!」
俺はとっさに右手で握りしめていた箱を顔のすぐ前まで来ていた矢にぶつける。
矢は箱に突き刺さり、男の手は静止した。
「なんだぁ……?」
箱から白い光が。
眩しい。
それに、変な鳴き声みたいな音もする。
「!?」
さらに箱は光を放ち、一面が昼間のように明るくなった。
あまりの眩しさに何も見えない。
首が苦しくなくなったぞ。
光が消え、もとの夜に戻る。
「……?」
目に映ったのは、少し遠くで膝をついて震えている男だった。
何が起こったんだ。
あとなんか右手が重い。
「ん?」
なんだこの剣は。
変な模様が刀身にある。
どうして剣を持ってるんだ。
「シユウ!」
男は動けないようだ。
俺を睨んだまま動こうと悶えている。
何が起こったかわからないが、やることは一つだ。
この剣をあのクソ野郎に突き刺す。
「くそ!」
体中が重くて動かない。
歩くこともできないなんて。
奴の息の根を止められるのに。
「シユウ、無理しないでください」
「くそ……」
こっちにきたミアの回復の光が体を包んでいく。
回復してる場合じゃない。
早くしないと奴が動き出す。
「これはなんだぁ?」
ゆっくりではあるが奴が動き出している。
時間がない。
「ミア、早くしてくれ!」
「やってます!」
奴は弓を構えようとしているのか。
右手は矢を握ろうと動かしている。
「早く!」
「わかってます!」
だんだん奴の動きが速くなってきた。
すでに弦を引くところまできている。
もう少しで斬りかかれるのに。
「動きやすくなってきたなぁ……」
いやもう待ってられない、足が動かなくてもやってやる。
矢が飛んでくればどうせ死ぬ。
だったらやってやる。
「シユウ、待ってください!」
「うるさい!」
あの首を斬り飛ばしてやる。
今すぐ。
ミアを殴ったことを後悔させてやる。
「怖いねぇ……でもこっちのほうが少し早かったかなぁ?」
「っく!」
完全に弦を引き切り、矢先は俺に向いている。
それでニヤついてんのか。
だがもうこっちも体が軽くなってきたところだ。
「いくぞ!」
「っふ……甘いねぇ」
「!?」
足を踏み出す寸前、奴はやはり外道だった。
俺じゃなくて戦えないミアのほうに矢を向けやがったぞ。
「来るならきなよぉ!」
「クソ野郎が!」
矢は放たれた。
その汚い矢は真っすぐミアのほうへ向かって行く。
だがそれほどキレがない。
「本当にムカつくな」
「ちょっ―」
俺は迷うこともなくミアを押し倒す。
しかし矢はこっちに届くことなく、手前に落ちた。
やっぱりまだ十分に動けないから矢が飛ばなかったんだな。
すぐに立ち上がり、俺は剣を持って走る。
「今しかない!」
「引っかかってくれて助かったよぉ……」
奴は歩いた。
身体がゆっくりでなく、普通に動いている。
でも弓を引く前に斬ってやるぞ。
「残念でしたねぇ」
あと二歩で斬れる。
間に合わないと思ったから残念ということか。
「っふ……」
気持ちが悪い。
今から死ぬくせに笑いやがって。
「終わりだああああああ!」
「気が早いねぇ」
「!?」
俺は剣を振り下ろそうとクソ野郎を睨んでいた。
目の前に奴はいたはずだ。
なのに、いつの間にか俺は上を向いていた。
それは奴が俺より高いところにいるから。
「残念でしたねぇ!!」
奴の足元からコンクリートの四角い柱が生えてきた。
それで奴は上昇して行っている。
そんなのありかよ。
「シユウ! 危険です!」
「っ!」
奴は弓を引き始めている。
高所から矢を飛ばそうとしている。
くそ、せっかく追い詰めたのに。
「手加減はしないよぉ!」
すでに4メートルくらいの高さに奴はいる。
攻撃が届かない。
あと少しだったのに。
「シユウ!」
「痛い」
ミアが傷口にパンチしてきた。
何かしてくるのはわかってるけど。
「逃げますよ! 攻撃されます、危険です!」
攻撃されるだと。
狙撃手が自分の真下に矢を放てるわけがないだろ。
「……!」
ミアが俺の手を掴んで走り出す。
俺は手を引っ張られながら、はっきりと奴の真下を進んでいく矢を見つめていた。
急速に下に進んでいっている。
なんだよあの野郎、そんなこともできるのかよ。
「意表を突いたつもりだったんですけどねぇ」
ひとまず回復に専念するべきだと伝えてくるミアの手に無理やり引っ張られながら、あのクソ野郎、矢のシュロムから逃げていった。
タイトルが思いつかない~異世界転生ものの小説を書いてるけどタイトルが一番難しかった。




