40.鬼面のスナイパー
なんとか逃げ切ったか。
ここは町の南東の家の中。
ひとまず休もう。
「はぁ…はぁ…」
「ミアちゃん、大丈夫?」
ここらも静かで、あれだけいた兵隊も全然見かけない。
ソフィがかなり引き付けてくれているな。
あれから結構時間がたっているけど、あっちは大丈夫なんだろうか。
「それにしても殺風景だねぇ」
「ああ、そうだな」
家の中には家具一つないし、床はコンクリートだし、二階建ての高さの割には二階の床がないな。
まさしくハリボテだ。
「引っ越したのかもしれないね?」
「そんなわけないですよ」
バテていたミアの顔色が戻ってきた。
体力がないミアにはこうやって動き回るのはやっぱりしんどいよな。
「じゃあ、これからどうするか決めよう」
「そうだな」
ひとまず話を整理することにした。
俺たち三人は無数にいる兵隊を指揮しているシュロム(能力者)を探すために、北東のほうに行ったら壁の上から変な矢で迎撃された。
整理できても説明がつかないぞ。
「大変なことになりましたね」
「ああ、ほんとだよ」
完全にこっちを殺しに来ている。
奴らの目的はなんなんだ。
「シユウ、これからどうしたらいいと思うんだい?」
「……ソフィと合流する」
質問に答えるとロイバは驚いた。
「壁の上にシュロムがいるんだ、ソフィのほうも危険だろ?」
「なるほどね、ミアちゃんは?」
「私はあの壁の上にいる敵と戦うしかないと思います」
はっきりとミアはそう言った。
怖くないのか。
「ほほう、それはなぜだい?」
「ここで倒しておかないと危険だからです。後手に回ってしまいます」
「なるほどね……」
相手は遠距離から攻撃してくるタイプ。
放っておけば、さっきみたいにこっちの不意を突いてくるだろう。
でも、だからこそソフィと合流すべきだ。
「壁の上のシュロムがソフィのほうに行くかもしれないぞ、そうなったらソフィが危ないだろ」
「だからそうなる前に倒すんですよ」
「…………」
「決まったね。」
ミアは冷静だった。
そうだ、ミアの言う通りだ。
なんで俺はこんなにソフィのことを気にしてるんだよ。
「でもどうやって倒すかだよね」
「それなんですが、私に提案があります」
「おお、ミアちゃん!」
なんか今日のミアは冴えてるな。
こんなに積極的に話すミアを見たのは久々だ。
「私はあの矢がどこから来るか探知できます。」
「「え?」」
すっと出てきたその言葉に俺とロイバは驚き、口が開いた。
そういえばさっきもミアが俺に飛びかかってくれたおかげで、矢を避けられたんだっけ。
「では作戦を発表します!」
「お、おう」
自信満々にミアは作戦について話し始めた。
胸を張っていただけあって予想の斜め上の作戦だった。
というか不可能だと思う。
「それ、マジなのかい?」
「え? 嘘つく意味ありますか?」
平気な顔できるミアが俺は怖い。
やっぱり大した奴だよミアは。
「どうやって……壁の上に上るのさ、そんなことできないよ僕!」
「頑張ってください」
「あっはぁ~」
頭抱えるロイバへにっこり笑顔したミア。
この感じ、どっかの司教と似てるな。
「だが、それしかないぞ。ロイバ」
「わかってるけどさ~」
「ん?」
風切り音だ。
あの矢がこっちに向かってきている。
「お前が大声出すからだぞ!」
「そ、そんなー」
「来ます! ここからです!」
ミアが指さしたのはロイバの真下。
そこからロイバはこっそりと離れる。
「うわ、すごいね!」
ミアの言う通り、矢はそこから上に屋根を貫通して飛んで行った。
「また来ます」
「あれ、また僕の真下だ」
「大声出すから……」
同じように矢は飛んで行った。
よく見ると放物線の軌道だ。
恐らく普通の物体の落下とは逆向きの放物線だろうか。
「じゃあ、作戦開始だね!」
「あ、ああ」
「……ロイバ、下です」
「ありゃ」
大声立てない限りはこっちの位置はわからないらしい。
俺たちは忙しなく移動した。
さっきの家から路地を出て大通りに着いた。
あっちが海だからその逆か。
「ちょっと……待って……ください」
「大丈夫か?」
「大丈……夫……じゃないです」
ミアが息を切らして汗だくだ。
でも休んでいる時間はない。
「ミア、矢は来てるか?」
「矢……矢は……来てます!」
風切り音が聞こえた。
それもさっきよりも音が鋭い。
「どこだ!?」
「後ろです!」
俺が後ろを振り向いている間、風切り音は急激に迫ってきていた。
やばいぞこれ。
「うわ!」
小石で足首が。
「!?」
矢は俺の右肩を掠めて急速に空へ飛んで行った。
足を捻らなかったら死んでたな。
「シユウ、怪我無いで―」
「それよりも矢は?」
すでに風切り音が向かってきている。
壁の上の、矢のシュロムは完全にこっちに目をつけているな。
「矢はそこです!」
「また俺かよ!」
「あとそこ、そこもです!」
「な!?」
ミアが指さしたのは俺の真下と周辺二つ。
避けたところまで狙ってきているか。
だがミアの探知のおかげで命中することはないな……さっきみたいに油断しない限りは。
「よし、じゃあ行くぞ!」
「え、ええ!」
地面から飛んでくる矢を避けながら、大通りを海と逆の北に走っていく。
いろいろ納得いかないが、ミアの作戦を決行するほかないし、ロイバもすでに動いている。
「シユウ、止まってください!」
「え?」
「早く止まって!」
「わかっ―うわ!?」
目の前を矢が昇って行った。
あと少しで喰らうところだったぞ。
「ロイバ、早くしてくれよ」
矢は西の方向に飛んでいったから、矢のシュロムは東の壁の上。
ロイバが出て行ったのも東だったな。
幸運にもこの時間稼ぎはそこまで必要ないか。
「シユウ! 走ってください!」
「そうだった! うわ!」
背筋を矢がなぞっていった。
冷や冷やさせてくるな。
「ほら、止まってますよ!」
「わかってるって!」
さっきまでバテてたくせに。
再び走る。
ミアの作戦はシンプルなものだった。
矢の軌道がわかるミアとうるさい俺を囮にして、気配の消せるロイバが壁に上って矢のシュロムをやっつける。
確かにこの作戦は妥当と言えるものだろう。
だが注意点が一つある。
それはこっち側の体力だ。
特に俺の。
「はぁ……はぁ……シユウ、そこです」
「わかっ……た」
矢を避けることは簡単でも走り続けるのはキツイ。
しかも矢はすべて俺を狙ってきている。
危険にさらされてるの俺だけじゃねえか。
「止まっ…ちゃ…ダメなのか?」
「だめ……です、ロイバが近づいてるのがバレてしまいます」
矢のシュロムは音で俺の場所を当てているはずだ。
その繊細な攻撃はこっちに集中しているわけだから、こっちが静かになったらロイバの音がバレてしまうかもしれない。
「でも遅いな」
「何がです?」
「ロイバだよ」
これだけ引き付けているのに矢は一向に俺を狙ってきている。
早くしてくれないと持たないぞ。
「あれ?」
なんだ。
一瞬音がしたような。
聞き間違えか。
「シユウ!」
「な!?」
耳を澄ましながらミアを見ていた。
ミアは指差している。
でも俺はそれを信じられなかった。
「避けてください!」
「嘘だろ!」
矢はすでに視界にあった。
ミアの指差した通り、俺の右側に矢はあった。
地面からじゃなく、空中を矢は飛んできていた。
「!」
頭から地面に飛び込んでいって、空中で俺は通り過ぎていこうとする矢の横を睨んでいた。
矢はほとんど地面と平行に走っている。
わずかに上に向かっているか。
「いや、違う!」
おかしい、さっきまで俺は矢の横を見ていた。
それなのに今、矢はこっち向きだ。
矢は横にも回転していたのか。
「!!!」
矢は俺の左の空間を裂くように飛んで行った。
その凄まじい音で鼓膜が。
「―――!」
ミアが血相変えてこっちに走ってくる。
なんだ一体。
それよりも次の攻撃に備えないと。
「あれ?」
立てない。
左手が動かない。
痛い。
なんだこの痛み。
「!?」
左腕が抉れている。
矢が当たっていたのか。
「す―に治—ます!」
ミアが駆け寄ってきた。
俺の左腕に緑の光を纏わせている。
意識が消えそうだ。
「――ウ!」
あれ、なんだ。
目を開けていたのか。
「大丈夫ですか!」
「あ、ああ」
ようやく耳が聞こえてきた。
視界も明るくなっていく。
「シユウ!」
「大丈夫だって……」
周りが真っ赤だ。
よく生きてたな。
「あれ、立てない」
「まだ治ってないですよ!」
ほんとだ、まだ痛い。
意識もまだまだ朦朧だ。
「!」
風切り音。
めちゃくちゃ速い。
「ミア!」
ミアを突き飛ばす。
俺はその反動で転がり、矢はついさっきまで倒れていた真下から空に昇って行った。
完全にトドメの一撃だ。
「シユウ、大丈夫ですか!」
俺とミアの間には通りがある。
そんなに突き飛ばしてしまったのか。
「ミアこそ怪我無いか!」
今の攻撃、危なかった。
そうだ、攻撃はまだ続いている。
のんびり回復させてくれるわけがない。
なんとかフラフラになりながら俺は立ち上がる。
「すぐに治癒し直しますね」
ミアが再びこっちに走ってくる。
確かにのんびりとはいかないが、治さないと避けれる気がしない。
まずは回復を。
「止まれ!」
俺とミアの間を切り裂くように矢が真っすぐ通り抜けていった。
あれは俺を狙ったものではない。
しかも矢は上に昇っていなかったぞ。
「しぶとすぎだねぇ……」
「!?」
通りから堂々とした足音が。
嘘だろ。
そんなばかな。
「だけどもう逃げられないよねぇ?」
変な形をした弓を持つ男が俺とミアの目の前に現れた。
どういうことだ。
壁の上にいるんじゃないのか。
「そんなに驚くことはないねぇ……むしろ10mまで近づいて来てたのに気づかないロアマトの探知能力のほうが驚くよなぁ」
男は堅苦しい顔のまま右手に矢を持って、俺のほうに近づいてくる。
やばい、俺は武器持ってないぞ。
そうでなくてもボロボロなのに。
「とりあえず、邪魔者は去ってもらおうかねぇ。」
男はその矢を俺に向かって突き刺す。
その間だけ男の目は見開き、鬼のようだった。
昨日は寒かった。
でも今日はそこまで寒くなかった。
明日はまた寒そうだ。
次回、ついにあの人があれをします。




