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ノエル・ファンタジー  作者: 霜惣吹翠
【第一章】レイロンド大陸へ
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38.シュロム事件

暗い紺色の海には冷たい風が吹いていた。

それと同じ方向を船はシユウらを乗せて淡々と進んでいく。

「それ本当なのさ?」

「だから嘘つく意味がないだろ」

無人島で起こったことをロイバに説明して何回目だろう。

全く信じてくれない。

「だって僕、その美しい女の人なんて見てないよ?」

「でもそいつは石化させることができるんだよ!」

「その手に持ってる棒状の石のこと? 嘘っぽいなぁ」

嘘をつく理由がないと何度言えばわかる。

さっきまで石になってたんだよ。

俺だって信じられはしないけど、一回死んだんだよ。

「生きてるじゃん?」

「気づいたら石じゃなくなってたんだよ」

「うーん?」

なんで元に戻ったのかわからないし、あの女がどこに行ったのかも不明だ。

あれから現れることはなく、構う必要なんてないから無人島を出てしまったけど。

一体何だったんだ、あの女は。

「ミアちゃん、どう思う?」

「……私はいると思います」

「ミアちゃんもそっち側!?」

そういえばミアはこの話をしても驚くこともなかったな。

もしかしてミアも石に・・・?

まぁどうでもいいか。

「そのことについて確認しなきゃいけないのだけど」

殺風景で静かな海に大きな足音が鳴り響く。

船内から上がってきたソフィが手に持っている紙を俺たちに見せつけた。

「ん?」

「おおー」

「すごいです!」

紙には絵が描かれており、それは石の女の似顔絵だった。

割と絵が上手だ。

「絵のことはどうでもいいでしょ」

「照れてんですか姉貴?」

「・・・」

「あーこの人がシユウの言ってた美女かなー?」

ロイバは相変わらず剽軽だな。

「それで何の話だ?」

「ええ、確認したいのはこの女のこと」

なんかソフィの面が暗い。

あの女の石化がそんなに嫌だったのか。

「この女は、誰かに頼まれて私たちを殺しに来ていたわ。」

「え、僕も?」

「エースってやつが頼んだんじゃないのか?」

この前だってミアがいるのに殺す気で雷を落としてきた聖騎士。

あの執念深さを考えるとありえると思った。

「それはないと思うわ」

「なんでだ?」

「石化の魔法なんて魔術師が扱うようなもので、ロアマトの騎士は使えませんから。」

ドヤ顔しながら説明したミア。

なんでロアマトだと使えないんだ。

「じゃあだれなんだろう?」

「それは見当がつかない、だけど一つわかったことがあるわ」

「……?」

冷たい風が止む。

「あの女は強い光で目の前の敵を石化させることができた。こんなの魔法の領域外だと

思うわ。」

「ちょっと待てよ、それってもしかしてさ?」

「ええ、あの女はシュロム。超越的な能力者よ。」

超越的な能力者。

この世界にも超能力者はいる。

生まれながら魔法を使えるというやつだ。

でもソフィが言っているのは違うみたいで、魔法を超えたものをもつ人間のことを示しているらしい。

「だけど、シュロムってなんだよ」

「……」

自然と出てきた俺の一言に場は凍りついた。

別に悪いことを言ってないよな。

「あなた知らないの?」

ソフィの鋭い目つきが刺さる。

嫌な感じがする。

知っていて当然なのか。

「……今から6年前のことです。シュロムと名乗る5人が―」

「話さなくていいわ」

殺気だったソフィがミアを黙らす。

とてもこの空気に耐えられない。

「……ちょっと休む」

あまりの寒さに体の震えが止まらなくなり、俺は船の中へ逃げた。

あのままソフィといたら何か取り返しがつかなくなるような気がしてすごく怖かった。


今までの航海の中でもこの夜は最も船が揺れていない。

なのに窓の外を見れば、ただ進み続けていて違和感がある。

遠くにある島々が離れて行ったり、近づいていったりして。

「なに黄昏てんのさ?」

「うわ!?」

一体いつから横にいたんだ。

「なんだよ、休ませてくれないのか?」

「まぁそんなに怒らないでいいよ」

怒っていなかったのだが、今の笑みで髪が逆立ちそうだ。

さっさとどっか行ってほしい。

「姉貴もひどいことするよね」

「あ、ああ?」

「確かにあの事件のことを知らないシユウも大概だけど」

あの事件。

これでも俺は半年この世界で生き延びてきたはずなのに、そんなに有名ならなぜ聞いたこともなかったのだろう。

「でもシユウは知っておくべきだよ」

「教えてくれ」

そう願うとロイバはゆっくりと口を開けた。

「あれは今から10年前、教都マークスでシュロムと名乗る4人組が虐殺をしたんだよ。」

「……虐殺?」

ロイバは俺の顔をじっくり見た後に続けた。

「ああ、シュロムっていうのはその四人組の総称で、全員が超越的な能力を持っていたからそういうやつをシュロムって呼ぶようになったわけだね」

「―なんでそんなことをしたんだ?」

「わからないよ。だけど彼らは不思議なことを言ってたみたいで、テンセエシャがどうしただとか」

やっぱりそうだったのか。

そのシュロムは転生者だったんだ。

転生者がテロを起こしたってことだったのか。

「どうしたんだい、そんな怖い顔して?」

「いや、なんでも」

俺は自然とそっぽを向いた。

なんでかわかっているけど、信じたくない。

「……シュロムのことを思い出したくない人も多いし、だからシユウは知らなかったんだろうね」

なんでシュロムは虐殺なんてしたんだ。

いや、あっちの奴らがそういうことにしておいたんじゃないのか。

あいつらは転生者を殺していくんだ。

だったらシュロムは正当な攻撃にならないのか。

「ロイバ、本当にシュロムは悪い奴だったのか?」

「え?」

「―本当に悪かったのはマークスのほうじゃないのか?」

「……本気で言ってるのかい?」

ロイバのしかめっ面が俺の胸の奥を締めてきた。

どうしてそんな顔をするんだよ。

「!?」

突然船が大きく揺れた。

立っていられるのがやっとだ。

「外見てくる」

真面目な顔したロイバは甲板に上がっていく。

俺も休んでいるわけにはいかない。

一大事なら急がないと。


甲板を出たと同時に起こった爆発の音に耳を塞いだ。

だが音の方向を見て爆発しているわけではなく、波が激しくぶつかり合っていたのだとわかった。

「なにがあったのさ?」

「わからない、いきなり波が変わったわ!」

「そんな馬鹿な」

嵐の中にいるわけでもなく、雨が降っているわけでもないのに波がかなり激しい。

超常現象なのか、これは。

「うわ!」

手伝おうと思ってきたけど、こんなに揺れたら船に掴まっているのでやっとだ。

今までで乗ってきた中で最も揺れてるぞ。

「……」

ミアが帆柱に掴まりながら涼しい顔してどこかを見つめている。

なにをそんなに。

「ん?」

その方向には高い塔のようなものがあるぞ。

もしかして灯台なのか。

「ロイバ! あっちに灯台みたいのがあるぞ!」

「いや、あれ港町だよ!」

「港町?」

もう一度見ると、確かにいくつかの建物があった。

港だったのか。

「うわ!」

船が大きく揺れる。

港があるからってなんだよ。

結局掴まってるしかない。

「あれ?」

「……引き込まれているわ」

港がどんどん近づいてきている。

というか波が港のほうへ押していっているぞ。

「みんな、船に掴まって!」

皮肉にも元船長ことロイバの命令通りにしているしかない。

「うわ!」

「……」

「シユウ見てよ! ミアちゃん気絶してる!」

「それどころじゃないって!」

強い衝撃が船を大きく揺らした。

分厚い壁だ。

港町の壁に船がぶつかったのか。

「落ち着いてきたみたいだね」

「……そうね」

「ん?」

はっきりと港町が見える。

さっきは全然わからなかったのに。

そんなに移動したっけ。

「ほらミアちゃん、起きなよ~」

ロイバが帆柱に掴まっているミアを揺らしている。

ミアは固まったままで船も揺れるから、ミアは船になってしまったか。

「っは!」

「起きたね」

「え!?」

船が波止場にぶつかり、また気絶するんじゃないかというミアの勢いある驚愕が静かな港に響き渡った。

驚くのも無理はない。

いきなり町が目の前に現れたようなものだからな。

「え?」

ミアの驚愕の意味を知って俺は困惑した。

「海には戻れないようね、早くしないと囲まれるわよ」

「相変わらず姉貴は冷静だね」

数えきれないほどの兵隊がこっちに行進してきている。

しかもさっきまで船で通ってきた道がない。

後ろにあるのは大きすぎる壁だけだ。

「波止場を塞がれる前に逃げるよ!」

「そ、そうですね」

驚くのも無理になってきた。

そんな時間はないからだ。

―四人は波止場を真っすぐ走っていく。



ミアのセリフ少なくなかったな。


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