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ノエル・ファンタジー  作者: 霜惣吹翠
【第一章】レイロンド大陸へ
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34.酔えない船上

甲板には夜中にもかかわらず、威勢の良い海賊たちが武器を掲げていた。

そのほとんどの刃は月光を綺麗に反射して輝いている。

だからこそ錆びついたその大きな曲剣は目立っていたのだった。

「お前ら、この船から何が聞こえる? 唸りか叫びか悲鳴か? いや違う、我ら海賊の気高い鼓動と血の走りだけだ!」

海賊たちの雄たけびが海に響く。

「俺たちこそが海賊だ!海を統べるものだ!すべてを手に入れるものだ!」

彼らの熱気が波を起こす。

「ここで宣言する!俺、スパイクがこのテイラール三番船の船長だ!皆よ、俺についてこい!」

海賊たちの歓喜の叫びは静かな夜の海に荒波を立て、嵐を呼び、さらには海を越えて向こうの大陸まで伝わるほどであった。

「盛り上がってるな、海賊たち」

「その方が助かるわ」

甲板につながる階段の前から俺とソフィ、ミアは様子を伺っていた。

あの感じなら簡単に逃げ出せそうだ。

「いい、合図があったら走るから私の後ろをついてきて」

「わかりました」

小船は甲板の前のほうにあり、あいつらは甲板の後ろで騒いでいる。

俺たちはあいつらのすぐ前にある階段の下だ。

「でもなんか引っかかるな・・・」

甲板では海賊たちが声を上げながら武器を掲げ、勝利に酔いしれていた。

「船長はロイバではない!俺、スパイクだ!」

「「スパイク!スパイク!」」

大勢の海賊がその名を叫んでいる。

「ロイバは腰抜けだ!」

「「腰抜け!腰抜け!」」

「さぁ!今から祝杯を挙げるぞ!酒だ!酒をもってこい!」

「・・・」

「酒ってどこだっけ?」

勢いが止まった。

「おい!酒はどこだ!酒だ!」

「酒って、この前の嵐で無くなったっけ?」

「おい!酒はねえのか!」

顔を真っ赤にしてスパイクは手下に怒鳴るが、手下たちもお手上げだった。

「船長!酒はこの前の嵐で飛ばされました!」

「ああ!あるだろほんとは!ねえのか?」

最高に熱狂していた船の上も夜の寒さに若干冷めてきていた。

「海賊といえば、酒と宴会だよな・・・」

「でも次の街行くまで飲めねえもんな」

「まぁ困りはしねえけど、しまらないよなぁ・・・」

海賊たちは久々の宴会を楽しみにしていた半面、酒のない生活にも慣れていたため酒がないことをすっかり忘れていた。

「今いけそうじゃないか?」

「まだ。」

「シユウ、合図を待ちましょう。」

合図か。

正直、ロイバのこと信用できないんだけどな。

てかソフィも耳を澄まして上の様子伺ってるし、合図なんてなくてもソフィなら出るタイミングわかるだろ。

・・・そういうことか。

疑問がわかるとともに解決した。

「あの、合図ってどんなのなんですか?」

「・・・」

「ソフィ?」

いくら待っても酒が来ないからかスパイクの顔は真っ赤になっていた。

「なんだよ!酒がねえなんてよ!くそ!」

そしてスパイクは体全体を使ってその怒りと不満を表した。

それによって船が揺れるほどである。

「ん?」

そのスパイクの左手が硬い何かにぶつかる。

スパイクがそこに目を向けるとそれは酒瓶であった。

「船長、酒をお持ちしました。」

「おお、あるじゃねえか!」

スパイクはすぐに酒の名前を確認しながらそれを手に取り、コルクを素手で開けた。

「よし、野郎ども!祝杯だ!」

「「おおおおおおおおおおお!」」

海賊たちの熱い叫びを聞きながら、スパイクは瓶に口をつける。

「・・・合図はあいつに任した」

「大丈夫か?それ」

「どういう意味?」

「だってあいつ、頭おかしい奴だぞ。」

最高の気分で酒を飲み干そうとしていたスパイクであったが、しかしその喉仏が動くことはなかった。

それに思わず、すぐに瓶を揺らし、穴から中を覗いた。

「!?」

「空じゃねえか!どうなってんだ!」

そういった後、酒を渡してきた誰かに怒鳴ろうとして左を向く。

しかしそこには誰もいない。

「ああ?」

「こっちだよ」

「ああ?」

スパイクはその声の聞こえた右を振り向く。

「いくわよ!急いで!」

「え!?」

「まじか!」

そこにはニコニコしているロイバがいた。

しかもそれに驚いていたせいで、ロイバがオール振りかぶっていることに気づくのが遅れていた。

「さよなら~」

「ロイバァアアアア!」

最高の笑顔とともにオールはスパイクの顔面を殴り、その勢いのままおもいきり海に飛び込んだ。

あまりの光景に海賊たちもあっけにとられていた。

「やぁ、みんな元気だね。それじゃあ!」

ロイバはそう言って海賊たちの真上を飛んで、そこから離れるように甲板を走っていった。

「・・・ロイバだあああああああ!殺せええええええええ!」

それを見てからしばらくして海賊たちはその背中を追いかけていった。


まさか、まさかか。

ソフィが怒鳴ってからすぐに甲板に出て走ったが、遅かった。

後ろから聞こえる海賊たちの荒い足音が大きい。

それと嫌な気配もすぐ後ろに。

「おい、お前なにしてんだよ!」

「なにって・・・見ての通りだけど?」

「ふざけんなって!」

「だってシユウたち、僕を置いて行くつもりだったでしょ?」

「そんな馬鹿と話してないで、急ぎなさい!」

本当ならもっと楽に脱出できたのに。

てかロイバがあんなことしなかったらこっそりと小船までいけたぞ。

「ああ、最悪だわ!」

「そんなこと言わなくても、少し可哀そうですよ」

「お、ミアちゃんはいい子だね!あとで宝石あげるよ!」

必死にこっちは走っているのに、あのアホは息切れ一つなく余裕気にミアと雑談していやがる。

もっと速く走れるなら先に小船を下ろしてきてほしい・・・やっぱだめだ。

「宝石はルビーとエメラルドとサファイアとか何がいい?」

「え、ええっと・・・」

「それともダイアモンド?金のペンダント?」

「おい、逃げるのに集中しろ!」

「それか足止めでもしなさい!」

「まったく、お二人さんには一つも宝やらないぞ?」

「冗談言ってる場合か!」

走りながら話すせいで余計に疲れる。

まったく最悪だ。

「止まって!」

「え!?」

ソフィが急に止まり、俺たちも足を止めた。

「姉貴、どうしたんだい?」

後ろには何十人もの刃物持った暴漢がいるのに、前から何か来るのか。

「!?」

瞬きで瞼を閉じて開けたら、前には確かに誰もいなかったのに、そこにはスパイクがいた。

その服から垂れた水滴が船に響いて、足元を揺らしてくる。

「ロイバ・・・見つけたぞ・・・」

「あれ?なんで?海に落としたはずだけど?」

その水滴が蒸発するほどの怒りが伝わってくる。

ロイバは相当やらかしていたに違いない。

「ソフィ、囲まれてます!」

海賊たちの息がすぐ後ろから聞こえる。

追いついかれてしまった、やばいぞ。

「戦うしかないわ。」

すでに大きな曲剣を構えているスパイトを目の前にソフィも戦闘態勢に入った。

形だけでしかないが、俺も剣を構える。

「退け女、お前には用はない。」

「じゃあ逃がしてくれる?」

「そのクソ野郎を差し出したらな。」

このスパイクとかいう海賊の船長、話がわかるのではないか。

「わかった、このアホを差し出すわ」

「いいだろう」

わかってはいたが、かなりすぐにソフィは応じた。

「ちょっと待ってよ!」

「待たない。」

俺はアホの背中を賢者のほうに押し続ける。

結構力込めてるのに、このアホ動かないぞ。

「見殺しにするなんてひどすぎます!」

「ミアちゃん!」

気持ちはまったくわからないが、それどころではない。

「おい、このままじゃ全滅だぞ!」

「でもそんなひどいことできないです!」

どこまでミアはお人好しなんだ。

こうなったのもすべてロイバのせいなのに。

「・・・もういい、野郎ども!全員殺せ!」

「「おおおおおおお!」」

海賊どもは雄たけびとともに船を揺らし、全方向から俺たちのほうに襲い掛かってきた。

「くそ、責任とれよクソ野郎!」

「・・・」

「おい!」

こんなことになるなら組織に入るんじゃなかった。

海の上で死んで魚のえさにされるくらいなら、処刑されてしっかり埋葬されるほうがよかった。

「やるしかないわ」

「くそ!」

「・・・」

許せない。

俺とソフィ、ミアは汗が冷えるくらい焦っているのに、あのアホは目を瞑って知らん顔だ。

死を受け入れるのに俺たちを巻き込むな。

「しゃがんで!」

すぐそこまで凶器が迫ってきてソフィが俺たちに指示した。

俺とミアは言われた通り屈んだ。

「・・・」

「おい!」

ロイバは目を閉じたまま突っ立っている。

とことん死ぬ気かよ。

「斬るわよ!」

「・・・」

ソフィの警告も無視してロイバは突っ立っている。

どうせ死ぬなら俺たちを助けてくれてもよかっただろ。

俺も目を閉じた。

「最低だわ!」

ソフィは剣を振ったようだ。

でも俺の体は動かない、間に合わなかったのか。

いや違う、死んだときの感触とは違う。

俺は目を開けた。

「あれ?」

「ぎりぎりだったね、ふぅ~」

「・・・」

「何が起こったんですか?」

困惑している海賊たちが後ろにいる。

この感覚はやっぱりロイバの変な術のせいだったか。

にしてもどういう仕組みなんだ。

「すごいでしょ? これは僕が7歳のときに習得した技なんだけど・・・」

「いたぞ!」

海賊たちがこっちに気づいた。

「逃げるわよ!」

「は、はい!」

「ちょ、ちょっと!褒めるところだよ!」

再び甲板の後ろ、小船がぶら下がっているところを目指して走る。

距離はあと数十メートルくらいだ。

俺たちは必死に追いかけてくる海賊から逃げて船を駆けていく。


本当にこの海賊船はデカすぎる。

ここまでくるのにどれだけ苦労させられたことか。

ようやっと小船まで着いた。

「あなたたちは船を下ろして、私が時間を稼ぐから。」

「わ、わかった」

迫ってきている海賊たちのほうへソフィは向かっていった。

ソフィならあいつらを全滅させることもできそうだが、あのスパイクと戦うってなると、さすがに厳しいみたいだ。

早く船の準備を済ませよう。

「ってどうやってやるんだ?」

「私もわからないです」

向こうが騒がしくなってきた。

ソフィは相変わらず容赦がないな。

「あっちばかり見てないでください!」

「そ、そうだった。」

小船は太いロープによってぶら下げられている。

これを斬れば小船は落ちるよな。

「ちょっと、なにしてるのさ」

「え?」

いつの間にか後ろにいたロイバが俺の手を引っ張り、ロープに剣の刃が触れないように止めてきた。

「それじゃあ小船が壊れちゃうよ。あそこにハンドルがあるでしょ、あれを回して。」

「あ、ああ」

ロイバの真面目な助言の通りに俺はハンドルを回していく。

初めてロイバがいてよかった気がする。

「ミアちゃんは小船乗ってて」

「は、はい」

ミアを乗せた小船が下がっていく。

俺はソフィの戦う姿を見ながらハンドルを回し続けた。

「ほら、もっと早く回しなよ」

「わかってるって」

それでもこの退屈な作業に耐え切れないから、敵を簡単になぎ倒していくソフィを目が行ってしまう。

「あの様子だからって油断しないでよ。」

「わかったって、うるさいな」

そんなに横から文句言ってくるならロイバが回せばいいだろうに。

なんでミアは小船に乗っけられて、俺はダメなんだ。

それに船を下ろしても帆を張ってもないし、ロイバも乗っていけばいいのに。

「おい、何してる?」

「まじかよ」

声はかつてないほどの怒りと憎しみが宿っていた。

さっきからどこにいるのかと疑問ではあったが、一体いつからそこにいたのか。

スパイクは俺たちの後ろに堂々と立っている。

「ほら姉貴ばかり見てるから、まずいことになっちゃったよ」

「どうするんだよ?」

「・・・」

ロイバは黙って目を閉じた。

「おい、嘘だろ?」

まだ戦っているソフィを置いて逃げるつもりか。

いや、逃げ切れるわけがない。

準備がまだできてないんだ。

「やっぱりこれしかないか」

ロイバは両手を上に向けてスパイクのほうへ歩いていく。

「ほう、潔いな」

「なにしてんだよ!」

大曲剣を握りしめ、大きく振りかぶっていくスパイクにロイバは真っすぐ向かっていく。

何考えているのかわけがわからない。

「シユウは早く小船に乗りなよ。」

「おいおい・・・!」

肩に染みていく生暖かさ。

血まみれのソフィが俺の肩を掴んでいた。

「迷っている暇はないわ、そこのロープから船に降りなさい。船に降りたらロープ斬って、帆を張って逃げなさい。」

凍てつくような声と鋭い眼光に体が震える。

しかもソフィの後ろには死体の山が見えていた。

「わかったよ!」

ロープに掴まって下りていく。

手に擦れる綱がトゲトゲして痛い。

いつものソフィならこんやつ倒せるはずなのに、なんでそんなに険しい顔してんだよ。

この男がそんなに強いのか。

「どうしたんですか?」

「・・・」

「っえ?」

困惑しているミアを無視して剣を抜き、刃でロープを鋸みたいに擦る。

「何してるんですか、ソフィは?」

「いいから黙ってろ!」

クソ、このロープ全然切れないぞ。

丈夫すぎるだろ。

「・・・くそ!」

それでも必死に剣を振る。

ロープはじりじりと細くなっていった。

切れていく振動が伝わってくる。

あと少しだ。

「・・・」

後一振りでロープが切れるくらいになって、シユウは手を止める。

ゆっくり上を向いた後、その震える手で剣を握りしめた。

そして振りかぶった。

「うわ!」

小船はシユウを待たずして落下し、海面を大きく揺らす。

その振動でシユウの剣は放り出され、海に落ちた。

しばらく剣が海の中を沈んでいくのを見ていたシユウであったが、それが見えなくなると船の帆を張っていった。


次回で海賊編終わりです。

なかなか長くなってしまったか。


あれ、チョコがたくさんあるような。

あれ、夢か。

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