33.宝の持ち腐れ
波が穏やかな夜の大海原。
島くらいの大きさの船が真っすぐ進んでいる。
船が通った場所から出る波は大きくはなかったが、人の感覚からすれば大音量だと言えるだろう。
「ロイバはどこだ!」
「一階にはいなかった!」
「じゃあ三階か?」
「いくぞ!」
海賊の荒い息と足音、曲がった剣が廊下を走っていく。
船は海賊船、消して陽気なところではなくなっていた。
「いったようだね」
「あ、ああ」
「殺気がすごかったぞ。お前、どれだけ恨まれてるんだよ。」
「別に悪いことしてないけど」
「それが原因だな」
海賊船の船長なのに悪いことをしない、荒くれものたちは我慢の限界だったんだ。
「そろそろ行くよ」
「あ、ああ」
ここは船の一番下から一つ上の階、言い方を変えると二階だ。
この廊下には足の踏み場がないほど倒れている人がいる。
半分以上は致命傷のようだ。
「宝物庫は一階だから階段は・・・あっちか」
「自分の船だろ」
俺とロイバは今、海賊船の宝物庫に向かっている。
というかロイバだけがだが。
「いや、こっちだっけ?」
「・・・」
別に俺は宝が欲しいわけじゃない、ただロイバについて行っているだけだ。
どこからも呻きと叫びと唸り声が聞こえてくるこの船で一人きりじゃ怖すぎる。
「あれ、どっちだっけ?」
「いい加減にしろ、あっちだろ!」
「そうだっけ、いくよー」
俺はロイバの肩を押して、方向を示した。
自分の船なのに道が分からないとか船長向いてないだろ。
この海賊船はテイラール海賊団の三番隊と四番隊が乗っている。
今、その三番隊と四番隊が争っている状況だ。
四番隊が狙っているのはロイバ。
三番隊の隊長でこの船の船長のロイバ。
反乱が起きて命が狙われているのにもかかわらず、ウキウキしながら廊下をスキップしているロイバ。
つまり俺の目の前にいる頭のイっているようにしか思えないロイバだ。
「シユウ、そんなに怖がらなくて大丈夫だって。ここは僕の船なんだよ、大船に乗ったつもりでいいんだよ?」
「ははは」
“大船に乗ったつもり“の意味って嘘だと実感している。
そんなロイバの背中のせいでシユウは不安を超えて騒がしい廊下を冷静に歩いていた。
「シユウ、こっち」
「え、ええ?」
ロイバがいきなりすぐ近くの部屋に入り、俺を手招いた。
またしょうもないことをするのかと思いつつ、部屋に入る。
「ここにもいないかよ!」
「見つけたら昇格だぞ!」
俺たちが歩いていた後ろの廊下から二人の男の声が聞こえてきた。
「でも臆病者を見つけるだけで昇格とかある意味がっかりだな」
「なんでだ?」
少し遠くから声が届いてきている。
「だって俺の強さがそれじゃあわかんないだろ」
「なるほど、かくれんぼだからってか」
声が近づいてきた。
「でもまぁ三番隊ってそんなんだったろ?」
「おいおい、俺のことを悪く言おうってか?」
だんだん声は離れていく。
「だったら早く見つけろってな」
「ああ、見つけ出してこの苛立ちをぶつけてやるぜ!」
もうあっちへ行ったようだ。
何気に肝が冷えたな。
「・・・おい?」
「え、ああ、いこうか」
ロイバが廊下に出てから俺も出る。
そして歩いていく。
暴動が起きてから一時間くらい経ったか。
二階のほうからは死体ばかりで人影が無くなってきている。
上からの声や足音は沢山聞こえるが、叫び声も金属音も聞こえないようになった。
「ほら、階段がすぐそこだよ」
「そうだな」
「元気ないね、二人が心配かい?」
「そんなことはない」
「シユウは嘘が下手だね」
廊下をたまに下向いてた奴が言うな。
「うわゎ・・・」
階段の下、一階から不自然に途切れた断末魔が耳に入ってきた。
すぐに俺は階段を走って下りていく。
ロイバのニヤけた横顔に一瞬、イラついたがそれどころではない。
「!?」
一階に足付けた瞬間、鋭い殺気に足が止まる。
そして喉に冷たくて尖っている刃に気づく。
でもそれで逆に俺は安心できた。
「・・・」
ソフィは驚いた顔して剣を下げ、鞘にしまった。
でもすぐに嫌な表情に変わり、剣を抜いた。
「なんだよ、僕は邪魔?」
ロイバは怖い面貌しているソフィに対して簡単に話しかける。
その剣先はまっすぐロイバに向けられている。
「あなた、何しに来たの?」
「おー、すごいね」
こんなに緊迫しているのに、ロイバはその刃をひとさし指で横に押してソフィを無視し、奥へ歩いて行った。
あまりの予想外からか、ソフィもロイバがいなくなっているのにそこへ剣を向けたままだ。
「ミアは?」
「・・・病室にいる」
「!?」
シユウがすぐに廊下を駆け走り、ゆっくり歩いているロイバを吹き飛ばしていく。
それを見てソフィは剣をしまった。
あれだけ騒々しかった船の一階は波音が聞こえるほど静かだった。
だからその泣き声がすぐに止んでしまったんだ。
病室の入り口からはいくつか倒れている人が見えるが、だれも動いていない。
やっぱりすでに亡くなってしまっているのか。
「ミア・・・」
床に座っているミアの背中が廊下から照らされていた。
その様子に正直俺はホッとした反面で、少しの心の絡まりを感じている。
「今はそっとしておいてあげて」
「・・・わかってる」
ソフィに言われて俺は廊下に出る。
そのまま窓に向かってから海を見ていた。
さっきまでと同じ海のようにしか思えない、だから後ろから伝わる悲しさの意味が少しわかった気がする。
もしかしたらミアはすでにこのことも夢に見ていたのか。
「ねえ、そこから右をよく見てみて」
「え?」
すっきりとしたソフィの声は俺の首を右に向けさせた。
あるのは碇だけだ。
「怒ってるってことか?」
「何言ってるの、そこじゃなくてほら」
ソフィが指をさす。
それは碇の先をさしており、そこには小さい船がぶら下がっていた。
「わかった?」
「わかるけど・・・」
見えるのは小さい船だけじゃない、その近くを武器持ったまま歩き回っている海賊たちもだ。
「嫌なら置いていくだけだわ」
「そうじゃない、どうやってあそこまで行くんだ?」
甲板には敵が固まっている。
だから小船まで行くのも難しいし、仮にたどり着いたとしても逃げ切れるかどうか。
「私が引きつけている間にあなたが小船を下げてすぐに出られるようにしておいて、もちろんミアも乗せてね。」
「わかった」
「なるほど、いい作戦だね」
「!」
後ろから気持ちの悪い声が。
いつの間に背後にいたんだこいつは。
「でもそれは無理だと思うよ、スパイトが小船から目を離すわけないし。」
デカい風呂敷を担いでいるロイバがニッコリしながら宣う。
異世界にも風呂敷をそんな風に使うやついたのか、てかあっちでも見たことないけど。
「それなら大丈夫よ、あなたが手を貸してくれればどうにかなるから」
「おっと、協力するとは言ってないよ?」
「じゃあ一緒に死ぬだけだわ」
「・・・わかったよ、協力するよ」
ソフィは嫌そうにロイバに協力を促し、ロイバはふてくされながら了承した。
本当に嫌そうだけど、それしかない。
「お前、猫みたいだな」
「え、どこが?」
宝を抱えるロイバは小判を手に持っていた。
ちゅーるとか上げたらガブガブ食べそうだな。
「じゃあ、もう少ししたら突っ込むから休憩しといて」
「わかりましたー、姉貴ー!」
ロイバの元気な返事にギラリと睨んだ後、ソフィは階段のほうへ歩いて行く。
あんなに怖い顔されたのに、それでもロイバは笑っていた。
ロイバ中心のお話が続くよ。
実はロイバは初期案には居なかったけど、追加したキャラです。




