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ノエル・ファンタジー  作者: 霜惣吹翠
【第一章】レイロンド大陸へ
34/130

32.角部屋に一人

窓から静かに沈む夕陽が見える。もう5時くらいか。

ロイバの話は結局掃除してこいってだけだった。

だいぶこの廊下も綺麗になってきたし、もうそろそろやめてもいいのか。

割とサボらずやっている俺は偉いな。

「ちょっとくらい汚しとくか?」

誰も見てないしな。何してもいいということだ。

「それにしても静かだな。」

ここはあまり使われない一番下の廊下、あるのは牢屋と病室くらいだ。

この孤独感が少し心地よい。他がうるさすぎた。

「ん?」

足音がする。階段のほうからだ。だれかが下りてくる。

特に隠れる必要はないのになぜか俺は隠れた。

「ここならだれもいないな。」

「そうだな、サボるならここだよな。」

海賊にもサボり魔はいる。

てかこの海賊団があまりに真面目過ぎている気がする。そりゃいるだろ。

カタコトと音が鳴った。窓を開けたみたいだ。

「ふぅー。やっぱりやってらんないな。」

「ほんとだよ、なんでこんなに働かされるのかねぇー。海賊だぞ。」

何か吸っている。

たばこか?それにしては匂いが甘い。

「戦闘も少ないしな、いつになったら暴れまわれるんだ。」

「略奪とかしてないよなぁ、これじゃあただの船乗りだぞ。」

ロイバの船、たしかテイラール海賊団の三番船だったな。

ロイバの性格考えたら、不要な戦いなんてしそうにもない。

略奪するようにも見えないしな。

「全員、甲板に集合!甲板に集合!」

伝声管から命令が鳴る。

「お?終わりみたいだ。」

話していた男たちも甲板に向かっていったようだ。

ようやっと肩の力が抜けるぞ。

「って俺も行かないとダメか。」

また長い階段を走る。


ロイバ船長の話が終わり、その後の晩飯でソフィを退けてミアと引き分け、気づいたら夜も遅くなってきた。

結構働いた気がする。ぐっすり寝られそうだ。

扉を開ける。

そしてしっかりしたベット、大きい窓、広い、やっぱりいい部屋だ。しかも角部屋だぞ。

夜風が涼しい。景色もよい。

明かりもつけずに俺はベットにダイブ。

「…」

でもなんか妙な視線を感じるぞ。

「シユウ、なんですか?」

「…こっちのセリフだ。」

そうだ。ミアとソフィと同室だった。

俺は今更気にしていないけど、あっちは違うみたいだ。

「せっかく豪華な部屋を用意してくれたのに、そんなんじゃロイバが悲しむぞ。」

別にロイバが悲しもうが構わないが。

「ロイバが悲しむとかどうでもいいです。」

「じゃあどうすればいい?」

逆にミアの望みを探る。

ミアが見ていたのは遠い向こう、窓から見える地平線。

「鬼畜か。」

それでも指を下ろさないミア、いつからこうなってしまったんだ。

そういえばさっきからソフィが見当たらない。

「ソフィは?」

「あれ?」

ミアは今気づいたみたいだ。

ここに来るまでにいなくなってたのか。

「なにしてんだろ。」

「…あれ?」

なぜか笑っているミア。

「どうした?」

「別に?」

なんか不思議な感じだ、ミアってこんな感じだっけ。

ミアと二人きりっていうのも久々だな。

「…」

窓にもたれかかって外を眺めているミア。

外にあるのは夜空と暗くなった海。

海のど真ん中だから人の光でさえも届かない。

この部屋は船の三階、一番下から階段を二つ上った階層にあるから海がよく見える。

「前乗った船とは全然違いますね。」

「海賊船だからな。」

「そうじゃないです。」

関係ないのか。

そういえばミアは海賊船だからって文句言ってなかったな。

「こんな危険な航路を通らないってことです。」

「たしかに海賊船とか関係ないか。」

でもロイバを選んだのは海賊だけど。

朝には魔の海域に入るかもしれないのにミアは落ち着いている。

「怖がっているようには見えないな。」

「そうですね…シユウは怖がっているみたいですけど。」

「…」

ミアは俺の顔色を窺う。

俺は思わずそっぽを向いてしまった。

「どうしたんですか?」

「どうもしてない。」

これはそういうことじゃない。

ただの時間の問題なだけだ。

船と波がぶつかる音が漂う。

「私が怖くないのは…ここで死ぬことがないと確信してしまっているからなんです…」

ミアは真顔だったから余計に寂しそうに見えた。

それは静寂な周りの景色と変わらない。

意味の分からない言葉に俺は自然とミアのほうを向いていた。

「私は80歳の春に病気で亡くなるみたいです。その夢を見たんです。」

「でもただの夢だろ?」

「私…達の夢はすべて予知夢です。完全に同じことが起こることは少ないですけど、似たようなことが外れることなく起こるんです。」

憤りと困惑が交差して垣間見えたり消えたりする。

「それって…」

俺はその先を拒んだ。

その事実を知っていて旅をさせている奴らがいるのに疑問はない。

だけどそうじゃないほうがいい。

そうじゃないほうがいい…。

「で、でもいい夢もあるんですよ!埋蔵金が見つかったりとか!」

「…そ、そうなのか。」

いい夢よりも悪いほうが多いということなんて見ればわかる。

「…だから大丈夫ですよ。なんとかなります。」

励ましていたのか。

「なんだよ、じゃあ安心だな。結構焦ってたんだよ。」

気落ちしているミアを自分なりに励ます。

だけど顔色は変わらない。

「…シユウ大丈夫ですか?」

「…ああ」

ミアとソフィはそんなやつじゃない。

そうであってほしい。

だったら言うべきなのか。

それでも俺は震える口を必死に閉じていた。

「…」

まっすぐ俺を見ているミア。

「!?」

伝声管から細い音が飛んできた。

こんな時間になんなんだ。

「起きろ!そして剣を持て!俺についてこい!」

この声は。

下のほうから勢いのある男たちの大声がする。

「今こそ!戦う時だ!三番隊を殺せ!ロイバを殺せ!俺たちこそがテイラール海賊団だ!」

何が起こっているんだ。

下からの剣と剣のぶつかる音と騒がしさで足が震える。

「どうなってるんですか?」

「わからねえ!」

金属音と断末魔がかき乱れて聞こえる。

あいつらが乱闘しようとも俺たちは部外者、巻き込まれるのは理不尽だ。

このままここにいれば安全だろう。

止まる俺に対してミアは動いていた。

「ミア、どこに行くんだ?」

扉に走るミア。

「止めに行きます。」

そのまま部屋から出ていこうとするミアを掴んで止める。

「死ぬぞ!」

「離してください。」

声を荒げる俺とは違い、ミアは静かに言う。

その目がさっきのと同じ。俺は手を放さざるをおえなかった。

何も口に出せなかった。


自分の手は思っていたよりも小さい。

この前はミアを簡単に止められたのに、それができなくなっている。

「…」

これは俺が悪いわけじゃない。

ミアが言ってたんだ、自分はここじゃ死ぬことはないって。

それにこんな状況になるこの世界のほうが悪いだろ。

そもそもあいつらが俺たちに優しければ…。

「…」

閉まった扉を眺めている。

そのくせにこの扉の形状なんてまったくわからない。

むしろ壁だ。

「…」

下はずいぶん騒がしい、いくつもの断末魔が聞こえる。

しかしその音はどれも同じだ。

同じものが死んでいるだけだ。

そんなものよりも階段の音に耳を澄ます。

「…」

だれもこない。

ここは安全。

…それなのにミアはなんで向かっていくんだ。

助ける理由なんてないだろ、相手は…しかも海賊だ。

「…!」

階段の音を自分の鼓動で掻き消そうとする。

もっと鼓動は激しくなる、廊下を走る音がする。

音が大きくなるごとに体が震える。

それは速い。

もう来る。

「…」

扉が開く。

「…なにしているの?」

ソフィは四階、俺の上にいたみたいだ。

階段を下りてここにやってきた。

「ミアは?」

「…」

知っている音が怖かった。

今も怖い。

ソフィの顔を見られない。

「わかった。ここにいれば安全だから、あなたはここに…やっぱりついてきたほうがよさそうね。」

階段を殴るように駆け上がる音がする。

荒げた呼吸がここまで聞こえる。

「ロイバはどこだ!」

「隠れてんのか?」

声がよく聞こえるのは三階には俺とソフィしかいないからだろう。

だがそれはあっちにとっても同じだ。

よく聞こえる自分の声に隠れているロイバが潜んでいると考えているようだ。

「こっちにくるわ。」

ソフィは腰に下げた剣の柄を握る。

俺は確認するように部屋に近づく音を聞いた。

「そうだ!人質だ!」

「…なるほどな!」

たくさんの扉を叩き開けるのをやめて一目散にこっちへ走ってくる。

荒々しく向かってくる蛮族に震えることはなかった。

俺はただソフィの背中を見ていたから。

「な、なんだ?」

「お嬢さんよ、剣を下ろしたらどうだ?」

「え?聞こえないわ。」

目の前に武器を持った暴漢が二人いてもソフィは動じない。

それどころか少し笑っている。

「女ってのは痛い目に合わないとわからないみたいだな!」

一瞬の光で目をつぶる。

目を開けば首の落ちた遺体しかない。

「…ミアはやっぱり下みたいね。あなたはここで待ってて。」

いつもこうなる。

一度でも俺を見捨ててくれればそれですべてが終わるのに。

「ああ、わかった。」

ソフィは扉を閉めて走っていった。

仕方がない。俺たちはこれが精一杯なんだ。

死なないならそれでいい。おれはあっちではない。

元々無関係だ。

「…」

俺が命かける必要なんてない。

あいつらは俺の…

「シユウ、なにしてんの?」

「うわああああ!?」

全く気配無かった。

真後ろからの声はロイバだった。

「ってお前こそなにしてんだよ!」

ニヤニヤと笑っているロイバに正論を叩きつける。

「なにって?隠れてたんだよ。」

笑顔で答えたロイバ。

「なんで隠れてるんだよ!」

思わず叫んでしまった。

まずい。

「シユウこそなんで隠れてるんだい?」

階段を急いで上がってくる、それも何十人もだ。

最悪だ。

「お前のせいだぞ!」

「僕のせいで隠れてるの?」

「そ、そうだよ!」

こいつなんなんだよ。

さっきまで安全だったこの部屋は一人のアホのせいで最も危険な部屋になってしまった。

「それは悪かったね。それよりもそんなに怯えてどうしたの?」

「うるせえ!」

こんな状況でも面白くしていられる神経が理解できない。

これだからカイネ(非転生者)はクソなんだ。

「あっちから大声が聞こえたぞ!」

「俺も聞こえたぞ!」

やばい、すぐそこまで来てる。どうする。

ここは角部屋、逃げ場はない。

「おい、どうするんだよ!」

「うーん…」

悩んでいるふりをしているであろうロイバ。

「そんな時間ないんだよ!」

「あ、バレてた?」

やばい。

「また聞こえたぞ!」

「あっちのほうだ!客室だ!」

一目散に来る。

今度こそ死ぬ。死にたくない。

俺は黒い海が風に吹かれて見える窓に近づく。

「なにしてるんだい?」

「どうせ死ぬならここから海に突っ込んだほうがましだ。」

というかこの頭がイってるやつと死ぬのなんて御免だ。

「そう、じゃあ僕も。」

窓の下枠に飛び乗り、片手をかけてぶら下がるロイバ。

もう片方の手は俺の左手首を掴んでいる。

「え?」

「え?」

扉が叩き開けられたのを見た。

その後はぐわんぐわんしたのを見た。

窓が叩き割られた音。

背中に衝撃。

「ふぅ、助かったね。」

憎い声。

「いてて…」

窓から窓へ飛んで一階下に着地したみたいだ。

意味の分からない行動に理解が追いつかない。

「さぁ、どうしようか。」

まだまだ笑っている。

こいつ悪魔なんじゃないのか。


八村ってレイカーズとフィットするんかな。


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