31.テイラール海賊団
夜も遅い時間。静まった城の暗くなった廊下を歩く。
「この部屋ね。」
私は重厚な扉をたたく。
「どうぞ。」
ゆっくり開いた扉の隙間から出てくる光に目をつぶった。
夜中なのにシャンデリアを輝かし、広い部屋で優雅にお茶に口付けている男がいる。
「くそ司教、何の用?」
「くそしきょ…まずは部屋に入ったらどうですか。廊下は寒いですよ。」
入りたくない。
だけど話が長くなりそうだから仕方がない。
私は嫌々、豪華な絨毯を踏む。
そのまま食器棚を見つけ、そこに歩く。
「話というのはですね、ざっくり言ってミアのことです。」
私はティーカップを手に取り、席まで歩く。
「明日の朝、私たちはミアを連れて教都に戻ります。そのときにですね、ぜひあなたも立ち会っていただきたい。」
ティーカップの置いてあるロウエルの向かいではなく、一番遠い席に座る。
「なんで?」
手を伸ばしてティーポットを取り、お茶を入れる。
「そうですね…」
お茶を口に運ぶ。
「ミアを誘拐してほしいからです。」
私は思わずお茶を吹き出した。
この司教なんなの。
「やはり騎士は汚いですね。」
「あなたほどではないです。」
その笑顔に対して言い返す。
ロウエルはさらに言い返すこともなく、一転して真剣な表情をした。
「ソフィ、あなたは森で誘拐されたミアを救ってくれましたね。」
「ええ。」
私があの二人と会ったのも襲われているところを助けたのがきっかけだったわね。あれから一か月も立ってないのに古く感じるわ。
「実はあなたが王からの仕事で洞窟に行っている間、私も洞窟に行っていました。そう、ミアが誘拐された洞窟に。」
「ちょっと待って、あなた外に出たミアを放っておいてそんなことしてたの?」
「え?ええ。」
こんな人が司教で大丈夫なの?
この人を選んだ教都はやっぱりろくでもない国に違いないわ。
「解析術を用いてもおかしなところはありませんでした。しかし…」
ロウエルはティーカップを置いて立ち、窓に向かって歩き始めた。
「今日、エースが城に現れました。」
「そうね。」
「エースが城に来た理由はミアを教都に連れて帰るためです。理由はミアの命を狙うものがいるということを心配してのことだと。」
足を止めて窓から暗くなった都を眺めるロウエル。
「私は変だと思いました。ミアを旅に連れて行くように提案したのは私ですが、許可を出したのは教主です。エースがやってくるわけがない。」
「そうね。」
元々ミアとロウエルは予知で見えた男を探すために旅していた。
教主はロアマト教の継承者、教都で一番権力を持つ人間、仮にミアを心配しているなら初めから聖騎士を付けておけばいい。
「このタイミングで聖騎士を派遣するなどという判断を教主がするわけがない。ならばだれが命令したのか、教主に逆らうような行為をしてもメリットがあるのはだれか。」
「いいから結論言いなさいよ。」
ロウエルは振り向いた。
「第三司教マカラム、彼の仕業だと私は予想しています。」
たしか司教は教主フォルガーの下に第一から第九までの9人。数字が小さいほど権力があるといわれていたわね。
「でもなんで第三司教なの?」
ため息をついてしばらく呆れた目で私を見るロウエル。
「知らないんですか。教主様が病を患っていることを。」
やっぱりこいつ性格悪いわ。
「次期教主は司教の中から選ばれます。ふつうなら第一司教、無理なら第二司教でしょう。多くはそのどちらかです。」
第二司教のロウエルの評価を下げるためにエースを派遣したと予想しているのね。
つまり権力争いが絡んでいるというわけか。
「あなたが主教になるのを邪魔するっていうのはいい判断だわ。」
「…くやしいですが、違うようです。教主からの信頼は第一司教であるエヴィックのほうがはるかに高いですからね。」
そりゃそうか。
第一司教じゃなくて第三司教の仕業だと睨んでいるのもそういうわけね。
だけどエースを派遣して帰らせるなんてむしろデメリットしかない。その行為自体が教主への批判だわ。
「でも第三司教にはどんなメリットがあるの?」
ロウエルは椅子に座りなおした。
「私の予想の域を出ませんが、ミアの誘拐を助けに行く名目でエースがやってきたと思われます。そうすればあっちの評価は上がりますし、私への少ない信頼も下がってしまいますから。」
「うーん。」
確かにその可能性もありえるけど、誘拐されてからエースがやってくるまで時間がかかりすぎてる。
まだ情報が足りなさすぎるわ。
「仮にそうだとして誘拐はなかったことになっているんだし、そうじゃなくてもミアを狙うやつがいるのは確かだから帰るのが正解だと思うのだけど…なんで誘拐しろなんて言うの?」
私の真っ当な意見に対してロウエルはお茶を飲み干す。
ティーカップを置いて一息ついてこっちを真っすぐ見た。
「簡単ですよ。私が教主になるためです。」
私はこの男がそこまで野望を抱いている奴だとは思わなかった。
「なるほどね…断るわ。」
きっぱりと私は言い、席を立った。
「近い未来に王になるかもしれない人からの依頼、それを断るのですか。悪い話ではないと思いますが。」
ロウエルの文句に構わず、私は扉の取手を回す。
「…これならどうでしょう?」
性格の悪いのは私もだった。
次に私が話したのは誘拐した後の計画について。
私はミアよりもそれを優先してしまった。
窓からのそよ風と青く広がる空。
机の上には沢山の肉と野菜とパン。
周りには騒ぐ男たち。
昨日の嵐が嘘みたいだ。
「酒を持ってこーい!」
「嵐で全部吹っ飛んだんだよ!」
ここは船の食堂。
肉を頬張ることが許される空間。
俺は肉に手を付けようとする。
「ちょっと、さっきから話聞いているの?」
そのはずなのに門番ソフィがこの手が伸びることを禁じる。
「それでなんでミアを誘拐することになったんだ?」
「だから成り行きでそうなったって言っているでしょ。しつこいわ。」
成り行きでそんなことをするような人間ではない。
それくらいさすがの俺でもわかる。
「それよりも脱獄って、なんでそんなことしたの?」
俺は肉に手を付けようとする。
「これで四回目よ。」
ソフィの鋭い尋問の答えを探している横で、何ともない顔して肉にかぶりついているミア。
俺の分が無くなっていく。
「この野郎!ふざけてんのか!」
乱雑に動く男たちの頭が一斉に止まり、その視線は怒号に向けられた。
「本当のことだ。あのガキが船長だって?」
「てめぇ!」
憤慨しているおっさん。今にも殴りかかりそうだ。
それにも関わらず、感情を逆なでするのは派手な服装した男。
「昨日だってよ、嵐の中航海するだなんて判断、下手したら全滅だろうが。」
「あー?寝てただけのやつが何言ってやがる!」
派手な男の胸ぐらをつかむおっさん。
だが男は余裕という感じだ。
「おい、やめろやめろ!殴り合っても仕方ないだろ?」
若い男がおっさんをなだめる。
「ふん、クソみたいだ。」
派手な男はおっさんの手を振り払い、食堂を出て行った。
あの派手な男、初めて見たな。
「ただでさえ物騒なのに、勘弁してほしいわ。」
ソフィの言っている通りだ。
嵐の前の静けさだけじゃなく、嵐の後の静けさもあるべきだろう。
そう思いながら皿に手を伸ばした。
「あれ?」
何もない。まさか。
「どうしたんですか?」
口を膨らませている確信犯ミア。
「お前ええええええ!」
「あ、ない。」
皿に触ってから何もないということを知ったミア。
俺は触ることすらなかったというのに。
「おい、いつまで飯食ってんだ。はやく手伝え!」
天井にあるパイプみたいなやつから大声が響いた。
周りにいた男たちも走ってどこかに行く。
「シユウ、船長が仕事あるって言ってました。」
悪気のないのが余計にむかつく。
夕食こそは…。
決意を込めたこぶしを見つめながら俺は仕事に向かった。
三つ目の階段を上りきる。さすがに階段が多い。
そして仕事だ。
船に乗せてもらっているのなら仕事をするべきという考えはわかるが、それが当てはまるのはソフィとミアだけだろ。俺は契約で船に乗っているんだ。
なんで働かなきゃならないんだ。
「おーい、シユウ!」
呼んだのはロイバ。
相変わらず元気だな。
ロイバのいる船首に着いた、ようやっと休憩できる。
広すぎる船だから歩くだけで息が切れる。
「シユウ、船の乗り心地はどう?」
「見ての通りだ。」
ロイバが俺をじーっと見るが、その時点でわかってない。
わかってほしいわけじゃないけども。
「で、何の仕事だよ?」
「あれをみなよ。」
指さしたのは船の前方、あるのは地平線。
つまりなんにもない。
「船はシュペアっていう港町に向かってるんだけど、三日ぐらいかかりそうだよ。」
「そんなに遠いのか。」
「しかも明日には魔の海域に入るんだ。」
昨晩、ミアの言っていたことって本当だったのか。
いわば沈没の危険性が高い海域、ある程度場所がわかっているから遠回りして避ければ大丈夫ってことだったな。
「うん?魔の海域?入る?」
「うん。」
「なんで?」
「近いじゃん。」
さっき派手な男が言っていたことに共感せざる終えない。
こいつは皆殺しでもする気か。
やっぱり頭おかしい。
でもその理由は今となってはなんとなくわかる。
「隊長!数百メートル右に軍船が二隻あります!」
近くの帆柱の台から船員が大声を出す。
「そうか、そのまま進んでー。」
その船員の下にある帆は黒かった。
「まぁ、戦闘になっても大丈夫さ。僕たちテイラール海賊団は強いからね。」
ドクロに四つ手のシンボルの海賊、テイラール海賊団。
ロイバはその三番隊隊長だった。
船の資料がないよおおおおおおおおおおおおおおお。
うわああああああああああああああああああああああああああああ。




