28,いかれた青年
夕日によって赤くなってきている玉座の間、民衆の騒々しさが落ち着いてくるころ合いにヲーリア王は欠伸することなく目線の先にある大きな扉を見ていた。
それは恐らく一週間くらい前からだろう、間を訪れる民衆や旅人がいないときはそうであった。
隣にいつもいる執政に気を使ってのことではなく、一人の人間としてのことだろう。
この時間には一つの会話もない。
それにより、訪れる者たちは王の頬杖を見ることが無くなっていた。
「…来ましたぞ。」
「ようやくだ。」
王の見つめる大扉が開かれる。
「王!ソフィ殿が帰還しました!」
「待ちかねたぞ、入れろ。」
「はい!」
兵は興奮しながら呼びに戻ると、騎士殿は淡々とした様子で玉座の間に入ってきた。
王は驚くことなく、口を開ける。
「この度はご苦労であった。さっそくだが話を聞きたい。」
ソフィは戯言を思わずとも一瞬だけ歯をかみしめた。
「はい、南東の洞窟の件ですが…」
南東の洞窟に拠点を構える山賊を退治しに王国兵数人と増援に向かった結果、生き残ったのは自分だけということと、謎の魔法戦士らがすでに山賊を皆殺しにしていたことを、ソフィは王に伝えた。
「なるほど…兵は山賊ではなく、その勢力にやられたのか?」
「わかりません。ですが彼らは恐れるべき存在なのかもしれません。」
王は執政に顔を向けた。
「ふむ…その者たちは魔法を用いていたのかの?」
「いえ、魔法を使っているところは見たことありません。」
「そうか…」
溜めた息を吐く息子と考え込む父。
そこに扉をはじき開ける若い男が玉座の間に現れた。
「なんだ?大事な話をしている最中だが?」
王が眉間にしわを寄せるが、若い男は玉座までのカーペットの中央を堂々と歩く。
「その恰好…あなた聖騎士?」
ソフィによって足が止まった若い男は鎧に黄金の円環を携えていた。
「そうです、私は聖騎士。だから道を開けていただきたい。」
玉座の照明の陰にソフィの怒りは現れる。しかし聖騎士は涼しげにソフィが退くのを待っているだけであった。
それでもソフィは隠すことなく続けていたが、飛び跳ねるように階段を上ってくる音と聞き覚えのある皮肉な声が聞こえると、それをやめて開きっぱなしの扉の先を見ていた。
「ミア!待ちなさい!」
「待ってる場合じゃないです!いち早く抗議するべきです!」
ミアは玉座の間が妙に開放感のある気がしていたが、気にすることなく王を目掛けて全速力で走っていく。
「ミア!」
「あれ、ソフィ…え?」
ソフィと目が合って止まるミア。
そして肩で息をしながらミアは振り向いてきた見覚えのある鎧と青年に戸惑う。
「ミア!」
「え、エース?」
遅れて玉座の間に入ってきたロウエルはエースという名の聖騎士に目を見開いた。
「ミア、今すぐ教都に戻りましょう。」
「…退いて!」
手を掴もうとするエースを振り払い、ソフィも関係なく、ミアは遠目で見ている王のすぐ前に向かっていく
「王様!シユウは人殺しなんてしてません!今すぐ牢屋から出してください!」
エースは呆然とし、ソフィは顔をしかめ、ロウエルは少しにやついた後に青ざめた。
「なんのことだ?」
王は目を逸らすことなくミアに問いかける。
「シユウはジローさんを殺してません!だってジローさんが殺された時間t!?」
玉座の間と廊下の境界線で様子を見ていたロウエルが走って王の目の前まで行って、ミアの口を塞いだ。
「なにするんですか!邪魔しないで!クソ司教!」
「クソ司っ…」
ロウエルが気を取られて力を弱めた。
「シユウはその時、私と一緒に平原にいました!!」
ミアは強く反抗する。
その言葉をエースは逃さず、むしろロウエルは堂々とした。
「そんなわけないじゃないですか、私と一緒に客室で勉強していましたよ。」
「何言ってるんですか!」
王はロウエルの目を見た後に、後ろで黙って凝視するエースを覗いた。
「もうよい、事実の確認はしておくから下がれ。」
「よくないです!シ、シユウは!ソフィもなんか言ってくださいよ!」
必死に抗議するミアをロウエルは力づくで連れて玉座の間から去り、それを眺めていたエースも追っていった。
この一波乱があった玉座の間では、この後もソフィと王たちの話が続いていた。
カモメがゆらゆらと青空を漂い、涼しい風と静かな波音が響く。
この前乗った馬車よりも心地がいいのは、道が穏やかだからか。いや前も緩急なかった気がする。
「柊人、脱獄して兵士に追われる身の割には余裕だな。」
「はは…」
たまに話しかけてくるこの男は俺を勧誘した兵士だ。名前は中村祥平。こっちではカムラと呼ばれているらしい。俺もそっちのほうがなんか呼びやすくなっている。
あの後カムラの手を借りて脱獄し、都を出て馬車に乗り、ヲーリア港に向かっている。俺の初任務はそこで受注されるということだ。
「…そういえば、組織の話してなかったな。」
「はぁ?」
「俺は第六分団の副長だ。組織には七つの分団がある、六は情報入手だ。」
「そんなにあるのか。」
今はイデアールという名だが、この組織の原型は20年前にはあったらしい。この世界はヲーリア王国、レイログ帝国、マークス教都の三つの大国が支配している。このどれもが転生者を暗殺するということをしている。
転生者はまとまった場所に転生するのではなく完全にランダムに転生するため、転生者が集まって何かをしようとする前に三国に見つかってしまうし、見つからないように能力を隠すから別の転生者とも出会わない。
その難しい世界の中で結成され、現在まで活動しているのがイデアールみたいだ。
「質問があるんだけど、どうやって転生者を見つけているんだ?」
「それこそ第六分団の仕事だよ。第六分団は情報を集めるのに特化している。奴らにも同じような部隊があることはわかっている。」
「なんでその部隊を攻撃しないんだ?」
俺たちを見つけるやつがいなくなれば、俺たちが殺されることもない。そう思ってカムラに質問したのに、カムラは俺を見て首をかしげる。
「イデアールにも戦闘部隊はあるが、一つの国を倒せるほどの力はない。人数も比べて少なすぎる。だから戦争になれば負けるのはこっちだ。」
「そうなのか…」
「じゃあどうやって、この世界を変えるのか。それはロワ・ユルティム、究極の転生者のことだ。」
「究極の転生者?」
「さっきも言っただろう、戦争になれば負けるのはこちらだと。しかしより強力な力を持った転生者が現れれば話は変わる。」
「そうなのか…。」
話の規模が大きくなりすぎて、理解しきれないところがある。ロワ・ユルティムなんて本当に現れるのか。
ガタンという音とともにお尻に衝撃がきた。
「着いたぞ。」
「いつの間にか港町の中に入っていたのか。」
俺は馬車を降りた。
港町はやっぱり良い。この開放感と風が気持ちを楽にしてくれる。
「ゆっくりしている暇はないぞ。」
カムラが話すときだけ風が消えるのは偶然なのか。
馬車を降りてから数分歩いているけど、協力者どこにいるんだ。
「もう少しで着く。相手はいかれた野郎だから気をつけろ。」
裏路地を入っていく。同じ転生者から言われた言葉には信用できるからこう言われると不安だ。
「ここだ。入れ。」
中には丸い机の上に椅子が逆さで置いてある。閉店中の飲食店なのか。
誰かいる感じもしないし、まだ協力者は来ていないみたいだ。
「遅かったね。」
どこからか声が。声が聞こえてもなお、人がいる気がしない。
「出てこい、こいつは新入りだ。」
「わかったよ。」
当たり見回してもいない。妖術の類か。
「!?」
忍者のように天井にいた。だがさっきも天井は見たぞ。どうゆうことだ。やっぱり妖術か。
「やぁ、僕の名はロイバ。君たちの協力者の一人だよ。」
ロイバと名乗る青年は着地しながら自己紹介をした。
「俺の名は…シユウ。」
シユウは一瞬カムラを見て言う。
「今回の仕事についてはわかっているか。」
「わかってるよ。船に乗せればいいんだね。」
ロイバはどこから取り出したのか、蝋燭に火をつけ、椅子を下ろした。
「まぁ座りなよ。」
俺とカムイは腰を下ろした。
埃まみれの密封された暗い部屋で話したことは秘密の話っぽいことでもなかった。
カムラから渡されたのはそこそこ重い小さい箱。
任務というのはこれをムールハット学院というところにまで行って取引相手に渡してくるということで、ムールハット学院はレイロンド大陸にあるため船が必要。
ロイバは船を持っているからそれに乗って海を渡るということだ。
簡単な話じゃないか。なんであんなに暗い場所で話す必要があったんだ。
「どうしたんだい?」
「いや。」
そんな話があって今はロイバとともに港町を歩いている。
カムラがいなくなり大分楽だなと思いながら、すぐ右の海を眺めて船を目指す。
「それにしてもさ、その箱の中身なんなんだろうね。開けたいな。」
俺が手に持っている箱に手を伸ばすロイバ。それをはじいてこれで三回目。やっぱりこの野郎はいかれている。
「君はなんか技とかあるの?」
「技?」
「たとえば、凄いデカい火の玉を飛ばせるとか。」
ロイバの言っている技っていうのは、いわゆる能力的なものか。この感じ、ロイバは転生者じゃないのか。
「ない。」
「ないの?」
「ない。」
「そうなんだ…つまらない。」
ロイバの周りには能力者がさぞかし沢山いるのだろう。
「そういえばさ、さっきから鎧着ている怖い人たちが君のことをチラチラ見てるけど大丈夫?」
「は?」
ロイバの向いているほうを見ると、数人の兵士がその手に持った紙と俺を交互に目を凝らしている。
そういえば俺は脱獄犯だった。
「?」
兵士の一人と目が合い、そいつがこっちに駆け足し始めた。俺はポカンとしているロイバを放っておいて全速力で走りだす。
「どうしたのさ。もしかして君、犯罪者?ヲーリア港の兵士に追われているってことは、ヲーリアでなんかやったの?」
いつの間にか並走しているロイバなんてどうでもいい。逃げていくしかない。
そうだ。逃げていくしかない。
…どこにだ?
「おい、お前の船はどこにあるんだよ!」
「お前?名前で呼ぶべきじゃない?」
なんだこのいかれた野郎は。そんなことどうでもいいだろ!
「ちなみに逆方向だよ。」
半ば息切れしている俺に対して笑いながら言ってくる。こいつじゃなきゃいけないのか、協力者は。もっといいやついただろ。
俺は仕方なく止まり、後ろを向いた。
さっきよりも兵士の数が多い。人殺しってだけでこんなに警戒されるのか。
「秘密の道知ってるから、ついてきて!」
「は…は…はぁ?」
どこに向かうかと思えば、迫りくる兵士に突っ込んでいくロイバ。
あまりに自信満々に突き進むその背中には、少なからずカリスマ性を感じた。そのせいなのか、俺はその背中を追った。
「き、貴様は共犯者か?」
「うーん?」
あろうことかロイバは兵士の目の前で止まりやがった。秘密の道じゃないのか!
「共犯者というよりかは…共謀者かな。まぁどっちでもいいよね。」
「な、なんだこいつは!」
兵士は思わず俺の代弁した。
「いろんな逃げ方があるけど、やっぱり君たちが見たことないような逃げ方が面白いよね。」
「構えろ!何かしてくるぞ!」
兵士たちは剣を抜いた。
ここまで挑発したからにはロイバにも秘策があるのか。ロイバは俺の肩を掴んだ。
それだけだった。
ロイバは怖い顔して一回だけ俺を見る。そして武器を構えた兵士の群れに歩いて行った。
俺は必死に抗おうとしたが、体が言うことを聞かない。なんだこれ。
奇妙なことが起こっている。
兵士たちはキョロキョロと周りを見回している。その一方で俺はロイバに連れられて兵士の群れをかき分けて通り抜けている。
すぐそこに俺がいるのに兵士たちは全く俺に気づいていない。
そのまま俺とロイバは兵士たちの後方まで潜り抜けた。
「もういいか。」
ロイバは俺の肩から手を離した。
「どこに行った!」
「一瞬で姿を消すだと!?」
後ろからは兵士の困惑が聞こえる。
「あ、あー…しゃべれる。なんなんだこれ?」
「いいから今のうちに逃げよう。」
「お、おう。」
俺とロイバは前しか見ていない兵士の群れから逃げ切った。
ロイバに少しの信頼と恐怖を感じた。
設定が煮詰まってきた。
今回から第ニ部か一部か、とりあえず新しい感じだよ。
新年一発目だからなんか合うね。




