27.碧き翼
ここはどこだ。
目に入ったのは暗い青色の石レンガの面。
俺はどうやら寝ていたみたいだ。
寒いな。
「は?」
長い鉄の棒が横に並び、仕切りになって通路に出られないようになっている。つまり鉄格子があって外に出られない。
おかしい。これ牢屋だよな。なんか悪いことしたか?
それともこれは悪夢なのか?ただの夢なのか?
俺は試しに頬をつねってみたが、当たり前に痛い。あきらめず石の壁に頭を打ち付けたりしてみたが、めちゃくちゃ痛いだけだった。
「うるせえ!」
そんな風に騒いでいたせいで隣の檻にいる犯罪者に俺は怒鳴られた。
てか俺は罪人じゃない…。
牢屋は殺風景。布団すらなく木が丸出しのベッド、変な蓋、あとは格子で遮られた窓があるだけだ。しかも窓からは全く光は入らない。あっちの檻には光が入っているのをみると、運が悪いのかもしれない。てか悪い。運が悪いのか?俺が悪いのか?俺が悪い?え?
変な蓋を開けてみる。蓋は木でできていてボロボロ。しかもジメジメしてる。
中は水流がみえる。もしかしてトイレか?
俺は蓋を閉じた。
現状は何もわからない状態。こんなときに何を考えても無理なことはわかる。寝る。
木のベッドだと思って舐めていたが横になってみると、すぐに寝入れるくらいには眠れそうだ。なのに誰だ。
金属がぶつかったような高い音と石を叩く足音。この牢獄には5人くらいいるだろうけど、みんなやかましいと思ってるんだろうな。寝てないのは俺だけかもしれないが。
やかましい足音が近くまでして止まった。
「起きろ。」
男の低い声。起きろと言われて起きるような気分じゃないんだよ。
「起きないのなら、お前は死ぬだけだ。」
物騒なことを言ってくる男にビビっているわけではないが、俺は起き上がる。硬いベッドに座ったまま話す。
「何の用だよ。」
声の主は軽い鎧を装備して、中くらいの長さの剣を腰に下げている。胸に描いてある風の紋章を見る限り、ヲーリアの兵士みたいだ。ここはヲーリアの牢獄か。
「確認したいことがある。」
兵士は偉そうに言う。看守にも見えないし、兵士の中でも地位が高いようにも見えない。そんなことはどうでもいい。
「ちょっと待てよ、まずは俺が聞きたいんだが。なんで俺は牢屋にいるんだ?」
「いいだろう。」
俺の質問に兵士が気に障ることはなかった。
「…お前は殺人の罪で投獄されたのだ。」
「は?」
殺しの罪だって?殺人なんてした覚えがないぞ。いや変な奴らなら殺したか。たしか魔法戦士だったっけ。でもそれが犯罪なのかよ。正当防衛だろ。
ベッドから飛び出す。
「俺は殺しなんてやってない!捕まえられる理由は無いぞ!冤罪だ!」
冷たい鉄格子を握り締めて無表情な兵士に訴える。
「おい!なんで俺は捕まってるんだ!本当のことを教えろ!」
さらに訴える。
「納得いってないようだな。だが事実だ。お前は殺人をしたことになっている。」
冷静に兵士は答えた。
「だから殺しなんてしてないって言ってるだろ!俺がだれを殺したって言うんだよ!」
その顔に唾を飛ばしまくるくらい訴える。
「それは言わないほうがいいだろう。」
兵士はハンカチで顔をふく。
「どうゆうことだ!」
言わないほうがいい?そんなわけがない。
「教えろよ!」
「…」
「俺はやってない!」
「…」
「…」
「…」
「…次郎という名の老人だ。」
「ジロウ…?」
何を言っているか理解ができない。ジロウ?だれだ?
「そうか、知らないのだったな。次郎という名のヲーリア都で鍛冶師を務めていた老人だ。おそらくジローと呼ばれているだろう。」
「…」
言葉が出ない。なんでだ。こいつの言っていることなんて嘘に決まっている。
俺が衝撃を受けたのは俺が殺しをしたということよりも、それがジジイだったという事でもない。ジジイが殺されたという事、死んだってこと…。
「信じられない様子だな、無理もないだろう。だが事実だ。ジローは君がこの都を出た早朝に死んでいる。第一発見者はルイという名の青年で発見したのは自宅の中、刺殺らしい。発見時刻は…」
「もういい。」
「そうか。」
牢獄はもともと静かであり、夜ならばより静かであり、真夜中ならより静かだ。さらにこの夜は新月の夜であった。
「ショックを受けているところ申し訳ないが、このままじゃ君は明日辺りに処刑される。生きたいのであれば私たちに協力してほしい。」
「…」
シユウは鉄格子を触ったまま脱力していた。下をうつむき、瞼は真っ黒であった。
「この世界のルールを教えてやろう。冤罪は存在しない。」
それが冤罪だとわかるときとは、その間違いがわかるときである。間違いを認めず、存在させないのであれば冤罪も存在できない。
「そもそもこの世界に冤罪なんて言葉は無い。」
兵士は常住である。
シユウは話を聞けるような精神状態ではない。だから兵士はその名を渋ったのだ。
「ジローは転生者であった。」
兵士は口を開く。
「その能力は不屈の槌、決して壊れない槌と言ったものだ。
決して壊れない槌などというものは、一見使い物にならない魔法器である。いわゆるハズレというものであった。
しかし彼はそれを鍛冶師になることで実用させ、開花させた。不変のハンマーは彼の体の一部みたいなものであったために、卓越した技術と合わさることで最高の武具を製造することができた。」
兵士は鉄格子を掴む。
「だが彼は殺された。なぜ殺されたか、それは彼が転生者であったからだ。
この世界、アトラスには一カ月に数人の日本人が死んでこの世界にやってくる。そのうちの四分の一は獣や賊に殺され、半分はアトラス人、カイネに殺されている。そして残った四分の一は細々に生きている。自らを偽ってだ。」
兵士はシユウを睨みつける。
「カイネはなぜ我々を殺すか、それは単純だ。脅威であるからだ。奴らは我々を見つけるとすぐに殺しにかかる。様々な理由をつけてだ。それでこの強力な能力を殺す。持っているだけで悪とみなし、我々を魔女にする。」
シユウはその顔を見上げる。
「ジローは殺されたのは奴らの仕業だ。転生者を暗殺するんだ。それだけじゃない。シユウ、いや柊人、君も処刑という手段によって殺されるんだ。」
「なんでその名前を…」
「知っているとも、我々はこの世界でただ生きようとする君たちの味方だからだ。」
兵士は手を襟から服の中に入れ、ネックレスを出した。
「碧い翼…」
「これは我らイデアールの紋章。目的は転生者の国を作ることだ。」
柊人の眼には光が戻ろうとしていた。その瞳の中には碧い翼が映り込んでいる。
兵士はネックレスをしまい、シユウをまっすぐと観る。
「選べ、我らの同胞となり次郎の無念を晴らすか、ここで無様に奴らに殺されるかを。」
柊人は口を開く。
俺は兵士によって大量の情報を知った。
この世界には自分以外にも転生者がいたこと、その転生者がアトラス人、カイネによって殺されているという事、ジローも転生者であったこと、そして転生者が戦う組織がある事。
賊に襲われて死にかけるし、意味の分からない獣に襲われるし、毎日生きるだけでもこんなに苦労しなきゃいけない。
その上、今度は処刑されるという事。命を狙われる。
神は俺を無理やり転生させておいてこんな仕打ちだ。死んだ後に地獄に叩き込むだなんてやっぱり許せない、納得いくわけがない。
心は決まった。
その答えを俺は口にした。
ひとまずドロン。




