24.ボッカニュムペ
何を頼りにしていたかはわからなかったがソフィの足は確実に麻薬の取引相手、おそらく賊の基地に向かって進んでいたようだ。
ここに芝の色が少し暗い部分がある。ソフィが言うにはこれが賊の基地の入り口だそうだ。
「この中にいるのは数人の賊だと思うわ。」
「じゃあ大したこと無さそうだな。」
決してふざけて言ったつもりはない。なのにソフィは刺すような視線を俺に飛ばして険しくしている。
「な、なんだよ。」
「べつに。」
明らかに何か言いたそうにしているソフィに俺が仕掛けようと口を開くと、言葉を発する前にミアに口を塞がれた。
「うるさくしたらバレますよ。」
「…」
「…」
一番冷静にいたのは意外にもミアだった。
「じゃあ行きますよ。」
ミアはしゃがんで芝の色の境目に手をひっかけ、そして力いっぱい込め始めたため、俺達は全力でその手を止めた。
「行かないんですか?」
なんで俺たちが必死に止めたのかを理解してないようだ。
一番ポンコツなのはやっぱりミアだった。
少しミアを諭した後、ソフィがゆっくり蓋を開けて入り口周りに敵がいないことを確認し、基地に侵入した。
机と椅子が並んでいて壁には重要人物の似顔絵と情報がピンで止められ、いくつもの宝箱や強力な武器と防具、宝石や美術品が飾れている。
蓋を開けるまでのイメージはそうだった。
実際はただの洞窟。俺でもわかるくらい人気なんて全く感じない。
それなのに遠くに気配があるとソフィが言うものだから、一本だけある広い道を進んでいった。
「私は気配を感じないけど、ミアはどう?」
「探知しても全く反応は無いです。」
「そう…」
さっき数人の敵がいるだろうという予測を立てたのに外れたのか、ソフィは何か考え込んでいる。
洞窟に入ってからちょっと進んでも敵は現れないし、探知にも引っかかっていない。
「とりあえずもう少し歩くしかないだろ。」
さらに歩く。
道もだんだん狭まり、三人横並びでは辛いから俺が後ろについて進むこととなった。それだけでもここの賊をぶちのめす理由になりうる。
「そんな風にしているならついて来なきゃよかったのに。」
「な…」
言い返すことのできないことがあることを理解した。
「私の顔に何かついてますか?」
「いや…」
小声で話していても大きく聞こえるくらい声は響き渡る。厄介なところに賊は基地を建てたものだと思うし、こんな厄介なところに突っ込んでいくソフィは何なんだ。
「賊を倒す必要なんてないのにな。」
「なに?」
俺が嫌味を言うとソフィは一瞬だけこっちを威圧した。
「私も同じことを考えてました。ソフィはもう騎士じゃないのになんでですか?」
ミアと俺とは思っていることが違うのだが、言われてみればヲーリア王からの依頼も断らなかったし、今回に至っては進んで賊を退治しに行っている。でも興味ないな。
ミアは俺とは違うようでソフィを熱い視線を送っている。
それに返したのは意外にもいつもの冷たい視線をミアにして怖い顔だった。
「騎士になったから悪党を殺すわけじゃないでしょ。」
たった一つ言って早歩きしていくソフィをミアはポカンとして見ていた。
立ち尽くすミアを見ていられなかったから俺はその肩をそっと叩いた。というか励まさないと俺が歩けないからだ。
このアジトに入ってから数十分。細い道の先はまだ見えない。
「流石にあきらめるべきだ。」
「…」
恐らく正論となった愚痴をぶつけられたソフィは黙ったままだ。
これはチャンスか?
「仮にここで敵が現れても明らかに罠だろ。戻ったほうがいい。」
「…」
さらに的確であろう指摘をしてもソフィは言い返してこない。
威圧感がないし、これならいけるか?
「これ以上進んでも無駄だな」
「ちょっと、シユウそれ以上は」
小声でミアが止めようとしてきたが気にしない。今が好機。
「まだ進むって言うならそいつは馬鹿に違いないよなぁ?」
響き渡らせるくらいの大声でソフィに的を射た愚痴を叩きつける。
「…」
無反応。
なんかおかしい。あまりにも静かすぎる。
いつものソフィなら堪え切れなくなって鋭い一撃を返してくるはずなのに何もしてこない。
ありえない。
「おい、ミア。探知は効いてるか?」
「え、敵はいませんよ?」
「そうじゃない。」
「!?」
ミアの足が止まった。やっぱりだ。
「ソフィ?」
「…」
その頭が俺にぶつかるくらい後ずさりしながらミアは確認した。
ミアは黙ったままゆっくりとこっちを振り向くのと同時に壁の松明が奥の方から消えていく。
「まずい、逃げるぞ!」
真っ暗になっていく中、半面は違った。
「は、はい!」
迷うことなく後ろ向いて真っすぐに逃げる。
いつもの怖い顔じゃなかった。どちらかと言うといつもよりも怖くなかったが殺気を放っていた。
「シユウ、伏せてください!」
「は?」
後ろからミアに押し倒された後、前から飛んできた三本の高速の矢が頭上を通りすぎた。
急いで立ち上がろうとするが、ミアに押さえつけられて立てない。
「おい!」
「まだ来ます!」
さらに頭上を矢が飛んでいった。
早く逃げないと追いつかれると思って後ろをみると、化け物はいない。
「逃げ切った?」
「いえ、それよりも探知があります!」
「え?」
「ソフィのです!」
なにを言ってるかわからない。さっきまで追ってきていた化け物はソフィじゃないのか。
「どこにあるんだ?」
「あっちです!」
ミアが指さしたのは右。つまり岩の壁。
「は?」
「ほ、ほんとうですよ。」
さっきからおかしなことばかり起こっている。だったら壁が壁じゃないこともあり得るか。
そう思って壁を通り抜けようとしたが、頭をぶつけただけだった。
「何してるんですか?」
「いや、幻の壁ってやつだろ。」
「その類なら探知でわかりますよ。」
馬鹿にしたようにしているがソフィが入れ替わっていたのに気づいて無かっただろ。
一方通行の真っすぐな道でどうやって横に向かえというのか。というかどうやってソフィは移動したんだ。
「それに知らない生物の反応が三つ。いえ、今二つになりました。ソフィが一人倒したみたいです。」
「うーん?」
どうやらまた迷路の中に入ってしまっていたらしい。ソフィだけが敵のいるところに飛ばされてしまったが、殲滅しているようだ。
「とりあえず戻るか。」
「そうですね。」
また長い道を歩くことになるかと思ったが、すぐに入り口に戻っていた。
しかもそこには縄で縛られた賊と待ちくたびれっているソフィがすでに待っていた。
ソフィの話ではいつの間にか俺とミアが後ろから消えていたらしい。そのまま前に進んでいったら敵と遭遇。返り討ち。
それで敵を探していたら入り口までの道を発見。敵を縄で縛り、持ってきて待機。
「まさか妖術使いがいるだなんて厄介だったわ。」
「そうだな。」
賊のくせに魔法を使おうだなんて生意気な奴らだ。
俺とソフィは縛りつけられて気絶している二人の賊を睨んでいたが、ミアはなんか首をかしげている。
「どうした?」
「シユウにはさっきも言ったのですが、探知したときはソフィ合わせて四人でした。一人足りないです。」
「そうね。この中に術師はいないわ。」
気づいていなかったのは俺だけだったみたいだ。敵がいるのになぜ余裕な感じなのか。
「逃げたのか?」
「賢い相手ならそうでしょうね。少なくともミアに見つかってない時点で近くにはいないと思うわ。」
ミアはソフィからの信頼が厚いようだ。そして俺もソフィに対して戦闘の面では信じているから大丈夫ってことにしたい。
「じゃあこいつら連れて戻るわよ。」
そこそこ重い賊を梯子に上りながら外に持っていくのは大変だ。そう考えていた間にソフィは入り口の蓋を上げて賊を放り投げていた。
「怪力だったんですね。」
「え、ええ。」
俺が言おうとしたことをミアが言うと意味が変わることを理解した。
外は真昼。強い日の光が真上から突き刺さってくる。
その光も地下から出てきたばかりで眩しい。
俺が太陽を手で隠している後ろでソフィは賊を蹴り起こし、脅している。
今までのどのソフィよりも怖い。本当に騎士だったってことが後ろから放たれている。
幸福にも賊は賊の親玉に忠誠を誓っているタイプではなく、すぐに命乞いをして降伏してくれた。
「素直なのね。」
賊二人に痣は何一つないのにもかかわらず、顔は青ざめて寧ろ生きるのをあきらめているようにしかみえない。
「じゃあ行くわよ。」
縛りつけられている賊の縄を持って、絶句している俺と空を飛ぶ鳥を目で追っていたミアにソフィは声を掛けた。
「行くぞ。」
「え、はい」
「どうしたの?」
まだ空を見ているミア。何かすごいものがあるのか?
空には何もなく、おかしいことは見た限りでは全くない。おかしいといえばその受け答え。
少し遠くでミアを心配しているはずのソフィの顔の向きはもちろん空ではなくミアだ。でもなんかおかしいぞ。疑った目をしている。
「…!」
気づいたら俺はソフィの冷徹な横顔を見ていた。
その視線の先を追おうとした視界の先、何かがいた。
「いや違う、後ろだ!」
ソフィは縄を放し地面に大きく転ぶように飛び込んだ。どうやら俺が叫ぶ前にソフィも気づいていたらしい。
「いつの間に…」
そいつはすり潰していた。バキバキと音が鳴り渡る。巨大な歯は賊だったものを捻じりこんでいる。
現れたのは約2.5m、太い尾と二足歩行、そしてデカい口を持った妖怪みたいな生物だ。
今回そんなに内容がない...
というよりも思ったよりも戦闘が長くなりまして、分割するしかないんだよね。




