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ノエル・ファンタジー  作者: 霜惣吹翠
【三章】エンテレケイア(前編)
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112.【廃病院編1】曲がり角、窓に映る自分の顔

紫の夜は虫も鳴らず、息は白かがっていた。踏まれた草は半分石のよう、凍える夜の草原は足を憚らせるようだ――――普通の人間ならば。


「ふんふんふーん♪」

「……はぁ」


ロイバは鼻歌交じりに夜の草原をスキップしていた。その息は色もなく、けれどその後ろを溜息しているリュードのそれは不満の色のようだ。

またその顔も同じくして、呆れた様子で、草と跳ねるロイバを半ば石化させようとする蛇の眼光に似たそれを飛ばしてた。


「おい、今なら帰れるが。村もまだ近い、夜もまだ深くはない。明日は早いから――――」

「え? 帰るの? 一人はちょっと寂しいなぁ リュードもそうでしょ?」

「違う。何か勘違いしているようだな」

「勘違い?」

「いいか、僕はお前を止めに来たんだ。また馬鹿なことをしないようにだ」

「馬鹿なこと? 別にリュードに迷惑はかけないよ?」 

「はぁ……」


その内心。馬鹿は自分を客観視できない、故にどう言おうがその発言に信用を置けるものではない。

ただその不満は態度に現れるだけで、やはり目の前のアホにそれを説明したところで無意味だという事もリュードは理解できていた――――が、どうにも力ずくで止めるしかないのかと、それも不服のようである。


「まぁ仮に賊に襲われたり、シュロムとか、もっと変な人に襲われても僕が死ぬだけだしなぁ……あ、もしかしてリュードは僕を心配して――――」

「そ、そ、そんなわけがないだろ」

「あ、僕はそういうのはいらないよ?」

「噛んだだけだ!」


ただただ冷たい夜に響くリュードのその声は遠くで眠っていた狼も欠伸をして迷惑がるばかりだった。

しかしてその本意はリュードに向けるべきではなく、感情的になった彼を面白がって繰り返し煽るロイバの方だろう。


そのようにして騒がしい二人は草原の草の硬さも忘れ、言い争うままに進んでいった。ニヤニヤとするロイバはそれも計画の内のように、しだいにリュードの息の色が濃くなり、透明になったのに目を向けていた。


「おおー、ここのようだね。いやぁ、絵の一つでも書きたくなる絶景だよ!」

「……結局、着いてしまったか。しかもこんな汚い廃墟のどこか絶景なのか」

「廃墟じゃなくて、廃病院だよ! ほら、幽霊探しに行くよ!」

「幽霊か。いっそのことコイツを成仏させてやれよ」

「え、医者の幽霊ってこと? というかそれってもはや幽霊の医者でもあるよ!」

「あぁ……」


額に手を当ててうな垂れたリュード。それは目を煌めかせるロイバと、その奥にある廃病院のせいだった。もはやリュードは馬鹿そのものよりもその環境を憎みだしていた。

またそのせいか、最終的にリュードは廃病院の向こうに聳える山脈を睨みつけていた。


「幽霊出たらどうしようかな。一応お菓子とか持ってきたんだけど」

「死んだ人間が現存する物体を……わけが……」

「ちょっと何言ってるかわかんないね。まぁとりあえず、出会ってからでいっか」


廃病院。その外装はひどく古びていた。煉瓦の壁は黒ずみ、ところどころ崩れており、そうでないところは蔦に覆われ、三角の屋根も大穴が空いている。

良く言えば歴史を感じる観光スポットかもしれないが、悪く言えば汚らしい廃墟。そして多くの人にとっては後者であることを疑う余地もない雰囲気が漂うところである。


ただやはりロイバは少ない人の方で、恐怖ではない胸の高鳴りで廃病院の錆びつく扉をずらし、その耳にくる尖った音に感動しながら中に入っていった。

続いてリュードも入っていったが、魔術で召喚した耳栓を付けた真顔である。きっと幽霊がみたら悲鳴を上げるほどの真顔である。


「うわぁ、中も決まってるね。これは絶対、いるよ。うん、間違いない」

「いるわけがないだろ。汚いだけでいるなら、そこらじゅうの村に湧いて出るものだ」

「いやいや、こういう人気のないところにいるものだよ」


床のタイルはでこぼこ、隙間から雑草が生えており、白い壁紙も剥がれかけていたり黒ずんでいたり、ただそう客観的に見れたものなら、つまらない真顔を浮かべるものだが、そこから溢れ出る偏見とファンタジーは恐怖や好奇心を生むのだろうか。ロイバはズカズカと進んでいく。


「おお、結構部屋あるよ。ベッドも多いし、あ、弾力はないね。でも泊まれそうだね。疲れはほとんど取れないかもだけど」

「おい、どうしてこんなクソみたいな場所で泊まろうとしてるんだ。ここは宿じゃないぞ、アホか」

「いやいや、これだけ寝るところあったら僕にとっては楽園だよ。海賊だったころはよく、こう言う場所に泊ってたし」

「海賊なのに廃墟暮らしか。大人しいものだな」

「まぁだから裏切られちゃったのかな。殺しちゃった仲間とか化けて出来てきちゃうか? まぁそれもそれで面白いね」


この性格はもはや病気ではないかと疑っていたリュードであったが、呪いの可能性も出てきたと困惑していた。

やはりそれは知恵かプライドか、元海賊にとっては病棟の示すところにこだわりはないようだ。窓もなく、敷き詰められたベッド、特にカビや爪跡が目立つ壁。さすがに、その作りは非常に劣悪であるのは知っているはずだろう。

とはいえ弾まないベッドで何度も楽しそうにジャンプしているところ、リュードはそれすらも可能性にあると推測し始めていた。


「いや、どうせ無駄だ。アホを治す薬はない」

「え?――――いや、薬だったら、ここ廃病院だし、診察室いけばあるかもしれないね。どこだろ?」


飛ぶのをやめたロイバに驚いたベッドは中心からボギッと折れた。

その傷みをもちろんロイバが気にすることは無く、颯爽に廊下へ出ていくと診察室を探しに走っていった。


「まったく、夜中というのに元気なやつだ」


リュードはその後ろを追おうと歩き始めた。少し緊張のほぐれた顔つきと廊下にトントンと落ち着いて響く足音、これ以上考えても仕方ないからというところだと自己理解し、諦めていた。

そう歩いた曲がり角。廊下の割れた窓の破片が隣に目立つ、そこに映った自身の顔に――――それすらも考えて意味もないのにどうして自身はまたロイバについて行ってるのか――――とどこか浮かべた面をしているように見えていた。


ただリュードはそれも考えず、ただ奥で騒ぐロイバのところへ歩いていた。

三人称で書いてみてます。ロイバ視点だとおちゃらけすぎるし、リュード視点だと知識がありすぎるので。

まぁでもほとんどリュード視点みたいなものなんですけどね。

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