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ノエル・ファンタジー  作者: 霜惣吹翠
【三章】エンテレケイア(前編)
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110.【東京編4】天使の子

ビルの隙間を抜けると赤と白の点滅が警官数十人を露わにした。青服の男たちは獣のような目つきで俺とソフィを囲んで、身動きを取らせまいと静かに銃口をこちらに向けている。


「先回りされてたのかよ。クソ」


俺は大人しく両手をあげた。

もはや捕まったらどうなるかなんて考える余裕もないほど、こちらに差し向ける警官の威圧感は本物だった――――だからこそ、俺は気づかなかった――――いくつもの発砲音がすでにしていたことに。


「そんな馬鹿な!」


こっちはもう降参しているのに、なんで殺しに来るんだよ。ここは日本じゃないのか。いや、アメリカとかでもこの状況は撃たれないはずだろ。


状況を非難して困惑しても何かが変わるわけもなく、俺は為すすべなく銃弾によってハチの巣にされるだろうと目を瞑った――――が、


「ボサっとしてたら死ぬわよ!」

「あれ?」


ビンタしたかのようなソフィの叫び声に自分が生きていることに気づいた。しかも傷一つなく、その代わりに足元に穴だらけになった警察官一人の死体が転がっていた。


「こ、これって?」

「さっさと皆殺しにしてやる」

「おい!」


どうやって銃撃を防いだのかを聞く前に、そして警官たちが再びこちらへ銃口を向ける前に、ソフィは宙へ飛び上がり、その群れへ飛び込んでいってしまった。


警官らの正確な銃口は、置いてかれた俺なんかより、凶暴なソフィへ向けられていった。

ただソフィは警官たちの群れの中、撃てば同士討ち、銃口は向けられるだけでしかなく、ソフィは警官たちをばったばったと倒していっている。


「さすが……」


ソフィはいつもと比較にならないくらい乱暴で感情的に戦っている、でもそれはその気迫に出ているだけで、動きはむしろ研ぎ澄まされているし、むしろ冷静なのかってくらい、的確に敵の弱点を見抜いているようだ。


まったく隙の無いソフィの様は美しい武舞のようで、思わず見惚れてしまう。


「……かまわない、撃て」


なんだ、微かに声が聞こえたような。どこからだ、いや、気のせいか。

ここは東京、辺りは煌めき、数知れない人が歩いている。今だって歩きスマホする肩がぶつかったくらい――――?


「なんで、こんなに近くに人が沢山?」


警官たちで気付かなかったけど、ソフィがこんなに暴れているのに、一般人を離さないんだ。危険すぎるし、てか、すぐそこで警官が倒されているのに、この人たちは何事も無く無視して歩いている。


「なんだよ、この異様な状況は」


まるで人間とは思えない、周りを過ぎる何かの挙動と違和感。それにさっきの警官――――嫌な想像が頭を巡る、まさか警官共――――その予想、血飛沫とともに発砲音は木霊した。


ありえないと疑うが、すぐにまた発砲音は響いた。警官共はその群れの中にいるソフィを目掛けて、自分らが死のうとも関係なく、鉛玉を放っている。


鳴るたびに俺は驚き、考えられない。さらに言えば周りを歩く人もまったく銃声に無視したままなのも。


ただ銃声がだいたい8回くらい。しだいに小さく響くようになったそれと、たった一人血まみれで立っているソフィの姿に驚くことはなく、でも遅れてそう、銃声が鳴りやまなかったことにソフィが怪物だって実感させられた。


「……まだ来るみたいね」


バタバタと足音はソフィへ向かってきている。あれだけ倒したのに警察は湧いて出てくるようだ。


「キリがない。とりあえず、逃げるべきだ」

「……そうね」

「じゃあ、こっ――――おい!?」


迫りくる警察の足音。俺はすぐにまた路地裏へ行こうとソフィに声をかけようとした。でもその前にソフィは一般人の列へ歩き出していた。


「奴らから隠れるならむしろこっちのほうがいいわ」

「ど、どういう意味だよ」

「わからない? 説明している暇はないわ」


ソフィは構わず人混みの中へ潜っていってしまった。

なぜそうしたのかって、まさかこの沢山の人を銃弾の盾にしようとしているのかって、そうじゃないと確認したいから説明してほしかった。


だけどすぐそこまで来ている警察はそんな時間を与えない。ソフィと逸れてしまったら、それこそ危険だ。

正直、ソフィの考え、その殺人じみた感覚が、真っ当と理解できる今の自分自身の思考が信じられないでいる――――おかしいのは、この現実の人間なのか? でもなければ――――いや、今はとにかく安全な場所に行って、考えるのはそれからだろ。


別にソフィに賛同するわけでもないが、ソフィについて行って人混みの中へ紛れ、流されていく、流されていこうとした――――すぐに警察の気配もわからなくなって――――すぐに何か耳を塞がずにはいられないほどの高鳴りが響いた。


「なんだ?」

「……大きな何か」


ソフィが立ち止まり、音の方向へ振り向いた。大きい何か――――それが確かにこちらに向かってくる音、掻きむしるような――――まさか。


わずかに人混みを差し込む黄色の光、すぐに俺とソフィは人混みから抜けようと走り出したが――――轢かれて飛ばされた人混みに、雪崩のように、吹っ飛ばされた。


「痛った……」

「見つけたぞ、坊主?」

「え?」


平らになった横断歩道。ぶつかって炎と灰煙を立たせるトラックの中から、そして後を追って現れたワゴン車から、厳つい男らが倒れた俺を睨め付けている。


その手には輝かしき刃の刀、あと拳銃や金属バットなんかも。


「坊主、きっちり仮を返してもらおうか!!」


見覚えのある顔、さっきのヤクザが怒鳴り声をあげ、俺へ刀を振り下ろす――――なんでこのタイミングで来るんだよ。


避けようと身体を起こそうとするが、今の事故のせいで怪我をしたみたいだ、激痛が走ってどうにもならない。


「くそ!」

「新調した刀なんだぜ、良く味わえよ!!」


なんで俺はこんなに運がないんだ。せっかく現実世界に戻ってこれたのに、また殺されるのかよ!


「……刀、いいわね。これ」

「え? あれ?」

「ほら、また来るわ。刀? 剣を持ちなさい」


上半身と下半身、真っ二つになってくたばった新調の刀ヤクザが転がって、あっちにいたヤクザも首無しになって倒れていた。


確かにここは現実世界だ。相手は魔法も能力も無い。とはいえ、ソフィがここまで超越なものなのか。


そう驚いている暇もなく、ヤクザ共が広げた歩道から警察車両が湧いてやってくる。

逃げるべきだと言いたいが、ソフィは刀を持って完全にやる気だ。


警察車両から今度は黒く分厚い防着と、シールドやアサルトライフルなどを備えた特殊部隊が出てきた。

見たこともない銃に一目警戒したソフィだが、やはり今日は狂気的だ、血まみれの上着を脱ぎ捨てると、ニヤついて特殊部隊に突っ込んでいった。


俺は先ほどの事故の怪我で立ち上がるのがやっとで、見ているしかない。

ただむしろそっちのほうが安全だった。ソフィの光輝く剣舞に巻き込まれかねなかった。


アサルトライフルを撃たれる前に倒し、シールドは構えられても回り込むだけ、ソフィは次々と湧く警察を容易く斬り刻んでいた。


「ははは、まさか、ここまでやるか。シュバリーエルミエール。ここは異世界じゃないのにね、君もそう思うだろ?」


「そうだ――――!?」


耳元に呟く声は俺が振り向く前に上昇し、ビルの光に照らされていた。

それは現実世界にあるはずもない――――黄金の翼を広げ、宙を浮いている幼い男の子――――、


「天使?」

「ははは、さすが柊人君! そちらの女騎士さんにはわからない言葉だね!」

「……子供、敵でいいのかしら?」


天使の男児はニコニコと俺とソフィを見下し、その手を引くと特殊部隊の構える手を止めさせた。


「まぁ、話そうよ。久々にまともな人と話せるからさ。ほら、そんな怖い目で見ないでさ、女騎士さん? どうせ空を飛べる僕に攻撃できないのだからさ」

「……」


ソフィは子供でも容赦なく殺気を飛ばす、でも天使の子はまったく怯むことなくむしろ無謀を続けるソフィをあざ笑うような顔だった。



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