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ノエル・ファンタジー  作者: 霜惣吹翠
【三章】エンテレケイア(前編)
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106.【風の町9】シフトドライブ

「大魔法。いわば命を削って行う規模の大きな現象の実現だ。あのゴーレムはおよそ60人を生贄に造り出されたというわけだ」


リュードは今さっき壊されてしまった三階建ての家の高さのあるゴーレムとそれに反撃しようと向かっている甲冑の男および町の男らを眺めながら説明した。


生贄によって実現された現象か。ゴーレムっていうのはあくまで物体を無理やり固めているだけらしい。数時間経てば勝手に分解して無くなっていくと。だから現象か。

とはいえそんなよりも先に町がぶっ壊されるほうが早い。


「もって5分だろう」


あのままゴーレムが暴れれば、この風の町は5分で完全に破壊されるという意味、甲冑らが足止めしても5分が限界みたいだ。

それまでに俺たちはゴーレムを倒さないといけない。そのための作戦だけど時間ギリギリだろう。


「だからこそ迷っている時間はないってことだろ」

「よくわかってるじゃないか。さっさと盗賊と仕事して来い」

「盗賊? ロイバのことか。別にいいけど、わかりにくいから名前で言えよ」

「やかましい。こっちも集中するから早く行け」


言い返してやりたいけど行くか。なんか負けたみたいで嫌だけど。

俺はあっちの屋根で遠眼鏡からゴーレムを覗き込んでいるロイバへ走った。



リュードの言う通り、確かにゴーレムは家々を壊しながらこっちに近づいている。俺とロイバは街の象徴である巨大風車の屋根の上から、回る羽の間にだんだんと迫ってくるゴーレムを観察していた。


町の男らはゴーレムの足に綱をかけて引っ張っている。転ばせて頭を勝ち割ってやると叫んでいるが、ゴーレムにとっては足を雑草がちょっと痒くしている程度だろう。

あと甲冑の男は相変わらずだ。「うんたらビーム!」とか意味不明なことを喚いている。何がしたいんだろうか。


「なるほど、だいたい60人の塊だから数十人を軽々と引きずれるってことか。大きいからじゃなくて人数で勝ってるんだね?」

「そうかもな」

「冷たいね。そんな顰めてもどうにもならないよ?」

「こっちだって荷が重いし、疲れてるんだ。町の命運がかかっているのに気楽でいるロイバのほうが異常だろ」

「むしろそうだからだけどね」


さすが元海賊。性根が腐っている。

でもそんなのはどうでもいいか。今更緊張されても気持ち悪いし、ロイバはこういうやつか。


「やることやってこいよ」

「わかってるって。ちゃんとヘイトを稼いでくるよ!」


ロイバは気楽というよりももはや楽しそうに向こうの屋根へ跳んだ。スキップしているようにも見えるし、さすがにちょっとムカつくな。こっちは緊張で手の震えが治まらないのに。


あんな巨大なゴーレムを倒せるのか。自信が無いわけじゃないけれど、失敗すれば町は滅ぶ。沢山の人が行き場を無くす。

ロイバみたいに無責任になれない自分が少し嫌でもある。どうなってもいいと思えば逆に震えが止まるのだから。

なんで他人が関わるだけでこんなに自信がなくなるんだろ。


乱暴に建物を壊していたゴーレムがハエのように飛び回っているロイバに気を取られて足を止めた。

それでロイバはさらに喧しくその視界を遮り、注意を引いている。


「鬼さんこちら! あ、見えてないかな?」


ロイバはゴーレムが視認する前にちょうど移動して気を煽り、挑発してまた首を回させている。

そうして気を取られていたゴーレムだが、ロイバがただ煩いだけだと理解したのか、すぐに気を留めず再び進みだした。


「そうはさせないよ! デカ物!」


ロイバはゴーレムの頑丈そうな頭にナイフを当てて、音を鳴らした。リズムを刻んで楽器のようにして遊んでいる。

ただこれも足止めの他の何でもないとゴーレムはわかっているはずだ。だから意味はなさそうだ。やっぱり一人じゃ気を引きつけるのは大変だったか。

俺は作戦変更だと剣を振ろうとした――――が、暴風に手が煽られて止められた。


「やーい! こっち! こっち!」


ゴーレムはロイバの挑発に明らかに乗っているようだ。拳をとにかく振り回している。

視界にあと少しで映らないロイバへ、当たるかもわからない拳でとにかく乱暴に、感情的にも見える、振り回している。ロイバは軽々とそれを躱してまた挑発している。

さらにゴーレムは荒々しく暴れている。獣のようだ。


いや、それだけじゃない。ゴーレム自身が力任せにロイバを殴ろうとしているせいで、バランスが崩れやすくなったのか、今までなんともなかった町の人々の綱に転げそうになって踏みつぶそうとジタバタしている。

それで甲冑の男が指示して、町の人々はそれで離れて行った。


あの器用だった妖魔術師から生まれたとは思えないゴーレムはかなり感情的だった。

自分の命を捨ててまで造り出したこれがこんなものだなんて、妖魔術師はこれを望んでいたのか。一体だれのために何を望んだんだよ。いや、自分のためかもしれないか。


でもそうだ、そんなのはどうだっていい。

ロイバがゴーレムを引きつけている、作戦がうまく行っているのに、ちょっと惜しい気持ちは放っておけよ、手加減なんてするな。


俺は魔剣を力強く握りしめ、ゴーレムの近くの屋根まで跳んで配置についた。

深呼吸をして落ち着く。リュードのいる城壁のほうを確認する。その合図を待つ。


「……ロイバ!」

「わかった! もういいみたいだね!」


キラッと星のように輝いた青を視認してすぐ、俺はロイバに声をかけた。それでロイバはゴーレムから離れた。

その岩頭に詰まった怒りを抱えたままのゴーレムはロイバを追おうと歩こうとするが、足は止められた――――もうぶつかろうとしている青い魔力の光線に。


ゴーレムは身を守ろうと体を丸めようとするが、そんな刹那の時間もない。リュードの放った高圧の鋭い魔力光線はゴーレムの胸に衝突した。


パチパチと眩しい光が一面を点滅させ、ゴーレムの厚い胸が削れていくギリギリとした音に耳が痛む、また削れた岩片が降りかかってくる。

ゴーレムは耐えるばかりで精一杯のようだ、光線を喰らって動けずにいる。


このまま魔力光線がゴーレムを貫いて倒してくれる――――とはいかないようだ。しだいに光線は色が白っぽくなり、途切れ途切れになり、ついにはゴーレムを貫通することなく倒すことなく、消えてしまった。


チャンスは一度きりだった。この攻撃が失敗したのならもう策は何もない。

ただここまでも作戦の内、なぜなら――――その心臓はむき出しになっていたのだから。ゴーレムのコアがその頑丈過ぎる外装から露わになればそれでいい。


あとは――――――――俺がコアをぶっ壊せばいいから。


俺はゴーレムのコアへ目掛けて飛び上がる。ゴーレムはまだ硬直して動けないようだ、これなら楽勝だろう。空中、魔剣に力を込め、狙いを定める――――ゴーレムがこっちに気づいた。


「……勝負してやる、いくぞ!!」


トドメを刺そうと魔剣の力をぶっ放して、一気にゴーレムの心臓へ空を駆けていく。俺を捕まえようとするゴーレムの巨大な右手を置き去りにし、その先に正面から来ている左拳は魔剣で自身を逸らし、横へ躱す。


見えた――――――――碧く輝く巨大結晶、氷山のようなダイヤモンド。強く剣を握りしめ、そこへ剣を突き刺した! 


溶けるように砕け散っていく破片、それはガラスのように脆かった。


コアが消えたところから青い粒々にゴーレムは変わり、昇天していく。雨が空に向かって降っているようだ。回る風車の風に乗せられ、たんぽぽの綿毛のように青は散っていった。


「やったね! 作戦成功!」

「ああ、そうだな……」


湧き上がる声が聞こえる。ゴーレムを倒すことができたんだな。それはよかった。

でもちょっと疲れすぎた。達成感よりも眠気が強い。

ミアも元気にリュードもツンツンとなんか俺に声をかけているけど、なんかよく聞こえない。さすがにヘトヘト過ぎて――――視界も暗くなって――――、


「よくやったわね」


ソフィの一言、俺を純粋に褒めているであろう一言。それだけがはっきりと聞こえて、視界が晴れた。疲れも眠気も弾け飛んだ、嬉しさに負けた。

それでよく見えたソフィの顔だったけど、相変わらずの厳しい顔つきだった。なんかちょっと眠くなってきた。


でも――――――――やっと褒めてくれた。


~~あとがき~~

苦手過ぎるけど頑張った。

あんまり重い話にする気が無かったけど、そこそこうまく調整できた。というかできるだけのことはやった感。


元々は甲冑の男がピンチの時に駆け付け、出オチして笑われる。それでシユウたちが元気になって戦って勝つ展開。ギャグをやろうとした。

でもなんか血みどろになったせいで、できませんでした。


ギャグがやりたくてもしにくい。そんな風になってしまった。

逆に言えばそれほど世界観が指に滲んでいるということかもしれないけれど。


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