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ノエル・ファンタジー  作者: 霜惣吹翠
【三章】エンテレケイア(前編)
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105.【風の町8】馬鹿は世界を救うかもしれない

門に近づくにつれて騒めきは暴音に変貌していった――――――――血まみれの剣を振り回し、逃げ惑う人々を虐殺していく騎士たち。もうそんな音なんてこの残虐な光景に消されていた。


なんで町を守るはずの騎士たちが町の人々を殺しているんだ。

その所業には一切の迷いもなく、淡々と一人一人を追っては斬って息の根を止めている。俺は驚きのあまり、こんなの受け入れられなくて、立ち尽くしていた。


それだけじゃない。巨大な岩の人形が人を掴んでは握り潰したり、足で踏み潰している。殺戮の限りを尽くして、家々を殴ったり蹴ったりして破壊している。

あんなに平和だった町はいよいよ、地獄と化していた。


「おい馬鹿、すぐにここを去る! ぼうっとしてるんじゃない!」

「リュード? なにが?」

「見ての通りだろ!」


必死さに皴まみれになって怒鳴ってくるリュードだが、コイツは何を言っているんだ。見ての通り? そうだ、何故か巨大岩人形が暴れて騎士もまるで山賊みたいに殺して全てはきっと妖魔術師のせいだ。


でもそれは俺が倒し損ねたせいだ。わかっているのにあまり実感がない、実感がないことがすごく虚しくてどうにもならない。


壊れて廃れていく惨状に鐘の音が鳴り響いた。ただそれは巨大岩人形に殴り飛ばされ、横たわった教会の鈴。その下には教会の人が――――!


「ミアは、ミアは無事なのか!?」

「落ち着け、大丈夫だ。シュバリーエルミエールが北門へ連れて行っている」

「そうかソフィが……」

「おい、いい加減にしろ。なんでそんなに混乱してるんだ。確かに惨事ではあるが、もうどうにもならない。受け入れろ。僕たちは撤退するしかないんだ」


わかっている、わかってるさ。こんなのはもう――――。

だけど嫌だ。嫌なんだ。このどこか引っかかっているのは確かな嫌悪感だ。

まだ生きている人を見捨てるだなんてこと、嫌なんだ。できることをやりたい、一人でもいいから助けられるなら――――。


「……おい、まだ助けようなんて思ってないよな? 不可能だ」

「ロイバはどこに行ったんだ?」

「人の話をまずは聞け」

「知らないんだな? わかった」

「おい!」


俺は剣を握り、人混みへ駆けていく。とにかくあの暴走している騎士を殺すしかない。そうすれば逃げられる人だってでてくる。

騎士は全部で10人だ。倒せない相手じゃない――――。


「……コロス」

「こっちのセリフだ!」


俺は狂った騎士に思いきり斬りかかった。騎士は避ける気もなく正面から、俺の剣を喰らって倒れた。

まさかこんなに弱いだなんて拍子抜けだな。よし、次はあっちにいる騎士を――――なんだ? 背中に何かが、斬られた?


そんな馬鹿な。残り9人の騎士はぜんぶあっちにいる。なんで斬られてんだ?

疑問の答えを確かめるように後ろを見ると――――斧を持った女性が、町の女の人が、血走った目で立っていた。


嘘だろ。騎士だけじゃなくて町の人も狂ってんのかよ。

もう意味が分からない。自ら町を壊して、殺しあっていたのかよ。なんだよそれ。


力が抜けて、倒れて、灰色になっていく中、また背中を斧で。わざと死ににくいように、殺さないように急所を避けてなぶってくる。


ふざけやがって、殺すならさっさと殺せよ。なんでそんな風にするんだ――――反撃し放題なんだよ!


俺は斧を剣で弾き、そのまま狂い女の首を刎ねた。

身体は血塗れ、傷だらけだ。でも痛くない、まだ動ける。まぁ、わざと死なないようにされたから。


「くそ……」


最悪だ。町の人々が、自ら町を破壊している。妖魔術師の術のせいだろう。

ただ妖術師はもういない。死んでいるのか、あるいはあの岩人形に何かがあるのか。何なのかはよくわからないけど、助けるべき人だったのも殺人鬼になり果てた。


「もうダメか……」


というか疲れた。なんなんだよ、これ。

助けを欲している人なんていない。やったところで自己満足な気しかしない。いや、違う、あれは妖魔術師のせいで――――ダメだ、もうよくわからない。


俺はこのまま町を去っていいのか。本当は助けを欲しているかもしれない人たちを見捨てていいのか。だけどもう、こんなの助けられない。

死んでいく、倒れていく人ばかりが目について――――もうしんどい。


体力も限界、気力だってそうだ。頭はもう回んないし、昨日の疲れも溜まってもうキツイ。ここまでやって、これ以上どうしろというんだ。

俺はやるだけやった。無理だろ。そうだろ。


俺は剣をしまい、門のほうへ歩く。

一歩も小さく、あんまり動かない。やっぱり限界だった。


気力を絞って歩いていた。後ろから聞こえる唸り声も微かにある悲鳴も耳を塞いで、血の水たまりを踏んだ――――――――揺れる波紋に粒々、光の雫が眩しい。


「なんだ? あれ?」


眩しさに目を細めて見上げた門の上、やたらと輝いている白がある。なんかの奇跡か?

もしも神だったならこの惨状をどうにかしてくれ―――――――いや、あれって。


「はっはっはっは! なんとも悲惨な現実だろうか! ただ心配はない、私がやってきたのだからな!」


あの光っていたのは甲冑だ。甲冑の男だ。

あいつの大声が何重にも響いている、そのせいで後ろにあった騒音が少し止んで、こっちに来る足音に変わっているのだが。あの馬鹿野郎。

俺は足を引きずりながら走る、半分は狂軍団から逃げるため、もう半分はあいつを殴るためだ。


「忙しないな! しかし安心したまえ、今から救ってやる! 何もかもをだ!」


元気に息巻いて甲冑の男は門の上から飛び降りた。くるくると縦に回って四回、もちろん盛大にこけた。てか頭からぶつけたな、死んだか? 微動だにしないし。


「……」


辺りは静まり返っていた。

俺だけではない、後ろの足音も止んで見てみると怖い目をしたままの騎士と人々も驚いてじっとしていた。


「……生きているとも! さぁ、かかってくるがいい! 全員私が倒してやろう! まずはそこにいるボロボロの少年からだ!」


俺に指を差している、よな?

なんか勘違いしてるのか?


「俺は正常だぞ」

「ええい、嘘をつくな! そちらからこないならこっちから行ってやる!」


こいつ、話が通じない。殴りかかってきた。

俺はそのなんとも定まらない拳をすらりと避け、足を蹴って転がせた。


なんかもう、無茶苦茶だ。俺からすればこの状況でふざけているコイツのほうが、あの騎士たちよりも狂っているように見える。


「……な、なんだ。あのアホは?」

「……馬鹿すぎる。てか不謹慎だ、ゴーレムが町を破壊してるのに」

「そうだ。町の人からすれば堪ったもんじゃない、さっさとどっかに行っ――――え?」


あれ? なんか町の人たちも騎士も普通にしゃべってる。

目つきも柔らかくなっているし、まさか術が解けているのか。なんで?


「なんだ、そうだったのか君たち。だったらあとはゴーレムだけだな! 行くぞ皆の衆!」


甲冑の男は俺たちの疑念を無視して、スタスタとゴーレムのほうへ走っていった。

まさかあいつ、状況を理解していないのか。いや、確かにゴーレムだけなんだけどさ。


「あ、そうだ。治療師は倒れている人々を治して! 騎士は私に続け!」

「わ、わかりました!」

「え、い、行くぞ!」


なんなのか予想しかできないが、たぶん妖魔術師の人を狂わせる術よりも甲冑の男が狂っていたのだろう。あるいは馬鹿すぎた?

まぁどうでもいいか、もう。


それにちょっとだけまたやる気が出てきた。


「おい、あの馬鹿野郎は何なんだ? 狂化が解けているぞ」

「リュード、理解できたならたぶんお前は天才だ。それよりもゴーレムだ」


甲冑の男と騎士たちが向かって行くが、ゴーレムに勝てはしないだろう。というか止めた方がいいのか。


「ここは誰の町だ? 俺たちの町だろ。騎士だけじゃない、あんなイかれた甲冑野郎に町を救われるのも癪だろ、俺たちも行くぞ!」

「おー!」

「そうだそうだ!」


なんでだ。町の若い男らも落ちてる武器を持ってゴーレムのほうへ向かって行った。勝てるわけがないのに。てか、門が閉じられていたとき何もしなかったくせに。

なんなんだよこれ、あの甲冑の男は一体――――?


「おい馬鹿、あれじゃ時間稼ぎにしかならない。ゴーレムを倒す作戦を立てたから聞け」

「え? お前までやる気かよ」

「……ああ、なんでだろうな。でもそれはどうだっていい、やるのかやらないのかどっちだ?」

「やるに決まってるだろ」


ひょっとしたら俺たちも術を掛けられていたのかもしれない。そう思うほどに今、戦える気がしている、力がまだ出ている。

ただやっぱりよくわからない。


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