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ノエル・ファンタジー  作者: 霜惣吹翠
【三章】エンテレケイア(前編)
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104.【風の町7】カウンター

妖魔術師。

妖術も魔術の両方が使えるという青肌の男が目の前に立っている。もちろん昆のような杖を構えて。

妖魔術だけじゃなく昆の近接攻撃もあるということだ。もはやなんでもできるんじゃないのか。


「どうした? 戦うつもりがないなら逃げるがいい」


俺もロイバも武器を出したままなのにそっぽ向きやがった。なんなんだその余裕は。こっちは敵でもないっていうのかよ――――そんな丸出しの背中、切り刻んでやる!


感情のままに剣で斬りかかるが、半透明のシールドに跳ね返されるだけでまったく攻撃は届かない。

だったらシールドごと破壊してやるって何度も叩いてみても、シールドには傷一つできない。なんて頑丈な魔術なんだ。


「シユウ、そのまま続けて!」


ロイバはそう掛け声を出すと妖魔術師の表から斬りかかった。どうせ守られるだけだろと思いながら俺はロイバの言う通りに奴のシールドを叩いては弾かれてを繰り返す。


やっぱり妖魔術師はビクともせず、ロイバの攻撃を昆杖で軽くあしらっている。もはやよそ見すらしているし、なんにも効いてない。


「ロイバ、これ意味あるのか?」

「意味?」

「やっぱりないじゃねえか!」


早くコイツを倒さないといけないっていうのに遊ぶなよ。こっちが体力と時間を消耗してるだけだろ。


「ロイバ、まずはこの青肌の魔術シールドをどうするかを――――」

「シユウ、この人たぶん、シールド二つ出せないよ?」

「は?」


確かに俺のほうはシールドで守ってロイバのほうは昆で守ってるけど、シールド二枚出せないからって何がどうなるんだよ。やっぱり無意味だろ。


俺が憤っているとロイバは不思議そうに首を傾げ、攻撃を止めた。なんだよ、命令しておいてこれだけだったのかよ。


「シユウ、まだ気づいてないみたいだね。さっきと同じ作戦でいくよ!」

「え? でもそれは無駄だっただろ?」

「シユウならできるよ」


そう言い残してロイバはどこかに隠れた。俺ならできるってどういうことだよ。

ここはちゃんとロイバと話した方がいい気がする。でないと危険だろ――――、


「連携が取れていないで敵を倒そうとするなど、敬意にかけるな。時間ならまだあるだろう、こちらも手を出さないからゆっくりと話し合――――」

「さっきから偉そうで気持ち悪いんだよ!!」


奴の完全に舐めかかった言葉に俺は躊躇わず斬りかかった。敵のくせに親切しようとするな気持ち悪い。

ムカつくが、ロイバの命令通りに俺は再び妖魔術師に何度攻撃する。ロイバの少なからず残った気配を完全に消すためだが――――もはや俺はこの青肌を倒すために攻撃している。ロイバなんか関係ない。


「無駄だ。そんな脆弱な剣など効かんよ」

「うるせぇ!」


さらに力任せに剣を振りまく。ただ妖魔術師はなんともなく、いともたやすくどれも受けていく。

だったらその杖を折るくらいの一撃を叩きつけてやると、俺は思い切り奴に向かって剣を叩きつけた。


そうしたときにやっと俺は冷静になった。待ってましたと剣の行き場に位置していた奴の杖に。

まずい、今更攻撃を止めることはできない。俺はそのまま悪魔的な杖に剣を叩きつけた。


そしてぐるりと回った杖の硬い頭が俺の腹を直撃し、俺はその場で痛みに悶えた。痛みのせいで完全に隙だらけになった。

奴は青く煌めかせた杖を大きく構え、俺に強烈な一撃を浴びせるつもりだ。絶対に喰らってはいけない攻撃がくるって理解できているのに、俺の身体は冷静じゃない。避けられない。


痛みの響いている腹に無情すぎる追撃が入った。その混じりあう痛覚に意識が飛びそうだったが、芝の冷たさが傷を触って戻った。


「ここらへんにしておけばいい。お前は若い、それにこれ以上やるというのならばここでトドメを刺させてもらう。こちらにも時間がないのでな」


妖魔術師は未だに破られていない町の門と、そこで慌てふためく山賊を涼やかに確認しながら俺へ告げた。


そういえばそうか。町の外に出ている騎士たちが戻ってくれば戦況は一変する。俺たちは時間稼ぎだけでも良かったんだ。

こんなことに気づかなかっただなんて、奴に言われてから気づくだなんて、俺はどれだけムキになっているんだよ。感情的になってもどうにかなるわけじゃないだろ。


「全然成長してないんだな……俺は」


前にもこんなことを言った気がする。その場その場でやれることをやった。ずっと必死だったから忘れてることも多いかもしれない。だから成長できないのか。


でもやることは変わらないか。もしも俺がここで逃げれば、奴はきっと山賊の支援に動くだろう。さらに時間を稼ごうとすれば、次に命を取ると言っている。

どっちにしろ、俺はこの妖魔術師を倒せばいい。同じだったら冷静になっても仕方ないだろ。時間稼ぎなんてしたくない、だったら今も忘れてやる。完全に感情に振り切ってやるよ。


「ロイバ、見逃すなよ!」


俺は奴を崩せばいい。たださっきと同じようじゃダメだ。もっと大きくだ。奴のシールドが間に合わないくらいの大きな隙を作らないとならない。

ただそんな作戦はどうでもいい。隙を作るなんて考えてないで、俺一人で奴を倒しに行くつもりで集中する。


「青肌! いくぞ!」

「……」


相変わらずの厳格な顰め面に俺は剣を叩きこむ、奴は杖で受け止めた。とにかく攻める。その気持ちだけど、この鍔迫り合いをどうするか。押し込み過ぎれば抜かれてカウンターを喰らい、弱めればこっちの隙になるかもしれない。


殺意丸出しの俺に奴は無表情のまま。青い肌のせいで土偶みたいだ。気色悪い肌の色だ。

そんなに馬鹿にするなら――――勝負してやるよ!


「さっきからその青い肌が気持ち悪いんだよ!!」


思いの限りを力に込めて剣を押し込んだ。それによって奴の杖は高速でくるりと回り、カウンターの一撃がこちらに迫ってくる。

だがその向かう先は俺の頭の方角、俺は少し屈んで簡単に避けた。そう、あらかじめ調整済みだってことだ。


そしたら奴は杖で身が守れない。ここに俺の剣を叩きつける。カウンターの裏を突いた攻撃を奴に喰らわせる――――はずだったのに、なぜか剣の向かう先には杖がある。杖がもう戻っていた。


俺は力を弱める。とにかく杖にぶつからないように剣を減速させていった――――が、すでに遅かった。奴の杖に俺の剣は勢いよくぶつかり、回った杖の頭が俺の横腹に鈍痛を与えた。


思わぬ杖の配置に俺の頭はまだ追いつけてなかった。何があったのかにまだ戸惑っていた。でもそんな場合ではない、奴がここに追撃を入れないわけがないんだ。

そう気づいて顔をあげると、予感は嫌にも的中。岩の如き奴の杖の頭が俺の頭を割ろうと振り下ろされていた。


俺はすぐに剣で身を守り、奴の追撃を受ける。凄まじい振動が剣と体に伝わって、息が止まりそうになったけど、受け切れた。

強烈な攻撃を防げて少し心が和らいだところだった――――が、まだ奴の攻撃は終わってなかった。奴はそのまま抉るような下からの攻撃を繋げてきた。


「やっぱり昆かよ!」


受け切ったままの俺は空中に打ち上げられた。奴はそんな俺を見上げながら一つ深呼吸をし、杖を構えた。落ちてくるところに一撃浴びせる気満々の様子だ。

でも俺には魔剣がある。空中でも攻撃を避けられる。むしろここで俺が攻撃に転じてやる。そう意気込んで俺は剣を握りしめ、構えた。


「っえ?」


奴は突然、杖をこちらに向けた。青く煌めく粒々が杖の頭を回っている。

魔術を使う気か? だとしても魔剣で避けられる。何の問題もない。俺は構えたまま奴の魔術を待つ――――が杖の周りを飛んでいた青はすみやかに消えた。


何も起こらなかった? 今のは何だったんだ?

その疑問が頭を過ると同時に理解した――――俺は回されて逆さまになっていた。


「風の魔術。言っただろう、魔術も使うと」


俺が空中で避けられないように風で体勢を崩した。あれは風だったのか。

これによって俺は完全に構えを解かれた。急いで奴の渾身の攻撃を避けようと剣を振ろうとするが――――背中にぶつかった奴の声はその痛烈な攻撃に潰されていた。


飛ばされ転がった衝撃に背骨が砕けそう。ただ本当に砕けてないのは、わずかではあるけど剣を振って自分の身体を逸らせたからだろう。でも痛すぎる。


「っ!?」


倒れている時間なんてあるわけがない。痛みだって感じてるわけにはいかないんだった。俺が死ぬまで奴の追撃が止むわけがないんだ。


痛みを噛みしめて立ち上がり、奴の攻撃を剣で受けて受ける。休む間も反撃の兆しもない奴の連撃が続く。俺は守りに徹するしかなく、完全に後手に回ってしまった。

というか絶え間がなさすぎてなにもできない。じわじわと体力が削られるし、攻撃はしだいに速くなっている。


このままじゃヤバい。だんだんと熱と圧迫感に気が揺らいでくる。杖と剣がぶつかって鳴る鈍い音が心臓を止めようとしてくる。

こんな攻撃を耐え続けるのなんて無理だ。だからって止めるすべもない。

確実に近づいてきている限界と死に怯え、力が入らない。抜けてくる――――力が抜けたのに耐えれてる?


奴の凄まじい攻撃の連続はそこまで力を入れなくても簡単に受け切れる。こんなものだったのか? 勝手に俺が焦っていただけ?


「……そうだったのか」

「む?」


今気づいた。最初からコイツの攻撃を受けてもそこまできつくなかった。全然重くはなかったんだ――――――――ソフィに比べればまったく軽いし、かなり遅い。


そうとわかれば何を焦る必要がある。防御しかない? 攻撃に転じる隙なんてどこにでもあるだろ。圧迫感だってソフィに比べれば格下だ!


右からの杖の攻撃だろ。もう遅すぎなんだよ!

俺はその杖を剣で受け止めると絡ませて地面へ叩き落した。


「ぬ?」

「やっと曇ったな」


すかさず薄気味悪い青肌目掛けて剣を振り上げる。これは避けられるが、まだ終わるわけがないだろ。ここから攻めに攻めてやる、反撃だ。


迷いもなく、怯えもなく、むしろ漲る力を乗せて俺は剣をぶつけていく。奴は避けたり、杖で受けたりするが、関係はない。さらに速く、もっと速く、剣を振っていく。剣と杖がぶつかる甲高い音が心臓を高めてくる。


しかし気持ちの高揚とは裏腹に、鋭くなっていく剣撃はしだいに杖にぶつかるばかりになっていた。的確に杖が俺の剣の向かう先にいるようになっていた。完全に読まれる寸前だった――――――――でもそれでいい。


俺は変わらずに剣を振るい、奴はそこに杖を持ってきて守る。それが一度、二度、三度――――四度は来ない。俺は剣をピタリと止めた。そしてあるのは来るはずだった場所でアホを抜かしているお前の杖だけだ。


「ぬぅ!?」

「今度こそ喰らえ!!」


綺麗に引っかかって隙だらけになった奴の胴体に、その心臓目掛け、俺は剣を突き刺す――――しかし奴が素早く後ろに飛んだ。


届け! 届け! 必死に祈りながら剣は伸びていく――――が剣先はわずかに届かない!


「クソ! あとちょっとだっ――――」

「いや、これで終わりさ!!」


ロイバが合わせて奴の背中を突き刺そうと狙っている。確かに奴の大勢はさっきよりも大きく崩れている。でもこれじゃダメだろ。このままじゃシールドが――――ちらりとロイバと目が合った。その目は俺の伸ばしきりつつある剣先に――――!


ロイバのトドメの攻撃に対して奴はやはりシールドを張った。そのナイフの先が待ち構えてるシールドにだんだんと向かって触れようとしていく。完全に防御されてしまう――――がナイフはシールドを触れることはなかった。


なぜなら―――――――俺が奴をこっちへ引きづり込んだからだ。


突き切る手前、俺は片足を軸にして回りながら魔剣を流れるように振るっていっていた。その半周、奴は魔剣の力で俺のほうへ近づいてくる――――奴の背中にはシールドを乗せたまま。そして表は杖を構えられていない。


「やっと完全に崩れたな!」


そのまま回った勢いを巻き込みながら剣を奴に叩きこむ――――なんだと、杖が剣の行く先に向かっている、あれは間に合ってしまう――――――――いや、関係ない。このまま行く!


「っぐ!」


奴の杖は俺の剣に回わされ、凄まじい速度で俺へのカウンターに向かってきていたが、それがぶつかる前に俺の剣は奴の横腹を粉々に砕っていた。奴はその威力にぶっとばされた。


「やった……」

「シユウ、さすがだよ! 作戦通りだね!」


地面にうずくまっている妖魔術師を見下しながら、ロイバとハイタッチ。

あの様子は確実に致命傷だろう。手にもその感覚があった。俺とロイバでこの妖魔術師を、山賊の長を倒せたんだ。


「み、見事だ……ここまでするとは……あっちもダメそうだ……」

「ま、まだやるっていうの!? もしかして聖術まで使える!?」

「はは、生憎それはできない」


ロイバ、あんまり騒ぐな。声が傷口に響く。

妖魔術師はなんとか立つがもう戦える状態じゃないようだ。町のほうを見つめると、門が未だに突破されていないのもわかる――――俺たちの勝ちだ。


俺は勝利を確信しつつ、妖魔術師のほうへ向かっていく。トドメを刺してこの血生臭い戦いを終わらせる。

その前まで来て俺は剣を握りしめ、構えようとしたそのとき――――奴の体が眩く青く発光しだした!?


「そう、聖術は使えない。だが――――まだ大魔法は使えるのだ! 我らに栄光あれ!!」


その言葉と奴から共に放たれた激しい風に俺は立っているのでやっとだった。

大魔法? 何をするつもりだ。その疑問が頭突きしたと同時に気づく――――町のほうにも同じような光が。門のほうだ。


「シユウ! 離れた方がいいよ!」

「あ、ああ!」


晴れた空なんかが暗く感じるほどの眩い青はだんだんと勢いを増す。町のほうにある青を吸い込んでさらに激しくなっていく。

風に肌が、音に耳が痛くなり、青の輝きは強くなっている。


そしてシャッターのように一度光った。


「な、なんだ?」

「え、え?」


白が薄れていくと緑の平原と青空があった。妖魔術師は消えている。一体何が。

俺は続いて町の門のほうに目を凝らす――――いない。山賊も消えている。どっかに逃げたのか?


「シユウ! よそ見してる場合じゃないよ!」

「え?」

「違う、上!」


ロイバの指差した方を見向くと大きな岩があった。白くキラキラした宝石の塊の岩が空中を走っている。なんなんだあれは。

そのまま見ていると門に山は突撃していった――――え? 町の門が岩に崩壊している。


「あれが妖魔術師が? 逃げて今更門だけ壊しても――――!?」


岩じゃない。手足が生えている。立っている。動いている。

そして町の中に――――、


「シユウ、急いで戻ろう!」


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