103.【風の町6】妖魔術師
消火による白煙と入り乱れた声が響く風の町のすぐ外、芝の上で腕組して立っている妖術師がいる。
奴は山賊を束ねる長らしく、門を破壊しようと戦う山賊らの様子を外から眺めていた。
やはり武器は持っていない。純粋な妖術師なのか。
「そこにいるのは何者だ?」
妖術師は俺たちに背中を見せたまま、平原に妖術師の声が響く。
ロイバの気配消しで近づいていたところをすぐに気づかれた。辺りに障害物がないから気づかれやすいとは思っていたが、まだ数十メートルの距離がある。
「シユウ、さっき言った通りに立ち回るよ」
「ああ、わかった」
俺は芝を強く踏み、妖術師のほうへ歩いていく。辺りにはその足音とわずかに町のほうから聞こえる音がある。
妖術師も警戒して、こちらを向いた。その青く皴だらけの醜い顔がよく見えている。
「子供か。剣を持ってどうした?」
「見てわかるだろ。お前を倒しに来たんだ」
「そうか。よかろう」
妖術師はその手を光らせ、細長い杖を取り出した。するとそれを天高く掲げていく。
何かしらの術を使ってくる――――そう思った俺は妖術師の何かを唱えようとする口が開く前に襲い掛かった。
剣を握りしめて走って妖術師の正面、前足で地面を強く踏み、走って溜めたエネルギーを剣に込めて振り上げようとした。
「なんだと?」
俺が剣を振ろうと硬直した一瞬、妖術師は俺に目掛けて杖を振り下ろした。
しかも杖の頭はいつの間にか瓦礫の塊になっており、鈍器に変貌している。詠唱はフェイクで、本当は俺を誘い込んで槌で叩くつもりだったのか。
槌が俺の頭に触れる寸前になって、奴の無表情は不気味な笑みになった。勝利を確信したと言わんばかりの満足げな顔だ――――だがそれは慢心だ。
俺は剣に後ろから押せと命令した。刃を逸らして推進力にしろと。
すると剣は目にも止まらぬ速さで俺の頭の上までやってきて、奴の思い上がった槌を受け止めた。
「ぬ? 魔剣か」
「そうだ」
俺は攻撃を仕掛けようと杖を弾いた――――でもやけに軽い。思いのほか軽すぎる杖に剣が浮ついてしまった。
だったらその分の力をぶつけてやろうと、そこから奴へ剣を振り下ろそうとした――――その次の瞬間、俺は殴り飛ばされていた。
芝に後頭部を強くぶつけた。脳が揺れるし、気分が悪い。
ただそれよりも鋭い痛みが顎のあたりにある。顎から殴られた、そうだった。頭をぶつけたから酔って鈍っていて判断しにくい。
「やはり子供であるな!」
丁度起き上がろうとしたとき妖術師はまた杖を俺に叩きつけようとした。
とっさに俺は魔剣を振り、攻撃を横に逸らし、その隙に立ち上がって距離を取った。
奴の意味わからない攻撃を警戒してだ。てか妖術師のくせに近接得意とかズルいだろ。
「引くのならこういうのもあるのだ」
杖を振り回し、何かを唱えている。今度こそ術が来そうだ。
妖術師ってどんな魔法を使うのか全然わからない。どうやって身を守ればいい。
とにかくなんか来たら避けよう。受けたらだめだ。
俺は両手で剣を握りしめ、奴の動きを観察した。
そうしてすぐに奴は杖をこちらに向けた……向けただけ? 何も来ない。
「え?」
疑問を浮かべてすぐ、俺の両手は何故か持ち上げられ、そこから体勢を大きく崩していた。
目に見えない何かに押された。一体何が――――!?
「これならば避けられまい」
奴はこっちに走りながら杖を振りかぶった。
意味が分からない。なんなんだこいつは。なんでまた近接、妖術師じゃないのかよ。
こっちの土俵で好き放題しやがって。
悔しさがあってもそれより浮かんだ両手と崩れた姿勢に俺は奴の攻撃をどうすることもできない。
理解したうえでただ見ているしかなく、そのまま妖術師に腹を抉られて吹っ飛ばされた。
「……っ」
泥交じりの芝が口の中に入った。
吐き出せない痛みが体の中を蠢いている。
そこに張り裂けそうな手足の感覚が合わさった。
妖術師は杖の頭を布で拭き、再び門の様子を観察しようとしていた。倒れている俺がもう動けないと確信しているのか。
勝手に慢心してるな。
「む? まだやるのか」
気合で立ち上がる。痛みはそれほどひどくない。というか感じない。
手足はふらつくだけで裂けてはないし、内臓は知らないけど見えないならどうせわからないし、わからなくてもいい。
「……ここからだ」
「ならば――――往くぞ」
真顔のまま奴は杖を振りかぶって殴り掛かってきた。
俺は剣で攻撃を受ける。全然軽い。奴の攻撃は全然重くない。
だから簡単に弾ける。そう力を掛けた一瞬、さらに杖が軽くなった気がした。
そうか。奴はわざと力を抜いていたのか。俺の剣を浮かせて攻撃するために。小癪なことをしてくれるな。
そこまでするなら乗ってやるよ!――――俺はより剣に力を掛け、大きく杖を弾き飛ばしてやろうとした。
しかし力がうまく乗らず、剣は勢いよく浮いて俺は前のめりになった。うまく避けられたという感じだ。
でもそのとき視界の横を素早く通り過ぎる杖の尻尾が微かに見えた――――あれがさっき俺の顎をぶつかったんだ。
テコの原理の近い。杖の頭を押せば尻尾が向かってくる。
あれは杖ではなく、槌でもなく、昆だった。
俺が杖を弾けばそのカウンターであれが飛んでくるという事か。
そうやって発見にときめいている一瞬でも奴はやはり攻撃してきていた。
俺は体勢を立て直し、奴の杖を剣で受けた。
そこで鍔迫り合いでもないが止まり、また誘っているという感じ。たがもう乗らない。
俺はこのまま受けたままにする。
「気づいたか? 子供よ」
「馬鹿にするなよ」
「ならばこれはどうだ!」
奴は俺の剣を弾き、杖を左右上下から滑らかに振り回して攻撃してきた。杖の頭、尻尾、だいたい交互に連続してぶつけてくる。俺はなんとか剣で受ける。
でもだんだんと速くなっている。それに――――いつの間にか尻尾にも瓦礫の塊が付いている。やはり昆だった。
遠心力だとか、なんだとかで攻撃がだんだんと重くなっている。
剣で受けること自体は辛くない、ただその速さについていけず、剣でそもそも受けられなくなりそうだ。
どこかで攻撃しないとヤバ――――消えた!? 妖術師が目の前から消えた。どこに行っ――――下か!
杖は俺の足元を払おうと振られていた。足にぶつかる寸前で俺は飛んだ。
そんな使い方もあるとは。ずるい奴だ。
俺は宙にいたまま嫌悪を示していた。対して妖術師はその青い顔に冷たい笑みを浮かべていた。
「まさか!?」
杖が真横から迫ってきていた。避けたとしても宙にいたまま、身動きが取れないところを仕留める技だった。
流れるように気持ち悪い攻撃ばっかしやがる――――ただそれはもう慣れている。
「忘れたのか? これはただの剣じゃない!」
俺は魔剣を自分の上に振り、さらに上へ飛んだ。これによって杖の攻撃は下を空ぶっている。
妖術師は天にいる俺をアホ面で見上げていた。攻撃ばっかして気づかなかっただろ。
お前は確かに卓越した昆?の技術があるかもしれない。
たが俺はそのセオリーの外にいる。この魔剣によって。
だから逆にその青い肌に馴染んだ技が大きな隙になるという事もあるってことだ。
「喰らえ!」
俺は剣を両手に握り力を込め、さらに落下の力を合わせた空中からの一撃を妖術師にぶつけた!
「…………飛び過ぎたな」
奴の杖はギリギリで俺の必殺を受け止めていた。
悔しいが奴の言う通りさっきの杖の二撃目を大きく避けすぎていた。そのせいで落下するまでに時間がかかってしまった。
やっとできたチャンスを俺は決め切れなかった。
奴は杖で俺の最高の攻撃を受け切り、体勢を大きく崩しているだけ。俺は殺せなかった。
すぐに追撃しようと思ったが剣が杖に刺さって抜けない。追撃はできない。
「でも体勢は――――――――大きく崩れているよね?」
「なぬ!?」
気配を消していたロイバは妖術師の真後ろに現れた。その無防備すぎる背中の後ろに。
やっとロイバに気づいた妖術師だが、もう遅い。
ロイバはその手に持ったナイフをすかさず――――急所へ刺した。
俺は体勢を崩せば十分だった。元々そのために俺は妖術師と戦っていたんだ。
全てはロイバがトドメを刺すために。
まぁあと少しでロイバがいなくても倒せてしまっていたけど。
俺は剣を杖から抜き、立ったまま死んでいる妖術師を眺め――――え?
「おい、ロイバ?」
「……シユウ、ダメだ。なにこれ?」
妖術師は死んでいなかった。背中刺されたはずじゃ。
なんでダメって? どういうこと?
全然平気な感じで立っているのだが。
「シールドだ」
妖術師はそう言うと背中から浮かんでやってきた透明な大きな盾を俺に見せつけた。まるで偏光?ガラスみたいな。
あれでロイバのトドメの一刺しを防いだっていうのかよ。
「妖術師? そう思っていただろう。だがそれは違う。だったら武闘家? それも違う。なにかと分類するべきではないが、強いて言うのなら妖魔術師。これが一番適している」
妖魔術師。
妖術も魔術も使えるってことか?
確かにシールドってリュードが使ってたような気がする。
妖術も使えて、武闘もできて、魔術も使える。なんだそれ、反則だろ。
~~~あとがき~~~
シュロムじゃないのにそこそこ強い奴も作れます。
それこそが本当の異世界だということだ?
ちなみに妖術は恐怖に比例して強度が上がる特徴を持ち、対象を混乱させたり、幻惑見せたりなどします。魔術は炎飛ばしたり物作ったり探知など。
ぶっちゃけあんまり区別する必要はないし、区別しなければミアの使う聖術も加えて魔法というのだけど、それでも区別されるのは差別があるからだよ。
妖術は倫理的にダメなものだし、聖術はロアマト由来だから。魔術はそれ以外。
大体そんな感じ。




