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ノエル・ファンタジー  作者: 霜惣吹翠
【三章】エンテレケイア(前編)
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101.【風車町4】救助と虐殺

教会の展望台で遠眼鏡を覗く。


北門は燃えていた。

サーベルやハンマー、弓を持った荒々しき風貌の男たちが北門を破壊して中に入ろうとしている。騎士は槍や弓などで応戦しているが、数が違いすぎる、圧倒的に山賊のほうが多く苦戦している。侵入を防ぐので精一杯だし、いつまで持つか。


なのになぜか、町の北側に煙が立っている。燃えている家がいくつもある。

そのせいで町の人たちは混乱して叫んだりしている。騎士たちがそれを宥めて避難場所である町の南門付近へ誘導しようとしているけど、人数が足りず、うまく行っていないようだ。


「今のうちに逃げた方が賢明だな」

「そうだね。巻き込まれるのはごめんだよ」


リュードとロイバは町を眺め、脱出経路を探している。南門にも山賊が少なからず襲っており、門は閉じられている。山賊のせいで出入り口の門は両方とも封鎖されているんだ。


「あった。あそこの壁なら」

「あそこか。良さそうだ」


ロイバが指を差して場所を示し、すぐにリュードと共に階段を下りていった。

その一方で俺はソフィを探していた。


「シユウ、怪我している人はどこにいるか見えますか?」

「え?」


ミアが隣から聞いてきた。その意味は町に出られないほど怪我している人を助けたいということだろう。

その気持ちはわかるけどそんな場合じゃないし、人なんて小さくなってよく見えない。


「わからないですか。だったら――――」

「ちょっと待――――」

「待ちません。助けに行きます!」


何してるんだと声をかけにきたロイバを押し退け、ミアは階段を下りて行ってしまった。

何があったんだと言おうとしたロイバを叩き退け、俺はミアを追う。


しかし俺がミアを止める前にリュードがその腕を掴んでいた。

ミアは必死に振り払おうとしているがリュードはまったく動じず、むしろ掴む力を強めていた。


「早くしないとケガ人が!」

「落ち着け。お前が死のうとしてどうする」

「違います! 助けに行くんです!」


リュードはまったく言葉が通じない、という感じで呆れて長い溜息をついた。

さらになんとかしろよ、という冷めた視線を俺に送ってくる。


「俺がミアを守る。それならいいだろ」


その視線は半ばイラつきに変わった。

ただ俺はそんなのはどうでもよかった。魔剣の力があればミアを守れるから十分にケガ人を救えるはずだからだ。


「おい、冷静になれ。危険すぎる」

「冷静になるのはそっちだろ。できるならやるだけだ」

「できるだと? だから冷静になれと言ったんだ。相手がこの前みたいな力を持っていたらどうする。死ぬぞ」


リュードは冷酷に反論する。俺には自分が悪者じゃないとうだうだ言っているようにしか思えない。


「どっちでも私は助けに行きます――――!」

「っておい!」


ミアがリュードを振り払って教会を出て行った。俺も続いていく。

背中に不満をぶつけてくるリュードの声が聞こえるが、そんなのはどうだっていい。たとえお前が言ったことが正論だとしても、死にそうな人を放ってられるか。



風車は悲鳴と灰煙を風に乗せていた。

真っ赤に燃える家々、屋台の下敷きになって焦げた遺体、腹を割かれて白くなった女性、止まない声。


激しく昇る煙に紛れて魂が天に導かれることはあるのか、空に手を伸ばしたまま埋もれていく人はそこに行けるのか。


そんなものの答えなんて知りたくない。

俺は怪我をした人を見つけて教会に運び、ミアと教会の人らはその人たちを治療する。

何人いなくなろうが逃げない、こんな恐怖なんてどうだっていい。気持ちは変わらないから。


あと町に火をつけたり盗みや強姦、殺人をしていた暴君と脱獄囚は追い詰めて殺しておいた。特にシュロムみたいな力はない、ただの害悪だった。


一人助け、一匹殺し、血を洗って拭うたびに時間は経つ。

それが悪い方ではなく、いい方に進んでいると確信できるのは教会に戻るたびにミアらにお礼を言う人が増えていたからだった。


「あとはどこにいる?」

「門のほうばかりだ。そっちは騎士たちが対応するだろう」

「そうか」


そこそこ広い教会の床が埋まるくらいになってようやくリュードの探知が止んだ。

あっちの黄金の光に包まれている人たちが疎らにいるくらいで治癒もほとんど済んでいる。

暴漢や脱獄囚も倒したし、俺にできることはほとんどやり終えたみたいだ。


「はぁ……これでやっと町から出られる。まったく、疲れたな」


嫌見たらしいが、リュードも探知という形で協力してくれた。

最初はあまり信用ならなかったコイツの探知は、ここに助かっている命が本物だということで証明された。


どうせやるつもりだったなら止めてくるなよと少し引っかかるところはある。まぁそこは思っているだけにしよう。


「さて、一休みするとしよう――――」

「そんなこと言う暇があったら手伝ってくれないか!」

「なな、なんで僕が?」

「行けよ、魔術師」


リュードのやつ、結構仕事したのになんで自分だけって般若みたいな顔だ。


異世界の消防隊は魔術師が主で、水の魔術で消火していっている。

人手も足りないし、アイツは自称天才なんだ、手伝うべきだろ。

そのまま小さく舌打ちをし、アイツは消防隊について行った。まったく、いい気味だ。


「シユウ、ちょっとこっち来てくれないかい?」


ロイバが階段から他の人たちには聞こえないように小声で言ってきた。

ロイバは展望台から町の様子を伺っていた。いつもと変わらない様子だが、なにか異変があったのだろうか。


階段をのぼって町の様子を見る。家々は沈下されて煙は無くなってきてるし、北門も持ちこたえている。

何も悪いことは起こってないし、なんならむしろ町の中はいい感じに混乱が収まってきていると思う。


「シユウ、町のほうじゃないよ。あっち、平原のほうを見なよ」


ロイバはいつもよりも妙に真剣な面持ちで指を差した。それは北の平原のほう、俺は遠眼鏡を向けた。

鮮やかな緑にひと際目立つ薄土色のそこそこ大きい砂煙があった。


注意深く覗くと砂煙は奥に行くにつれて広がっており、何者かの大群が町に向かってきていることがわかった。それもものすごいスピードだろう。

その正体を確認しようとするが、よくは見えない。ただキラキラと輝くものが砂煙の中にいくつもある。


「たぶん鎧だろうね」

「鎧? ってことは騎士か。援軍が来たってことか!」

「……シユウ、僕はそんな気がしないんだ。あの馬の走らせ方、どうも変だよ」

「変?」

「シユウ、じゃああっちを見てみてよ」


ロイバは今度、北門から少し離れた小さな森を示した。

木々がいくつかあるだけで他には――――――――いや、何匹もの馬が木に繋がれている。


すぐに俺は遠眼鏡で北門を覗き込み確認した。最悪だ、どうやら悪い予感は当たっていたみたいだ。


「シユウ、今度は門のほうを見――――」

「もう見た。もしかしたら、いや――――――――町に向かっている大群は山賊の増援で間違いないってことだろ」

「うん、僕の目が正しければね」


そう気づいたとき丁度風向きの変わり、砂煙から露わになる山賊の大群が明らかになった。ギラギラと光っているのは北門の山賊と似た鎧、馬に乗って町に向かってきている。もはや山賊なのかと疑う。


だが持っているサーベル、その荒々しき風貌、そして何よりも響いてきた野蛮な雄叫びは疑念を粉々に蹴散らした。


「これはまずいことになった……」

「そうだね。あの数はさすがに町が持たないよ。それに今から逃げるのも無理だね」

「そもそも北門だって限界だろ」

「そうだね、やっぱり逃げるしかないね。あそこの壁なら屋根をつたって越えられるよ、ほらあそこを……」


ロイバが逃げ道を示している。俺は聞いていないのに、わからないのかと思って丁寧に何度も教えてくる。怒ることなく純粋に何度も。


その度に気持ちは固くなるばかりだった――――――――やっぱり俺は逃げたくない。


「ロイバ、北門に行ってくる」

「え、ええ? ちょっと!」


別に人間が好きなわけじゃない。ヒーロー気取りなわけじゃない。

ただ俺は逃げたくなかった。負けたくなかった。

もしもここで逃げれば、戦わずにいれば、俺はずっとこのままなんだと、結局誰も助けることのできない弱い存在だと納得してしまう気がした。


その決意で荒れた通りを駆け抜けた。



逃げ惑う騎士たち、崩れた北門、奥で山のようにいる山賊――――――――そんな決意はいともたやすく砕け散った。



俺にはあの山賊らが人間に見えなかった。

野蛮だとか荒々しいとかじゃない、あれは悪魔だ。殺戮を目的としているとすぐにわかる、狂気的な笑みが数えきれなかった。

あの狂人とは違う、本能的な残虐性が奴らにはある。


ダメだ、戦え。退こうとするな。

頭に何度も言葉を叩きつける。ただそんなものよりも敗走した騎士がぶつけてくる肩の鈍痛のほうが強烈だった。


視界は町に流れ込む狂った笑い顔に埋まっていく。

これが現実なのか、こんな奴らが存在するのか、信じられなくて立ち尽くすしかなかった。

恐怖よりも強い驚きに考えるのをやめた。


「っえ?」


そんなおかしくなった頭を斬ったのは一人の女騎士だった。

すらすらと流れるように山賊の首を刎ねていくソフィの姿が俺を正気に戻した。


「な、なんだ、あの女は!」

「は? なにがあ――――」


血が噴き出し、頭が宙から降ってくる。

一面は紅く染まり、山賊どもは断末魔をあげる前に死んでいく。とても静かで軽やかに、まるで最初からいなかったかのように。


「何逃げてるの! 騎士ならば最後まで戦いなさい!」


何人か斬るとソフィは逃げ往く町の騎士に強く怒鳴った。

その背中を叩き破るほどの声は騎士たちをすぐに門へ振り向かせ、彼らは武器を掲げた。


「ソフィさんに続け!!!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


見れば少なすぎる数の騎士たちはその場を覆い尽くすほどの叫び声をあげ、山賊の大群へ襲い掛かった。

騎士たちの凄まじい士気に山賊たちは慌て退こうとしている。その声量が自分たちよりも大きかったから本能がその人数を勘違いさせた。


「逃げることは許さない。往け」


だがその戦況はこの場を貫通する冷たき声にすぐに一変した。

騎士たちの奮起する声に関係なしに聞こえた小さく冷徹な声が退こうとした山賊たちの足を止めた。

そして山賊らはたちまち何も言うことなく、騎士らに突っ込んでいった。


静寂な日の下、山賊らは騎士らを正確に虐殺していった。まるでその所業はただの処理、殺し方をただなぞっていく精密機械。


数十人といた騎士は数秒も経たずに半分になってしまった。ただ山賊らもその数秒だけの勢いであり、すぐに元に戻った。

するとソフィが山賊らの首を飛ばしていき、あっちの動きを弱らせた。


「なんなんだよ。これ?」

「シュロム……違う、たぶん妖術師だわ」


妖術師とは人を惑わす術や精霊を扱う輩だ。

山賊らの突然の変貌っぷりに誰かが山賊を操っているとソフィは推測したのだろう。

数秒だけ機械のようにする術といった感じか。



~~あとがき~~

たまには締めを締めないでみる。

別にめんどうなわけじゃないんだからね。



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