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ノエル・ファンタジー  作者: 霜惣吹翠
【三章】エンテレケイア(前編)
104/130

100.【風車町3】鐘の音

ゆらりゆらりと回る巨大な羽も、真下から見ると長い棒でしかない。こんなに細くて風車はよく回っているな――――――――無理せずに止まってくれ。


「ムーラン大町の真ん中に位置し、また町を象徴する巨大風車。その歴史は古く、1000年前に建てられたと云われています」

「うんたらとかいう冒険者の日記に書いてあったのか?」

「うんたらじゃなくてラピッドです! あと探検家です」


聳え立つ風車の下、長閑な風とミアの訴える声が流れている。その様子を周りで花を眺めていた老人も子供を連れた親も、微笑ましく見ている。

俺はその目に何もいい事ではないと訴えたい。


今日は休息のために町で過ごすことになった。

だから俺は宿屋で一日中寝ようと思った――――――――のにだ、ミアが「町の散策に行きましょう」と憎らしいほど元気に俺を引っ張ったんだ。

こっちは筋肉痛で歩くのもしんどいくらいなんだぞ。


「シユウ、風車の上に何かキラキラしてます! なんですか、あれ?」

「ミアのほうが町のこと詳しいだろ」


風車の屋根の上に日光を反射して眩しすぎる何かがある。そういう強い光は疲れた体に痛むからやめてほしい。


「町の人に聞いてきます!」

「いや、そんなに気になるか? どうでもいいだろ」

「ひょっとしたら奇跡かもしれないです」


神の起こした現象がこんなに厄介なものなら、俺は神の反逆者になってやる。

ミアは周りにいる町人にあの怪奇現象が何なのかを聞き回っている。でも案の定、町人は首を横に振るばかりだ。


「はっはっは! 少女よ! 安心するがいい、これは奇跡ではない!」


大声が眩しい何かのほうから響いてきた。どこかで聞いたような声だ。

というかだいたい察した。だから眩しいのか。

くだらないな。早く宿に戻って寝たい。


やっぱり観光なんて疲れてまでやることじゃないな。

帰ろうとしたらミアがなんか手を掴んできた。それも慌ただしい様子だ。むしろここは冷静に呆れるところだろ――――――――まさかミア、気づいてないのか?


「シユウ、なんですかこれは!」

「……」

「少女よ! そう驚くことはない! 私は――――」

「シユウ、これってもしかして天のお告げですか!」

「……いや、これは」

「少女よ! 違うぞ! まずは落ち着いて私の話を――――」

「シユウ、このことを町の教会に報告しに行ってきます!」

「……え?」

「少女よ! 待たれ! まずは私の話を――――!」


行ってしまった。

あれは奇跡でも何でもなく、甲冑を着ている変人が立っていただけなんだが。

てかミア、勝手に一人で行動するなよ。お前はいろいろと狙われやすい立場だってわかってないのか。


「待たれよ少年! 私の話を――――って、ええ?」


無宗教の日本人は神のお告げなんて聞こえません。変人の声ならば無視するだけだ。かまってられるか。

俺は砂煙が上がるほど全力で走っていくミアを追って行った。



「どこ行った?」



町の大通り、色々な店舗が並んでいる。昼になって人混みも多く、そのせいでミアを見失ってしまった。

ミアはいろんな奴らに狙われている。自分から逸れようとするなよ。また捕まったら大変だろうが。


「何しているんだい?」

「いや、ミアを探してるんだ」

「ミアちゃんならそこ曲がってったよ」

「そうか。ありが――――!?」


隣にロイバが立っていた。なんかデカいキャンディをペロペロと舐めている。

自然と声をかけてきたから気づかなかった。一体いつからいたんだよ。

まぁいいか。ミアを追って行くとしよう。


「ふざけやがって! ぶっ殺してやる!」


怒鳴り声とともに物が壊れる音がして、一気に商店街は騒めきだした。

あっちのほうで巨漢が少年を一方的に殴っている。なんなのかと周りの人の話を盗み聞くと、泥棒のどうだとか。どうやら自業自得らしい。


しかし巨漢は言葉の通りの殺す勢いで殴っており、さすがに危険。大人たちも止めに入っていくが、簡単に吹き飛ばされて手が付けられない。

それで騎士を呼びに行ったが、間に合うのか。少年が死んでしまうぞ。


「おい、さっきまでの生意気はどこに行ったんだ? おい、おい!」


やっぱり騎士は来ない。間に合わない。

だったら俺が――――――――。


「ちょっとシユウ、行くの?」

「目の前で殺されてるの眺めるなんて嫌だ」

「でも目立つよ。噂になったらいろいろと厄介だよ」


ロイバが俺の腕を掴んだ。

わかってる。目立てばミアが危険にさらされるかもしれない。

だけどこんなのは見てられない。


俺はロイバの手を振り解き、巨漢のほうへ走り出そうとした――――――――そのときだった。


「巨漢よ、手を止めたまえ! さもなくば正義の鉄拳が振り落とされるであろう!」

「な、なんだあれは!」


町人は響き渡る声の正体を見つけ、指を差した。

それは赤い屋根の上、輝く光。まさしく救世主のように見え、そこに立っているのは――――――――甲冑の男だった。


てかまたかよ。

あの甲冑野郎は狼にボコボコにされるくらいなんだ。巨漢に勝てるわけがない。

でもあの佇まいはどこか希望を感じさせる。甲冑野郎なら巨漢を倒してくれるのではないのかと。


そんな切なる期待を寄せていると、甲冑の男は屋根から飛び降りてきた。空中で一回、二回、三回周り、そのまま――――――――顔面を地面に強打した。


やっぱダメっぽい、期待はすぐに消えた。

しかし甲冑の男はすぐに立ち上がり、巨漢の前に堂々としている。


「な、なんだお前?」

「私は世界に蔓延る悪党を倒すために命を懸ける戦士だ!」

「ああ? 俺が悪党だっていうのか? 俺はこのガキが盗んだお仕置きをしてただけだぞ?」

「関係ない、お前は悪党だ!」


威圧感のあるあの巨漢の前にあそこまで胸を張って話している。町人達も頑張れと応援しだしている。

やっぱりなんとかしてくれるのか、この男は。


「な、なんだこいつ。話にならねえ……もういい、ぶっ殺してやる!」

「かかってこい! 愛と正義の拳を食らわしてやる!」


巨漢の金槌のような拳と甲冑の男の鋭い針のように見える拳、同時に二人は殴りかかっていく。

甲冑の男は巨漢ゆえの遅い拳を見切ってするり躱し、その素早き一撃を巨漢の腹へ突き刺した。


「こ、これは……」

「どうだ。これが正義の鉄拳だ」

「……痛くねえ!」

「え?」


巨漢はそう言い、甲冑の男に重い一撃をぶつけ、家の壁を三枚くらい破るくらいに吹っ飛ばした。やっぱりダメだったか。


「イマコソカクセイノトキ……?」


辛うじて生きているみたいだが全身が血塗れになっているし、頭を酷くぶつけたみたいで変なことを呟いているな。


「あ、あの人です!」

「わかりました!」


案の定ボコボコにされた甲冑に困惑していたら、騎士が数名やってきた。

巨漢の男はすぐに取り押さえられ、怪我のひどい少年は町の病院へ送られた。


「……なんだったんだ」

「そうだね。僕もなんか萎えちゃったよ」


俺はロイバとともにミアを追って教会へ向かった。

こっちからすればあの男のせいで変に足止めされたような気分だった。



教会に着くとミアがしょんぼりとして座っていて、その隣にうんざりした様子のリュードが立っていた。ミアの保護者として呼ばれたとかで。


「ミアちゃん、どうしたの?」

「な、なんでもないです……」

「いやいや、なんかあったからそんな顔してるんだよね?」

「ほっといてください……」

「ねぇねぇねぇね――――うっぐ!」


ミアは煽ってきたロイバに拳をぶつけ、ノックアウトさせた。結構痛そうだ。

俺もちょっと煽りたかったけどやめておこう。


「大丈夫? この子、治療した方しますか?」

「いや、自業自得だから大丈夫です」

「してくれよぉ~」


教会の人を困らすなよ。早く立てロイバ。


「まったく……」


なんかリュードが俺を睨んできている。

コイツ、いつも目の敵にしてくるな。俺は何もしてないのに。


「誰かさんがちゃんと見てなかったせいでこうなったが、その侘びはまだか?」

「あ?」

「貴重な読書の時間を邪魔した侘びはまだかと言っているんだ」


リュードはガッツリと喧嘩を売ってくる。そんな目だ。

俺は惑わずにハッキリと答えようと口を開いた――――――――そのとき、外から激しく近づいてくる足音が響いてきた。


「緊急の、避難の鐘を鳴らしてください!」


扉が叩き開けられると、息を切らし、汗まみれの青年がそう叫んだ。

緊急の事態? 突然のことに俺たちだけじゃなく教会にいた人らも驚き、何があったのかを聞こうとしたが、その前に青年はまた叫んだ。


「山賊の大群が町に迫って来てます! 早く鐘を鳴らして緊急事態を知らせてください!」


鬼気迫る青年の様子に教会の人も急いで階段をのぼっていった。

確かに嘘をついているようには見えない。だがそんなに焦ることだろうか。


「この町には騎士が沢山いた。山賊に勝ち目なんてないはず」

「馬鹿か? 町の多くの騎士が任務で外に出てることを知らないとは」

「ええ、そうです。だから早く鐘で外にいる騎士に知らせないとダメなんです」


鐘が三回鳴り響く。耳が痛くなるほど大きな音だ。

でもこれなら外にいる騎士にも伝わるだろう。だったらこれで解決――――――――とはいかなかった。鐘が鳴りやむと雄叫びがどこからか聞こえてきた。


「間に合わなかった……」


絶望して血の気が引いていく青年の顔を見て、俺とロイバは教会の階段をのぼり、町の外の様子を確認した。


だがもうそれは町の外なんかではなかった。

山賊の大群はすでに町の北門に襲い掛かっていた。



~あとがき~

ちょっと書き換えました(2023/10/11)


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