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「お前、何者だ……」
アリスを抱えた少女にハンスは身構える。
(現れるまで、全く気配に気がつかなかった……)
これでもハンスは護衛職を生業としている。
切迫した状況ではあったが、そこらにいる人の気配を察知出来ないほど落ちぶれてはいない。
――現れたこの彼女が異常なのだ。
「彼女の学友です。そう身構えないでください。護衛なのに人を守れない貴方が」
「ッ…」
図星をつかれハンスは警戒心はそのまま、少女を見つめる。上は白いシャツ。下はズボンに、レースアップのブーツを履き、髪を簡単にまとめている姿は少年を思わせる。だが、目の前に現れた彼女が女性だということは体つきから分かった。
彼女――エリス・フローリアは治癒魔術でアリスの頭痛を和らげる。魔力欠陥だろう。
(どうやら、時間魔術の影響だろう。魔力の使いすぎだ。
禁止したけど人の命かかってたししょうがないか…)
とりあえずエリスは、アリスを更に引き寄せ口付けをする。これは、一般的ではないが手っ取り早い魔力回復方法だ。しかもアリスとエリスの魔力の適合率は高い。
「なっ!?」
いきなりアリスに口付けをするものだから孤児院のものたちは驚き声を上げた。
「これでも冒険者の端くれでして。知らせを聞いて飛んできたんですが――」
「私がここに来たことを、アリスに言わないでください」
「っ?!」
「あと、このペンドラゴン伯爵は、死んではないので大丈夫ですよ。アリスに感謝してください」
ベッドの前にいたはずのエリスが一瞬でハンスの背後を取り、小さな声で耳打ちする。ハンスはゾッとした。
――この少女、全く底が見えない。
彼はゴクリと喉を鳴らした。
「友なら、なぜ隠す必要がある?」
「心配させたくないんです。危ないことに彼女を巻き込むことになるかもしれない。……それと、私は何処へでも駆けつけることができます。この意味、わかりますよね?」
ハンスの首筋に、エリスの指が当てられる。
“バラせば、どうなるかわかってるな?” という脅迫であった。
「……最後に聞かせてくれ。あんたはお嬢さんとロードルフ様の敵か?」
「ペンドラゴン卿はともかく。アリスの敵ではありませんよ。言ったでしょう。学友だと。彼女とは仲良くさせてもらっているんです」
「…………分かった。あんたのことは見なかった」
「ご協力ありがとうございます」
エリスは声色を明るくし、ハンスから離れる。
「……駆けつけるのが遅くなってごめんね。アリス。今はゆっくり休んで早く元気になってね。あとは私が何とかしとくから……」
アリスにそう声をかけると、エリスは瞬間移動でその場を去る。その表情は優しく、それでいて厳しいものだった。
「何だったんだ。今のは……」
残されたハンスは、呆然として呟くのだった。
*
エリスは孤児院に来る数分前まで、開発部で新しい機器の演習テストに参加していたのだが、孤児院で魔物と交戦中との通達を耳にして血相を変え、こちらに飛んできた。
明らかに軍服だと分かるものをすぐに脱ぎ捨て、マーキングしてあるアリスの元に飛んだわけなのだが、それはアリスが御光を放つ矢先だった。
ラゼは少し考えた後、ハンスから情報を聞き出して黒い毒蜂のサンプルを回収して軍に戻った。




