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〜転生者達の傭兵国家〜  作者: あぱ
軍人少女
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(仕事が増えた……)


エリスは明らかに拗ねていた。

確かに彼女にとって学園生活は、休暇も同然。しかし、こんなことになるならば、何とかして学園の土日も出勤できるようにはできないのだろうか? 休みに休みを頂けないのはストレスだ。過労死してまた転生とか、笑えない。


だが、ゼーゼマンがわざわざ自分に依頼を押し付けて来たのには理由があるに違いなかった。


(おっちゃんがフラフラしてるのはいつもの事なんだけど、短期間でS級の魔石を何十個も集めるって、異常なことなんだよなぁ……)


S級の魔石は、申請すれば軍からもらえるはず。それなのにゼーゼマンは自ら店に赴いているところを見ると、彼の個人的な行動だとすぐに分かる。


そして疑惑の決定打となるのは『今度茶でも奢ってやる』という言葉。あれはゼーゼマンが内密な話をしたい時に使うワードだ。もしかすると、自分と接触するためにわざわざビーハムに来ていた可能性もなくはない。


(ま、待てよ!?)


エリスはそこまで考えてハッとした。


『S級の魔石:十個』


もしかすると、これは暗号なのではないか?

彼女にならあと数日の長期休みで、この依頼を達成することはできはするが、そこまであの人も嫌味な人ではない。高圧的な態度でよく誤解されるが、ゼーゼマンも正義感が強い男だ。


すぐにその可能性に気が付けなかった自分に、エリスは唇を噛む。昔なら考えずとも気がつけただろうに、勘が鈍ったものだ……。



(魔石を得るために、私がダンジョンに行くことは簡単に予想される。そこでS級の石を十個。……なんで“十”と表記したんだ? プラス? いや、それじゃあ何も分からない。

他にこの世界で十からまず連想されるのは、教会か。

魔石と教会……。『個』は、人と固まる……。

……………………嘘でしょ……)



思考を重ねる間に思い当たる節を見つけて、エリスは顔を青くする。


(じゃ、じゃあ、もしかしてこの『:』は除算記号?! “割れた” って……)


これが意味することはつまり、


(レベルSの軍重要機密が教会側の人間に漏れた


由々しき事態だ……。

未曾有の大事件に発展しかねない、超緊急事態である。

たとえ彼女が任務中でも、大将自らそれを伝えに来るだけのことはあるレベルの問題だ。


(ここで彼と会ったのは、イレギュラーなんかじゃ無い。

帝都からかなり距離のあるビーハムだからこそ、ゼーゼマン様はここに来て、私にこの事を伝えたんだ……)


『学園に通っている間に、何人の同志が危険に晒され命を削っているのか理解しているか?』


ゼーゼマンの言葉がエリスの頭の中で反芻する。

「同志」という言い方からして、部下たちのことを指しているよりかは、もっと対等な関係で任務に当たっている

〈国の目〉の仲間たちを指していると捉えたほうが正しそうだ。


“あの事実” について知っている人間は、〈国の眼〉のメンバーを含めて、軍の中でも一握り。

そして、ゼーゼマンも「知っている側の人間」だ。


軍の仲間にすら教えることを許されていない機密についての話なのだから、大将殿があんな突飛な方法で知らせて来たのは、まあ仕方ないこと。あの身バレすれすれのお小言たちも、いつ彼女が学園を辞めて、姿を消しても可笑しくないように、予防線を張っていたのかもしれない。(それにしたって演技がデカいが)


そしてゼーゼマンは何かしらの状況で、「運び屋」としてエリスを使う気なのだ。スリリングな任務を課されそうなことが、今からでも容易に予想できてしまう。


ゼーゼマンの見せたあの笑み……。

彼の話を馬鹿真面目に、真に受けてしまったことに、腕が落ちたと思われてしまったか……?「遊んでいる暇が〜〜」というのは、もしかすると本音だったのかもしれない。

エリスはゾッとした。


(私は学園で展開する恋愛小説いう名のホラーゲームで、すでに手一杯なんですよぉ……)


何が恋愛小説だ。世界はギリギリのところで平和を保っているというのに。


(下手したら、宗教戦争じゃないか)


彼女は頭を抱えた。


(この恋愛小説、舞台設定凝り過ぎだろ……。誰がこんな世界だって、イチャイチャゲームから想像しただろうか?!

頼むから恋愛小説のイメージ通り、もっと気軽にいこうよ、ねぇ?!!)


エリスは心中、声を大にして叫ぶのだった。



「そろそろ時間ですね」

「そうだな」


一行は土産を買い終え、帰りの準備を整える。アルレンとガイアスは時間を確認して、どちらからとなく顔を見合わせた。二人とも思っていることは同じ。


帰るのに必要な転移魔法の使い手が、先ほどから声をかけ辛いオーラを纏っていることに、不安を感じていた。

これで魔術も不調になどなってしまえば、約束した屋敷に帰ることができなくなる。


エリスの覇気のない姿は、とんでもない胃痛案件を投下されたので仕方ないのだが、だからといって、このままでもいられない。アルレンは遠慮がちに尋ねる。


「その、差し支えなければでいいのですが、何を頼まれたんですか?」

「……仕事の規定上、お教えできません」


気を遣ってくれるのがひしひしエリスには伝わって来たが、とてもじゃないが答えることはできない。


「そうですか……。お力になれず、すみません」


彼らもゼーゼマン相手に、深掘りはできないので、それ以上仕事について聞く事はしなかった。


「そ、そんな! 気を遣わせてすみません。

ありがとうございます。アルレンくん。その一言で私は頑張れるよ!」


シュンとしたアルレンを見て、エリスちゃんは慌てる。

あまりのショックに周りが見えていなかったようだ。


それにしても、今回の休みでアルレンと仲を深めることができたのは収穫だった。エリスは彼に励ましの言葉をもらい、学校が始まるまで頑張って乗り切ろうと誓う。


(きっとアルレンくんも、私と似たような苦労をしているんだもんね)


彼も万能執事として、日々殿下を支えていらっしゃることだろう。


そう思い、エリスは気持ちを切り替えた。

今度、アルレンには軽食を奢ってもらっているお礼に、何かスパイスの効いたお菓子でも差し入れようと彼女は思う。甘いものばかり(言わずもがな殿下とシロナのイチャry)では彼も胃もたれしてしまうだろうから。


「特待生」

「はい?」


ガイアスに呼ばれエリスは彼を向く。彼は無言で何かを握った拳を突き出す。エリスは首を傾げながら手を差し出すと、綺麗な包装紙に包まれたチョコレートが置かれる。


「え?」

「さっきもらった。いらないからあげる」


エリスはパッと顔を輝かせた。


「いいんですか! 私、チョコレートが一番好きなんです!」


やったぁ!、とニコニコ笑うラゼに、ガイアスは目を丸くする。急に元気になることにも勿論目を見張ったが、普段、それほど仲が良いとは言えない自分に、彼女は嬉しそうに顔を綻ばせることにも驚いた。珍しい反応に、彼は目を背ける。


——今のはただの気まぐれだ。

アルレンとエリスが仲良くしているのが気になっていたとか、そんな事は……ない、はず。食べ物を渡せば元気になるだろうとか、思ってない……。


アルレンがそんな彼の様子を、不思議そうに伺っていたことには気がつかなかった。エリスは上機嫌で包みを開くと、ポイとチョコレートを口に入れる。


「ん?」


少し味わったあと、彼女は首を傾げた。


「ガイアスくん。これ誰にもらったんです?」

「さっき店の場所を聞いた女の子」

「このチョコ、媚薬入りですよ。モテるって大変ですね」


「「媚薬?!」」


突拍子もないカミングアウトに、男子ふたりの声が揃う。

ガイアスはエリスの肩を掴んで、「出せ」と言うが、彼女はキョトンとしている。


「大丈夫です。割と強いですけど、断じて人様を襲うなんてことはしません」

「襲うって……」


何故か人と感覚がズレているエリスに、ガイアスは額に手を置く。まあ、それもそうだ。彼女は軍人エリス・フローリア断固たる決意をもって、VIPを襲うなんてことはしない、できない。そんなことをした日にはこの世とおさらばである。


「もう食べちゃいましたし。別に平気ですよ。それよりも、媚薬を盛られかけたガイアスくんのほうが心配ですね」


何も起こる前に早く帰りましょうか、とエリスは告げる。

そこで彼女ははたと予言の書を思い出す。


(あ。これ、ガイアスが媚薬でヒロインとイチャイチャするやつじゃないか?)


突然のシナリオが進むものだから、ついつい見落とすところだった。「何も起こる前」というより、それ自体がイベントだったみたいである。いつの間にか、フラグクラッシャーポジションに就いていたようだ。


小説にハプニングは付き物だとは思うが、媚薬なんて持ち出されるとは恐るべし。護衛対象に薬を盛った経緯を知るためにも、その女の子とやらを突き止めておくべきか——。


「ガイアスくん。その女の子、どんな子でしたか?」

「オレンジ色の鮮やかなワンピースを着てたのは覚えてる」

「なるほど。すみませんが、ふたりはここで待っててください。10分もすれば戻って来ます」


「は?」

「え?」


彼女はそういうや否や、高速移動でその場から瞬く間に消え去った。


(オレンジのワンピース……オレンジ……オレンジピールのチョコ食べたいな……)


白い家屋をものすごい速さで移動しながら、エリスはその女の子を探す。ガイアスの護衛として、接触していた人間の顔はちゃんと把握していたので、オレンジのワンピースを着た彼女ならば見分けられる自信がある。

街を一周しても見つからなかった場合は、仕方がないので見逃すが、ちゃんと捕まえておきたい。


「あ! あの子かな?」


買い物中なのか、バッグを片手に歩くオレンジ色のワンピースを着た女の子を見つける。エリスは速度を落として彼女に近づいた。


「すみません」

「はい?」


ツバの広い帽子を被った彼女が振り向く。

どうやら、先ほど見た子で間違いないみたいだ。


「このチョコ、青い髪の男の子に渡したのはあなたでしょうか? お礼を言いたくて」


包み紙を見せると彼女はぴくりと反応する。


「お礼?」

「はい。美味しかったので、どこで売っていたのか知りたくて」


彼女はふふ、と優しい顔で笑う。


「実はもらったものなのよ。気に入ってくれたみたいで嬉しいけれど、教えてあげられなくてごめんなさい」


エリスはその答えに目を丸くする。

どうやら彼女はそれが媚薬入りのチョコレートだと知らずにガイアスに渡したようだ。


「くださった方は?」

「きっともう海に出てしまっていると思うわ」

「……そうですか。呼び止めてしまってすみません」


いいのよ、と返事をする彼女に忠告と別れを告げ、エリスはガイアスたちのもとへ走り出す。


(偶然なのか、仕組まれたのか……。認めたくは無いけれど、小説のシナリオが強制力を持っていると考えるほうが自然だよな〜〜。また違う神が出てくる可能性もあるし)


ユーラシアのように自分も含め、小説には関係ないはずの人間まで被害が出ていることについて、エリスは頭を悩ませている。法則らしきものは見当たらず、小説のキャストたちの近くでイベントが発生することしか断言ができない。


(シロナは婚約破棄されて、怪物になるって言ってたんだよな……)


つまりは、シロナでは無いかもしれないが、誰かが婚約破棄される可能性が高いということだ。そんな事どうでもいいのだが、もしかしたら関係ない人間が魔物にさせられる可能性もある。


これから忙しくなりそうなので、やれることは早いうちに手を打っておきたかった。


「お待たせしました」


エリスはガイアスとアルレンの前で止まる。

ふたりは手持ち無沙汰で彼女の帰りを待っていた。


「どこに行ってたんですか」


「オレンジのワンピースを着た女の子と話をしに。チョコは貰い物だったそうです。一応、媚薬が盛られていたので、気をつけてくださいとはお伝えして来ました」


「この数分で?!」


アルレンは目を丸くする。オレンジ色のワンピースという条件だけでよく見つけられたものだ。


「鮮やかなワンピースだったので、案外すんなり見つかりましたよ」

「そ、そうなんですか……」


お腹も空きましたし、帰りましょうか。と エリスは行きと同じようにして、屋敷近くのポイントに飛んだ。



その後エリスは美味しい昼食にありつき、結果報告 兼 (誰とはもう言わないが)惚気話を聞き、文化祭関係の作業を色々やって、アリスとシロナに挟まれ就寝した。


三日目の昼には解散となり、エリスは不安を胸いっぱいに抱えて再び軍へと戻ることになる。




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