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「エリスちゃん! 準備できたよ!」
「はーい。じゃあ、行こっか」
日曜日。
午前中は軍での仕事に使えそうなことについて、図書館で借りていた本で勉強していたエリス。これからアリスと商店街でデートの予定だ。偶に部下からもらった私服を着るのだが、一番落ち着く格好がシャツとズボンということで、今日もまるで男子のような装いのエリス。
(うん。計画通り!)
アリスはそんな彼女を見て、頭の中でシロナの作った計画を思い出す。昼食を食べた後は、買い物をしてエリスの服をチェンジ。そして、暗くなったら借りておいた寮の共同スペースでパーティーをするのだ。
「エリスちゃん、何食べたい?」
商店街を歩きながら、アリスはエリスに食べたいものを問う。
「うーん。アリスが食べたいものが食べたいな」
エリスの誕生日なのだから、彼女の好きなものを食べて欲しかったのだが、そう言われては断れない。パーティーの献立と被らないように、アリスはパン屋に入った。
「うわぁ。どれも美味しそうだね」
エリスは並んだパンを見て目を輝かせる。
彼女は食べ物に関しては、何にでも目がないようで、特定の好きな食べ物は無いみたいだ。
「天気もいいし、広場で食べない?」
「うん。いいよ!」
ふたりはパンと飲み物を買って広場に出た。
中心にある噴水が、日差しを反射してキラキラ輝いている。
ベンチで楽しくパンを食べ、次はショッピング。
「あ、見てこれ!シロナにぴったりじゃない?」
「本当だぁ〜。素敵なリボンだね」
アリスはそこでハッとする。
(い、いけない! わたし、エリスちゃんの誕生日プレゼントを買おうと思ってるのに!)
先ほどからエリスは、人のことばかりで自分が欲しい物について語らない。このままでは、彼女が欲しいものを贈れないとアリスは焦った。
「エリスちゃんは何か今欲しいものはないの?」
「欲しいもの?」
エリスはうーんと腕を組む。
「欲しいものって聞かれると、何だか思いつかないや」
にこっと微笑まれ、アリスは内心頭を抱える。
(そ、そんなぁ〜。こうなったら、自分でエリスちゃんにぴったりのプレゼントを用意しないとっ)
アリスは何を買えば良いかと真剣に品物を見定める。
考えてみると、エリスが食べることが大好きということ以外に、彼女が好きなモノゴトを知らない。もう一年以上一緒にいるのに、知っていることが少なくてアリスは驚いた。友達ならまだしも、付き合っているのだ。これではダメだと焦る。
ふと顔を上げると、エリスが何かを見つめていてアリスはそちらに視線を移す。エリスが見ていたのは、青い花。
「ちょっと向かいの店で買ってくるね」
エリスは花束を持って帰って来る。
「お花を買うなんて珍しいね?」
「うん。この花は咲く期間が短いから珍しいんだ。死んだ母と妹が好きな花で」
「えっ」
アリスは小さく声を上げる。青い花 妹 その単語をエリスから聞いた瞬間忘れていた記憶を呼び起こすかのように昔の光景が浮かぶ。お父さんとお母さんとお姉ちゃんと幸せに暮らしていたが悪意が両親を殺した。
以前にエリスが施した魔術の断片の影響で霧のような記憶を見た。
「多分思い出したんじゃないかな?私達は、姉妹であり半身だって事を」
「思い出したよ。ねぇお姉ちゃんいやエリスちゃん、なんで姉妹と知りながら私と付き合おっていったの?」
「だって、好きなんだもん。貴方が」
そう聞いて、アリスは胸がぎゅっと締まった。
彼女に何かをしてあげたい、その思いは募り、アリスはエリスの手を引く。
「エリスちゃん!エリスちゃんにぴったりの素敵な服を見つけたの! 来て!」
「わっ、ちょっと待ってっ」
エリスはつんのめりそうになりながら、元気よく笑うアリスについて行った。
「えっと、どうかな?」
アリスに言われて着替えたエリスは、慣れない服装に戸惑いながら試着室のカーテンを開けた。シロナとアリスが前もって選んでいた服はぴったり。細かいところにまで気の配られたデザインのワンピースを摘んで、エリスは自分自身が服に着せられていないか鏡でチェックした。
「すっごく似合ってるよ! 今日はそれで決まり!」
「えっ?!」
「エリスちゃんも可愛い格好しないと!お小遣いは沢山あるから遠慮しないで!」
「で、でも」
それはあなたのためのもので、私には。と伝えたかったが、半ば強引に服を買い与えられてしまう。
(わ、私ってそんなに貧乏そうに見える?!)
エリスは違う方向に今の事態を解釈したが、的外れもいいところである。そして次にアリスに連れて行かれたのは、美容院。
「せっかくだから、ねっ?」
「ちょ、アリス!?」
ばいばーいと手を振られ、エリスはお姉さんたちにされるがまま。
「どうしよう、この子、凄く素材がいいわ!」
「あら、本当! これはやりがいがあるわ!」
そんなことを言われたかと思えば、髪だけではなくメイクまで施される始末。
「出来ましたよ。すごく綺麗です」
「私って可愛いな…」
エリスは鏡に映った自分を見て思わずそう呟く。
いい感じに長い前髪をセットしてもらっていて顔の輪郭が隠れており、メイクもやり過ぎずにいい塩梅で出来上がっていた。こんなメイクは、諜報部にいた時もする機会がなかったので新たな可能性に驚きだ。
「そよろしければこのコスメ、これからも使ってください。差し上げますから」
「えっ、それは申し訳ないです!」
「いいんです。これでお洒落に目覚めてもらって、またうちに来てくださいね」
紙袋を押し付けられ、エリスは嬉しい困惑をあらわにする。次に出るとちょうどアリスがどこかからか戻って来るところで、彼女はエリスを見つけると目をキラキラと輝かせた。
「エリスちゃん、すーっごく可愛いよ!!」
「あ、ありがとう」
天使に褒められては天にも昇る気持ちだ。エリスが珍しく照れてるのを見て、アリスはそれは嬉しそうに笑う。
「よし。じゃあ、戻ろっか! みんなに見せびらかそう!」
「え? みんな?」
首を傾げるエリスに、アリスはハッとするが、何かを聞かれる前に連れて行ってしまえと、再び手を引いて寮に歩き出す。
「あれ誰だろう?」
「え。可愛くない?」
「あんな子いたっけ?」
「化粧はすげーと」と心の中で思いながら、アリスの後ろをついて行く。いつも以上に人の視線を浴びて、エリスは、落ち着かない。早く部屋に戻ってこの視線たちから逃れたくて仕方ない。諜報部にいたからか、こんな風にして悪目立ちするとどうしても不安になってしまうのだ。
密偵をやっていたならば、これくらいどうでも無いだろう?と思うかもしれないが、現在、彼女はほぼ自然体で学生に溶け込んでいる。何の役にも入っていない、つまりは素の状態にこのような装備で視線を集めてしまうのは、寝間着姿で戦地に立っているのと同じようなことだった。その場に溶け込むことのほうが、エリスの得意とする立ち回りなのである。
「っと」
「っ!」
人の視線から逃れるように俯いて手を引かれていると、誰かと肩をぶつける。
「ごめん。大丈夫?」
「すみませんっ」
余裕が無かったエリスは、慌てて顔をあげて謝った。
するとそこに飛び込んで来たのは、総帥と同じ顔。
「君——」
ガイアスとエリスを見て大きく目を見開く。
「ご、ごめんなさいっ!」
彼女はすかさず頭を下げる。
「あ、エリスちゃん!? どこ行くの?!」
「エリス?」
ガイアスはアリスの言葉を聞いてハッとする。
「まさか——」
彼は走って彼女を追いかけ、その腕を掴んだ。勢いで
エリスはガイアスのほうに引き寄せられる。
「特待生?」
あたふたしていつもより落ち着きがない彼女は、眉を八の字にして今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「な、なんでしょうか」
呼ばれて肯定した彼女は、間違いなく二年A組の特待生
エリス・フローリアであった。
「雰囲気、違いすぎるでしょ……」
「そうですね」
ガイアスにマジマジに見られるエリスは、変な気持ちになる。そんなことはよそに、ガイアスは、腕を引っ張り連れていく。
「あの、どこに?」
「いいから。黙ってついて来て」
「……ハイ」
ガイアスは彼女がまた何処かに行ってしまう前に、誕生日会を用意している部屋に向かう。
「あ、エリスちゃん。やっと追いついた!」
後からアリスも合流し、三人で部屋へ。
「エリスちゃん。開けてみて!」
「え? うん」
エリスがアリスの言う通りに扉を開けた。
パンパンパン!
勢いよくクラッカーが鳴って、エリスは思わず臨戦態勢に入りそうになったのをグッと堪える。
「エリス、誕生日おめでとう!!」
部屋は華やかに装飾され、大きく
「誕生日おめでとう!!」と書かれたバルーン。
エリスはキョトンとして、その光景を前に立ち尽くした。
「って、エリス!凄く可愛いわ!!」
シロナは綺麗になったエリスに駆け寄り、全身をくまなくチェックする。
「うんうん。絶対似合うと思ってたの!
メイクも素敵!!」
「あ、あの。もしかしてこの服も、メイクも最初から私のために?」
やっと今日が何の日か分かったエリスは、何故こんなに良くしてもらったのかを理解した。
「そうよ? もしかして、誕生日を忘れていたの?」
「……ははは。今日は何だか素敵な日だなーとしか思っていませんでした。アリス、ありがとう!」
ちゃんとお礼を言えていなかったことを思い出して、エリスはアリスに感謝を伝える。
「どういたしまして!」
アリスはにっこり微笑む。
「あれがフローリア?」
「驚きましたね」
「化粧ってすごいね……」
側からその様子を見ていた、アラン筆頭の攻略対象者たちはエリスの変わりように目を丸くしていた。
「前髪を下ろすと、あんなに雰囲気が変わるのか!」
ウレック呟きに、「そうじゃないだろう」と心の中で意見が一致する。
「これは色々と面倒になりそうだな」
「そうですね。今の彼女でしたら貴族と並んでも遜色ありませんし、それでいて優秀な庶民となれば人気が上がる可能性が高い」
ガイアスは黙ってアランとアルレンの話を聞いていたが、先ほどまでの彼女の無防備さを思い出すと何故だか胸騒ぎがした。
「エリス、これ食べて!」
「全部シロナ様の手作りなんだよ」
「そうなんですか? すごい!」
シロナが作った料理を前に、エリスは前髪を耳にかけてそれをパクリ。
「んん〜〜! おいひいっ」
目を輝かせて美味しそうに食べる姿は、いつにも増して目を引いた——。




