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「……やめ、る?」
とても困惑した面持ちで、ウレックはエリスに問う。
「はい。なんで剣にこだわってるんですか?」
彼の過去なんて知ったこっちゃないエリスは、さも不思議そうに問い返す。
「どういうこ、クシュンッ!!」
立ち止まって話をしているものだから身体が冷え始め、ウレックはくしゃみをした。エリスは「だから言ったのに」と呟きながら、彼の頭にタオルを乗せて剣の代わりに傘を持たせる。自分はコートの帽子を被って、とりあえず寮に戻った。
「なあ、さっきの、どういう———」
暖かい室内に入ってからウレックは「どういうことだよ」と聞こうとしたのに、エリスは話を聞かずに彼の髪や体を乾かす魔術をかける。風に阻まれ、ウレックは口を閉じた。
「うーん。そうだな。ウレック様、一回お風呂入って身体を温めて来てください。筋肉が緊張しちゃってます。ゆーっくり湯船に浸かって、リラックスして、マッサージかストレッチでもしてから上がってください。私もそうしますから。話はそれからです」
彼女は独断すると、一時間後に!と言ってさっさと大浴場に行ってしまう。取り残されたウレックは呆気に取られていたが、勝負に負けてしまったからには彼女の言うことを聞いてみるかと、服を取りに部屋に戻ってから浴場へ。休日の午前中ということで、ひとは少なかった。
湯に浸かると力が抜けるのがわかり、エリスが言っていた通り筋肉が緊張していたのだと知る。そういえば、最近気を詰め過ぎて身体を労わることを疎かにしていたかもしれない。彼は約束の時間ギリギリまでいて、珍しく長風呂だった。
大浴場から出ると、エリスが椅子に座って待っていた。
髪は乾かした様子だが、珍しく前髪を編み込みではなく、後ろの毛と一緒に結び込んでいるので、ウレックは一瞬それが誰だか分からなかった。お風呂上がりだからか普段ない色気がありウレックは、声をかけられなかった。
「あ。ちゃんとゆっくり出来たみたいですね。場所を移しましょうか」
エリスがウレックを連れて向かった先は、ちゃんと屋根がある武道場。もう少しで昼になるからか、人が減っていくところだった。彼女は端っこの段差に腰掛けると、前もって買って置いた温かい飲み物を取り出す。
ウレックが何だか手慣れているな、と思ったのは気のせいではなく、エリスがこうして誰かを諭すのは初めてではなかった。
(フィーラがまだ、小さい頃だったときを思い出すなー)
雷魔術の部下で、「針如きに力を持ってかれるただの無能なんです〜」と避雷針を使われると全く役に立たない自分を責めていた部活をエリスは思い出す。彼は今では、神経を破壊する電撃を直接相手に流し込むことで克服し、それは優秀な軍人に成長している。
「さて。ウレック様が聞きたいのは、剣のことですよね?」
エリスは本題に移った。本当なら「弱いかって? そんなの自分でどうにかしろ!」と言いたいところではあるが、真面目に頑張るウレックに免じて答えをあげても良いと思った。口で言っても、それを実行できるかは結局のところ彼次第なのだから。
となりに座ったウレックは、タンブラーを覗きながら首肯した。
「……オレは、二度、剣に向いてないと言われたことがある」
「へぇ。それはちなみに誰に?」
遠慮がないな、と思いながらもイアンは答える。
「お爺さまと、生徒会長に……。フローリアも含めたら三人だな」
エリスは「ほう」と感心した溜息を漏らす。自分以外にもそれを指摘したものがいるとは。それも、お爺さまに指摘されたとなると、かなり前から彼は剣の道のために努力してきたと見える。
(うーんそこまで求めるならどうしようかな)
「向いてないって言われてから、オレはずっと努力してしてきたつもりだ。それなりに実力もついて来たと思ってた。でも……」
ウレックは膝の上で拳を作る。
「そうですね。まあ、そこそこ強いですよ。ウレック様」
今更慰めはいらない、と彼はエリスを横目で見返す。
彼女は肩を竦めた。
「でも、もし騎士団長を目指していると言うならば、今のままでは、剣の道ではそれ以上の成長が望めないでしょうね」
エリスの断定的な話にウレックは悔しさがにじむ。
そんなの分からないじゃないか、といつもの彼なら言い返しただろうが、彼女に完敗した後では何も言えない。
「そうでね。そんなに剣が好きならこれは、どうです?」
天衣のスキルで自身の家から呼び寄せた、薙刀。
「これは?」
「これはですね。薙刀といい極東では、結構使われている刀の1種ですね。」
「そうなのか。でも、なんでこれんなんだ?結構馴染むが」
「まぁ理由としては、槍と違う点でいえば、突き刺すというより薙ぎ切るという部分に特化している所でしょうか?貴方の剣は、見たところ特殊で長いのには理由がありますよね?」
「あぁ確かにこれは、特注で作って貰った剣だ。長いリーチを補える文普通の剣より扱いにくいが慣れれば強くなれたと思う」
「そこですね。この薙刀は、慣れるまで時間がかかると思いますがそれをカバーできるだけのセンス 技術 があると思いますし。剣の弱点であるリーチを補えます。どうです?1本試合して見ます?」
「いきなりか!?」
「えぇ貴方なら出来るとおもいますよ」
「でも、これ真剣だろ?大丈夫なのか?」
「さっきの試合忘れましたか?」
「うっ…分かった。後から後悔するなよ」
早速、エリスは剣を構えウレックも薙刀を構えた。
その姿は剣を持った時よりも様になっていた。
さっきのように石を上に投げ落ちたら始まりだ。
エリスが神速で攻めるが薙刀の柄で模擬刀を弾き更に突きを狙う。
(へぇやるね)
「ふっ!」
エリスは、ウレックの薙刀を避け足で蹴りを放つ。
「ぐっ。まだまだ!」
何とエリスの蹴りを受けても倒れず薙刀の柄でカバーした。
「ハハッやるね!」
「ッ!!」
エリスの猛獣の様な瞳をみてウレックは、一瞬身を固めるが何とか耐え反撃をする。
「ヤバっ」
なんとウレックの薙刀が頬をすった。
エリスは、その驚きの成長速度に驚きニヤリと笑った。
「ふー負けた!どう薙刀は?」
「しっくりくる」
「でしょうね。私も驚きました。まさかここまで薙刀を扱うことができるとは。正直、想像以上ですよ」
薙刀術とはそう簡単に習得できるものではない。剣とは異なり、もっと広い使い方ができる武器だ。そして身体から刃が離れる分、扱う難易度も高い。それなのに、先ほどの打ち合いで、ウレックは全く穂先を自分の身体に当てることなく薙刀を操って見せた。何よりエリスという国を代表する兵士に攻撃を当てたのだ、これは驚くべき才能を発掘してしまったかもしれない。
「これ、借りてもいいか?」
「どうぞ。模擬用もありますから、もらってください。あ!薙刀を鍛えるのはいいですけど、また無理したら止めに行きますからね?!」
「わかってる。ここで練習するからいいだろ?」
新しいおもちゃをもらって、遊びたくて仕方ないような無邪気な目だが、その奥には野心が燃えていた。エリスはふっと笑みを溢す。猪突猛進、ただひたすらに努力できるのもまた才能だろう。彼はあのおじさんと同じく騎士団長の座につくのではないかな、と彼女は思いを馳せた。
そうして迎えた冬の学年別トーナメント戦。
結論から言うと、ウレックは薙刀をもって、なんと優勝を収めたのだった。いきなり息子が槍を得物にしていて、観戦に来た彼の家族は驚いたようだが、その勇姿を見て納得していた。明らかに異彩を放っていた。他の生徒たちも、ウレックの急激過ぎる成長具合に、時には自分を省みてみることも大事なのだといい刺激を受けたようだ。
「あ。師匠!」
「……あの、ウレック様。その呼び方はちょっと」
そして薙刀を教えたエリスは、彼に懐かれていた。
「フローリアさんこそ、様はいらないって言ってるじゃん」
「……ウレックくん。師匠って呼ぶのはやめてください」
「じゃあ、エリスさんで!」
そこが妥協点かな、とえりすは、頷く。彼女は今回は二回戦敗退。勿論わざとだ。それなのにウレックから師匠と呼ばれるのは、目立つし怪し過ぎるのでやめて欲しかった。
(今大会は無事に終わったな)
ウレックの茶髪をぼんやり見つめながら、エリスはとりあえず肩の力を抜いたのだった。




