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燦々と太陽が降り注ぐのは、夏と冬に行われる模擬戦のために設置された闘技場である。ドームのような設計の建築は冷暖房完備。客席とフィールドの間には魔法で防御壁が張られ、大勢の観客たちがその中心に熱を注ぐ。
ついにバトルフェスタが始まったのだ。
ルールは簡単。
相手を戦闘不能にして「参りました」と言わせれば勝ち。
最後に残ったひとりが学園ナンバーワンである。
「「きゃあ〜〜!ガイアス様〜!!」」
黄色い歓声がいつもの倍に聞こえるのは気のせいではない。
「久しぶりに聞いたな、これ」
エリスは観客席からなんとも言えない瞳でフィールドの右端を見つめる。総帥の息子は性格が性格なのと、殿下の次に優良物件といっていいハイスペック男子だ。女子が食いつくのも頷ける。
(当たったら負かしてやろうと思ってたんだけどな)
お偉いさんの中には、エリス・フローリアと聞いてシュヴァルツにたどり着いてしまうものがいらっしゃる可能性が高い。自分は煙のように存在感を消して、この大会から身を引かねばならない。本当に残念だ。
(まあ、そんなことより、イベントをどうにかしないと)
この大会で行われる乙女ゲームのイベントは、庶民のヒロインが相手の不正で怪我を負い、殿下が駆けつけるという、結構重要なものだ。
天使アリスに不正で怪我を負わせるなど言語道断。
シロナも手を回してくれているが、エリスも獣のような瞳で真剣にフィールドを観察していた。
「え、エリス。緊張しているの?」
そんな彼女のオーラに当てられたシロナが、少し驚いた顔で彼女に尋ねる。
「はい……。私、剣術はそこそこ出来ますが、スキルがスキルなので、こういう模擬戦は苦手で」
きっとここに彼女の部下たちがいたら、ブンブン頭を横に振って「そんな訳ないだろ!」と指摘しただろうが、彼らはダンジョン深層部に遠征中である。
『それに、アリスに何かあったらと考えると、心配で』
『そうね……。わたくしの方でも色々チェックはしているわ。何も無ければいいのだけれど』
シロナに何かあれば惚れている殿下が真っ先に飛んでいくと思うが、怪我人はよろしくない。シロナも夢中で観戦しているアリスに視線を移した。
『心配しなくても、殿下はシロナを大切にされてますよ。その髪飾り、星祭りで彼からもらったのでは?』
『えっ。なんでわかったの?!』
頬を赤らめるシロナ。
カマをかけたのだが、分かり易すぎて笑ってしまう。
『その髪飾りのモチーフの花、この世界では「ミューレ」と言うんです。花言葉を調べてみるといいですよ』
ミューレの花言葉は、「誰にも渡さない」。
ちょっとゾッとしてしまうのだが、アランのことはシロナ大好き皇子としてしか認知していないので、お似合いだろう。
そこで再び華やかな声が上がり、試合が終わったことを知る。
どうやら、総帥の息子さんは3年生相手に勝利してしまったようだ。さすが規格外。
「そろそろ招集がかかるので、行ってきます」
それを合図にエリスは席を立つ。
「応援してるわ。頑張って。これ、お守り」
シロナは紫色に銀の刺繍が入ったリボンをエリスの腕につけた。それは戦に出る前に恋人や妻が戦士たちに送るしきたりだった。もらった者は、彼女たちに跪き、命をかけて帰ってくると誓うのだ。
これは女神に報いて、いい勝負をしないと示しがつかない。
「仰せのままに。頑張ってきます」
エリスはシロナに跪いて、その手にキスを落とした。
「わぁっ。素敵!」
アリスが目を輝かせたが、その向こうから殺気の混じった視線が突き刺さってくる。
“お前、覚えてろよ?”
殿下の目がそう語っていたが、エリスはそそくさとその場を後にした。どうせ、ヤキモチを焼いてシロナといちゃいちゃすることが明らかなので、すぐに退散したのである。
そんな経緯で、エリスは5年B組の先輩と対戦となる。
時間が長引けば長引くほど、注目を浴びてしまうので、うまい具合で負けなければならない。
エリスは剣を構えて、 先輩と対峙した。
「お願いします」
「……」
最初の挨拶くらいしてくれてもいいのに、と思うが試合開始のゴングが鳴る。
「豁サ繧薙〒縺。繧?≧縺?縺」
「え?」
それと同時に聞き取れない言語のようなものが彼女から紡がれた。おぼろげで焦点の合わない瞳が、エリスを捉える。
(なんだ?!)
彼女は咄嗟に彼と距離を取ろうとするが、幻術にかかったのか身体が動かない。彼女の後ろに黒い霧が現れたかと思えば、その中から何かが姿を見せる。魂が抜けてしまったような彼女はそのまま崩れ落ちた。
亡霊のように出てきたのは、黒いマントを口元まで被った女。
「ごめんなさい? あなたは本当はこの世界にいないはずの存在なの。出しゃばりなモブはお暇してくださいですって。これ以上、この世界の秩序を乱さないでくれるかしら?」
真っ赤な唇に、透明なように白い肌。まるで人形のような女。
「グッバーイ」
懐から剣を取り出して、うっとりとそれを見つめると、エリスの心臓目掛けて一直線。
時が動き出したフィールドには、彼女の姿は、消えエリスが倒れていた。突然の出来事に、観客たちには混乱が走る。
「おいっ。しっかりしろ!」
審判をしていた教師がエリスを起こす。
騒ぎに気がついたファルスがすぐさま幻術を張った。
「エリス!」
「り、じちょ……」
エリスの白いシャツに、赤い血が滲んでいた。
(まだ私弱いんだな……)
肌に剣が当たった直後に、魔術が使えるようになったエリスは辛うじて傷の位置を心臓から腹にずらした。
貫通したが魔術があれば治るだろう。
呪いの古傷を隠さないと後々面倒なので、回復魔術より先に幻術を張る。気を失ってもしばらくは保つだろう。
(なんだったの?この世界の秩序…?まさか、悪神と同じような神とでもいうの!?)
まさか自分が狙われることになるとは。
「ウッ」
エリスは女の術を解こうと無理やり天理を起動したため、激しい頭痛に襲われる。
フィールドで情けない姿を晒してしまい不覚と感じつつ、
彼女の目の前は真っ暗になっていった。




