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〜転生者達の傭兵国家〜  作者: あぱ
軍人少女
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3の30


時は、遡り2か月前。


「ノルさん、報告書です」

「わかった」


シュヴァルツの所属している軍団のNo.2であるノルは、上司不在のため慣れない仕事に奮闘していた。

今のところ、何とか隊を率いて任務をクリアしているが、エリスがいなくなったことは大きい。居なくなってから、彼女が如何に優秀な人だったか痛感させられる。早くエリスに戻って来て欲しいが、自分より年下の上司が任務とはいえせっかく学校に通っているのだ。水を差すようなことはしたくない。


「ノル。そろそろ飯に行こうぜ」


同い年のトヴェリに声をかけられて、ノルは書類から顔を上げる。


「今行く」


いつの間にか随分と時間が経っていた。

席を立ち、主人の帰りを待つ長机を見てノルはため息を吐く。


「団長、どうしてるんだろうな?」

「さぁ? でもあの団長のことだから、うまくやってるだろ」

「あの団長だぞ……?」

「……」


トヴェリは押し黙る。

見た目こそ普通の少女だが、エリス・フローリアは軍の上層部にいる人間だ。任務の時には、油断することなく厳しい判断をするし、訓練の時だって本番相手が弱く感じるくらい本気で殺しに来る。彼女を甘くみたら、痛い目を見ること十割。


「だ、大丈夫だろ」


トヴェリは辛うじて頷く。

任務は全うする人なので、きっと学生に混じれているはずだ。


「だよな……」


ノルも何とも言えない顔で応えて扉を閉めた。午後には他部隊と合同訓練がある。ちゃんと飯を食べて置かないと、後々辛くなる。昔、訓練が辛くて食事が喉を通らなかった時に『死んでも、飯は食え!』なんてエリスにゲキを飛ばされたのは懐かしい。


「お、ノル。頑張ってる?」

「まあな」


ノルが食堂に行くと、仲間たちが自然と集まっている席に座った。


「今な、俺たち団長の話をしてたんだよ。団長の制服姿とか見てみたくないか?」


「お前、それちょっとアウトだぞ?」


「え! なんだよ。お前らは気になんねーの?」


「それは、まあ、気にならないと言ったら嘘になるけど」


「団長も年相応にしてれば、可愛いだろうなぁ。……一体誰が、あの人があんな化け物レベルの強さだって見抜けるよ?」


見た目に反して強すぎる上司を思い浮かべてた男たち。ひとつのテーブルだけ静まり返る。


「おいおいおい。元気が無いなー?」


そこに現れたのは、本日彼ら黒軍と合同訓練をする予定である赤軍を率いるラーク・フェル・ザード大佐である。


「何だ、お前ら。小さな兵器がいないから、合同訓練も心配だって?」


この男、エリスを酷く敵視しており、何かある度、黒軍に難癖つけようとする貴族上りの軍人である。

貴族上りとは、平民とは違って学問を修めているため、多少武芸が出来れば、高い位に着きやすいという意味だ。


「あんな餓鬼一人いないくらいで、そんなんじゃこの先生き延びていけねーぞ?」


黙っていた団員は、静かにラークを睨む。


——言わせておけば、この男、何も知らないくせにペラペラとうちの大黒柱を馬鹿にしやがって。


「ヒイッ」


男たちの目を見たラークはびくりと肩を揺らし、慌てて目を逸らせて退散していく。


「ノル〜」


エットがおちゃらけた口調でノルを呼ぶ。部隊の男たちも彼女に注目した。


「団長は優しいからあいつのこと今まで、流してたけどさぁ」


エットは一瞬でゾッとするような怒りを秘めた表情になる。


「もういいよね?」


——今やっちゃえば、団長の責任にはならねーし。


その言葉を聞いて、ノルはハァと大きくため息を吐く。

エリスがいない今、隊の指揮は自分に任されている。

つまりは、やらかした責任は自分に降ってくる訳で。

じーっと自分に向けられる視線にのるは眉間に皺を寄せる。これだから、団長には早く戻って来て欲しかった……。

が、


「……やるからには、徹底的に叩き潰せ」

「「応!!」」


ノルにだって譲れないことはある。

彼らはヤる気満々だった。



数時間後。


「も、もういい!! 訓練はここまででいいだろう?!」


ボロッボロの雑巾のようになったラークが、訓練場で悲鳴を上げる。その姿はだらしないったらありゃしない。

曲がりなりにも軍人ならば、勇を貫いて欲しいものだ。


「何を言っておられるのです? まだ時間はありますよ、ラーク大佐。大佐があろうともがどうしたのです?我々の隊長は時間厳守を重んじる方ですので、わたしたちもそれに則って行動するように心掛けています」


銃を構えたノルは、笑ってラークにそれを向ける。

訓練なので実弾ではないが、顔スレスレに発砲されたラークはガクガク震え出す。


(40層までしか行ったことが無い癖に、よく大口を叩けたもんだな)


この男が自分より階級が高いことに驚きだ。ノルは腰が抜けているらしい彼に言う。


「次、うちの団長のことを悪く言ってみろ。オレたち全員であんたのことを地獄の果てまで追いかけてやるからな」


ラークはここまでコテンパンにされたことが無かったので、こくこく頷くしか無い。ご自慢の部隊は殲滅状態だった。まだまだ言いたいことはあったが、ノルは撤退の合図を送る。集まって来た仲間たちは、どこかスッキリした面持ちだ。


「はぁー。くっそ弱くてビックリだわ」


隣でそう呟くトヴェリに、ノルも頷く。


「せめて80層くらいまで行けなきゃ、お話にならない。オレたちが今、90層に突入したこと、知らないのか?」


「それは無いだろ。90層どんな場所なのか、見当も付かないんじゃね?」


「あー。なるほど」


ダンジョンは下や場合によっては、上に進むほど強い個体が生息している。地図もない土地を生息に合わせて分割し、先へ先へと進んでいるのが、彼ら軍団。深淵を征く強者たちだ。


「それにしてもな。フェム。貴族ってあんな奴ばっかなのか?」


トヴェリに呼ばれたフェームという少女は貴族の出だ。彼はとんでもないとブンブン頭を横に振る。


「庶民よりかは天狗が多いかもしれませんが、あんなのばっかりな訳がないじゃないですよ!」

「だよな。それを聞いて安心したわ。そうでなきゃ、貴族の学園に送り込まれた団長が気の毒だ」


トヴェリは肩を竦めた。

厳しすぎる、強すぎる、と文句を言うことはあっても、何だかんだで、皆彼女のことを慕っている。この団員達は、エリスが孤児や貴族でも家を継がない子や色々な才能を持った者を連れてきて強くしたのだ。家族や友達が居ない者からしたら軍団は、家族だ。


「あーあ。早く団長、戻って来ねーかな」


誰もが言わないでいた言葉をポロリと漏らすトヴェリに、仲間たちもエリスを思い浮かべる。


「なあ、戻って来たら、パーティーでもしないか?」

「それいいな!団長、甘いもの好きだし、俺探しとくよ」

「きっと私服も、シャツにズボンしか着てないぞ? 妹に頼んで服を買っておいてもらうわ」


戦闘や任務においては頼りになるが、自分のために時間を割くことが苦手な小さな上司のために、彼らは彼女の帰りを待っているのだった。

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