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「今回は絶対に勝つ!」
そう意気込むのは、二年A組のカリナ・ダルリアだ。
去年はずっと二位だった彼女は、今度こそ一位を取ると豪語している。親友のルナ・アローラはそんな彼女を見て、口では頑張れと応援してはいるものの、今回もランド・シルバーに一位を持っていかれそうだなと内心では思っていた。
「二位でも十分凄いのに」
「この際、順位なんてどうでもいいのよ。わたしはあいつを負かしたいの!」
バリバリの闘争心に、ルナはこれ以上近づいたら危険だと判断する。毎日遅くまで勉強して、眼鏡で分かりにくいが目の下にクマを作っているカリナを心配しているのだが、彼女は止まってはくれなさそうだ。
カリナを邪魔するのも悪いと思い、ルナは今まであまり交流の無かったロ・ポ・トロイヤ に思い切って声をかけて勉強を教わっている。
トロイヤは物静かだが、丁寧に教えてくれるし、話してみると面白くていい奴だ。
ルナは明日に迫った定期考査の結果が良かったら、トロイヤを誘ってお礼として商店街にでも行こうかなと考えている。
「一年生はどうだろうね」
話題を変えようと、ルナは後輩たちの話を振る。
「エリスさんに是非とも上位ランクインして欲しいわ。ちゃんと過去問ノートも渡して、打倒・貴族の精神も語ったからきっと大丈夫よ」
(……ごめん。何が?)
全くもって何が “大丈夫” なのかルナにはわからない。
いつの間にか、また後輩にとんでもないことを吹き込んでいたらしく、ルナは頬を引きつらせた。
「一位を取ったら、好きな物をおごってあげるって約束してるの。後輩に抜かされる前にわたしも一位を取らないとね」
やけに気合が入っているなと思えば、そういう理由もあったらしい。
(エリスちゃんに貴族嫌いが移らないといいんだけど……)
ルナはちょっと不安になった。
机にかじりついているカリナを見て溜息を吐く。
もともと体が強くないのに、無理して体調を崩すのはどうかと思う。これはまた二位だろうなーと思いながらルナはベッドに潜った。
「あたし、先に寝るね」
「ええ。わたしももう少ししたら寝るわ。おやすみ」
「おやすみ。カリナも早く寝るんだよ?」
「わかってるわ」
そうして迎えた定期考査当日。
「……早く寝ろって言ったよね?」
「大丈夫よ。何も問題ないわ」
明らかに体調が悪そうなカリナにルナは頬を膨らます。
結局昨日も遅くまで勉強していたのだろう。
「そんなんだから、またランドに負けるんだよ」
「そんな事ない!今回はいつもの倍勉強したの!! 絶対に負ける訳ない!」
ムッとしたルナはぷいと顔を背ける。
そんな体調じゃ、倍勉強しても実力なんて発揮できないだろう。そろそろ不満が溜まってきていたルナはもう知らないと、先に教室に向かう。
後からやってきたカリナはやはり体調が悪そうだったが、医務室に行くことはせず、直前まで復習をしている。
そうしてテストは始まり、昼食を終えた後半戦。
「カリナ!!」
一教科が終わった後、カリナは遂に椅子から崩れ落ちる。答案の回収中であったが、ルナは思わず立ち上がる。
しかしカリナは床に叩きつけられることは無く、彼女を支えたのはランドだった。
「先生。医務室に運んで来ます」
「わかった。君たちは待機していてくれ。ランドが戻り次第テストを開始する」
ランドはカリナを横抱きにして教室から出て行く。
「だから言ったのに……」
ルナは倒れるまでカリナを止められなかった自分に嫌気が差した。数分後ランドが戻ってきてテストは再開。
その日の教科が終わると、ルナはすぐに荷物を片付けてカリナの見舞いに行くことにする。
「待って」
教室を出ようとすると、誰かに腕を掴まれてルナは振り返ると、相手はトロイヤだった。
「その、君のせいでは無いかと思うよ」
最初、何を言われたか分からなかったが、カリナのことを言っているのだと気が付いたルナは目を伏せる。
「あ、ありがと」
「それと。多分、今行くと邪魔になる」
トロイヤが空席に視線をやった。そこはランドの座席で、きっとカリナの元に行ったに違いなかった。
「ハハ。そうだね。ここは未来の旦那に任せるか!」
相変わらず仕方ない親友だなーと息を漏らしながら、ルナは苦笑する。
今回も一位はランドで決まりだった。
*
「ルナ。その、心配かけてごめんなさい」
結局テストは参考点として、後日受けることになったカリナ。全てのテストが終わって医務室に見舞いに来たルナに、いつも強気な彼女が頭を下げる。どうやら深く反省しているらしい。
「わかったならよろしい。体調管理も大事だって、何回も言ってるんだから、次は無いよ?」
「はい……」
しゅんとしたカリナに、ルナはふうと溜息を吐く。
「あ。そうだ。カリナ、期待のエリスちゃんは、頑張ったみたいだよ」
「え?」
「なんと一年生の一位はエリス・フローリア。先越されちゃったね」
「そうなの!」
全て満点を叩き出した特待生は、今や学園中で有名だ。
「先輩として、可愛い後輩のことは守ってあげないとね」
「ええ。悪い虫に将来有望な同志を食われるわけにはいかないわ! 早く元気にならないと!」
庶民の特待生が一番を取るというのは、良くも悪くも注目されてしまう。出る杭は打たれるものだ。
カリナも昔は虐められたことがあったが、ランドに助けられながら貴族たちの学園で頑張っている。カリナは早く回復して、可愛い後輩をまずご飯に連れて行こうと決めるのだった。
その頃のエリスはというと。全身に好奇の視線を浴びて食堂のテーブルに座っていた。お疲れ様会と銘打って、勉強会をしたメンバーでお食事中である。あの事件のことは、広まっては居ないためよかった。
「 倒れた次の日に全科目満点なんて反則じゃない?」
「ハハ。先輩にもらったノートが凄かっただけですよ」
当初の予定では、十位ぎりぎりくらいを狙うはずだったのだが、毒の事件のことで手を変えたのだ。シロナには悪いが彼女に一位を取らせるのは危険と判断し、自分が犠牲になったのである。
(シロナも頭いいからな……)
勉強会のときに確信したが、皇妃となるべく育てられた彼女はとっても優秀で、エリスは一位を取らざるを得なかった。それと、ここで自分の存在を示して、シロナの側にいる庶民だと犯人に認知されたら、何かしらアプローチがあるかもしれないと思った。
「先輩?」
「去年ずっと二位をキープしていたカリナ先輩に、過去問のノートを譲ってもらったんです」
「そうだったの?」
「はい。カリナ先輩はその、打倒・貴族を掲げている方で……」
エリスが口籠るとシロナはそこで話を察してくれる。
こっそりノートを見せてもよかったのだが、流石に所々に「貴族を倒すポイント!」なんてコメントが書かれているものを見せる訳にはいかなかったのである。
「それでも、満点を取るのは凄いわ!エリスの実力よ。わたくしも頑張るわ!」
「カリナ先輩はランド先輩を抜かそうと無理をして、今回のテスト途中までしか受けられなかったそうなので、お気をつけてくださいね」
「そ、そうなの?」とシロナが若干引いている。カリナの過激さに気がついたようだ。エリスはハンバーグを一口。
「あ、あの、もうすぐ短期ですが休みですよね?」
「そうだね」
どこかソワソワしているアリスの問いかけにケルヘラムが頷く。
「も、もしよろしければ、星祭りに一緒に行きませんか?」
一生懸命誘ってくれるアリスが尊すぎる。エリスは思わず頷きそうになるのを必死に堪えた。軍に戻ったら仕事があるだろうし、シロナのことも色々調べないといけないので、星祭りに行けるか分からない。
「ごめんね。俺は他の女の子たちと約束してるから、また今度。きっと祭りでは会えると思うよ」
(こいつ、天使の誘いをそうも簡単に断るか?!)
一応攻略対象なのだから、そこはうんと頷いとけとエリスは内心で吠えたが伝わるはずもなく。
しょんぼりしてしまったアリスに、ウレック、ケルヘラムが一緒に行こうと声をかけ、シロナが行きたいと言ってくれたおかげでアランとアルレンも参戦。
「エリスちゃんは?」
そ最後に尋ねられたエリスは、「是非来て!」というエリスとシロナの視線に負けそうになる。
「……ごめんね。お金を稼がなきゃだから…」
短期休みは軍で働くので、遊んでいられない。
そして、クローディアなどの問題も探らなくちゃいけないのだ。
「エリス!」
「へっ?」
それを聞いたシロナが食器を机に置く。一体どうしたのかと思えば、シロナが潤んだ瞳で自分を見つめているでは無いか。
「お休みの間、わたくしの家に来ない?」
「えっ……」
「いえ。是非、来て欲しいの! もちろんお客様だからわたくしがもてなすわ!」
「そ、それは」
「いいでしょう? 友達とお泊まり会をしてみたかったの。ベッドも大きいし、一緒に寝ても十分よ! どう?」
「え、えっと……。お誘いはとても嬉しいのですが、住み込みで働くので。ごめんなさい」
「彼女にも予定があるみたいだ。また今度にした方がいいんじゃないか?」
「そ、そうでしたの。無理に誘ってごめんなさい、エリス」
「いえ。私の方こそ気を遣わせてしまって申し訳ないです」
ちゃっかりお泊まりを止めさせようとする殿下をエリスは見逃すことはできなかった。どうやら殿下はひどく独占欲がお強い人らしい。
だいたい食事が終わって、祭りについて話しているとシロナとアリスが揃ってお手洗いにと席を立つ。女子ひとり取り残されたはエリスは気まづかった。
彼女はシロナとアリスのおまけなので、彼らと仲がいいとは言えない。
「……殿下」
それでも、この休みの間に何かが起こっては大変だ。
「何だ?」
「絶対にシロナを離さないでくださいね。友人として、彼女を泣かせたら殿下でも容赦はしません」
これくらいハッパをかけておいた方がいいだろう。アランは青い瞳を鋭くして、エリスを探るような目で見つめる。
「俺が彼女を離す訳がない。君こそ、シロナを泣かせたらどうなるか覚悟しといたほうがいい」
いい目つきだ。自分のことを「俺」と言っているあたり、本気度を感じる。エリスは直接彼からその言葉を聞いて安心した。
「男の嫉妬は見苦しいですよ、殿下」
「やっと正体を現したな。たとえ友人だろうが、シロナはやらない」
「そうですか。残念ながら私は彼女のスリーサイズを確認済みですがね。もちろんアリスも」
「なっ……」
耳を傾けていたウレックとケルヘラムもゴホッと咽せる。隣ではガイアスがくつくつ笑っていた。
「ハハ。君って怖いもの知らずだね?」
「飢えて死にそうになるより怖いことはありませんよ」
「「……」」
至って真面目に答えたのだが、全員物言いたげな視線だけをエリスに向けた。
「ただいま。って、どうしたの?」
そこに戻ってきたアリスが異様な空気に首を傾げる。
「んー。庶民といえど友達は死ぬ気で守るって話をしてただけだよ」
「そんな話だったか?」
「違うと思うよ」
エリスは呆れた表情のアランにケルヘラムが応えた。
「ふふっ」
シロナの笑い声が聞こえて、アランが目を丸くする。
「よかった。エリスと皆が仲良く話してくれて! わたくしの大事な友達ですから、もっと仲良くなって欲しいと思っていたんです」
「あっ、わたしもだよ!」
両手を合わせて微笑む、屈託のない天使に、彼らは言葉が出てこない。そしてエリスが彼らと仲良くなることにデメリットはない。
「お気遣いありがとうございます。シロナ。それにアリス」
にっこり笑い返したエリスを見て、攻略対象者の皆さんが微妙な面持ちだったのは言うまでもなかった。




