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〜転生者達の傭兵国家〜  作者: あぱ
軍人少女
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「あ。フローリアさん」


誕生日会の、次の日の朝。アリスから土産話を聞きながら寮を出ようとすると、エリスはユーラシアに声をかけられた。


「昨日はありがとう。これ、お菓子」

「ありがとうございます」


紙袋に入っているのは頼んでいたお菓子に違いない。

彼女の心は弾む。パーティーなんて出れなくても、お菓子さえあればそれでオーケーだった。


「君のおかげで、色んな人と話せたよ。どうせ僕は庶民だからって思っていたんだけれど、視野が広がった。ありがとう」

「それは良かったです」


彼と別れると、アリスがエリスを覗き込む。


「さっきの人は?」

「招待状、いらなくなったから譲ったの。ワンダートレジャーのお菓子ゲット!」


グッと親指を突き立てるラゼに、アリスは「さすが〜」と笑う。


「おはよう。エリス、アリスさん」

「おはようございます。シロナ様!」

「おはようございます」


一仕事終えたシロナと合流して、一緒に登校する。

昨日は殿下にお礼をしてもらったと嬉しそうに話すシロナは幸せそうだ。


「あら?アリスさん、今日も耳飾りを?」

「あ、はい……。大切な方たちが贈ってくれたものだから、つけていようと」


いつもどうり、三人は放課後に庭園で女子会を開くことになった。



「え。じゃあ、フォリアさんは孤児院の先生のクローディア様のことが?」

「は、はい……」


晴天の下、シロナが借り切った庭園のテーブルでお茶をしながら恋話にも花を咲かせる。シロナは安心した顔で、ティーカップに視線を落とした。とても衝撃的な出来事だったのだろう。


エリスから伝えても良かったかもしれないが、一応女の友情の為、勝手にアリスのことをベラベラ話すことはやめていたのだ。


「そうでしたか。わたくし、アリスのことをまだまだ知らなかったみたいですわ」

「わたしもシロナ様のこと、もっと知りたいです! あ、もちろんエリスちゃんのことも!」


それから三人は生まれた場所のことから始まり、色々話した。


「エリスは大変な努力をしてこの学園に入ったのね」


エリスの話を聞き終えたシロナとアリスが口に手を当てる。アリスは、その話を聞いて悲しい思いをした。

双子の片割れを忘れて自分だけ暖かい孤児院で暮らしていたのだから。


事故で親を亡くして、親戚がいなかったエリス・フローリアは冒険者として魔物と戦いながら図書館で勉強していたら、ファリスに気に入られに入学。ということになっている。自分だけ嘘を話して心が痛んだが、任務上仕方なかった。


(ん?)


天使に癒されながら、お茶を楽しんでいるとエリスは視線を感じとる。そっと伺ってみると、金の髪が揺れるのが見えた。どうやらシロナに誘われて殿下が寄って来たみたいだ。


「だからラゼはあんなにご飯を幸せそうに食べるのね」


全く気がついていないシロナは、ケーキを一切れフォークで刺すとエリスの口にそれを向ける。


「はい、あーん」


食べて?とシロナからの圧を感じたエリスは、美味しそうなケーキに思わずかぶりつく。口の中に上品な甘さが広がった直後、エリスには鋭い視線が突き刺さった。


(嫉妬かな?笑)


先程まで和やかな面持ちでシロナを見守っていらっしゃったアラン殿下が、物凄い形相でこちらに歩いて来るではないか。


「美味しい?」

「は、はい。美味しかったです!」

「じゃあ、こっちも。はい、あーん」


拒むこともできず、エリスはシロナからもう一口違うケーキを食べさせてもらう。とっても幸せな空間に違いないのだが、迫りくる殿下が面白い。


「あ! ずるい! わたしも!」


今度はアリスがケーキを掬ったかと思えば、それもエリスに向けられる。


「あ〜ん!」


天使に出されたものを食べないなどという選択肢は無いので、エリスはそれもありがたく食べる。


「楽しそうだな?」

「アラン様!」


そこで登場したシロナの婚約者殿は、顔は笑っていたが、目が少しも笑っていなかった。エリスは飲み込めずにもぐもぐ口を動かしていると、


「あ、エリスちゃん。クリームついてる」


アリスがハンカチで口元を拭いてくれる。すると今度は、アランの横にいたアルレンから視線を感じて、エリスは咽せそうになった。何とかお菓子を飲み込んでシロナが氷魔法で冷やしてくれている冷たいお茶を飲むと、アランとアルレンからの視線が痛い。

「何でこんな奴に」と語っているが、エリスは引きつった顔で会釈するしかなかった。


「今は女子会中なので、アラン様も参加は禁止ですよ」


シロナの悪戯な笑みは珍しく、アランは何も言えずに彼女に見惚れるばかり。アリスのに想い人ついて知ったシロナ様は、ご機嫌なのだ。


「そうか。じゃあ、今度はわたしと二人きりでお茶をしてくれるか?」

「へっ、えっ! も、もちろんです!」


アリスはその様子を羨ましそうに見つめ、アランの後ろに控えているアルレンは全く表情を変えない。エリスは口直しに、もう一度ティーカップに口をつける。

アラン殿下は人目も憚らず、シロナの御髪にキスを落とした。


——ぞわり


その時、エリスの全身に嫌な気配が這う。それは彼女が目の前でおこるイチャイチャに対して感じたことではない。

ここにはいない第三者からの視線が、彼らに向けられている。


エリスはカップを置いて、誰がこんな殺気紛れの視線を送っているのか探るが、一瞬だけだったのでどこから放たれたものか分からない。学園に来て初めて、危険信号が出ていた。エリスの背中に冷たいものが流れる。


(今まで、全く気がつかなかった……)


一瞬で感情をコントロールし、この負の感情を隠していたとなると、相当な手練れだ。天理眼を使えば一瞬だがあれは、容姿がかけ離れた姿になるので使いたくない。


「エリスちゃん、どうかした?」

「ううん。ちょっと考え事をしていただけだよ」


エリスはいつも通りに振る舞ったが、内心は深刻だった。


(周りが危ないかもしれない)


確証はないが、自分の勘がそう言っている。

アランもシロナも、微量に漏れた殺気に気が付いていない。

どうやら、本格的に自分の出番がやって来たみたいだ。


(やっぱり、私がここに送り込まれたのには理由があるんだ)


頭の切れる閣下のことだ。

何かを忌避して「シュヴァルツ」の名を持つ自分を入学させたに違いない——。


(〈国の眼〉としても、彼女たちのことは私が守ってみせる)


ガラスで出来たティーカップに入った氷が、カランと音を立てるのが、どこか遠くに聞こえた。


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