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「早く行くよ。もうパーティーが始まる」
ちょっと呆れた様子の彼の後を着いていけば、会場が見えてくる。ケルのお陰で招待状を巻き上げようと近寄ってくる人はいない。エリスは安堵のため息を吐いて入場しようとした。
(……あれは)
しかし、観察眼に長けた彼女は視界の端に怪しい動きをした数人の男子生徒を見つける。
「招待状、寄越せよ」
読唇術でその言葉を読み取ってしまったエリスは、目を見開いた。
「去年の成績が良かったからって、庶民の癖に調子に乗ってんじゃねーよ」
「お前の家なんてすぐに潰せるんだぞ?」
言い寄られている男子は、糸目をグッと寄せて耐えている。
(やっぱり、人間ってこういうものだよね)
エリスはそれを見て、今度は目を細める。彼らは何故この学園が全寮制なのか理解しているのだろうか?
貴族の家に生まれて、その小さな世界でモノゴトを測るようになればどんな大人に成長するかはたかが知れている。
それを防ぐために、わざわざこうして貴族の為の学園が作られたというのに、一部の生徒には伝わっていないようだ。
「アリス、ごめん。生物学で明日提出の課題出されてたの忘れてたから、私戻るっ」
「えっ!!」
「シロナにも伝えといて! 本当にごめん!」
演技は得意なので、適当に理由をつけてエリスは来た道を戻り、様子を見て瞬間移動する。飛んだのは先程見た先輩方の集団がいた場所。人目につかないそこには、青年が蹲み込んでいた。
「あの」
「招待状なら無いよ」
俯いたまま彼は答える。
乙女ゲームのこともあるが、エリスは同じ平民として、彼を見過ごすことが出来なかった。
「これ、どうぞ」
彼女は蹲み込んで、知らない男子生徒にそれを差し出す。
「え」
それが何かわかった彼は驚いた顔でエリスを見上げた。
「私、殿下とは同じクラスなのでお話しする機会は先輩より多いので。どうぞもらってください」
「君は……?」
「一年A組のエリス・フローリアです」
彼女は招待状を持たせると、にっこり笑う。
「君も庶民なのか? それなのに本当にもらっていいの?」
「はい。歓迎会と同じドレスで出席するのもどうかと悩んでいたところなので。もらってくれませんか」
「ありがとう。なんてお礼を言ったらいいか」
そこでエリスはピンと閃く。
「あ。それなら、出来ればお菓子を貰って来ていただけたら嬉しいな、なんて」
何を言われるかと思っていた彼は、意表をつかれた顔に変わる。
「わかった。僕は二年A組のユーラシア・ロー・ブロッサムお菓子は任せといて」
「はい」
時間が迫っていたので、ユーラシアは駆け足で会場に走って行く。
「ん?ブロッサム?」
そこでエリスはその名前に聞き覚えがあることを思い出す。
「って、まさかブロッサム商会の?!」
あの糸目に見覚えがあると思えば、そういうことか。
今一番勢いのある商会だ。エリスは突然の出来事に驚きながら、閑散とした廊下を進み、寮にとぼとぼ戻って行く。
誰もいないことを確認してから、ちょっと息抜きに校舎の屋根に上り、ハァとため息を吐いた。
「まずいなぁ……」
今回のことで気がついたことがあったエリスは、抱えた膝に愚痴を零す。
「フラグは折ってるけれど、イベント自体は回避出来てない事が問題なんだよな」
エリスは額に手を乗せる。現在に至るまで、予言の書の通り様々なイベントが発生している。内容はエリスが弄ったりしているのだが、その出来事自体が不思議と回避できないのだ。今回だって、代わりにユーラシアがイベントもどきの洗礼を受けた。シロナがまだその事に気が付いていないことは、エリスには救いである。もし、シロナがこの事に気が付いてしまったら、例の破滅を彼女の代わりに被る者が出てしまうことになるからだ。
「絶対にそれだけは避けないと」
シロナは優しすぎる。気がつけば、きっと自分を犠牲にしようとするはずだ。が、シロナの破滅は、自分の破滅。
そのことを忘れてはいけない。
(でも、これはシナリオイベントってより人間としての性だろうな。めんどくさいね)




