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〜転生者達の傭兵国家〜  作者: あぱ
軍人少女
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3の22

コンコンコン、と部屋の扉がノックされてエリスは扉を開けた。


「おはよう、エリス」


そこにいたのは本日も縦ロールが平常運転のカーナだった。


「おはようございます。どうしたんです? こんなに朝早く?」


まだ寝間着だったエリスは目を丸くする。

相手がシロナだと気がついたアリスも「おはようございます!シロナ様!」と顔を出した。


「これを渡しに来たの。ふたりには来て欲しくて」


渡されたのは見るからに高そうな紙でできた手紙。


「これは?」


受け取って、エリスは尋ねる。


「アラン殿下の誕生日会の招待状なの。学生開催だから新入生歓迎会のように全員参加は難しくて」

「え! もらっていいんですか?!」


アリスが目を大きく瞬かせて招待状とシロナを行き来する。


「ええ。是非。〈ワンダートレジャー〉に特注したお菓子も用意しているから、楽しみにしていて」


商店街にあるお菓子屋さんにまで掛け合って準備をしているとは。エリスの心もぐらりと揺れる。


「では、また」


それからシロナは忙しそうに去っていった。

残された招待状はまるで宝箱を開ける鍵のように見える。


「シロナ様、忙しそうだよね」

「今夜が本番だからね。アラン殿下のために頑張ってるんだよ。さすがシロナ」


エリス朝の支度を整えながら、机の上に置いた招待状に視線を飛ばす。アリスと殿下のバースデーパーティーについて語りながら、シロナに誘われたからには行くしかないかなと意向を固めた。断じて、ワンダートレジャーのお菓子が食べたいからという理由では無い。……うん。


しかし、これがちょっとした騒動を呼ぶことになる。


「……うん。まあ、少し考えれば分かったことだよね」


エリスは目の前の状況に苦い顔をした。

ふたりは準備を済ませると、いつも通り朝食を食べて午前中の授業を受けたのだが、お昼になって校舎の食堂に来ると空気がピリピリしている。よーく観察してみると、泣いている女子を慰めているグループもちらほら。


耳を澄ませてみると「せっかくガイアス様とダンスの約束をしたのにっ」という言葉が聞こえてエリスは頬を引きつらせる。


(それは言っちゃ駄目でしょ……)


ただ今学園では、殿下の誕生日会の招待状をめぐるバトルが水面化で勃発中である。大っぴらに、なぜ招待状が貰えないんだ! と反発する者が出ないのは、これが学園の中のことではあるが政治的かつ社会的行事だから。


招待されたものも、招待されなかったものも、静かに口を慎みモラルを守って殿下の誕生日を祝うべきなのである。

「ガイアス様とのダンスが!」なんていうのは、思っていても口には出してはいけない事だ。これはあくまでも、殿下の誕生日会なのだから。


(——だからこそ、殿下とは勿論。招待された人とも仲良くなりたいよなぁ)


エリスは殺伐とした空間で頭に手を置いた。こういう時、貴族って大変だな、と同情せずにはいられない。


「アリス、耳貸して」

「うん?」


エリスは一応、アリスに招待状を持っていることを伏せておくように伝える。庶民の自分たちが招待状を持っていると知られれば、どうなるかなど目に見えていた。ふたりは昼食を外で食べることにして、校舎の中庭に出る。エリスはスープパスタを食べながら、今夜に迫った誕生日会について考えた。招待がギリギリになったのは、諍いを起こす前にパーティーをやってしまえという意図が感じられたが、そんな図らいも虚しく一大イベントに何とか参加しようと獣たちが目を光らせている。


予言の書(仮)に拠ると、アリスは殿下信奉者に招待状を奪われてパーティーに参加できない。そして、ドレス姿のまま庭園(花畑)にいると、ガイアスとエンカウント。仲を深めることに。


(はぁ。小説のあらすじ的には、きっとクローディアは異常現象の犠牲者だったんだろうな。そうでないと、アリスが他の御坊ちゃま達に惹かれる隙が無い……なら、それを実現させれば他の御坊ちゃまに惹かれる可能性は高い)


「楽しみだなぁ、今日のパーティー」


だからアリスの言葉に、彼女はドキリとする。

スプーンを運ぶ手を止めて、思わずアリスを見つめた。


「孤児院にいた時にはパーティーなんて行ったことが無かったから、ドキドキしちゃう。歓迎会の時もまるでお伽話の中にいるみたいで素敵だったなぁ〜」


隣にいたのは、純粋無垢の天使であった。

その尊き存在の前で、エリスは己の愚策を改める。


「アリス、私が必ずあなたをお姫様にしてあげるからね」

「う、うん?」


真剣な眼差しのエリスに、アリスはこてんと首を傾けた。




「エリスちゃん。ごめん、背中のファスナー閉じてくれる?」

「はーい」


隣の部屋ドレスを着るのに苦戦していたアリス呼ばれ、ベッドに座って本を読んでいたエリスは立ち上がる。


「私が髪と化粧、していい?」


ファスナーをあげながらエリスは尋ねる。


「え、いいの?」

「うん」

「じゃあ、お願いします!」


微笑んで、アリスの為に用意されたであろう化粧品やら装飾品に手を伸ばす。どれも高品質のものばかりで、貴族サマに引けを取らない充実ぶりだ。


「よし。できたよ」

「ありがとう、エリスちゃん!」


化粧を施し、耳飾りが見えるように髪はすっきりまとめて準備は完了。


「エリスちゃんも、そろそろ時間だよ?」

「うん。準備するよ」


自分はさっさと準備をし、エリスは歓迎会と同じドレスを着た。片やバルーダで任務をこなしている仲間に、「ドレスを何着か頼めるか?」なんて呑気で恥ずかしい頼み事をするのは気が引けて出来なかったのだ。商店街で買えないこともないが、「エリス・フローリア」はド庶民の特待生。何着もドレスを奮発する余裕は無いことになっている。


「時間だね。行こう」

「うん」


会場にはとっくにマーキングを済ませているので、転移で直接飛ぶ予定だ。直ぐに入場してしまえば、イベント自体が無かったことになるはず。


コンコンコン。


まるでタイミングを見計らっていたかのように、そこで扉をノックする音が聞こえた。エリスはバッと振り返り、がアリス出る前に扉を開ける。


「はい………って、シロナ?」


扉を開けた向こうにいたのは、少し暗い顔をしたシロナだった。何事かと目を見開いていると、「エリス少しいい?」と呼ばれて廊下に出た。


「どうかされたのですか?」

『っ。わたくしって、嫌な女なの!』

「……」


——何故そうなった?


エリスは困惑顔で、とりあえずシロナの話を聞くことに。


『わたくしはこの後、アリスさんが招待状を奪われて嫌な思いをすると知っていて、それを見過ごそうとしていたの。アラン様を取られたくないからって! 彼女は友達なのに!』


地球の言葉でまくし立てるしろなに、エリスは沈黙する。

記憶から少しは覚えたがなかなか難しい


(アリスもそうだけれど……。シロナも優し過ぎる)


世の中には私みたいな、もっと残酷で非道なことをする奴らがいるというのに、彼女たちはあまりにも心が綺麗で優し過ぎる。エリスの座った瞳に気がつかず、シロナは話を続けた。


『わたくしは悪役なんかじゃなくて、ライバル令嬢になるって決めたのに。このままでは悪役令嬢以下。人として最悪だわ』

『そんな顔をしないで、シロナ。この後殿下とお会いするのでしょう?』


エリスは優しい笑みを顔に貼り付けて、シロナの手を握る。


『きっと準備で疲れが溜まって不安になっているだけです。シロナはちゃんとアリスにも招待状をあげたでしょう? それにシナリオだって崩れてきているのだから、アリスが嫌な目に合うとは限らない』


「でも」と返すシロナに、エリスは少し厳しい言葉を投げる。


『所詮は、小娘の私たちが世界の運命を操れるわけではありません。運命をねじるためには、それ相応の覚悟と自信が大事です。シロナは、もっと周りを頼ってください。アラン殿下や私でも構いませんから』


シロナはそれで落ち着いたのか、肩の力を抜いた。これからパーティーだと言うのに心配な人だ。


『アリスのことは私が守りますから、シロナはアラン殿下を離さないように、素敵な笑顔でいてください』


シロナはエリスのイケメンな対応に頬を染める。


「あ、ありがとう。エリス」

「いいえ。困ったことがあったらいつでも頼ってください。こんな私でも話を聞く事くらいなら出来ますから」

「わかったわ」


エリスは先ほどよりスッキリして明るい表情になっていた。


「ケルヘラム様あたりに声をかけておくから、もう少ししたらロビーに来て」

「はい。わかりました」


転移する予定だったが、シロナの配慮を無駄にしたくないのでラゼは頷く。


「シロナ様、どうしたの?」

「準備で忙しくて疲れが溜まってたみたい。でも、もう大丈夫だよ。この後殿下にも会えるだろうし」

「そっか!」


アリスがにっこり微笑む。シロナはいつ殿下や彼女が心変わりするか分からないと不安に思っているようだが、エリスからするとその要素は何処にも見当たらない。


(まあ、破滅イベントは2年後だから油断はできないんだけどね)


エリスは天使に悪い虫が寄って来ないように牽制しながら、ロビーに向かった。


「あ、アリス——」


シロナが言った通り、そこにはケルヘラムがいた。

可愛い天使に見惚れるのは構わないが、ふたりだけの空間を作らないで欲しい。


「可愛いですよね?」


エリスはアリスの良き友として、何も言えないケルヘラムに助け舟を出した。


「っ。……似合ってる」

「ありがとう、ケルさん!」


魔術 スキルの練習で仲を深めたおふたりだが、あまりにもアリスがなびかなすぎてケルヘラムに同情してしまう。


人に世界の運命は、変えられないと言いながら着実と世界の運命を捻じ曲げているエリスは、世界の超越者と言っても過言でも無いかもしれない


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