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「はぁ、私は、どうしたらいいの?」
アリスは、家の机と向かい合いながら考え事をしていた。毎週 月曜日の朝に手紙を書き夜に寮母さんにお願いして出してもらっている。
同じ庶民で仲良くしてくれている彼女は、頭も良ければ実技もできる。特待生として文句のつけようがない子だ。
かく言う自分は、勉強はついていってはいるが、実技がどうしてもうまく出来ない。先生たちが補講をしてくれるのだが、それだけでは上達せず。ひとりで自主練習をしていたところ、今は魔術が得意なウレックさんと実技全般が得意なケルさんが付き合ってくれるようになった。
(クローディア様が頑張れって言ってくれてるのに……)
アリスは手紙に視線を落とす。漆黒の髪に青のメッシュに、青の瞳をしたあの人を思い出して、彼女の胸がツキリと痛む。
子どもとしてしか、見られていないことは充分承知している。幼い時は彼女だって「教会に来てくれるちょっと怖いお兄さん」としか彼を見ていなかった。でも、アリスはそんなクローディアにいつの間にか恋に落ちていた。だけど、この世は、彼女を地の底に叩きつけた。彼には、奥さんがおり一生叶わない恋となった。
「アリス〜これあげる!」
元気がないアリスに気がついたエリスが、クローゼットの中から箱を取り出す。
「昨日、商店街で見つけたの。可愛いし、丁度いいかなと思って」
「いいの?」
「うん」
箱を開けると、中から出てきたのは鍵付きの箱。
「レターケースにいいかなって」
アリスは目を丸くした。からの返事は宝石みたいに大切なものだ。ぴったり過ぎて、これ以上いいものは無いだろう。
エリスには何でもお見通しらしい。
「ありがとう、エリスちゃん。すごく嬉しい。本当にもらっちゃっていいの?」
「うん。アリスのために買ってきたんだもん」
カッコいい友人に、アリスは、じーんとする。
彼女ほど頼れる友達ができるとは、自分はなんて幸せなんだと思いながら、アリスはエリスに向き直る。
「あのね、エリスちゃん聞いてくれる?」
「うん」
彼女に話したい。アリスは少しずつ、クローディアの話を始めた。
「この手紙の人はね、冷たい感じがしてちょっと怖い人なんだけど、本当はとっても優しい人なの」
エリスはそこで「あっ。これは構えておかないと砂糖吐くやつだ」と気がつく。今から始まるのは、アリスの恋話。胃もたれ注意センサーが反応している。だけど、半身とも言えるアリスの話は聞く。
「わたしも最初はちょっと怖いお兄さんだなって思ってたんだけど。気がつけば彼を追っていて……」
「うん」
「彼は、いつもわたしが困った時に助けてくれるの」
「うん」
エリスは確かめるように相槌を打つ。
「ちょうど二年くらい前かな。教会の近くで異常現象が起きて魔物がダンジョンブレイクの影響で飛び出できたの」
目を閉じれば、当時のことが脳裏に浮かぶ。
『アリスッ!』
クローディアと奥様がとても心配した様子で駆けつけて、自分を抱きしめてくれたことは今でも忘れられない。
「ぎゅって抱きしめてもらったとき、安心して涙が出ちゃって。それでね、その時に『ああ、わたしこの人が好きなんだ』って気がついたの」
「…………うん」
(これは、イケナイ恋だ。どうしよう)
エリスはそこで思い当たる節を見つけてしまう。
「あの、話の途中でごめんね。もしかしてアリスのいた孤児院ってルランにある〈ルラン孤児院〉?」
「えっ!エリスちゃん知ってるの?」
「異常現象の話はよく覚えてるよ。大変だったよね」
——知ってるも何も、休日返上で討伐に駆り出されたからこの身を以て覚えてますとも。
思わぬ繋がりを見つけて、エリスは驚いた。
「うん。すぐに鎮静化されたみたいだけれど、魔物の嘶きがすごく怖かった……」
こんなところに被害者がいたとは。私の半身である天使
アリスを怖がらせるなど、魔物許すまじ——。
自分は魔物を倒して安全を確保することはできても、心のケアまではできないのだと改めて認識し、エリスは複雑な心境だった。
(って、待てよ?)
確か小説の設定では、アリスはこの異常現象で回復魔術を評価されてヴァンドールに推薦で入学したことになっていたはず。しかし、彼女が推薦で入学したという話は少しも聞いたことがない。
つまりは、
(あー。これは、私がシナリオを壊しちゃってますね……)
本来ならあの事件で大勢の犠牲者が出たはずだったのだ。
その現場で治癒に明け暮れたヒロインは魔術を学びたいと望み、学園に入学。
(やっぱり初っ端から、シナリオは違ってるんだ)
エリスはそう確信した。シナリオは変えられる。だから、シロナのシナリオだって変えることができる。
これは吉報だ。自分の首の皮も一枚繋がった。
「アリスが無事でよかったよ。きっとその人も、アリスが無事ですごく安心したんじゃないかな。手紙もちゃんと毎週返事をくれているし、大事にされてるよ、アリス」
「そ、そうなのかな?」
「うん」
エリスはアリスに微笑む。エリスは安心したのか、肩の力を抜く。
(でも、どうすればアリスは、渡したくない。なら、殺そう)
どうしてもクローディアにはアリスを、渡したくないので殺すことを決めた。こんなことを言っているエリスだが、クローディアは、危険という事を国の上層部は知っている。
彼の一族は、転覆を狙っているため危険分子なのだが、有能なのは、事実だから上層部も頭を悩ませていたのだ。
(ごめんよ、アリス。彼は、私が殺すよ)
「早く会いたいな……」
「バトルフェスタも保護者は学園に来れるから、来てくれるといいね」
「うん。それまでに、なんとか攻撃魔法を使えるようにしとかなきゃ!」
元気を取り戻したアリスを見て、エリスはホッとする。最近無理をしているようで、心配していたのだ。
「ねぇアリス本当にアリスのスキルは、回復魔術なの?」
「えっ?」
突然のエリスの問にアリスは、困惑する。
(私のスキルが回復じゃない?確かに私は、怪我したら直ぐに治っちゃうし。体が成長しない。本当に、エリスちゃんの言ってる通りにそうだったら…)
「ふふ、別に責めてる訳では無いよ?私魔力に敏感でね。
治してもらったら時におかしいと思ったんだ」
「そうなの?」
「うん。なんか私の腕の怪我の部分だけ若返ったような感じがして…」
「えっ!?若返るって時間が戻ったてこと?」
「そういう事。」
アリスは、エリスにこのことを言われ今まで自分でも不思議に思ったことが全て解決した気分になった。
これは頑張るアリスにちょっとしたヒントだ。
これは、1歩間違えれば危機だがヒントを上げた今彼女は、凄く成長する可能性がある。私の半身として彼女は、大事な存在だ。
「スキルとよく向き合ってごらん。きっとアリスなら気がつけるから」
「う、うん? わかった。やってみるよ!」
素直にアドバイスを受け取ってくれるのは、彼女のいいところだ。
今は、美術の授業を受けていた。
思うままにオブジェを作り上げると、出来上がった作品は、誰もが息を飲む傑作。
「すごいわ、ペンドラゴンさん。こんな作品今までで一度も見たことが無いわ!」
アリサ先生も大絶賛。実は大好きな人を思い浮かべて作ったら、手が止まらなかったというのは、自分だけの秘密だ。
「それに比べてフローリアさん……」
端っこでオブジェを作っていたラゼを見て、アリサ先生がため息を吐く。
「ヴァンドールに勤めて十五年になるけれど、ここまで奇想天外なものを作ってみせたのはあなたくらいよ」
「……きっと、死んでから評価される作品なんだと思います。先生」
「はいはい。『芸術は爆発だ』なんて言ったら怒るわよ? まあ、頑張りは評価しますが」
全く美術の才能が無かったエリス・フローリア。大人しく「ハイ」と返事をして、出来上がったオブジェを見て小首を傾げる。どうしてこうなったのかは、自分でもわかっていない様子だ。彼女が苦戦しているのを見て、アリスは思わず笑ってしまう。
授業が終わったあと、アリスは頬を膨らませていた。
「シロナとシロナ、笑わないでよー」
どうやら笑っていたのがバレていたらしい。
「ご、ごめんね。エリスちゃんにも苦手なことがあるんだね」
「当たり前だよ。私だって普通の人間です」
そう言われてアリスはすっかり表情を柔らかくした。今まで気を張りすぎていたのかもしれない。
「でも、あの作品にはびっくりよ。人間が作り出したものだとは思えなかったわ」
「ちょ、シロナまで!」
「あはは!」
アリスは屈託のない顔で笑った。この事は是非とも手紙に書かなくては。
両脇にいる可愛い友人たちを見て、エリスは上機嫌。
楽しそうなアリスを見て、エリスとシロナも一緒になって笑い合うのだった。
(この子をこの学園に送ってくれたのは、感謝するけどクローディアキミだけは、アリスを無事届けてくれたお礼として苦しめず殺してあげる)




