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ゴソゴソと隣から音がして、エリスはハッと目を覚ます。起き上がって周りを見回すと、そこは見慣れない部屋。
「寮か…」
そこがどこか思い出すと時計を見る。時刻は五時。
任務のせいか、あまり深く眠れないタチなのだが、五時は早い……。アリスは本当に早起きらしい。目覚まし無しで起きられるとは尊敬だ。意識が覚醒してしまったので、エリスは起きることにする。
「アリス起きてるよね? おはよう」
「あ、エリスちゃん、おはよう! もしかして起こしちゃった?」
「ううん。平気だよ」
「私、寝相悪くなかった?」
「そんな事ないよ。どうして?」
「あのね、お父さんお母さんがいてお姉ちゃんがいてそれで暗闇の中で3人とも死んじゃう夢をみて。私達って本当は、姉妹なんじゃないかって思ったの…」
(へぇ上手くいったみたいね。)
「確かに私もアリスもどっちも盗賊に襲われてママとパパいなくなってるし。ちっちゃい頃の記憶、なくて…」
「私もそうなの。もし、そうだったら私嬉しいな!」
(なんて、単純なの…いくら記憶を改竄したりしたけどここまであれだと、しんぱいになる…)
パッと手を叩き、アリスが仕切りを開けて、ついでに部屋の窓も開ける。
「いい天気だね!」
「うん。時間もあるし、私ちょっと走ってくる」
「え、走る?」
学園でもトレーニングができるように、動きやすい服は持ってきている。
「うん。ランニング、気持ちいいよ? 七時に食堂が開くから、それまでには帰ってくるよ」
「うん。わかった。わたしはあんまり運動が得意じゃないから尊敬するよ!」
「はは、そんなことないよ。今度一緒に走る?」
エリスはてきぱき着替えて、転移でフロントに出る。
「おはようございます。走りに行ってきます」
一応止められるかもしれないので寮母さんに声をかけた。
「あら。早いのね。おはよう。寮の扉は五時に開くわ。あまり遠くに行って迷子にならないようにね?」
「はい」
「そう。いってらっしゃい」
寮母さんも朝が早いんだな、と感心しながら外に出て、エリスはちょっと悩んだ後、とりあえず学園をぐるりと一周してみることにし、軽く準備運動をしてからランニング感覚で走り出す。
「___」
ステータスがあるためスピードは、時速20キロをゆうに超えている。パルクールのように障害物を乗り越えて、スピードを維持したままとにかく走る。スタートと同じ場所に戻ってくる頃には息も切れきれ。
「いやーいい運動だね。ふぅー」
その後柔軟をして、軽く自重の筋トレをする。
30分ぐらい追い込んで終わるとちょうど気配がした。 寮の近くの雑木林で誰かが素振りをしている。前騎士団長の息子あたりかと思えば、意外にも、そこにいたのは総帥の息子。
「ふっ!ふっ!」
バレると不味いので隠れながら少しだけみた。
(へぇ真面目にやってるんだ。もしかして根は、真面目?
実は、殿下に女が寄らないようにしてるとか!?)
彼女はブツブツと独り言ちながら、寮に戻ってシャワーを浴び、制服に着替える。
「おかえりなさい!」
「……ワタシがいる」
部屋に戻ると天使が出迎えてくれて、エリスは口に手を当てる。その姿をみて思わず言ってしまった。まだ、何もしらない無垢で純粋な少女だった頃の自分を見ている気分になる。
「ワタシ?」
「なんでもないの。ただいま。私のエンジェル」
「??」
「ご飯食べに行こうか」
「うん!」
アリスも準備ができているようなので、ふたりは揃って朝食を取りに行く。家のドアを閉め少し2人であるくと、昨日銭湯であった先輩2人にあった。
「おはようございます」
「おはよ〜う! 昨日はよく眠れた?」
「はい。ぐっすり」
それは良かったとルナがニコッと朝日のような笑顔を見せる。
「一緒にご飯、食べに行こう!」
彼女の誘いで、そういうことになった。食堂にはすでに人が集まっている。二階で好きなものをプレートに装い、四人は席につく。
「いただきます」
エリスはお米に味噌スープ、それに卵焼きとシーザーサラダをチョイス。
「歓迎会どうだった? 素敵な男子とダンス踊れた?」
「アリスちゃんは目立ってたわよね。治癒魔法って聞いてびっくりしたわ」
どうやらアリスのことは先輩にまでお話がいっている様子。
「回復魔術は珍しいって言われてたんですけど、まさかこんなに注目されるとは思ってもみなくて」
「治癒魔術でも学園に五人しかいないわ回復魔術なんて2人よ」
「2人! そんなに少ないんだ……」
「そうよ。でもね、回復魔術の中でも、浄化が使える人はもっと珍しいの。学園にいる間にもし習得できたら、逸材になれるわ。是非頑張って! そして打倒、貴族。あいつらの長い鼻をへし折ってやるのよ」
「「………」」
カリナの目が怖い。
「カリナの貴族嫌いは今に始まったことじゃないから、気にしないで。まあ、庶民で入学したらそれくらいの気持ちが大事ってこと!」
ルナが少し無理のあるフォローを入れる。
「甘いわ、ルナ。私たちはやれることをやって抵抗しなくては、いいように重宝される駒になっちゃうんだからね? 正しいことは正しい、間違ってることは間違ってるって言わなきゃ。遠慮なんていらないの。成績だってね、努力すればあんな奴——」
熱く語り出したカリナの後ろで男子生徒が立ち止まった。
知り合いだろうかと、ラゼが様子を伺っていると、彼はカリナの横に手をついて顔を覗き込む。
「次こそ抜かすって?」
「ぎゃっ!ランド!?」
カリナが急に現れたその顔に仰天する。
「なんでここにいるのよ! 食事が不味くなるじゃない!」
「なんだか呼ばれた気がしてね?」
わーわー言い争っている隣で、ルナがポカンとしている後輩二人に説明を入れる。
「彼はランド・シルバーよ。カリナは、いつもランドに1位を取られてるわ」
「ルナ余計なことを後輩に教えないで!」
「うぇ。怒らないでよ〜」
「仕方ないよ。嘘を教える訳にはいかないからね」
「うるさい! 次の試験、見てなさいよ!」
どうやら彼はカリナの目の敵らしい。
「はぁ。やっと行ったわ。ごめんなさいね。あんな奴は忘れてご飯を食べましょう。で、何の話をしていたんだっけ?」
ランドが去ったのを確認し、話を続ける。
「歓迎会の話をしていたんだよ。エリスはどうだったの?」
「私は壁際で大人しくしていたら、ガイアスさんに、声をかけられました」
「あらあら。イケメンくんに誘われちゃったか!」
「あ………ハハハ」
ニマニマとエリスの事をみて笑っている。
「今日は初めての授業だね〜。うちの授業はレベルの高いほうに合わせるから、わからなくなったらすぐに先生に聞くんだよ。でないと、完全に置いて行かれちゃうから」
「そ、そんなに難しいんですか?」
「まあ、ヴァンドールだからね。将来、高官を目指している人も多いし。でも大丈夫だよ! ふたりはAクラスであの入試を乗り越えたんだからね!」
ルナの励ましには元気付けられる。四人は授業についての話をして食事を終え、一度部屋まで戻った。
学園から支給されたエンブレム入りの四角いバッグに筆記用具を入れて支度を整える。
「アリスは、もう行ける?」
「うん!」
忘れ物が無いか確認すると、アリスとエリスは教室に向かった。




