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〜転生者達の傭兵国家〜  作者: あぱ
軍人少女
52/146

3の13

しばらくすると会場を流れていた曲が変わり、ダンスの時間がやってくる。


「ふたりは踊れますの?」


シロナの問いに、アリスが困った顔をする。


「わ、わたし、一応練習はしてきたんですが、上手には踊れなくて……」

「大丈夫よ。お相手がしっかりリードしてくれるわ。ラゼさんは?」

「踊れはしますが、私には相手がいないので」


見るからに庶民の自分に声をかけてくる男子などいないだろう。


「わたしもいないから大丈夫だよ」

「え、そうなの?」


シロナの言い方から、アリスには既に相手がいるのだと思っていたのでエリスは首を傾げた。しかし、アリスにならば直ぐに申し込みがありそうなので、自分の心配をした方がいい。


「シロナ嬢」


凛と落ち着きのある声がシロナを呼ぶ。彼女の背後に、婚約者殿が現れた。


「で、殿下っ」


シロナは慌てて振り向くと、正装したキラッキラのルベン殿下に息を飲む。すぐに耳が赤くなって、わかりやすい人だ。


「友人か?」

「ええ。同じクラスのエリス・フローリアさんとアリス・ペンドラゴンさんですわ」


シロナは髪を耳にかけながら、平常を装ってふたりを紹介する。エリスは慌てて頭を下げ、アリスも後に続く。


「楽にしてくれて構わない。今は同じ生徒だ。これから、わたしの婚約者のことを頼むよ」


殿下は自然とシロナを抱き寄せる。

おいおい、あっつあつだな?はぁ、そんなに心配なのかな?シロナは、アリスに取られないか。


「シロナ嬢。わたしと踊ってくれるか?」

「え、ええ」


こくこくと頷いている彼女は、その様子を見て殿下が微笑んでいることに気がつかない。

ふたりが去った後、エリスはアリスと顔を見合わせる。


「甘過ぎて、砂糖吐きそうだわ」

「うん。とってもお似合いだよね。いいなぁ私にも……」


そこでハッと、アリスが両手で口を塞ぐ。それはまるで今まで自覚していなかった感情が、口から漏れてしまったのを止める行動に見えた。


「おっとぉ? もしかして、アリスにもいるのかなぁ〜?」


すかさずエリスは、ニタニタしながらは切り込んだ。


「女の子なら皆んな、かっこいい人に憧れるでしょ!あ…」

「そうだね!」


これは、殿下を好きになってしまったら、やばいぞ。

どうしよう。このまま好きになってしまったら、多分シロナは、相当傷がつく。


(…って、もしかしてシロナは、その事を気にしてたの?確かに辻褄が合う。元々、物語の主人公であるアリスは殿下と結ばれるはずだ。その事を知っているシロナは、だからあんな顔をしてるのか…)


これは、どうやら面倒くさい事になったらしい。


「応援してるよ。アリスは可愛いんだから、学園にいる間、困ったら私に言うんだよ。すぐに何とかしてあげるから。その代わり私にも出来たら手伝ってよ?」

「う、うん…!」


まぁ、作るつもりは、ないが下手に疑われないためこう言っておく。


「あ、あの。もし、よろしければ僕と一曲どうですか?」

「えっ、」


そう思っていれば、ほら来た——。

ひとりが誘えば、「俺も俺も」とアリスに男子生徒が集まってくる。


「わっ、えっと!」


あたふたしているアリスは可愛いが、さすがに寄ってくる人数が多い。助け舟を出してあげたいところだが、今はエリスも身分が無い身なので、「アリス、ごめん」と謝罪だけ入れておく。するとその輪の中に、誰かが割り込んで行く。


「彼女はオレと踊るんだ。悪い」


そう言ってアリスを救出したのは、前騎士団長の孫ケルヘラム ・アロンソ。水色の髪に青い瞳が綺麗だ。

「ナイトじゃ〜ん」と、観察していたエリスは心の中で彼に拍手を送る。確かに彼なら、アリスをちゃんとリードして踊れそうだ。更には、彼にアリスを任せるのもいいかもしれない。


彼女の目の前ではアリスが緊張でカチカチになってケルヘラムと踊り始めた。


彼は閣下の息子と違い、幼い時から剣の道を志しているからか、誠実な好青年として育っている。人懐っこい笑顔は、アリスの緊張も徐々にほぐしてくれたようだ。

少し離れたところでは、殿下とシロナが息ぴったりでターンをしている。流石、公爵家の淑女と帝国の期待の星だ。


(一日目にしては、随分と濃密な時間が送れたなぁ)


特にアリスと友達になれたことは大きい。

なんたって、初めてできた同じ歳の女の子の友人だ。任務抜きでも大切にしたい。シロナは、まだ信用出来ないところも、あるので保留だろうか


「5年か」


エリスはポツンと、どこか夢見心地で会場を眺める。

ひとりくらいダンスの申し込みがあったっていいと思うのだが、次こそ壁の花と化していた。


(——ああ)


密偵時代の癖で、何もしていない時は、気配を当たり障りなくその場に紛れ込ませてしまうことを彼女は忘れていた。

ダンスが嫌いではないが、好きでもないのでこのままで良いかと、エリスは静かに煌びやかなドレスたちが花のように咲くのを見守る。


「楽しんでいるかい?」


そこに声をかけたのは、グラスをふたつ持った理事長ことファルス・リチャード・ザッハ。

まさか自分に声をかけられるとは思ってみず、エリスは慌ててドレスをつまみ礼をする。


「君は……。頭をあげなさい。ここではそんな礼は必要ない。私のことも気軽に理事長と呼んでくれ」


グラスを差し出され、エリスは「ありがとうございます」と言ってからそれを受け取った。周りはダンスと会話に夢中で、理事長の存在をわかって居ないらしい。


「これは、私の1つ目のスキルさ。そして、入学おめでとう。君とは話してみたいと思っていたんだ」

「理事長先生にそう言っていただけるとは光栄です」


チリンとグラスを打ち合わせ乾杯すると、ファルスは想像していたより小さな女子生徒をじっくり見つめる。


「写真で顔は知っていたが、本当に12歳だとはな」

「よく幼く見られます。小さい方が有利なこともあるので、気にしてはいません」

「……そうか。それにしても、君の解答には驚かされたよ。大人顔負けの論述だった。さすがと言っておこうか」

「とんでもないです。私にはまだ学ぶべきことがあると常々痛感しております。このような形ではありますが、入学のご縁を頂いたからには学園でより知識をつけていく所存でございます」


エリスの言葉は、普通の女子生徒が言うものでは無かった。ファルスは少しだけ目を細める。それはどこか切なさを帯びていた。


(ザハードの言う通りだな)


目の前にいる彼女は、生粋の軍人だ。国に仕える者の目をしている。上官の前では、自分の意志など押さえ込み、ただ従順に与えられた任務をこなす。そんな硬い目だ。

ましてやシュヴァルツは、実力だけならこの国1番の逸材だ。彼女自身、己の力を鼻にかけることはせず、良く自負している。


もし「君の成績は優秀だから、ヴァンドール魔導学園への入学を推薦する」と言っても、彼女は受け入れないだろう。エリスは優秀過ぎる軍人だ。ダンジョンでの討伐には終わりなど無いに等しく、彼女が抜ければ大きな穴になる。


——仲間を危険に晒して、自分は学園に通う。

そんな選択をシュヴァルツが選ぶとは思えない。


ザハードはそう言っていた。そこで、宰相は彼女に見守り役という役目を与え、任務の一環としてエリスを学園に送り込んだのだ。そうすれば、彼女が断れないことを知っていて。


(彼女もここにいる生徒と変わらない歳だと言うのに……)


理事長は、任務として選りすぐりの入学を受け入れることについて反対していた。それでは、真に生徒として学園生活を送ることができないと。だが、今日実際に彼女を目の前にして、ザハードの言っていたことは正しかったと彼は思う。


「ちゃんと楽しむことを忘れてはいけないよ」

「はい。嬉しいことに、私にもさっそく友人が出来ました。5年間ではありますが、ちゃんと友人として彼女たちと仲良くしたいです」


エリスはそう言って笑い、踊っている生徒たちの方に視線を飛ばす。


「……君は大人だな」


——物分かりが良すぎて、心配になるくらい。


そんなことはありませんよ、と謙遜するエリスを見てファルスは何も言わなかった。主従の関係がある以上、自分にできることは少ない。そう思った。


「今度、またゆっくり話そう」

「是非。今日はお声をかけてくださり、ありがとうございました」

「いや。教師として当然のことをしたまで。君も一曲踊って行くといいよ」


では、とファルスはその場を去って行く。どうやら一人ぼっちの生徒を気を遣って、話しかけてくれたらしいと、エリスは気がつく。辺りをよく見ると、先生たちはさりげなく会場に混ざって、生徒たちのフォローに回っていた。


この世界では、女性からダンスを誘うことは何ら珍しいことではないが、あまりにもこの空間が眩しくてエリスは一歩を踏み出せない。任務であれば、我先にと魔物を切り裂いて進むのに、おかしな話だ。


踊れなくても、もう少しこの世界に浸っていたくて、彼女が理事長にもらったグラスをじっと見つめていると、


「飲まないの?」


ふと目の前に現れたのは、銀髪をセットして、総帥と同じ顔がよく見えるガイアス。


(!)


条件反射で背筋が伸びる。


「今はお腹が一杯で」


先ほど食べ過ぎたのか、腹が膨れているエリスは事実を伝えた。


「なら、貰っても? 踊り過ぎて喉が渇いてたんだ」

「え」


理事長と乾杯してすでに一口飲んでしまったそれを、ガイアスが遠慮なく攫っていく。

「踊り過ぎて」とはやはり女の子たちを侍らせていたようだが、今は隠密の魔法を使っており他に誰も付いていない。


「ありがとう。なかなかお誘いが途切れなくて、やっと隙を見て抜けて来たんだ。ところで君は誰かと踊ったの?エリスさん」


「いえ。あまりダンスは得意じゃなくて」


ハハ、と笑い返せば、


「ああ。相手がいなかったのか」


ガイアスはさらりと失礼な発言をかましてくる。


「はい。お恥ずかしながら」


エリスは言い返すことはしなかった。

「ふ〜ん」と返事をして、ガイアスはエリスの隣で壁に背を任せる。きっと女の子たちを相手していて疲れているのだろう。休憩スペース(壁際)に邪魔ものがいたから、こんなことを言われているのだと彼女は勝手に自己解釈する。


もう最後の曲が流れ始めている。歓迎会はお終いだ。

常に視界に入れていたアリスとシロナは、殿下たちと楽しそうに話しており心配は無さそうで一安心。立ち上がりは大切だ。


「どうだい?僕と踊らない?」


顔を近よ寄らせ、ガイアスがエリスを誘う。対してエリスは、頭が真っ白になった…


(はぁ!?踊る!?私が…はぁ、断れないよね…)


「よろしいのでしょうか?」

「あぁ1人でいるのは、つまらないだろ?」


ガイアスは、そう言いながら手をエリスに差し出した。エリスはガイアスの手をとり皆が踊るところまで入り込んで行った。

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