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〜転生者達の傭兵国家〜  作者: あぱ
軍人少女
51/146

3の12

「うーん。どうしようー。こんなドレス、着たことないよ」


さっそくアリスは、例のドレスたちの前で頭を悩ませている。十着もあるとどれを着るか迷うのも仕方ない。


「好きなやつを選べばいいんだよ。私が着せてあげるし」


エリスはその隣で、さっさと部下たちにもらったライムグリーンのドレスを着てそう言った。


「わぁ!エリスちゃん、すごく綺麗!」


アリスがそれを見て、すぐに褒めてくれた。

どうやら、似合っているらしい。軍で、何回しか来たことないが皆、真面目なためそこまで熱心に言われることは、無いので嬉しい。


「ほら。アリスも決めないと。時間になっちゃうよ」

「うん!」


彼女が選んだのは、瞳の色に合わせた青色のドレス。

袖が広がった優雅なデザインで、それを着たアリスは水の精霊と見紛えるほど素敵だ。諜報部にいたエリスは変装もできるので、その経験を生かしてアリスの髪を編み込んでハーフアップにし、化粧も施す。花のコサージュは丁度良いので、髪につけておいた。


「完璧。可愛すぎ」

「うわぁ〜!エリスちゃんすごい!! ありがとう!」


(諜報部に居て良かったかも)


仕上がった彼女を見て、エリスは初めて諜報部にいた自分を褒めてあげたいと思う。自分を着飾るのは得意ではないので、適当に身支度を整えると出発の時間だ。


***


「うわぁ〜」


先程まで椅子がずらりと並んでいたはずの大ホールは、パーティー会場へと姿を変えて、おめかしした生徒たちが思い思いに散らばって会話を楽しんでいる。


全てが新鮮に見えるのか、アリスはキラキラと目を輝かせている。エリスはそれを見て、少し肩を竦めた。


(はぁ、なんでこんなに無防備なんだろう。私も本当だったら、ああなってたのか…)


そう思うと、奥歯に何かが挟まった気分がする。


ここに来るまで、アリスのことをチラチラ見ている男子が多くて、視線が煩い。軍生活で五感どころか六感も優れているアリスからすると、あからさま過ぎて見るに耐えない。

今はどこぞの御令嬢かと思って距離を保っているようだが、彼女が庶民だと知ったら、彼らは一体どんな反応をするのだか。


「あ、シロナ様!」


アリスのシロナの姿を見つけて、元気よく手を振った。

カーナはそれを見て目を丸くし、慌ててこちらに寄ってくる。


「アリスさん。女性がそんなにブンブン手を振ってはいけません。はしたないでしょう?」

「ご、ごめんなさい。シロナ様を見つけたから、つい……」


しょんぼりする彼女に、シロナはフウとため息を吐く。


「それにしてもそのドレス、すごく似合ってるわ。髪型も。驚いたわ」


その言葉にアリスがパッと顔を上げた。本当に、表情が豊かな子だ。隣で見ていて飽きない。


「エリスちゃんがやってくれたんです! すごいですよね!」

「エリスさんが?」


シロナは大きな目をさらに開き、エリスを見つめる。


「……そう、また貴女が」

「…」


(ふーん、ほぼ確定かな?まぁそのうちわかるでしょう)


急に「「きゃあ〜」」という黄色い歓声のせいで、それを尋ねることは出来なかった。


「な、なんだろう?」

「イケメン貴族サマのご登場だよ」

「そうでしょうね」


人だかりでよく見えないが、見るまでもないとエリスはそう断言した。実際に彼女の言う通り、女子をかき分けて会場入りを果たしたのは殿下とそのお付き(ガイアス)、総帥の息子。それに続いて前騎士団長の孫と、同じA組である外務大臣のご子息ウレク・マジノが姿を現した。


「きゃっ、照明が」

「大丈夫よ」


まるで殿下たちの登場を待っていましたと言わんばかりのタイミングで、カッと照明が一気に暗くなり、舞台上だけに光が集まる。歓迎会が始まる合図だ。


「こんばんは。わたしは生徒会長のロ・ポン・トロイヤです。まず始めに、新入生の諸君、入学おめでとう! 

今年は倍率も高く、例年以上に優秀な後輩たちが入学するということで、わたしたちも君たちが来ることをドキドキしながら楽しみにしていました。今日は記念すべき、学園生活一日目。ヴァンドールの学生としての自覚を持ち、これからの日々を是非充実させてください。わたしたちは君たちを歓迎します。さぁ、今夜は思いっきり、楽しんでくれ!」


生徒会長の声かけに合わせて、先輩たちが近くにいる一年生にゴブレットを持たせる。

銀色に輝くスリムなゴブレットは、見るからに値が高そうだ。


「はい、どうぞ」

「あ、ありがとうございます」


アリスが小さくなりながら銀に輝くゴブレットを受け取る中、エリスはひとりだけ違う方向へと静かに目を光らせていた。そこには白いテーブルクロスが敷かれた丸いテーブルと長方形のテーブルがずらりと料理を乗せている。

この部屋に入ってから、いい匂いがずっとエリスの食欲を刺激していた。


「私、どうしてもお腹が空いてるからこの後すぐにビュッフェの方に行くね……」

「え?」


ポロリと本音が漏れる。


エリスはすっかりテーブルに並んだ食事に目と心を奪われていた。彼女、そこそこエリートの軍人で稼ぎもあるのだが、その容姿でひとりで店に入ることは流石に気まずいし、たまに要請がある諜報活動のせいで、目立った行動が取れない。その為、格式の高いレストランには滅多に入らないので、料理に釘付けなのである。


親睦を深める会のはずなのだが、この時のエリスはそんなことを気にしている余裕はなかった。


——目の前には、S級の魔物よりもレアなご馳走えもの。

これを食さず、軍人を語れるだろうか。いや、語れない。(?)

戦友たちよ。君たちの好物えものは私が責任を持って、食らおう……。


右手にはゴブレットを。

左手にはいつの間にか取ってきたフォークと皿を。

一瞥して、おおよそ獲物の位置は把握している。

狙いは定めた。

もしもの時のため、ルートはABCの三つを用意している。

準備は整った。あとは戦闘開始の合図を待つのみ……。


「「祖国に乾杯!」」


カチン。

銀の上品なゴブレットたちがぶつかる小さな音が、鮮明にエリスの脳裏に響く。


「じゃ、いってくる!!」

「ちょ、エリスちゃん?!」

「えーっ」


あたふたするアリスはシロナにお任せして、エリスは引き寄せられるように料理たちのもとへ。

どうせ貴族サマの足元にも及ばない平民だということは、すぐにバレることだろう。

それならばもういっそのこと開き直って、周囲の反応は覚悟し前進あるのみ。彼女は諜報のプロ。何食わぬ顔で、適当に愛想を振りまき、優雅に料理を皿に盛っていく。


これから、彼女は一生徒として自由で安全なこの学園を満喫する所存なのだ。最初から遠慮していては、この先が思いやられる。この学園に入ってまで学びを貪ろうとする庶民として、図々しくやらせてもらおうではないか——。

まあ、だからといって、別に無礼極まりない態度で彼らに接するつもりはないし、あくまでも軍人としての忠義を忘れる予定もエリスにはない。無論、自分の将来のために。


「素敵過ぎる……」


人さまの邪魔にならないよう壁際に寄り、無事に回収した料理を眺めてエリスはうっとりする。フォークで柔らかい肉を刺し、それをパクリ。


「おいしぃ〜〜」


——ここに居られれば、こんなに柔らかくて美味しいお肉にパン、新鮮な野菜、それにデザートも食べれるのか……。


問題を起こして退学になることだけは、避けなくてはならない。


エリスはそれは幸せそうに料理を食べる。

社交界で壁側でひとりとは、誰からも相手をされない可哀想な人ポジションのはずなのだが、幸福オーラが全開だ。


「あ、エリスちゃん。こんなところにいたの?エリスちゃんん?」


だいぶ皿の料理を食べたところで、アリスとシロナに再会する。何回か呼ばれたところで食べ物から目が離れ2人へ目を向ける。


「どうしたの? 人に酔った?」


「ううん。その、回復魔術が使えるって言ったからか沢山の人に話しかけられて……。ちょっとびっくりしちゃった」

「最初のうちは仕方ないわ。そのうち慣れていくけれど、無理しない程度に切り上げることを学ばないと駄目よ?」


「はい……。シロナ様がいてくれて本当に助かりました」


アリスは可愛いし、得意型も珍しいため注目されるのは当然のことだろう。シロナは見たところこういう場には慣れていらっしゃるみたいだが、彼女は彼女で内務大臣のご息女。人より倍の相手と交流しなければいけないのは、大変そうだ。貴族って大変だな、とエリスはポテトを頬張る。


アリスとシロナもひと休憩で、エリスと一緒に壁際で食事を取ることに。


「それだけで足りるの?」


ふたりが皿に盛ってくる料理が少なくて、エリスは目を丸くした。彼女が食べた量の10分の1だ。


「わたくし、食べ過ぎてしまうとすぐに顔が太くなってしまうから、控えているの。エリスちゃんも食べすぎても大丈夫なの?」

「教会ではいつもこれくらいだったよ?エリスちゃんよくそんなに食べれるね!」

「そ、そうなんだ……はは」


エリスに頭を殴られるような衝撃が走る。


——自分は贅沢を求め過ぎていたのかもしれない……。


ここで食べ過ぎて豚にでもなったら、任務に支障が出る可能性も。


(それでも私は、諦められない。)


「私もう1回食べ物を取ってくる!」


エリスは人混みに消え唖然としたらアリスとシロナは、しばらく口が閉じなかった。


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