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「揃ったな」
先生は全員着席したことを確認すると、HRが始まる。
「俺は。お前たちがよっぽど授業について来られないか、やらかさない限りは5年間面倒を見る。正直言うと5年間クラスが変わらないことはないだろうだが、なるべくクラスを変えるのはやめて欲しい。私の仕事が増えるからな」
何をどうしても実力だけが評価される世界なので、彼は放任主義なのかもしれない。この手のタイプはやることさえやっていれば、怒られないのでやりやすい。
「はい、じゃあ恒例の自己紹介から始めようか。名前とスキルだな。前から順番だ」
エリスが座っている列とは反対側から自己紹介が始まる。
「シロン・ハイペリオン 。スキルは氷結魔術と炎魔術ですわ。よろしくお願いまし。」
「アルレン・グレイス。スキルは闇魔術と召喚魔術だ。よろしく」
「僕はウレック・マジノ スキルは肉体魔術です。これからよろしくお願いします!」
「私はエンドロシ・ロンドォス 。スキルは土魔術よ。エンドロシって呼んでね!」
内務大臣の娘に辺境伯の息子、元モルタ帝国騎士団長の孫。外務大臣の息子。
これだけでも十分、身分が高い人たちが揃っているというのに殿下と宰相の息子まで同じクラスとは——。エリスは頭を抱えたくなった。
彼らを思うと、肩身が狭過ぎる……。
皆、当たり前のようにスキルを発表しているが、適性を見分けるにはお金を納めてちゃんとした機関で検査して魔石を買う必要がある。魔石を持っていないと本来持っている力を発揮することができず、人によってはスランプや命に関わる問題を引き起こしたりするからだ。貴族のお子様方は、きっと良い指導者に恵まれて来たのだろう。
エリスは特殊な訓練で無理やり発動させたのだ。痛いという次元を超えていた。部下のエットなどは痛すぎて失神していた。その後、私の扱きがあったので死にかけていたのじゃないのだろうか。
「アリス・ペンドラゴンです。スキルは回復魔術です。よ、よろしくお願いします!」
ぺこりと頭を下げたアリスに、教室がざわめく。
それは彼女が庶民だということに加え、スキルが回復魔術ということに対しての驚きだった。
回復魔術とは、ごく稀に産まれる存在で上手く使われれば神聖魔法などと呼ばれるスキルに変質するのだから。
だけどエリスは少し引っかかった。曖昧な記憶の小説では、アリスは回復魔法と言うよりは物を巻き戻す力だったのだ。ある意味回復は前の状態に戻しているから
いいのかもしれない。
(これも歪み?まぁいいっか)
「静かにー。次いこうかー、次」
パンパンと先生が手を叩き教室は静まったが、アリスに珍しそうな視線を送るものは少なくなかった。
貴族サマの学校なので、庶民が虐められるのではないかと思う人も大勢いると思うが、ここはヴァンドール学園。
庶民で入学した生徒の実力を馬鹿にするような馬鹿はいない。
寧ろ、エリート庶民とも交流を持つことで、将来の展望を図るのが、この学園に集まる貴族サマだ。
中には反抗期真っ盛りで、理にかなっていないことをしてしまう生徒もいるにはいるだろうが、身分さえ弁えていれば庶民にも暮らしやすい場所である。
たまに虐める生徒も入れるがバレればどうなるかは想像に難しくない。
「アラン・フェリクス・ザッハだ。スキルは天眼、魔眼」
2つ持ちは、かなりのレアケースだ。スペックにスペックを盛り合わせて来て、高すぎる。何より、あの顔で紫と黒のオッドアイは反則なんじゃないだろうか。
これが『蒼穹の年』産まれかぁ、と自分もそうである事を忘れてエリスはただただ感心していた。それよりも次元が違う眼を持っているエリスは殿下の事を煽っている事に気が付かない。どんどん順番は進み、中央の左側の列の最後。
立ち上がったのは総帥の息子だ。
「ガイアス・ラ・フェライト 。スキルは風と雷。5年間よろしく」
——はい出ました。フェライト家秘伝のさわやかスマイル。
それよりもこのクラス2個のスキル持ってる人多くないか?さすがAクラスだな。
「次で最後だな」
はいどうぞ、と目で促されてエリスは立ち上がる。自分の設定は完璧に頭に入れている。ここで間違えるようなヘマはしない。
「エリス・フローリアと申します。スキルは神威です。皆さんについて行けるよう、5年間精一杯頑張ります」
スキルは『天理眼』なのだが、あの事をいえば騒がれるのでこのスキルにした。天理眼は基本的になんでも使えてしまうためこのスキルと言っても問題はない。そして、神威と言う、このスキルは一般的に使えることが多いいスキルだ。
「あー。お前が、特待生な。把握した。これで自己紹介は終わりだな〜」
エリスが席についた後、先生の大きな独り言が教室に広がる。彼女を特に特徴のない庶民だと適当に認識して前を向いたはずのクラスメイトが、一斉に首を回してエリスを見た。
どうやら、彼らのお友達ストライクゾーンに掠ってくれたらしい。
(特待生に敏感過ぎないか!?)
特待生というラベリングを受け、エリスは自分がどういうキャラクターで行くのか方向性が一気に固まった。
前方から「すごーい!!」と熱い視線を送ってくれるアリスもいる。彼女も庶民出身なので十分すごいと思うのだが…
(目立つことは極力減らしたかったな。……なかなかうまくいかないなぁ)
やはり、人生というものは全て円滑に行くことはないのだと、再度に確認した。




