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翌日になり、アリスはある場所へ向かう。
「お待ちしておりました。エリス様」
「お願い致します」
アリスという名は捨ててしまっまたため、名前が
「シュヴァルツ」しかないので昨日、総帥に新たに名前を貰った。
アリスでもよかったのだがもし、悪神が昨日言っていた歪みが出来ているということはアリスという名前が2人いる可能性になってしまうので、新しい名前を貰えたのはありがたい。
親に貰った名前は大事にしたいが所詮は名前なのだ別にいいだろうという覚めた思考なのは、軍人として血を流しすぎたのかもしれない。
「ふふ。おめでとうございます。制服は一週間後にはエリス様の執務室にお届けされることになっています。
この中からデザインをお選び頂けますが、如何致しますか?」
流石、貴族が集まる学校ということだけあって、制服ひとつとってもカスタマイズができるらしい。
お姉さんに渡された資料を見て、思わず迷ってしまった。
なんと色々な種類があるのだ。
女の知識にあった『セーラ服』と呼ばれるものなどもあった。 私はなるべく目立たないように、黒を基調としたローブであり、襟が暗めの青など色々な色があるので私はエンジ色にしてみた。ローブの下にきる白のワイシャツでネクタイもローブの色と同じにした。
「これでいいのですね。では、1週間後の、お届けまでお待ち下さいませ」
「はい。ありがとうございました」
エリスはお姉さんと別れを告げる。
その後は本部でやるべきこともなくなったので、自分の持ち場に戻る。
行きとは違って、その手に書類の入った封筒を抱えて転移した。
「ただいま〜」
「おかえりなさい!」
仕事をしていたもう1人の部下であるトレークは手を一旦休めエリスに顔を向ける。
「今回は私の長期単独任務だったよ」
「長期、単独?」
うん、とエリスは頷く。
ヴァンドールは5年制に加え全寮制の学校。
長期休みは1年時しか外に出れないためほとんどの人は外に出ることはない。
「その間はノルくんに軍の指揮は任せることになっているから、しっかりやるんだぞ」
「な! 団長、長期とは一体どれ程?」
「長くて5年短くて3年くらいかな?」
「5年もですか!?」
トレークは驚愕した。
今まで長期の任務と言っても1.2年がせいぜいだった。
そして今回は5年という長い期間も続くとは訳が分からなかった。
「だ、団長。一体どんな任務を与えられてしまったのですか? 団長がいなかては私達上手くやれる自信が……」
トレークは居てもたってもいられず、立ち上がってエリスの前へ出る。
正装した彼女の胸のバッヂが小さく音を立てた。
「うーんとね。私、今春からヴァンドール魔導学園に通うことになったんだ」
「……………へ?」
トレークの返事は先日総帥に見せたエリスの反応と全く同じものだった。
「あ、ちゃんと試験は実力でクリアしているから、そこは心配しないでね。
殿下やお偉いさんのご子息ご息女が集まる学園で、私は一生徒として彼らを見守る役を承って来たんだよ。総帥には学園生活を楽しむようにとまで言われてしまった」
「なるほど。理解しました。そういえば団長も〈蒼穹の年〉のお生まれでしたね」
トレークは案外すんなり彼女の任務を理解した。
国のエースが入学すれば、帝王陛下や総帥もご安心だろうと彼は思う。
「良かったですね。わたしはてっきり、魔国への潜入調査かと思いました」
「……うん、私も思ったよ」
何故だか元気が無いように見えるエリスに、トレークは疑問は符を浮かべる。
「どうかされましたか? 浮かない顔に見えますが」
「いや、まさか、私が同い年の子たちと一緒に学校に行けるとは思っても見なくて。任務を甘く見ている訳では無いけれど、こんなに好条件の任務が舞い込んでくるとは、逆に不安でさ」
エリスは封筒に入っていた学園のパンフレットを持ち上げてそれを眺めた。
パンフレットの下に重なっていた資料が顔を覗かせ、トレークは瞠目する。
「合格証明書……。ってだ団長!特別生じゃないですか!」
「あー、うん。そうみたい。学費に寮費は全額免除だってさ。まあ、平民の合格者には全員補助金が出るし、大したことないよ」
一体何を比べて大したことがないと言うのか、トレークには謎だった。
勉強する時間なんてほとんど無いように見えるのに、この人は本当に優秀だ。同じ庶民として、文武を極めた彼女は十二分に尊敬に値する。
優秀過ぎて何処からも引っ張り凧。
遠征から帰って来たかと思えば、武器の開発部で助言していたり、かと思えば、衛生部に文句を言って喧嘩していたり。まだ顔が割れていないので、他国に密偵として送られたり。〈国の眼〉として高難易度の任務に駆り出されたり。
この二年、彼女が三日以上の長い休みを取っているところをトレークは見たことが無い。
「……団長。留守は任せておいて下さい。 私たちは大丈夫なので、楽しんできてください!」
「ありがとう!」
エリスの心にはこれから起こることも想像して久しぶりに胸の鼓動が早くなるのを感じていた。
「入学まであと二ヶ月か。忙しくなるな〜」
「お茶、淹れて来ますね」
「うん。ありがとう」
そうと決まれば、早急に引き継ぎの準備を始めなくてはならない。
溜まった書類の山に先が思いやられたが、仕事を残しては行けないので、それから地道に仕事をこなす日々が始まった。




