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黒髪の 1人の少女と青髪の男がお茶をしていた。ここはモルタ帝国軍参謀本部の一室。
優雅にお茶を飲む、少女が着る黒を基調とした制服の襟や胸元には、いくつもバッジなどがついておる。方や男の黒を基調とした服にはマントが着いており、こちらにも襟や胸元にはバッチが着いている。
(あー、何を言われるんだろ。はぁ)
目の前にはシュヴァルツの直属の上司であり、この国の総帥でもいらっしゃるザハード・ラ・フェライトが、机に肘をついて組んだ手の上に顎を乗せていた。
「シュヴァルツ君。君に特別な任務を任せたいと思っている。単独行動になるし、見方によれば通常任務よりも面倒ごとがつきまとう現場だ」
——はい、やっぱりそう来ましたかー。
上からの命令は絶対だ。命令に背いたら銃殺なども有り得る。
断れるなら断りたいが、ザハード総帥の表情からしてそれは難しそうである。
帰還したら、世にも恐ろしい上司に呼ばれてしまい、シュヴァルツの気分は最悪。
「閣下のご命令とあらば、全力を尽くします」
意に反して、満点回答をシュヴァルツは答えた。
対するザハードはそれは、面白、可笑しそうに笑う。
ますます嫌な予感しかない。
「魔国の参謀本部に潜入してこい」や「迷宮を制覇し魔石を大量に獲得しろ」などと、とんでもないものではない限り、今更驚くことはない。
(頑張ればなんとかなる…よね?)
いつもならここで割り切るのだが、今回はなんか違う気がした。もし、上司じゃなかったら今すぐにでも逃げ出したかった。
「それは結構っ! 君は今年で12歳で間違いないね?」
「はい!間違いありません」
「君に特別な任務をお願いしたい。」
「は、なんなりと申し付けください!必ずや成功させて頂きましょう」
「やはり、これは君が適任だ。アリスくん。君には、今春からヴァンドール魔導学園に通ってもらう」
にこり。普通の女であれば傾倒してしまうような、閣下の美しいかんばせが、自分にだけ微笑んでいらっしゃる。
「へっ……………ハイ?」
情けない間の抜けた表情だったことは、自分でもよくわかった。上司に向かって失礼ではあるが、仕方ない。
予想のはるか斜め上を行く命令だったのだから。
「貴族のなかでも試験に合格したものしか入学を許されないという、あの、魔導学園でありますか?」
念のため、知っている知識を総動員してその学園が自分の知っているソレなのか確認をする。
「そうだ。しかし、“貴族のなかでも” というのは誤解だ。試験に受かりさえすれば、平民でも孤児でも入学は可能。優秀であれば学費も免除される。
ただ、その試験に合格するためにはある一定の学力と教養が必要で、子どもの教育に金をかけられない平民には突破が難しいというだけだ」
いや。それは平民は入れないと言ってるのとほぼ同義では?
口から出そうになる言葉を、アリスは飲み込む。
「この学園に入ることは将来を左右する一種のステータスだ。12歳になる子どもが、帝国中から集まってくる。陛下のご子息も入学予定だ」
陛下のご子息。アラン殿下。
モラル帝国の頂点に君臨する帝王、ヘルスフェル・フォン・リチャード・ザッハの子どものことだ。
彼は容姿端麗で武芸も達者であるとの噂は国全体に広がり、有名な方である。小説では、アリスの夫として、国を納め優秀な人だった。まさか、ここで会うことになると思わなかった。
「私の任務は殿下らの警護でありますか?」
アリスは慎重に任務の内容を確認する。
「それもあるが、君にやって欲しいことは少し違うな。大婆様が、12年前に 〈蒼穹の年〉に生まれた子は天啓を授かると予言した為にベビーブームが起こり、ほかの有力者たちも子どもを産んだ。その子たちが今、成長して学園に入学しようとしている。いわゆる “金の卵” たちだ。彼らの円満な人間関係の構築が、帝国の未来を左右すると言っても過言ではない。
そこで君には一生徒として彼らを見守ってもらいたいのだ」
「それは警護と、どう異なるのでしょうか?」
「殿下たちも優秀だから、自分たちの身は自分で守る。大人が煩く口を出していては、彼らのためにもならないしな……。
君は卵たちが立派に殻を破るのを、生徒としてさりげなく影からサポートしてあげて欲しい。なに、簡単に言えば、君は普通に学園に通うだけだ」
アリスは最後の言葉にピクリと反応した。
それはつまり、青春真っ盛りの少年少女に混じって自分も学園生活を送ることができるということ。たしかにアリスは今まで血と肉の世界でしか生きてこなかったそんな自信が神聖な学園に通っていいのだろうかと思った。なにより、学園に入学するということは、小説の舞台に経つということだ、そうすれば自分はどうなるのだろうと思った。
(あれ?たしか、殿下は公爵令嬢とお付き合いをしていたはず。私がこの世界を自由に生きたために歪んでる?なにより、私の小説での行動の記憶がない?)
何故か記憶が薄れていることに気が付き困惑する。もしかしたら、あの人なら知ってるかもしれないがあれ以来会ってないので呼び方が分からない。
「まあ、万が一のことがあった時のための布石でもあるな。だがそう気にしなくていい。
よっぽどの事がない限り、正体を明かして動く必要は無いんだ。
この間、君に適性診断と称した試験を解いてもらっただろう?
実はあれが今年の魔導学園の入学試験問題だった。理事長は、皇弟が勤められている。君の答案を見た彼の方からも、ぜひ君にも入学して欲しいとの連絡があってな」
皇帝の叔父、ファルス・リチャード・ザッハ。
まさかの大物が自分をご所望してくれたことにも驚いたが、遠征前に解かされた問題が入試問題だったことにも驚かされる。
「しかし、私には部下も沢山います。放っておけません」
「ははは、君は真面目だね君の部下の件は安心したまえ、君は優しいから心配するかとおもって先に聞いておいた。行ってきていいらしいぞ?」
「そ、そうですか…ですが、いくら学力が大丈夫でも」
「まだ心配しているのか?君は優秀だから、大丈夫に決まっているだろう」
「…はっ!金の卵達の成長を手助けさせていただきます!」
「よろしい。全力で学園生活を楽しむように」
「はい!」
こうしてアリスは、ヴァンドール魔導学園への入学が決まった。
こうして、波乱の学校生活が始まろうとしていた。
質素な部屋の一室。
「はぁ疲れた〜まさか、学園に通うことにやるとはって…なんでいるんですか……?」
アリスはなぜか、部屋にいる金髪の女に目を向ける。
すごく見覚えがある、女だった。
「やぁ、アリスちゃん。だって君、私を呼んだじゃないか」
「たしかに呼びましたが私の大好物のお菓子をくうなんて…」
そう、この悪神が食べているのはこの前3時間並んでやっと手に入った幻のお菓子である、チョコレートクッキーなのだ。
「そう硬いこと言わずにさー。で、どうしたんだい?私の事を呼んで」
「えっとあの女を倒して記憶がだいぶ薄れて来たのですが大丈夫でしょうか?私の今の記憶はどうなるんですか?」
「ははっそれを心配していたのかい?君自身の記憶は高度な魔術じゃなければけせないよ。そして、女の記憶だが、断片的な記憶だからね、消えてしまったのはもう戻せないよ。」
「そ、そうですか。このまま学園に通って大丈夫でしょうか?」
記憶のないまま学園に通うのは少し怖いことがある。
自分の体験した記憶は無くならないとはいえ、私はあんな生活は嫌なのだ、この記憶が無くなればどうなるか分からない。
「ふふ、そうだなー。大丈夫じゃない?あと、一つ忠告しとくと君が主人公としていなくなった事により歴史が少しづつ変わっていってるから、君を元に戻そうとこの世界の意思が君を襲うだろう、気おつけたえ」
「えぇー!」
言いたいことをいって悪神は帰ってしまっまた。
「私のお菓子返して…」




