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〜転生者達の傭兵国家〜  作者: あぱ
軍人少女
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「……」

「どうかした?」

「いえ。何でもないです」


運営委員の仕事として校内を巡回していたラゼは、ガイアスに問われ、努めて明るく応える。しかし、彼女は内心で異変を感じ取っていた。それはごく自然に周囲に紛れ込んでおり、普通なら気がつかないだろう、非常に小さな違和感で。


(……できる……)


ここしゅうへんだけであ50人近くいるため上手く探知ができない視線に、彼女の警戒度は跳ね上がっていた。ただ、自分が気がついたことを相手に悟られるのは、得策とは言えない。エリスはこちらに向けられた視線に気がつかないフリをすることを決めて、相手の出方を窺うことにした。


「そろそろ出し物も見て回ろうか。俺たちは4クラス見ないと」

「そうですね」


ただ校舎を見て回るだけでなく、彼女たちは出し物に危険なところや決まりを破っていないかのチェックも行う。


「どこから行きますか?」


エリスは自分たちが回るクラスに丸をつけてきたパンフレットを取り出す。ちなみに、巡回のペアはあみだくじで決まったものだ。本当はアリスやシロンと一緒になりたかったところなのだが、運ばかりは仕方がない。


それに学園祭は、明日もある。


初日は外部からの客も招くが、明日は学生だけが楽しむプログラムなのだ。今日はあまり時間が残らないが、アランが自重してくれたおかけもあって、明日はシロンとアリスとマータを連れ4人で回れる予定で。


(それよりもマータ大丈夫かな?学園長に話は通してるとは言え。何となくこの文化祭が終わったら私はいなくなるだろうし。シロンに任せるしかないよね)


何となくそんなことを考えてしまう。母親になると言ったのにそうするしかないとおもい胸が締め付けられる。


「本当に大丈夫?疲れてるんじゃない?」

「大丈夫ですよ。毎日寝てますし」


(今はいいよね。明日を楽しみにしよう)


外から来る客人たちに気を遣うのは、今日だけだと自分に言い聞かせ、エリスは気を引き締め直す。廊下の端で立ち止まった彼女は、今いる位置を確認する。


「近くにはないね。上の階からこうやって回ろうか」


同じく隣で足を止めたガイアスが、エリスが持つパンフレットを覗き込むと、スッと指で順路をなぞった。まわりが混雑していることもあって、距離が近くなるのは仕方ないのだが、見上げた時にばちんと視線がぶつかり、エリスはドキリとする。もう慣れたと思っていたのだが、未だに彼の容姿に驚く自分がいるとは。いや、もしかすると、周囲を警戒しているはずなのに、索敵のアンテナに彼が引っ掛からなかったことに、驚いたのかもしれない。どちらにしろ、ガイアスと一緒にいると、こうしてたまにびっくりさせられることは同じだ。


「それがいいですね」


エリスは驚きを胸の奥底にしまいながら、彼に同意した。



◇◇◇



「どう思う?」

「近いな」


トヴェリの問いかけに、鋭い目つきのノルが即答する。

彼らの視線の先には、エリスの手元を覗き込むガイアスがいた。彼らは現在、エリスを見守るという大義名分のため、影を薄くしてガイアスを尾行している。あくまで観察しているだけのため、リストバンドが反応することはない。軍で試作品のテストをして、性能を理解している彼らだからこそ、遠慮なく己の持てる力を発揮していた。


「た、大変です。ノル先輩!」


周囲を気にしてノルを先輩と呼ぶのは、フェータで。

トヴェリとノルのふたりとは異なり、視界全体を観察していた彼は青ざめた顔だった。


「どうした。フェータ」


若干呆れた声色のノルは、フェータを見る。


「そ、それが。……僕が分析する限り、校内を回っている男女ペアの生徒は恋愛関係が大半であると思われますッ」


「あそこも、あそこも、こっちも!」と。

フェータの視線が慌ただしく、該当する生徒達を追っていく。真面目に報告する姿からは、怯えすら感じられる有様だ。バルーダの遠征で処理の難しい現場に置かれた時よりも、動揺していることがわかる。


「うろたえるな。先程、少年に教えてもらった話では、委員会の仕事だと言っていただろう?」


あまり心を乱しては、エリスに尾行がバレてしまう。

ノルはケルヘラムに言われたことを思い出せと、フェータを諫める。


「それに、俺から見ると男女で回っているペアはそんなに多くない。気にし過ぎだ」

「そんなことないですよ!」


しかし、フェータは何故か食い下がってくる。


「あそこを見てください」


彼はノルの視線を誘導した。


「あの四人組。パッと見、四人で回っていて男女のペアを意識させ難いですが、三つ編みの女子と重めの前髪の男子生徒。それから、今は口喧嘩している黒髪眼鏡の生徒と、金髪の男子生徒でペアができています。巧妙ですね。ふたりでいれば目立つところを、セットにするなんて」


フェータは冷静に分析を語る。


「学園祭には保護者の目もあるので、カモフラージュには複数人で行動するのがベストなんでしょう。仲を認めてもらえたカップルは、堂々としていて勇者の凱旋ですね。恐ろしい。あれが、将来花形の騎士団に入る人たちの前身ですか」


残念ながら、冷静なのは話し方だけであって、内容は別だったようだ。長い話を聞き終えたノルは、何と答えていいのかわからずに閉口する。


「……とりあえず、お前、その分析力をもっと実践でやってくれよ。多分もっと効率よく作業ができるようになるから」


考えた末、ノルがかけた言葉はそんなものだった。


「そろそろ移動するぞ」


そこで、ふたりを見張っていたトヴェリが合図を出す。

一行は慎重に慎重に尾行を続けた。


「人に捕まってますね」

「そうだな」


廊下を歩いていたところ、ガイアスが外部からの客人であろう少女たちに囲まれているのが見える。運営委員だとわかるように腕章をつけているのが、どうやら声をかけやすいらしい。


「入学希望の子達ですかね?」

「大方そうだろーけど、容姿に釣られてるだろ、アレ。見る目がねぇなぁ。隣にいる女子の方が、現時点では一番すごい生徒だってのに」


親切に全ての質問に応えているガイアスの隣で、自分の出番ではなさそうだと身を引いているエリスの姿を見たトヴェリが呟く。


「すごい人なのに、それを悟らせないのが団長って感じですよね」


フェータは苦笑する。学園でも軍にいる時と変わらず、謙虚だが頼れる上司の姿を見てほのぼのとしていた矢先だった。彼らは、エリスに歩み寄る人物の姿を捉えた瞬間、顔色を変える。


「あっ!!」

「「あいつ!!」」


それまで慎重だった彼らは、一斉にえりすの元へと足を踏み出した。



◇◇◇


「やぁやぁ。元気そうだなぁ!」


ガイアスが少女たちに捕まっている横で、仕方なく話が終わるのを待っていたエリスの肩を叩いたのは、見覚えのある男で。エリスはそれが誰だか理解して、心の中で思いっきり顔を歪める。


「……お久しぶりです」


彼女を見てニタニタ笑っているその男の名は、ゼルヒデ・ニット・オルサーニャ。エリスと同じ、モルタ帝国で赤軍の軍団長を務める軍人だ。もっと詳しく言えば、エリスが不在だったノル率いる黒軍との合同練習で、ズタボロにされた隊長である。


「ああ。久しぶりだね。“エリス・フローリア”くん。その制服、すごく似合ってるじゃないか!」


言われている言葉は悪くないはずだが、この男の発するものは、面白がっているとしか捉えられない。


(面倒なのが来ちゃったよ……)


ゼルヒデに目の敵にされている自覚があるエリスは、非常に不快な思いである。


(わざわざ庶民の学生やってる私を見に来たのか? だとしたら、気持ち悪すぎだろ?)


薄っぺらい笑みで話しかけてくるゼルヒデに、彼女は今すぐこの場から去りたい衝動に駆られた。


「あれ? もしかして、久しぶりすぎてボクの名前は忘れてしまったかな?」

(うげぇ……)


嬉々としてツラツラと言葉を並べる男に、エリスは鳥肌が立つ。本当に大きな子どもだなと思いながら、彼女は鋼の精神で表情を崩さない。


「いえ。お名前を忘れるなんて、とんでもないですよ」

「……へぇ?」


ふたりの間に火花が飛ぶ。


「まあ、それもそうだよな? ボクたちの働きのおかげで、君はここにいられるといっても過言じゃないし?」

「……」


これは挑発だ。下手に答えを言えば、揚げ足を取られることは、この男の性格がらわかりきったことエリスは自分に言い聞かせ、拳を握りしめる。


「それにしても。本当にその制服、似合ってるね。いつも着ている服より、随分と可愛らしくていいじゃないか。きっと天国にいるご家族も喜ん――」


最後の言葉に、エリスの目の色が変わろうとした時だった。


「質問なら、僕が聞きますよ」


ガイアスの声が、不快な言葉を両断した。

いつの間にか隣にいた彼は、例の如く「死神宰相」とそっくりの顔に笑みを貼り付けるが、その瞳はゼルヒデを冷たく睨みつける。


「ッ!? なっ……」


突然現れた、最高官の顔に睨まれたゼルヒデは、心底驚いたのだろう。一瞬で顔から血の気は引いていくのが、側から見ていてもわかった。


「も、もう大丈、夫でありますッ!」


彼は辛うじてそれだけ言うと、脱兎のごとくその場から逃げ出した。


「……何あれ?」

「――ははっ」


エリスはそのあまりにも情けない姿に、思わず吹き出した。しばらく笑いはおさまらず、彼女はくつくつと肩を揺らす。


「何、笑ってるの?」


大人の男に絡まれてたというのに、呑気に笑っている彼女に、ガイアスは怪訝な顔だ。


「いえっ。ガイアスは、流石ですねッ。なんだか、スッキリしました。ありがとうございます」


しかし見事に面倒なやつを退散させた彼に、エリスはふにゃりと笑う。


「さて。時間が勿体ないですね。早く、最初のクラスに行きましょう!」


彼女はすっかり上機嫌で、廊下を歩き出す。ゼルヒデを前にして、一瞬だけ重くて暗い雰囲気をまとったのを感じていたガイアスは、その変わりように置いていかれる。


「どうしました?」


足を止めたままの彼に気が付いたエリスは、何事もなかったような柔らかい表情だ。



「……君が笑ってるなら、それでいいよ」


さっきの男は誰なのか。君は一体、どんな過去を持っているのか。その質問は飲み込んで、ガイアスは自分に言い聞かせるかのように、小さく言葉を溢す。


「何か言いました?」

「いや。何でもない。最初は、ボードゲームだっけ?」

「はい! 勝負します?」

「いいね。負けた方は、飲み物買ってくるってことで」

「いいですね、それ!」


学園祭は始まったばかりだ。


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