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エリスはいつもより気持ち小さく切り分けたハンバーグを頬張る。彼女は理事長室にて、優雅にワインを飲むファルスと同じテーブルを囲んでいた。
「――そういう訳で、今回も〈死神の玩具屋〉の協力あって、無事に外部の人間を招待することができそうだ」
彼はそう言って、リストバンドをラゼに差し出す。エリスはフォークを置くと、それを手に取って組み込まれている魔法を確認した。
「すごいですね……。こんな高度なものを量産したんですか?」
それは、学園祭の参加者たちに配ることになった入場許可証のリストバンド。何でも、悪意を察知すると収縮するらしい。ちなみに登録をすると誰がどこにいるのかも把握できる代物だ。とても簡単にできるようなものではない。
「君が気兼ねなく学園祭を楽しめるように、玩具屋が頑張ってくれたみたいだ」
ファルス苦笑する。それが、昔軍で開発した拘束道具を応用して作ったものだとは、決して公では口に出して言うことはできない。
「そうでしたか」
一方でエリスはセルジオ・ハーバーマスのことを思い浮かべて、優しい気持ちになっていた。
(今度お礼を言わないといけないなぁ)
彼とはそんなに長い付き合いでもないのだが、まるで昔からの知人のように慕ってくれている。バトルフェスタの時にもスクリーンを作ってくれたようだし、次の休みには礼をしなければならないなと彼女は思う。しばらく会えていないのだが、自分を気遣ってくれることは素直に嬉しかった。
「テストは無事に終え、生徒に直接危害を加えるようなことはほぼできないと断言していい」
「はい」
エリスは一緒に渡されていた、実施試験の結果がまとめられた資料に目を落とす。
「気をつけるべきは、間接的、計画的な犯行だな。当日は夏と冬の大会のように、騎士や軍人たちに警備をしてもらうことになってはいる。ただ、校舎を使った学園祭となると、見えないところは増えるな」
ファルスはそう言うと、グラスに口をつける。
(まあ、おかしな行動をすれば、位置情報でわかるかな。あと考えられるのは誰かに利用された悪意のない行動とか?)
エリスは本番をイメージしながら考えた。初めての企画は、やらなくてはいけないことが多い。それも、蒼穹生まれの金の卵たちだらけの学年なので、警備費は馬鹿にならない。
(よく、学園祭なんて受諾したよな)
生徒の自主性を重んじるとはいえ、ファルスも頑張るよなと思いながら、エリスは資料を見つめていた。
「ここだけの話なんだがな、シュヴァルツ」
彼は中身を飲み干すと、空になったグラスに再びワインを注ぎながら呟く。「シュヴァルツ」と呼ばれたラゼは、無意識のうちに背筋を伸ばした。
「君も思うところがあるかもしれないが、できる限り皇子を優先して注意を払ってくれ。万が一にも、彼に何かあっては困る」
きっと、少しの葛藤もあったことだろう。ファルスは言葉を言い切ったが、エリスはわざわざ「皇子を優先しろ」と言った彼の心境をなんとなく悟る。
(まあ、それはそうだよ。みんな大事な生徒だろうけど、彼は未来の皇上陛下。この社会に身分制度がある時点で、順番はつけないと)
学園の生徒として紛れ込み、自然に近くでアランを守れる位置にいる彼女。
(迷われたら、私だって困る)
正直、これまでだって第一優先はアランだった。今更言われるまでもない。
「ハイ。承知しております」
エリスは真剣な眼差しで、ファルスに応えた。ファルスはそれを見て、困ったように眉をあげる。
「そうか……。本番まであと一週間だ。無事に学園祭が終わるように、互いに最後まで準備をするとしよう」
「ハイ」
彼女は頷くと早速、万全な体調を維持するため、冷め始めたハンバーグを再び口に入れた。
*
「あ、エリスちゃん。おかえり!」
「ただいま」
エリスが寮の部屋に戻ると、いつもとは違って部屋の真ん中にベッドがひとつ置いてある。
「シロンは?」
「一旦お部屋に戻ったところだよ」
シロンの姿が見えなかったので、すでに寝間着姿のアリスに問うと、そう返された。
「今日は大事をとって、早く寝ようって話してたの。もうご飯も食べて、お風呂も入っちゃった」
「そっか。わたしも今日は早く寝よー。マータもちゃんとご飯食べてお風呂入った?」
「うん、ママ。……」
アリスの後ろに隠れるマータに確認取るようにエリスは、問いかけるとモジモジしながら答えた。どうしたのだろうかと思ったが最近遊んであげれてない事に気が付きどうして欲しいかわかった
「ごめんよマータ。1人で寂しかったよね、よしよし。」
「んっ……」
しっぽを激しく揺らしながら撫でられているマータは凄く可愛い。エリスは、マータを抱き寄せベットに座りマータのしっぽを自分の櫛で溶かしてあげる。金色のしっぽはやっぱりいつ見ても綺麗だ。それと同時に凄い魔力の集まりだなっと思った。マータはエリスがいなくても魔術の練習をしっかりやっていることがわかる。
「あ、そうだ。シロン様がね、こういう風に夜集まって一緒に寝るのは、『パジャマパーティー』みたいって言ってたよ」
「パジャマパーティー?」
「パジャマパーティーはね、お泊まりする時に、パジャマきてみんなで色々な話をすることだよ」
「楽しそう!」
アリスが突然なにか思いついたのか喋る。パーティーという響きが楽しいのか、アリスと一緒にマータがわくわくしているのが伝わってくる。マータはさっきよもしっぽのフリフリ具合が増してる気がする。
「はは。興奮したら寝れなくなっちゃうよ?」
エリスは笑った。あれだけ寝付きの良いアリスだが、そのテンションだと寝れないかもしれない。
「うっ。そ、そうだよね。4人でこうして一緒に寝るのは初めてだから、浮かれちゃってたかも」
アリスがしょんぼりすると、まるで子犬みたいで、エリスの表情筋はゆるゆるになる。
「私も嬉しいよ。たぶん学園祭までは一緒に寝られるから、シロンが元気になったら、こっそりパーティーしよう」
「!! うん!!」
ぱあああぁっ、と目を輝かせるアリス。
(やっぱり、フォリアはそのままが一番だよ)
ころころ表情を変える彼女に、そう思いながら、エリスは制服からラフな私服に着替える。
「マータはまだ小さいんだからちゃんと寝るんだよ!」
「まーた寝るの好き!」
そこで、コンコンと扉がノックされる音が響いた。
「どうぞ〜」
エリスが声をかけると、扉の向こうからそっとシロンが顔を覗かせる。
「あ、エリス。戻ってきてたの?」
「はい。体調はどうですか?」
「平気よ。心配かけてごめんなさい」
大丈夫ですよ、と応えてラゼはカーナを中へ勧めた。
シロンを出迎えるかのようにしっぽを揺らしながらマータが笑顔でベットに座っていた。
「マータちゃん!ふふ、本当にこの子可愛いは」
「シロン姉ちゃん。くすぐったいよ」
シロンはマータを見て駆け寄り頬擦りした。
マータは嬉しそうにシロンに頬擦りされていふ。
「シロン様元気そうで良かったですね」
「そうだね。マータとエリスの可愛さに疲れが逆に吹き飛んじゃったじゃないかな?」
わいわいと楽しいパジャマパーティーも毎日のようにやり1週間が経過した。
ついに、学園祭当日がやってくる。




