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〜転生者達の傭兵国家〜  作者: あぱ
軍人少女
133/146

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「フローリア」

「あ、殿下」


廊下を歩いているとファルスとの会議を終わらせたアランと鉢合わせた。


「理事長先生が、手の空いた時でいいから理事長室に来るようにだそうだ」

「わかりました」


エリスは頷く。


「……あの、シロンは?」


彼女はそこで気になっていたシロンの容態を尋ねた。

アランは陰りのある表情で、口を開く。


「アルドリッチ先生いわく、寝不足からくる過労だそうだ」

「寝不足、ですか……」


エリスは口元に手を当てて考える。


「シロンはひとり部屋だ。夜も無理をしていたんだろう」

「すみません。気がつけなくて……」

「仕方ない。それはわたしも同じだ」


アランは少し考えた後、何かを決心したような瞳で彼女を見つめた。


「フローリア」

「はい」

「しばらくの間、シロンと一緒に寝てくれないか。寮母さんにはわたしから話を通しておくから」


正直に言えば、夜の行動が難しくなるのでシロンと一緒にいることは得策とはいえない。しかし、そもそも自分の役割というのは、シロンたちを見守ることにある。これは受けるべき話だ。マータも喜ぶだろう。


「わかりました。私とアリスの部屋に来てもらうようにしましょう。シロンには私のベッドで寝てもらいます。それでよろしいですか?」

「ああ。君の分の簡易ベッドを用意してもらえるか聞いておく」

「私はどこでも寝れるので、お気になさらず。すぐに準備ができなくても、毛布さえあれば十分ですよ」

「……悪いな。助かる」

「いえ。お泊まり会みたいで楽しいと思います」


本当は自分がそばにいたいだろうに、アランも難儀なものだ。エリスは苦笑する。


「……わたしは今から寮に行ってくる」

「了解です」


アランは元来た道を再び戻っていった。


「さてと。アリスに何も聞かずにオッケーって言っちゃったな。ちょっと様子見てこようか」


エリスは転移魔法で校舎の屋上に出る。眼下を見渡せば、外で校門を飾る予定のオブジェを作っているアリスの姿がすぐに見つかった。


「アリスー」

「あっ、エリスちゃん。どうかしたの?」


顔に絵の具がついたままのアリスが、エリスを振り返る。


「絵の具ついてるよ、アリス」


エリスは笑みを浮かべながら、自分の頬を指さした。


「ふぇっ。本当?」

「あ、触っちゃダメだよ」


慌てて汚れを落とそうとする手にも絵の具が付いていて、エリスはアリスの手を掴む。


「何してるの……?」


そこに、そばで作業をしていたケルヘラムが顔を覗かせた。彼はアリスの顔と、エリスが掴んだ手を見て状況を理解したのだろう。はぁ、とため息をつきながら、水魔法で小さな水球を作り出し、アリスの汚れを落としていく。


(やるな…)


魔術の扱いはケルヘラムが一番長けているとエリスはそれを見て思う。水球を作ることは皆、比較的簡単に出来ることだが、それを使って人の肌に着いた汚れを優しく浮かし取るのは至難の技だ。


「はい。取れた」

「ありがとうございます。ケルヘラムくん」

「……別に、大したことじゃない」


アリスの微笑みを食らったケルヘラムは、視線を逸らした。それで好意を隠しているつもりなのだろうか? 丸わかりである。……アリスには伝わらないだろうが……。

エリス少しケルヘラムに同情した。


「それで?フローリアは何しに来たんだよ?」


彼女の視線に気がついたのか、ケルヘラムは我に返って話を変える。


「そうでした。アリス、今日からしばらくシロンも私たちの部屋で寝ることになりそうなんだけど、いい?」

「うん。もちろんだよ」

「よかった。シロン、寝不足が原因で倒れちゃったみたいだから、見張っててって殿下に頼まれたの、勝手にオッケーしちゃったんだ」


アリスに断られるわけがないと思っていたのは事実だ。エリスは少しだけバツが悪そうに、本当のことを言う。


「大丈夫だよ。あ、でも。わたし、すぐに寝ちゃうから、役に立てるかなぁ?」


勝手に話を進めたことについて、アリスは案の定怒ることはしなかった。それどころか真剣にそんなことを言うものだから、エリスは笑ってしまう。


「はは。アリスが気持ちよさそうに寝てたら、きっとシロンも眠たくなっちゃうよ」

「エリスちゃん。それって、褒めてる?」


からかうつもりはなかったのだが、むうっと頬を膨らませるアリス。


「わたしだって、もう成人だもん。夜更かしくらい出来るよ」


子ども扱いされていることにご不満、といったところか。

しかし残念ながら、「夜更かしくらいできるよ」という発言は、まさしく子どものそれである。


「夜更かしなんてしなくていいんだよ。アリスまで倒れたら困る」


宥めるようにエリスが言うと、アリスはハッとした。


「元気で笑っているのが、一番可愛いよ」


思ったままを口にして、にっこり笑うエリスに、アリスは目を丸くし、ケルヘラムが眉間にシワを寄せる。


「アリス。簡単に可愛いとか言ってくるやつは、言い慣れてるから言えるんだ。気をつけた方がいい」

「へ?」


ケルヘラムが、さりげなくエリスの肩を押してアリスから彼女を遠ざける。


「ちょっ。そんな、私は思ったことを言っただけですよ!」


アリスを守るように、間に立ったケルヘラムにエリスは心外だと訴えた。


「自分が言えないからって、そうやっ。ムグッ?!」


人に当たらないで欲しい。という言葉は、ケルヘラムの手で頬を掴まれたことにより阻まれる。


「なんか、言った??」


怒っている。いつもは中性的で麗しい瞳が見開かれ、鋭い眼光を飛ばしている。挟まれている頬が痛い。絶対に加減をしていない。


(あらら〜)


どうやら、本気で怒らせてしまったようだ。

夏のバトルフェスタで少しだけ距離が縮まったと思ったのに、やってしまった。


「にゃんでもありましぇんっ」


彼女はもう言わないと、必死に目で訴える。


「ケルくん?」


ケルヘラムの背中に隠されたアリスは、エリスから漏れる奇声にきょとんとした。彼女に名前を呼ばれて、ケルヘラムはやっと手を離す。


「痛いです……」

「本気で掴んだからね」

「……すみません」


釘を刺されて、エリスは大人しくその場を引く。


「じゃあ、私は運営室に戻ります。アリス、無理しないようにね」

「うん。エリスちゃんも」


エリスはそのまま運営室に戻った。


「戻りましたー」


扉を開けて中に入ると、一斉に二つの視線が自分に突き刺さる。エリスはは内心びっくりしながら、そういえば気分転換に教室を出たことを思い出す。


「あ、アルレンくん。おはようございます。すっきりしました?」

「はい。毛布とかありがとうございます。……あの、どうしたんですか、それ?」


アルレンが不思議そうに尋ねられ、エリスは首を捻る。


「頬。ちょっと赤くなってますよ」

「えっ!」


どうやら、ケルヘラムに掴まれたところが赤くなっていたらしい。


「思いっきり掴まれたもんなぁ。次からは気をつけよう」


エリスはため息混じりに呟きながら、片想いの男子を刺激してはいけないと、心のノートにメモを残した。


「この短時間で何をしてたら、そんなことになるんだよ……」


エリスは呆れた様子で、席を立つ。彼はエリスの前に立つと、そっと彼女の赤く染まっている頬に触れた。


「誰にやられたの?」

「大したことじゃないんですよ。ちょっとルカ様の逆鱗に触れてしまっただけなので」


あまりにも自然に顔に手を伸ばされたものだから、エリスも普通に答える。


「ルカ? なんだ。それなら仕方ないね」


ガイアスはケルヘラムの名前を聞いて拍子抜けた。


「え、それはどういうことですか?!」


エリスは彼の反応にイラッとしたが、先ほどとは打って変わって優しく触れられたことが印象に残って。


(……ケルヘラムくん言いたいこと、分かったかもしれない……)


それよりも頬をいきなり触ってくるとは大胆だな、いきなり過ぎてアルレンなんて口をポカーンっと開けていた。



……


カーテンで仕切られたベッドで、シロンは夢を見ていた。


長い、長い夢だ。足元からどんどん黒い何かが自分を飲み込んでいく。恐ろしい夢。いつから悪夢を見るようになったか、彼女にもわからない。例え、うなされないで目を覚ましたとしても忘れているだけで、本当は悪夢を見ていたのかもしれない。


どうしてこんな夢を見るのか。


そう考えて、いつも思い当たるのは、自分がこの世界の住人ではない異物だからなのではないかということ。


命がかかっている。死ぬかもしれない。


(ううん。違う……)


彼女はズブズブと体が闇の沼に落ちていくのを感じながら、一番恐れていることは、本当は違うと認めた。

誰かを殺してしまうかもしれない。

そして、それが最愛の人だとしたら……。

怖かった。


自分が死んでしまうことは、あまり考えていなかった。前世で死んだであろう自分が、死の直前まで死を考えなかったように。今も、なんだかんだで生き延びている自分に、それでいいと思っていた。


しかし、もし。


もし、このまま冬を迎えて、自分が怪物になってしまったら。その体で彼を傷つけてしまったら。

想像するだけで、自分が許せないナニかに思えて気持ち悪かった。


『悪役令嬢。怪物の器。鳥籠の中で大事に育てられた、悲劇のお姫様』


声が、聞こえる。


『どうして、あなただけ幸せになるつもりなの?』



何故だろう。どこかで聞いたことがあるような、女性の怒りがこもった哀しい声が聞こえた気がした。


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