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文化祭は、学園始まって以来の試み。
本番が近づけば近づくほど、様々な問題が発生し、運営委員たちは目まぐるしい日々を過ごしている。
「グラノーリ」
「はい」
廊下を歩いていたところ、担任のヒューガンに引き止められ、ラゼは立ち止まった。
「リハーサルで照明器具が壊れたらしい」
「えっ! 本当ですか? 今、確認しに行きます」
ホールの舞台に設置されていた機材が壊れていたらしい。学校の備品を購入するのは運営の仕事であるため、彼女は自らホールへと向かう。
それから状態を見て、使えないとわかると急いで申請をせねばとラゼは再び来た道を戻った。
が、その途中。
「あ、グラノーリさん。当日の食堂についての案内はこれでよかったかしら。確認してもらっていい?」
「わかりました。ありがとうございます」
と資料を渡されたかと思えば、
「おっと、いいところに! グラノーリくん。三年C組と一年B組で使う備品が被っていたらしいんだ」
「え」
「代用できるものを私も探しておいたから、代表たちと話を通してくれ」
「……すみません、ゾーン先生……。助かります」
「いや。ミスは仕方ない。頑張りなさい」
「はい」
といったように、次から次へとやることが舞い込んでいた。
これが猫の手も借りたいという状況なのかと、ラゼは思う。
委員長であるカーナも、確認事項が書かれた紙がてんこ盛りになった机で格闘しているし、フォリアはその美的センスを活かして学園を彩る装飾関係全ての管理を任されている。
(魔法が使えるからって……。ひとりがこなすべき仕事量がえげつないよな……)
前世と比べれば、ひとりがこなせる作業量は何倍にもなる。だが、これはあまりにも運営側に事務的処理が偏りすぎたのではないかと、今更ながらに後悔しながら、ラゼはあっちこっちに飛び回った。
そんな矢先だ。
「ラゼちゃん大変! カーナ様が倒れたって!!」
酷く慌てた様子でフォリアに、そう言われたのは。
「え……」
ちょうど職員室を出たばかりだったラゼを見つけたフォリアが駆け寄ってくる。
ラゼは資料を手に抱えたまま、目を見開いた。
「お手洗いに行くって言って、戻ってこないと思ったら……廊下で倒れたって……。今は保健室に」
「殿下は?」
「もう駆け付けてると思う」
「……そっか……」
ラゼは今までになく、暗く真剣な表情でそう呟く。
(見込みが甘かった……。クロードくんにも言って、ちゃんと休憩を挟んでもらっていたはずなんだけど。私がついていながら、女神を無理させてしまった……)
人にはそれぞれキャパシティというものがある。
つまりは、同じ時間机に向き合っていてもこなせる能力には差があるし、体力の限界にも差というものがある。
戦場でまともに寝れない中、任務を遂行してきたラゼ。その体力と精神では、カーナのような令嬢の限界を正確に推し量ることができなかったようだ。
軍では部下の体調管理は、生死を分つほど重要なこと。
自分がいながら、こんな根本的なミスをしてしまうとは。
ラゼは思わぬ不意打ちにショックを受ける。
「カーナ様にはゆっくり休んでもらおう。フォローは私がする。フォリアも今日は……遅くても六時に切り上げて、モルディール卿のところに行くこと」
「ふえっ?!」
最後に思わぬことを言われたフォリアは驚いた声を上げた。
しかし、ラゼは大真面目に話をしている。
「絶対ね。守らなければ、私が強制送還するから」
「ええっ」
フォリアは口をパクパクさせ、言葉が出ないようだ。
ラゼはそんな彼女の様子は横に置き、これからの仕事について思考を巡らす。
学園祭本番まで、あと一週間。
カーナ以外のメンバーにも疲労が見えている。ここからが正念場だろう。
だが、準備に疲れて本番を楽しむことができないなど、断固あるまじき事態だ。
(……さて。ちょっと、頑張っちゃおうか)
今でも普段と変わらぬ作業効率を保っているのは、ラゼくらい。体力自慢のイアンですら、慣れないことばかりで眠そうにしている。
(あんまり私ばっかりやるのも、青春を邪魔するからやめようと思ってたけど)
彼女が本気を出せば、ひとりで運営を回すこともできなくはなかった。移動や伝達を統制してしまえば、より効率的に問題が片付くからだ。
そして、仲間たちが全力を尽くして頑張っているのに、自分だけ余裕でいるのも、少し心苦しく思っていた。
「よし。カーナ様が戻ってくるまでに、たまってる仕事は全部片付けよう」
「え?」
これが後に起こる「ラゼ・グラノーリ分身事件」の始まりだった。




