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〜転生者達の傭兵国家〜  作者: あぱ
軍人少女
119/146

3の83

ウレックとの試合が終わると、次に駒を進めたのは

エリス、アルレン、ガイアス、アランである。エリスと

アルレンは同じ山だが、ガイアスとアランは逆の山にいるため、彼女が戦うことになる攻略対象者はあと二人。


(アラン殿下と閣下の息子が当たるか。まあ、ガイアス様は今まで殿下の顔を立たせてきたし、乙女ゲーム的にも殿下が勝ち上がってくるでしょ。でも、勝ったら面白いな。彼、私に勝手に負けるなって1年の時に言ってたし)


エリスは対戦表を見ながら決勝の心算をする。まあ、そうはいっても理事長からも優勝してくれと言われているので、負ける気などさらさらない。彼女は三年生と一試合挟んでから、準決勝でアルレンとぶつかることになる。

そしてその隣では、同じく決勝をかけてガイアスとアランがあいまみえることとなっていた。


……


「準決勝か。全学生のトーナメントって言うから暇を持て余すと思ってたけど、案外あっという間だったな」


観客席に紛れたエリスの部下――トヴェリは、隣で座っているノルに言った。


「そうだな。まあ、代表が勝ち残ってるから飽きないんじゃないか」


ノルがそう答えると、トヴェリは笑う。


「ことごとく、良い子はおやすみラリアットでさよならしてるけどな」

「そうだけど、さっきは違ったろ? 準決勝にもなれば、違う技もみれると思うけどな」


ノルは会場に出てきたエリスを見下ろす。

戦場に硬い表情挑む、シュヴァルツはそこにはいない。学園で勉学に励む14歳の真面目な少女だ。ここにいる何人の人物が、彼女がこの国の軍を代表するような強さをもつ軍人だと分かっているだろうか。きっと「シュヴァルツ」という存在を知ってはいても、彼女と結びつけるようなことは出来ないはずだ。それが彼女の強みでもあるのだが、今大会でスカウト目当てに来ている大人たちがエリスを引き抜こうとマークしている視線は、トヴェリにとっては不愉快だった。


「団長卒業したらちゃんと戻ってくるよな……」


ぽつりと言葉がこぼれ落ちる。ノルが面食らった顔で瞠目するので、思ったことが口に出てしまったことに彼は気がつく。


「あ、いや――」


何とかその場を誤魔化そうとするが、口籠って上手く言葉は出てこない。別に咎められるようなことは言っていないはずだったが、今言ってしまったことは何かいけないもののことのようで、トヴェリは自分に戸惑った。


「どうだろうな。わかんねーよ、オレたちには。ここにいても団長は楽しそうだし。いなくなったらなったで、誰も座れない特等席は空くけどな」


口ではおちゃらけてみせたトヴェリだが、彼はどこかつまらなそうにスクリーンを見つめる。

エリスはアルレンと対面し、「お手柔らかに」と言われて、にっこり「こちらこそ」と言い返すところだった。

そんな食えない笑みをたたえて挨拶を交わすと、ふたりは位置につく。もう何試合とこうしてフィールドで相手と対面しているので、どちらも慣れた様子で自然体に構えていた。


「どうやら今回も、おねんねしなくて済みそうだぞ」


あることに気がついたトヴェリにそう言われ、ノルもそちらに注目する。


「……結構、試合のルールに抜け穴があるみたいだな」


何のことか分かった彼も目を鋭くした。

ふたりの視線はアルレン・グレイス の足元に向いている。


「今まで団長みたいな勝ち方するやつがいなかったってことだろ。今後の大会は、あの子みたいな戦法も多用されるんじゃねぇ?」

「すごいな。もしかしたら、『対フローリア流』とか言われるかもしれないってことか?」

「お前、人に文句言う割にネーミングセンスないな」

「……」


痛いところを突かれて、ノルはグッと口をつぐむ。


「ハハッ。まあ、どうであれ、あの人はどこにいても歴史を作るんだな」


トヴェリは楽しそうに笑った。


「影の使い手か。執事長の息子だったら裏の仕事もしてるかもな。結構いい勝負になるんじゃないか?」

「それでもうちの団長が一番だけどな」


トヴェリの一言に、ノルは目を丸くする。


「誰が何と言おうと、今あの人はオレたちの団長だろ?」と得意気に付け加えるトヴェリ。


「それもそうだな」


こればかりは相棒に同意して、ノルも笑い返すのだった。



準決勝の舞台が整うと、審判が準備完了の合図に手をあげる。祭りの終盤に差し掛かった闘技場は静まり、皆試合に熱い視線を注いでいる。ここまで残った全員が二年生になるとは、一体誰が予想しただろうか。


決して、5年生が弱かったわけではない。彼らが異常に強いのだ。それは不確かな占いだと分かっていても、思わず「蒼穹の年」に生まれたことを羨ましく感じてしまうほど。

特に注目されているのは、特待生で入学している庶民の

エリス・フローリア。それは彼女の戦闘スタイルが先手必勝・一撃必殺で、瞬きする暇さえ与えてくれないという理由もある。果たしてこの女子生徒はどこまで勝ち進んでしまうのか。皆、そのいく先を見守っている。


その中にはスカウトに来たお偉いサマたちも、来年に向けて目を光らせている。庶民で優秀な生徒は一番の落とし所だ。貴族と違って余計な気遣いもいらないので、彼らにとっては非常に得難い人材なのである。


(これ終わったら決勝か)


そんな期待の眼差しを受けることにも大分慣れてきたエリス。彼女はちらりと隣のコートを見やり、アランとガイアスを見る。


(殿下を倒せるなんて、もう二度とないかもな)


日頃お世話になっている閣下の息子を倒せないのは残念だが、将来のビッグファーザーである殿下を相手するのも恐れ多い。。今相手をしなくてはならないのは、攻略対象者であり、アラン殿下の側仕えでもあり、そして裏では暗殺業なんてものを営んでいらっしゃるアルレンくんだ。


(影魔術。厄介なんだよねー……)


部下が気がつくことに、エリスが気がつかないわけもなく。彼女は空を見上げて、今日はぷかぷか雲が泳いでいるお天気なことを確認する。


「いい天気だな〜」


エリスはどうしたものかと空を仰いだまま。

戦闘開始のゴングは、打ち鳴らされた。


「おっと。あっぶない」


今回エリスは、ラリアットをかましにアルレンへは突っ込まなかった。その代わり、彼女は突然背後に現れたアルレンが手刀を落とそうとするのを軽く避ける。


「やっぱり、気がついてましたか」


技を避けられたアルレンはそう呟いた。


『おっとお! これは一体どういうことでしょう! 今まで一気に相手との距離を詰めていたのはフローリア選手だったはずですが、今回最初に技を仕掛けに行ったのはグレイス選手です!』

『あれはスキル(影)で有名な「影飛び」という魔術です。影と影の間を移動することができるかなり難易度の高い魔術起動ですよ。まさかこの年にしてマスターしている選手がいるとは驚きですね。それだけじゃなく魔術も影でスキルも影とうことで凄い技が出てくると思います』

『「影飛び」ですか……。今まではこの能力は温存していたみたいですね。まさか、フローリア選手を越える速さで間合いを詰めてしまうとは』


実況解説によって、アルレンが何をしたかは会場に知れ渡る。観客席にいるシロナ、アリス、ウレック、ケルヘラムの四人は、アルレンが本気でエリスを倒しに行っていることに気がついて目を見張った。


「やるな、アルレン」


アルレンが目をギラギラ輝かせる。今日にでも試合を申し込みそうな勢いだ。


「エリスが最初に攻撃しなかったのは、初めてではないかしら?」

「そうですよね!」


アリスがアルレンに頷くと、先ほどからその隣で考え込んでいたケルヘラムがスクリーンの再生を見てハッとする。


「そういうことか。おかしいと思ったんだ」


彼の一言が聞こえて、アリスはキョトンと首を傾げた。


「どうかしたんですか?」

「アルレンが何でフローリアの魔石起動の速さに勝てたのか、理由がわかった」

「え? 今回はアルレン様がエリスちゃんより速かったってことじゃないんですか?」

「違うよ。ここにいる学生じゃ、誰もフローリアの魔石起動スピードには勝てない。初速が違いすぎる」

「言われてみれば、そうだな」


ウレックも身をってエリスの高速移動を体感しているので、避けようとしても避けれないし、魔石を起動して防御しようとすることすら間に合わないことを分かっている。


「じゃあ、何でアルレンはエリスさんにやられる前に、影飛びが出来たんだ?」

「簡単だよ。試合が始まる前から魔石を起動しておけばいい」

「「え?」」


思わぬ回答に驚きの声が揃う。


「それって、アリなのか?」

「アリなんじゃない? 戦闘開始の合図で、攻撃をしていいってルールだから。『位置について、よーい、どん』っていうので、最初から試合は始まってるって見なすのと同じことだよ。実際、誰も魔石を起動して構えていたらダメなんて言ってない」

「……型破りだな」

「それ、ウレックが言う?」


ケルヘラムは呆れたように肩を竦める。ウレックの試合が終わった後、アルレンが試合のルールを見直して何か考え込んでいたのは、これを考えていたからだろう。ともすれば、彼を触発したのはウレックということになるはずだ。


「準備しておけば、魔法を発動するのにタイムラグは生まれない。フローリアに対抗するにはいい案だと思うよ。っていうか、フローリアが速すぎるから、こんな裏技が必要になったんだろうけど」


学生同士の試合で、本来なら必要ではない戦法。だからこそ今まで、誰も気がつかなかったのだろう。

ケルヘラムの指摘は尤もで、「魔法を発動するための魔石起動」という根本的な基礎能力には、ここまで差が出るはずはなかったのだ。エリス・フローリアが、迷宮なんて言うこの世界の謎の一つである、魔物たちの住処で先陣を切って進む経験値を蓄えているものだから、今回のような事態が起こってしまった。これには貴賓室で観戦していた ザハードは苦笑し、理事長であるファルスは今後の大会ではルールの見直しが必要そうだと頭をかく。


「余裕ですね。裏の仕事じゃ、これを避けられたことは滅多にないんですよ」


裏の仕事とはつまり暗殺のことで。アルレンの言葉に

エリスは頬を引きつらせる。


(本職の人が、殺す気できてる……)


別にこれくらいの攻撃なら、避けるまでもなく受け止めることも彼女には可能だ。加えて言えば、彼の影飛びより速く空間移動ができる自信もある。しかし、あまりやりすぎるのも良くないし、何より、そうすると試合がつまらない。


「いいね。面白くなってきた」


エリスの口元が、楽しそうに弧を描く。


「ッ!」


身の毛がよだちアルレンは彼女から飛び退いたが、エリスはそれを追いかける。


「そうだ。これ、借りときますね」


エリスはそう呟きながら、試合用の刃が潰れたナイフを振るう。それが自分の服の下に隠していた暗器だと気がつき、アルレンはゾッとした。あの手刀を振り下ろそうとした一瞬で盗られた。そうとしか考えられない。言われるまで気がつかなかった自分にも彼は動揺したが、ポーカーフェイスはそのままだ。彼女の攻撃を避けながら、袖に隠していた小型のナイフを四方に飛ばす。エリスにその攻撃は全く当たらないが、それも想定の範囲内。影飛びは小さくても影がある場所になら、どこにでも移動できる便利な能力だ。アルレンはナイフが地面に刺さってできた影に、影飛びで移動する。


これは某忍者世界の金髪のかっこいい父がやりそうな技であった。


(移動系って、私の専売特許ってわけにはいかないところが残念なんだよねぇ……)


飛んだ位置に刺さったナイフを彼から投げられて、エリスはそれを避けながら思わずため息を吐く。これだから地味なスキルは嫌になってしまう。もう少し別のスキルということを言えばよかったと思うエリスである。



(困ったな。これだと私の面子が丸潰れだよ)


何私よりかっこよく移動してくれちゃってるんだと、彼女は珍しく不満な顔である。


「ちょっとだけ、張り切っちゃおうか」


四方八方から飛んでくるナイフをひらひらかわすと、反撃に出た。影の中から、ぼこりと黒い泉が湧くように現れるアルレンを、モグラ叩きのごとく叩きに行く。


「なっ!」


影から出てきたらエリスがいるものだから、アルレンは瞬時に他の影に飛ぶ。しかし、その先にもナイフを構えてエリスはいる。どこに飛んでもエリスに追いかけられ、アルレンは影の中に隠れた。潜伏した影を攻撃されるとダメージは自分に返ってくるので注意はいるが、何処にいるかは分からないはず。


(まさか、ここまで地力の差があるとは。殿下の護衛としてさすがにこのまま、負ける訳にはいかないですね)


そういいアルレンは影がから飛び出る振りをする。エリスはその影に反応して詰めようと思ったが出てきたのはダミーである影だった。


「シャドウですか。考えましたね。」

「えぇあなたのおかげで色々案が出来ました」


攻撃を先に仕掛けたのはエリスであった。一瞬でアルレンの懐まで忍び寄り奪った暗器を投げつけようとする。

さすがにそれを受けるアルレンでは無い。後ろに飛び退いてスキルで会場全体を影に覆った。


「うっそ。これは……」


流石のエリスも驚く。半径50mくらいある闘技場全体が影に覆われてしまったからだ。これではどこから出てくるかは判断しずらい。さらに追い討ちをかけるように影がエリスを絡めとる。


『おおっとエリス・フローリア選手がアルレン・グレイス選手のスキルにより拘束されてしまいました!』

『勝たせはしないと言う強い意志がこのスキルを更に強くしたのでしょうか。これで、エリス・フローリア選手が負けてしまうのかそれともこれすら打ち破ることになるのでしょうか!!』


実況の声が会場全体に響き、観客席に座る生徒や保護者 見に来ているお偉いさんが戦いへ目を向ける。


「ふふふ、アルレンくんって大胆なんですね」

「?」

「まさか、女の子のことをこういう風に拘束して……あんなことやこんなことをする訳じゃないですよね?」

「なっ……」


いつも無表情なアルレンがエリスの言葉により耳を少し赤く染め顔をエリスから逸らした。捕まってるエリスは、黒い影で手足を拘束されアルレンに暗器を向けられていた。それでも、エリスには普段出ないような色気があった。


「うっ……」


女性経験のないアルレンは、エリスの言葉にスキルを解いてしまった。その隙にエリスは、アルレンから最後の暗器を

奪い背に周り首に突きつける。


「そ、そこまで!!」


審判の判定でエリスの決勝進出が決まる。彼女はナイフを離す。


「はぁ言葉に惑わされて負けてしまうとは情けないです……」


彼は困ったように眉を潜めた。


「あれを日常生活で不意にやられたら、ひとたまりもないですよ」


エリスが思ったままをいうと、会場が一気に湧く。

何事かと隣のコートを見ると、どうやら勝敗が決まったようで。


『決勝に駒を進めたのは、どちらも二年A組。ラゼ・グラノーリ選手とガイアス・ラ・フェライト 選手です!!』


エリスはスクリーンに浮かび上がる、自分の名前と相手の名前を見て驚く。


「へぇ·····」


何となく因縁を付けられてるのは知っていたが殿下を倒してまで勝ち上がってくるとは予想をしなかった。エリスは、驚きと決勝戦を思い浮かべて自然と口角がつり上がった。


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