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無事大会も終わり、アリスとのデートも終わった。
ちなみにマータは私たちの寮で住むことになった。
授業の時には私たちがいないので我慢してもらうことにした。マータにも了承を得ているので大丈夫だろう。
(もし、無理ならアリスにバレないように分身でも作ればいいしね)
最悪、悪神に会った際に貰ったこの世界の神々の権能の1つの並列存在を使えばマータを悲しませることは無い。
大会が終わり数週間が経ち、生徒達は朝からホールに呼ばれて各自向かう。準備を終えてホールに集まった全校生徒たち。
今年のバトルフェスタについての説明が始まる。
去年は突然の乱入者でエリスは痛い目にあったが、 悪神がこの世界の神々を倒して私の力にしてくれたからだ。この間の冬の模擬戦も問題なく終わっている。ただ、だからといって油断はできない。この学園には王国側の内通者がいる可能性が非常に高いのだ。そして、既にマークする人物の候補は決まっている。
(シロナに敵意を向けるような輩はとっとと潰したいけど、泳がせることにしたからな……)
エリスは壇上にいる理事長を見た。学園では彼が彼女の監督官である。彼も理事長という立場で不安はあることだろうが、それでも作戦に踏み切ったのはやはりエリス・フローリアという存在が大きかった。過大な評価をもらっているようで悪い気はしないが、自分の出番など無いに越したことはなかったのでエリスとしては複雑だ。
(まぁ。私がいるからには敵を何人殺そうが金の卵たちは守ってみせるけどね)
入学当初と彼女の意気込みは変わらない。しかし、その内に秘める熱量が格段に大きくなっているのは、エリスも生徒としてこの学園生活を好きになっているからに違いなかった。
何せ、若くして軍人になったものだから、表の人間との関わりはかなり薄かったのだ。こうして学園に通うことになるとは、彼女自身、思って見なかった。
まあ、その裏にシュヴァルツをこの国に留めようとする計略もあったりするのだが、エリスは知らないしどうでもいいいいのだ。確かにこの学園は気に入ってるし特にシロナやアリスは好きだがそれだけだ。
「それでは、今年の対戦表を発表します」
教師の声かけとともに、バトルフェスタの対戦表が舞台に浮かび上がり、生徒たちの手元には魔法で番号が割り振られる。
(Yの2-1ね……)
校舎にもこの対戦表は張り出されるが、訳ありなエリスでも対戦相手を知らないので、目を凝らして相手を確認する。左から順に視線を滑らせると、「Y2-1」との表示を見つける。
「えっ!?」
そしてエリスは自分の隣に書かれた対戦相手を見て、思わず声を漏らした。そこには「ケルヘラム ・アロンソ」と、見知った人物の名前が記されていた。
見る場所を間違えたかと思ったが、残念ながら間違いではない。相手は財務大臣の息子で、攻略対象者でいらっしゃる、あのケルだ。彼も驚いたらしく、こちらを振り向いたところでふたりの視線がかち合う。ケルはハッと目を逸らした。エリスも珍しく気まずい思いで、困ったように髪を耳にかける。
(……かなーり想定外の相手が来たんですけど……?)
正直に。エリスはケルが得意ではない。逆に、彼も自分を苦手としているだろうということが何となくわかっていた。
ケルだけなのだ。エリスがシロナたちーー言い換えると、小説のキャストの皆さまの中で、あまり交流が無いのは。
みんながみんな仲良くなれるものではなく、感覚的に苦手とする相手がいる。前世だろうが今世だろうが、小説がなんだろうと、それは同じのことらしい。エリスも別に、彼を心から嫌っているわけではないので、普段はある程度距離を保って当たり障りないようにやっているのだが、まさかその相手とバトルフェスタで戦うことになるとは。
(なんか、やり辛いなぁ……)
ケルは典型的な貴族思考の持ち主。崇高なご貴族サマなので、アリスに以外は最初は当たりが強かった。
庶民エリス・フローリアは勿論、女子が軽率に彼に近付こうとするならば、あの可愛い顔に毒を吐かれる。
ちなみにシロナの予言の書によれば、彼に「可愛い」は禁句だそうだ。
エリスは再び目が合わないように、ちらりとケルを盗み見る。次に彼の視線が捉えていたのは、アリスの姿。
それを見て、エリスの頬が引きつる。
(そういえば、ケルヘラム様だけだったな。あからさまに
アリスのことが好きな攻略対象者……)
ケル紛うことなき乙女ゲームの攻略対象者。
……だが、しかし。
残念ながら、アリスが選んだのは、私なのだ。
彼女は悟った瞳に変わると、静かに両手を合わせる。
「……ケルヘラツ様。乙です」
エリスの意味深な行動を、後方の席にいたガイアスが訝しげに見ていたが、彼女は背中に感じるその視線を全く気に止めない……。
こうして二度目のバトルフェスタは始まりを告げた。




