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現在行われているボックス・ガーデン本戦は、大会最終日の、最終競技である。
元々人気のある競技ということも合わさり、現在観客席は、全てが埋まってなお人の流入が止まらず、立見席も開放され、モニターに映される大迫力の戦闘一つ一つに、大歓声があがっていた。
そんな観客の入り具合ではあるが、大会関係者のみに開放されている特別席が存在しており、一応関係者となっている来てるAクラスメイトは、そこで試合の観戦を行っていた。
「おー、はげしい!」
「エリスは、決まってから朝と夜学園の練習場で剣を振るったりしてたしねぇ」
「エリスとっても頑張ってたわ」
そして、現在エリスのクラスメイトといるのはマータである。
ちなみにシロナは午前中に『ブルーム』の本戦があったが、見事一位という結果を収めることに成功し、表彰されてから、こちらへとやって来ていた。ガイアスは、『マジック・ラビリンス』で惜しくも準優勝となった。
「やぁ、みんな。私も一緒していいかい?」
さらに、コツコツと音を鳴らしながら部屋に入ってきたのは、学園長だった。
「学院長!どうぞどうぞ、こちらへ」
「こ、こんにちは学園長」
「がくえんちょう、こんにちは」
「ご無沙汰してます学園長」
「こんにちは、みんな。マータちゃん、調子はどう?」
「げんきいっぱい」
尻尾をフリフリと揺らし、むん、と胸を張ってみせるマータに、微笑ましそうな顔をする学園長。
「まずはシロナさん、優勝おめでとう。見てたよすごかったね」
「ありがとうございます、この学園の生徒としての意地を見せられて良かったですよ」
「学院に戻ったら、しっかり祝勝会をやらないとね。
エリスくんもアラン君今頑張っているみたいだね」
エリスの正体を知っているのだがファルスは何も知らない顔でモニターに写っているエリスを見る。
「そうですね。ですが、やはりあの魔族の選手は凄く強いですね」
シロナの次に、学園長が口を開く。
「彼は有名だからね。強者として」
エリスが現在戦っている相手の名は、バラジア・ナスカ・トランクラ
彼もまた、ボックス・ガーデンでは有名な選手であった。
他の種とは比べものにならない強靭な肉体に、高い魔力を備える、『マギア』と呼ばれる魔族で、鬼のような3本角を頭部に持っているのが外見的特徴である。
ただ、強靭な肉体を有するが故に――つまり、肉体に作用する魔力が高いせいで、他の種よりも体外に魔力を放つ力が弱く、そのため自らを強化する以外の魔術を苦手としている。そのような理由から、エリスと同じくバラジアもまた接近戦が主体であり、魔法をあくまで補助手段として使うため、二人の戦いがよく噛み合ったことで、逆に戦闘が長引いていた。
実力自体は、一目見た限りバラジアの方が上だとわかるくらいに差があるが、しかしエリスは、自慢の天衣で間一髪で相手の攻撃を避けている。
「あの人本当に凄いね。特待生じゃ勝てそうにないな」
ガイアスの評価に、マータがちょっと不服そうな顔をする。
「むむ。ままは、がんばってる」
「そうだね、だけどエリスは元々戦闘が得意ではないからね。それをカバーしてくれる殿下がいれてくれればいいんだけど……」
◇ ◇ ◇
「ハハハッ!! なかなかやるじゃないか、メスッ!! 俺とそこまで打ち合えるとはッ!!」
「前はよく魔物相手してたからね!」
遮蔽物として利用していた、コンクリート塀ごと殴り抜き、伸びてくる拳。その腕ごと折るように剣を振り落とすが
腕が消えた。なんと危険を察知してか、腕を引いたのだ。
見えない速度で。
空振り、体勢の崩れた俺に向かって、穴の開いたコンクリート塀を完全にぶっ壊しながら、脳筋魔族が壁など関係なく突進をかましてくる。
「グッ……」
避け切れず、食らう。肉体を走り抜ける、トラックで突っ込まれたかのような重い衝撃。
ただ、その攻撃に逆らわず、身体をわざと浮かせることで受け流し、そのまま吹き飛ばされたもののしっかりと受け身を取ることで、ダメージを最小限に抑える。
防戦一方。時折、どうにか反撃を試みてみるものの、そんなものはカスと言わんばかりに、まともに当てることが一度も出来ていない。
――脳筋野郎の武器は、肉体のみである。
完全なインファイターらしく、無骨なナックルダスターのみを拳に嵌めており、そしてそれが術具の機能も果たしているようで、打撃にスキルの効果が乗っているのだ。
打撃だけでも相当にコイツはやるのだが、そのスキルの効果が本当に厄介なのだ。
一番ヤバかったのが、『雷撃』を拳に乗せていた時だ。
軽い、スピードのあるジャブに雷撃を乗せ、それを食らうと感電して、強制的に動きを鈍らされるのだ。
ジャブで動きを止め、コンビネーションの大技でトドメを刺す訳である。
一回食らってしまい、終わりかけた。もうほとんどただの根性で、無理やり身体を動かしてトドメから逃げたようなものである。
次に厄介なのが……『衝拳』、と呼ぶべきだろうか?振り抜いた拳から、何か衝撃波のようなものを飛ばし、つまり遠距離攻撃を放ってくるのだ。距離減衰が大きいようで、多少間合いを離せば無視しても問題ないくらいに威力が落ちるのだが、しかし近場で受けると、普通のストレートと同じだけの攻撃力があるのだ。だから、拳が長い、と表現するのが、適切だろうか。力を封印してる状態では中々厳しい戦いになっている。
(ギリギリの戦いってめっちゃ楽しいな!戦場に出る時もスキルを封印しようかな?ってこいつの肉体硬すぎるだろ!)
避ける技術、受ける技術もさることながら、漁夫の利を狙って他の選手から放たれた魔法を、拳で打ち砕いてる。
驚きだ、まさか学生でこのレベルなのだから。
どうやら自らの魔力を打ち込むことで相手の魔術の構造を揺るがし、術式そのものを崩しているようだったのだ。
ちなみにだが、この場にいた他の選手は、大体コイツに食われた。漁夫の利を狙って攻撃してきた奴が、次々に返り討ちにされ、今のところ残っているのはエリスだけである。
エリスも、一人返り討ちにすることは出来たがこの魔族には離されただろう。まぁ上位に入れば充分なのでいいとしよう。
シュッと糸のようなものが魔族の腕に絡みつき壁にくっつく。
「なに」
「やぁ随分楽しそうなことしてるじゃないか!」
高い建物の上から飛び降りてきたのは、ルーヴァ先輩だ。
「貴様は、前も戦ったな。確か魔術杯だったか?」
「ハハッ覚えてくれてて光栄だよバラジアさん」
2人は、また別の大会であって戦った事があるらしい。
「そして、やぁエリスちゃん。凄いね2年生の女子でこの男とやり合えるなんて」
「こんにちは、ルーヴァ先輩」
三つ巴になり睨みあっていると路地が裏から青い炎と黒い雷が襲ってきた。上位の魔術だ。これを完璧に制御できる人といったら。
「っアラン様……」
「おや、モルタ帝国の皇子様じゃないですか。」
「ッチ、今度は、皇子か。まぁ俺を楽しませてくれるならいいんだが」
「あぁ、初めまして、アラン・フェリクス・ザッハ」
戦場に似合わないような穏やかな笑みを浮かべ2人に礼をする。さすがだ、皇子だからなのか出てきただけで場を支配してしまったのかと思うくらい静かになった。
「じゃあ続きを始めようぜ!ガッカリさせてくれるなよォっ!」
バラジアが腹にに力を入れ3人に向かって叫んだ。




